「テレワーク勤務規程、何から整備する?」中小企業が見落としがちな7つのポイントを社労士が解説

テレワークの普及から数年が経ち、多くの中小企業がハイブリッドワークを「当たり前の働き方」として定着させつつあります。しかし、「とりあえず在宅勤務を認めている」「口頭のルールで運用してきた」という企業も少なくありません。トラブルが起きてから「規程に何も書いていなかった」と気づくケースが増えており、テレワーク勤務規程の整備は、もはや後回しにできない経営課題です。

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべきテレワーク勤務規程の整備ポイントを、法的根拠を交えながら実務に即した形で解説します。

目次

なぜ今、テレワーク勤務規程の整備が必要なのか

テレワーク勤務規程(在宅勤務規程)とは、テレワークに関する労働条件・手続き・ルールを体系的にまとめた社内規程のことです。就業規則の付則として整備するケースが一般的です。

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があると定めています。テレワークに関する事項を就業規則に明記することは、この義務の一部です。9人以下の事業場であっても、規程の整備は労使トラブルを防ぐうえで不可欠です。

規程が未整備のまま運用を続けると、次のようなリスクが現実化します。

  • 残業代・深夜割増賃金の未払いによる労働審判・未払い請求
  • 通信費・光熱費の遡及請求
  • 対象者の選定をめぐる不公平感や訴訟リスク
  • 情報漏洩発生時の責任の所在が不明確になる
  • メンタルヘルス不調者への対応の遅れ

「問題が起きてから考える」では遅い場面が多いのが、テレワーク労務管理の難しさです。以下では、規程整備にあたって特に重要な7つのポイントを順に解説します。

ポイント① 対象者・対象業務の選定基準を明確にする

テレワーク勤務規程でまず問題になるのが「誰に・どの業務で認めるか」という選定基準です。基準が曖昧なまま運用すると、「なぜあの人だけテレワークできるのか」という不公平感が職場内に広がり、離職や紛争につながることがあります。

規程には以下の要素を具体的に記載することが求められます。

  • 対象となる職種・業務の種別(例:情報処理業務、企画業務、営業管理業務など)
  • 対象となる雇用形態・勤続要件(例:正社員のみ、勤続1年以上など)
  • 試用期間中・入社間もない社員の取り扱い(原則除外か、上長承認を条件とした許可か)
  • 申請・承認フロー(申請書の提出先、承認権者、頻度の上限など)

育児・介護を理由としたテレワーク希望については、育児介護休業法に基づくテレワーク活用の努力義務(2025年4月施行の改正育児介護休業法にも関連)も念頭に置きながら、柔軟に対応できる枠組みを設けることが望ましいといえます。ただし、「育児・介護中だから特別に認める」という個別対応を規程外で行うと、他の社員との公平性問題が生じるため、規程のなかで正面から整備しておくことが重要です。

ポイント② 労働時間管理の設計と「みなし制」の誤用を避ける

テレワーク導入企業が最も多くトラブルに陥るのが、労働時間管理の問題です。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」は、使用者が労働者の労働時間を客観的に把握する義務を明確にしています。テレワーク中であっても、この義務は免除されません。規程では以下の内容を具体的に定める必要があります。

  • 始業・終業時刻の申告方法(チャットツール・勤怠管理システムへの打刻など)
  • 時間外・深夜・休日労働の事前申請・承認フロー
  • コアタイムの有無を含めたフレックスタイム制の詳細(導入する場合)
  • 深夜・休日労働の原則禁止と、例外を認める場合の手続き

ここで特に注意が必要なのが、「事業場外みなし労働時間制」の安易な適用です。この制度は「労働時間の算定が難しい」場合に所定労働時間を労働したとみなす仕組みですが、テレワーク中にチャットやメールで随時指示・報告を行っている場合は適用できません。厚生労働省のガイドラインも「使用者の具体的な指揮監督が及ばない状態」であることを要件としており、常時通信可能な環境では要件を満たさないとされています。

「みなし制にすれば残業代を払わなくてよい」という誤解のもとで運用を続けると、未払い残業代の遡及請求リスクが高まります。労働時間管理ツールの導入と規程整備をセットで進めることが、実務上の安全策です。

ポイント③ 費用負担のルールを規程に明記する

在宅勤務では、通信費・電気代などが発生します。この費用負担について規程に定めがない場合、業務に必要な費用は使用者が負担すべきという民法上の原則(民法第649条等)が働き、後になって社員から遡及請求されるリスクがあります。費用負担に関するトラブルが生じた場合は、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。

費用負担の設計にあたっては、以下の選択肢があります。

  • 定額支給:月額固定の在宅勤務手当として支給(例:月3,000円〜5,000円)
  • 実費精算:領収書・請求書に基づいて実費を精算
  • 按分計算:国税庁が示した計算式(在宅勤務日数に応じた通信費・電気代の按分)を用いる方法

国税庁は2021年の通達(令和3年1月)で、在宅勤務に係る費用の非課税取扱いについて明確化しています。一定の計算式に基づいて支給する場合、社員への課税が生じないように設計できるため、定額支給を選択する企業では計算根拠を規程または関連文書に残しておくことが重要です。

また、業務用PCや周辺機器(モニター・キーボードなど)については、会社からの貸与か、購入補助(一時金)かを明確に規定してください。「自前のPCを使ってよい(BYOD:Bring Your Own Device)」とする場合は、後述するセキュリティ規定と合わせて整備が必要です。

ポイント④ 就業場所の制限とセキュリティ管理を規程に落とし込む

テレワークの就業場所についても、無制限に認めることはリスクがあります。カフェや図書館での作業は情報漏洩リスクを高め、海外在住・長期滞在中のテレワークは税務・社会保険上の問題が発生する場合があります。

規程では次の点を明示してください。

  • 就業場所の範囲(自宅のみ許可か、コワーキングスペースも可か)
  • 公衆Wi-Fiの使用禁止とVPN(仮想プライベートネットワーク)使用の義務化
  • 会社支給端末のみ使用を原則とするか、BYODを認めるかの明記
  • 家族・同居人への業務情報の開示禁止
  • 情報漏洩・セキュリティ事故発生時の報告義務と懲戒処分の基準

情報漏洩が発生した際に「規程に何も書いていなかった」では、企業の信頼を損なうだけでなく、取引先への賠償責任問題にも発展しかねません。セキュリティポリシーとテレワーク勤務規程を一体的に整備することが望まれます。

ポイント⑤ 健康管理・安全衛生義務はテレワーク中も継続する

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負うと定めています。この義務はテレワーク中も変わりません。厚生労働省が2021年に改定した「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」でも、以下の対応が求められています。

  • 作業環境の確認(照明の明るさ、机・椅子の適切さなど)
  • 健康相談体制の整備と窓口の周知
  • 長時間労働対策(PC強制シャットダウン設定・上限時間の設定)
  • 定期的な健康状態の自己申告制度の導入

特に注意が必要なのが、テレワーク中のメンタルヘルス不調です。孤立感・コミュニケーション不足・仕事とプライベートの境界線の曖昧さから、うつ病や適応障害を発症するケースが報告されています。規程のなかに健康状態の定期的な自己チェックと報告義務を盛り込み、不調の早期発見・早期対応の体制を整えることが重要です。メンタルヘルス不調が疑われる社員への対応については、産業医や医療機関にご相談ください。

産業医が選任されている企業では、テレワーク勤務者も含めた健康管理の仕組みを産業医と連携して構築することをお勧めします。産業医との連携体制が整っていない場合は、産業医サービスの活用を検討してみてください。自社内での対応が難しいメンタルヘルスケアについては、社員が匿名で相談できる外部相談窓口としてメンタルカウンセリング(EAP)を導入することも有効な選択肢です。

テレワーク勤務規程を整備するための実践ポイント

規程整備を進める際の実践的な手順と注意点を整理します。

ステップ1:現状の運用を棚卸しする

まず現在の運用実態を確認してください。「誰が・どのような条件で・どこでテレワークしているか」「費用の負担はどうなっているか」「労働時間はどう記録しているか」を整理することが出発点です。

ステップ2:リスクの高い項目から優先的に整備する

すべてを一度に整備しようとすると時間がかかります。労働時間管理・費用負担・セキュリティの3点は、トラブル頻度が高いため優先的に規程化することが現実的です。

ステップ3:労使で協議し、周知徹底する

就業規則(付則を含む)の不利益変更は労働者との合意が原則です。新設・改定にあたっては社員への説明・意見聴取を行い、労働基準監督署への届出(10人以上の事業場)も忘れずに実施してください。

ステップ4:定期的に見直す体制をつくる

法改正・ガイドライン改定・自社の実態変化に応じて規程を見直す仕組みを設けてください。少なくとも年1回のレビューを規程内に明記することをお勧めします。

チェックリスト:規程に盛り込むべき主な項目

  • テレワークの目的・定義
  • 対象者・対象業務の要件
  • 申請・承認フロー
  • 就業場所の範囲と制限
  • 労働時間制度(通常制/フレックス制の区分と詳細)
  • 時間外・深夜・休日労働の取り扱い
  • 費用負担(通信費・光熱費・備品)の支給方法
  • 使用機器・セキュリティ対策のルール
  • 情報漏洩時の報告義務と懲戒基準
  • 健康管理・安全衛生上の義務
  • 評価・連絡可能時間帯のルール
  • 規程の見直し周期

まとめ

テレワーク勤務規程の整備は、労働トラブルの予防だけでなく、社員が安心して働ける環境を整えるための基盤です。「今のところ大きな問題は起きていない」という企業ほど、潜在的なリスクが積み上がっているケースがあります。

対象者の選定基準・労働時間管理・費用負担・セキュリティ・健康管理という5つの柱を軸に、自社の実態に合った規程を整備してください。法律の要件を満たしながら、現場で実際に機能するルールを作ることが、持続的なテレワーク活用につながります。

専門家(社会保険労務士・弁護士・産業医)との連携を積極的に活用しながら、規程の質を高めていくことをお勧めします。

よくある質問

テレワーク中の残業代は支払わなければなりませんか?

はい、テレワーク中であっても、使用者が把握できる状態で時間外・深夜・休日労働が発生した場合は割増賃金の支払い義務があります。36協定の締結・届出も通常勤務と同様に必要です。「事業場外みなし労働時間制を適用しているから不要」とする企業がありますが、常時チャットやメールで指示・報告を行っている場合は同制度の要件を満たさず、未払い残業代を請求されるリスクがあります。

通信費や電気代は会社が負担しなければなりませんか?

業務に必要な費用は原則として使用者が負担すべきとされており、規程に定めがなくても社員から請求される可能性があります。後々のトラブルを防ぐためにも、定額支給・実費精算・按分計算のいずれかの方法を就業規則またはテレワーク勤務規程に明記しておくことが重要です。国税庁の通達に基づいた計算方式を採用すれば、社員への課税が生じない形で支給することも可能です。具体的な費用負担の設計については、社会保険労務士にご相談ください。

テレワーク中の社員のメンタルヘルス対策はどうすればよいですか?

テレワーク中は孤立感やコミュニケーション不足から、メンタルヘルス不調が起こりやすい環境です。使用者には安全配慮義務があるため、定期的な健康状態の自己申告制度の整備、産業医・保健師への相談窓口の周知、長時間労働対策(上限時間設定など)をテレワーク勤務規程に盛り込んでください。社内対応が難しい場合は、外部の相談窓口としてEAP(従業員支援プログラム)を導入することも有効な選択肢です。個別の社員のメンタルヘルス対応については、産業医や医療機関にご相談ください。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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