「休職規定ゼロの中小企業が今すぐできる!トラブルを防ぐ最低限のルール整備5ステップ」

ある日突然、従業員から「しばらく出社できません」と連絡が入る。そのような事態は、いつ、どの会社にも起こりえます。しかし「うちには休職規定がない」「就業規則に何も書いていない」という中小企業では、その瞬間から経営者や人事担当者は手探りの対応を迫られます。

実は、休職制度そのものは法律上の義務ではありません。労働基準法に「休職規定を設けなければならない」という条文は存在しないのです。しかし、だからといって「規定がないから何もしなくてよい」とはなりません。むしろ規定がない状態こそが、深刻な法的リスクを生み出す温床になります。

本記事では、休職規定を持たない中小企業が、従業員の長期欠勤という緊急事態に直面したとき、最低限何を整えればよいのかを具体的に解説します。専任の人事担当者がいない会社でも実践できる内容を中心にまとめていますので、ぜひ自社の状況と照らし合わせながらお読みください。

目次

なぜ休職規定がないと危険なのか——法的リスクの実態

休職規定がない場合、従業員が長期欠勤に入ったときの選択肢は事実上「欠勤扱いのまま放置する」か「解雇する」の二択に近くなります。しかしどちらの対応も、法的に大きな問題を抱えています。

解雇のリスクについて言えば、労働契約法第16条は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。病気やメンタル不調による欠勤を理由にした解雇は、裁判例において「休職措置を検討・実施することなく行われた解雇は無効」と判断されるケースが多数あります。つまり、休職という手続きを経ずに解雇すると、不当解雇として訴えられるリスクが極めて高いのです。

また、もし従業員の不調が業務に起因するもの(過重労働やハラスメントなど)であった場合、労災保険法・労働基準法第19条の「解雇制限」が適用され、療養期間中および療養終了後30日間は解雇が原則禁止されます。このような状況を把握しないまま解雇に踏み切ることは、会社にとって取り返しのつかないリスクになりえます。

「うちは従業員10人未満だから就業規則は不要」と思っている経営者も少なくありません。確かに就業規則の作成・届出義務は常時10人以上の事業場に課されています(労働基準法第89条)。しかし10人未満であっても、労働トラブルの際には労働契約の内容や慣行が問われます。何も取り決めがない状態は、従業員にとっても会社にとっても不安定な環境であることに変わりはありません。

緊急時に最初にとるべき5つのステップ

規定が整っていない状態で従業員が長期欠勤になった場合、まず以下のステップで初期対応を進めてください。書面による合意形成が最大のポイントです。口頭だけのやり取りは、後になって「言った・言わない」のトラブルに発展しやすいため、すべての合意は文書に残すことを原則としてください。

ステップ1:本人・家族との状況確認

まず電話や書面で本人と連絡をとり、現在の状況を把握します。体調の概要、医療機関への受診状況、おおよその療養期間の見通しを確認します。本人が連絡に出られない場合は、緊急連絡先として届け出ている家族への連絡も選択肢になります。ただし、プライバシーへの配慮は忘れないようにしてください。

ステップ2:診断書の提出依頼

医療機関を受診している場合は、病名・療養が必要な期間の目安を記載した診断書を提出してもらいます。診断書は、会社が適切な対応を検討するための重要な根拠書類になります。また、後々の紛争予防にも役立ちます。

ステップ3:暫定的な休職合意書の締結

就業規則に休職規定がなくても、個別の合意書(暫定休職合意書)を書面で交わすことは可能です。これにより、双方が合意した条件のもとで休職期間を設けることができます。合意書には少なくとも次の項目を盛り込んでください。

  • 休職の開始日と終了予定日
  • 給与の有無(原則無給とする場合はその旨と傷病手当金の案内)
  • 社会保険料の本人負担分の支払い方法(毎月振込など)
  • 復職の可否を判断する時期と基準
  • 期間満了時の取り扱い(復職または退職・解雇の別)
  • 休職中の連絡担当者と連絡頻度

ステップ4:給与・社会保険の取り扱いを文書で通知

休職中の給与を無給とする場合、従業員は傷病手当金を受給できる可能性があります。傷病手当金は業務外の傷病による休業に対して支給される健康保険の給付で、支給額は標準報酬日額(直近12ヶ月の平均報酬をもとに計算)の3分の2です。支給期間は支給開始から通算1年6ヶ月で、連続3日間休業した後の4日目から支給対象となります。会社は従業員にこの制度を案内し、手続きのサポートをすることが望ましいでしょう。

なお、休職中であっても社会保険料(健康保険・厚生年金)は発生し続けます。会社負担分は会社が引き続き支払いますが、本人負担分は給与からの控除ができなくなるため、毎月振込で支払ってもらうなど、具体的な徴収方法を書面で合意しておくことが不可欠です。これを曖昧にしておくと、未払いが累積して後々大きなトラブルになります。

ステップ5:連絡ルールと復職・退職の期限を明示

休職期間中は、月1回程度の定期連絡(体調の報告や医療機関への通院状況の共有など)を取り決めておきます。また、休職期間の満了時に復職できない場合の取り扱い(自動退職か解雇かなど)も事前に明確にしておくことで、期間終了後の対応が格段にスムーズになります。

最低限整備すべき休職規定の7つの構成要素

緊急対応が一段落したら、次は就業規則への休職規定の組み込みに着手してください。厚生労働省が公開しているモデル就業規則(無料でダウンロード可能)をベースにしながら、自社の状況に合わせてカスタマイズする方法が現実的です。休職規定に盛り込むべき最低限の項目は以下のとおりです。

  • 休職事由:私傷病(業務外の病気やケガ)、メンタル不調、その他会社が必要と認めた場合などを明記します。
  • 休職期間:勤続年数に応じた期間設定が一般的です。例えば「勤続1年未満は1ヶ月、1年以上3年未満は2ヶ月、3年以上は3ヶ月」のように設定します。
  • 給与の取り扱い:原則無給であることを明記し、傷病手当金の受給に関する案内も添えます。
  • 社会保険料の取り扱い:本人負担分の支払い方法(毎月振込など)を具体的に規定します。
  • 復職の手続き:主治医の診断書の提出、産業医または嘱託医(会社が契約する医師)の意見確認、会社による最終判断というプロセスを明記します。
  • 復職できない場合の取り扱い:休職期間満了時に復職できない場合は自動退職または解雇とする旨を規定します。
  • 休職中の連絡義務:報告の頻度・方法(月1回の書面報告など)を明確にします。

就業規則を新たに作成・変更する場合、常時10人以上の事業場では従業員代表の意見書を添付して労働基準監督署に届け出る義務があります。10人未満の場合でも、全従業員への周知(掲示・配布・社内イントラへの掲載など)は必ず行いましょう。就業規則は「周知」されてはじめて法的効力を持ちます。

就業規則の作成・修正が自社だけでは難しいと感じる場合は、社会保険労務士へのスポット相談(一般的に初回数万円程度から)を活用することをおすすめします。自社の業種・規模・雇用形態に合った規定を効率よく整備することができます。

復職判断で陥りがちな落とし穴

休職から復職への移行は、適切に管理しないと新たなトラブルの原因になります。最も多い誤解は「主治医が復職可能と言っているから大丈夫」というものです。

主治医(従業員がかかっている医師)は、患者の回復状態を診断する専門家ですが、その従業員が具体的な業務をこなせるかどうかまでを詳しく評価しているとは限りません。主治医の「復職可能」という診断は、「日常生活が送れる程度に回復した」という意味であることが多く、職場での業務遂行能力とは必ずしも一致しないのです。

そのため、可能であれば産業医や嘱託医(会社が顧問として契約する医師)の意見も取得することが強く推奨されます。産業医は職場環境や業務内容を踏まえた上で、復職の可否や段階的な復帰計画についてアドバイスを行うことができます。産業医サービスを活用することで、こうした専門的な意見を継続的に得ることが可能になります。

また、いきなりフルタイム・フル業務での復職ではなく、試し出勤(リハビリ出勤)や短時間勤務から始める段階的な復職の仕組みを用意しておくことが、再発防止と職場定着の観点から非常に有効です。段階的復職の仕組みは、就業規則にあらかじめ規定しておくか、個別の復職支援計画書として書面で合意することで、双方の認識を一致させることができます。

さらに重要な点として、復職の最終判断権限は会社側にあることを書面で明確にしておく必要があります。医師が「復職可能」と言っても、職場の状況や業務内容を踏まえて会社が総合的に判断することを、あらかじめ規定に盛り込んでおきましょう。

メンタル不調への対応——予防と早期発見の重要性

休職に至る原因として近年特に増えているのが、メンタルヘルス不調です。うつ病や適応障害(強いストレスに反応して生じる精神的・身体的症状)などは、初期段階で適切にケアすれば、長期休職を回避できるケースも少なくありません。

中小企業においても、以下のような予防的な取り組みが可能です。

  • 上司・管理職による定期的な面談:月1回程度の1対1の面談(1on1)は、不調の早期発見に効果的です。
  • ストレスチェックの実施:常時50人以上の事業場では年1回の実施が義務ですが、50人未満でも努力義務として取り組みが推奨されています。
  • 外部相談窓口の設置:従業員が社内では話しにくい悩みを相談できる外部のカウンセリングサービス(EAP:Employee Assistance Program)を導入することで、問題の早期解決につながります。メンタルカウンセリング(EAP)の活用は、従業員の安心感を高めるとともに、休職リスクの低減にも寄与します。

なお、2024年4月からは精神障害・身体障害のある従業員への合理的配慮の提供義務が中小企業にも適用されています(障害者雇用促進法の改正)。合理的配慮とは、障害のある従業員が不利益を受けないよう、業務内容・方法・環境などを調整することです。休職や復職に際しても、この観点からの対応が求められる場面があります。

実践ポイント:今日からできる優先順位

「何から手をつければいいかわからない」という方のために、優先度の高い順に整理します。

  • 優先度1(即時):現在進行中の長期欠勤案件がある場合、まず暫定休職合意書を書面で締結する。給与・社保の扱いと連絡ルールを文書化する。
  • 優先度2(1〜2週間以内):厚生労働省のモデル就業規則をダウンロードし、休職に関する条項の草案を作成する。
  • 優先度3(1ヶ月以内):社会保険労務士にスポット相談し、自社に合った休職規定を正式に整備する。10人以上の場合は労働基準監督署へ届出を行う。
  • 優先度4(継続的に):産業医や外部カウンセリングサービスの活用を検討し、メンタルヘルス不調の予防体制を整える。

まとめ

休職規定がない中小企業にとって、従業員の長期欠勤は突然降りかかる緊急事態です。しかし「規定がないから仕方ない」と放置することが最大のリスクであり、適切な手順を踏まずに解雇に踏み切ることも大きな法的問題を招きます。

まず緊急対応として暫定休職合意書の書面締結を行い、並行して就業規則への休職規定の組み込みを進めることが現実的な対応策です。規定整備は一度行えば継続的に機能する会社の「骨格」になります。人事の専門家がいない中小企業でも、外部専門家(社会保険労務士・産業医など)を上手に活用することで、着実に整備を進めることができます。

従業員が安心して療養に専念でき、会社も適切な対応ができる環境を整えることは、長期的には職場の信頼関係と定着率の向上にもつながります。「もし今日、長期欠勤者が出たら」という視点で、今一度自社のルールを点検してみてください。

よくある質問

Q. 就業規則に休職規定がない場合、従業員を休職させることはできますか?

就業規則に規定がなくても、個別の合意書(暫定休職合意書)を書面で締結することで、休職期間・給与・復職手続きなどを取り決めることは可能です。ただし口頭のみの合意は後々のトラブルの原因になるため、必ず書面化してください。並行して就業規則への休職規定の整備を進めることが強く推奨されます。

Q. 休職中の給与はゼロにしてよいのですか?また社会保険料はどうなりますか?

就業規則または合意書に「休職中は無給」と定めていれば、給与を支払わないことは可能です。その場合、業務外の傷病であれば従業員は傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最大通算1年6ヶ月)を健康保険から受給できます。ただし、社会保険料(健康保険・厚生年金)は休職中も発生し続けます。給与からの控除ができなくなるため、本人負担分は毎月振込などで徴収する方法をあらかじめ書面で取り決めておくことが必要です。

Q. 主治医が「復職可能」と言っているのに、会社が復職を拒否することはできますか?

可能です。主治医の診断は「日常生活が営める程度の回復」を示すものであり、職場での業務遂行能力を保証するものではありません。復職の最終判断権限は会社側にあることを就業規則や合意書に明記しておくことが重要です。ただし、合理的な理由のない復職拒否は法的問題になりえるため、産業医や嘱託医の意見も取得した上で、段階的な復職支援の仕組みとあわせて総合的に判断することをおすすめします。

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