「試用期間中はいつでも解雇できる」は大間違い!中小企業が陥りやすい労務トラブル7つの落とし穴

「試用期間中だから、気に入らなければいつでも辞めてもらえる」——そう考えている経営者や人事担当者は、少なくありません。しかし、この認識は大きな誤解であり、対応を誤れば不当解雇として訴訟リスクを招くことにもなります。

試用期間は、採用した社員の適性・能力・勤務態度を見極めるための期間として、多くの企業で設けられています。一方で、試用期間に関する正確な法的知識を持たないまま運用している中小企業は多く、後になって深刻なトラブルに発展するケースが後を絶ちません。

本記事では、試用期間の法的な位置づけから、解雇・本採用拒否の手続き、社会保険・有給休暇の取り扱い、評価記録の整備まで、中小企業の経営者・人事担当者が知っておくべき実務上の注意点を体系的に解説します。

目次

試用期間の法的位置づけ——「いつでも解雇できる」は大きな誤解

試用期間について、労働基準法をはじめとする労働関係法令には明確な定義規定がありません。しかし、1973年の最高裁判決(三菱樹脂事件)以降、判例上は「解約権留保付労働契約」として位置づけられています。これは「一定の条件のもとで解約できる権利を留保した状態の労働契約」という意味であり、試用期間であっても労働契約は成立しているという点が重要です。

労働契約が成立している以上、労働基準法は試用期間中も全面的に適用されます。最低賃金の適用、労働時間の管理、解雇手続きに関するルール、いずれも通常の社員と同様に守らなければなりません。

また、留保された解約権(=本採用拒否・解雇)の行使については、通常の解雇よりも広い裁量が認められているものの、「客観的に合理的な理由」と「社会的相当性」は依然として必要とされています。「なんとなく合わない」「上司が気に入らない」といった主観的な理由だけでは、本採用拒否が無効と判断されるリスクがあります。

試用期間中の解雇・本採用拒否における手続きの注意点

試用期間中に解雇や本採用拒否を行う際には、いくつかの法的ルールを正確に理解しておく必要があります。

14日ルールと解雇予告手当

労働基準法第21条では、試用期間中の労働者であっても、雇い入れから14日を超えて就労した場合は、通常の解雇と同様に30日前の解雇予告または解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)の支払いが必要と定めています。

「試用期間だから予告不要」と思い込んでいる経営者は多いのですが、予告不要となるのは雇い入れから14日以内に限られます。それを超えた時点で解雇する場合は、正式な解雇予告手続きが必須です。この手続きを怠った場合、労働基準監督署への申告や損害賠償請求の対象となる可能性があります。

本採用拒否は「解雇」と同等の扱い

試用期間終了時の本採用拒否は、法的には「解雇」と同等の手続きと基準が求められます。本採用しない理由は具体的かつ客観的な事実に基づいている必要があり、事前に本人へのフィードバックや改善機会の提供を行っていることが重要な要素となります。

また、本採用拒否は口頭ではなく書面(解雇通知書)で行うことが望ましく、記録として残しておくことでトラブルを防ぐことができます。

解雇禁止期間は試用期間中も有効

業務上の傷病による休業中や産前産後休業中など、労働基準法が定める解雇禁止期間は、試用期間中の社員にも当然適用されます。この期間中に解雇を行った場合は、試用期間中であっても違法となります。

よくある誤解——社会保険・有給休暇の取り扱い

社会保険と有給休暇については、試用期間中であることを理由に適用を除外しようとする企業が見られますが、いずれも法令違反となる誤った運用です。

社会保険は採用初日から加入義務がある

雇用保険・健康保険・厚生年金保険は、所定の加入要件(週の所定労働時間・雇用見込み期間など)を満たしていれば、試用期間中であっても採用初日から加入義務が生じます。「本採用になってから社会保険に入れる」という対応は明確な法令違反であり、遡及加入と延滞金の発生、場合によっては行政指導の対象となります。

有給休暇は試用期間も在籍期間に算入される

年次有給休暇(有給休暇)は、同一の事業主のもとで継続勤務6ヶ月かつ出勤率80%以上という要件を満たした場合に付与義務が生じます(労働基準法第39条)。試用期間中の在籍期間は、この継続勤務の算定に含まれます。

つまり、4月入社で3ヶ月の試用期間を経て7月に本採用となった場合、10月(採用から6ヶ月後)には有給休暇の付与義務が発生します。「試用期間中は有給休暇がない」という運用は認められません。

試用期間の長さ・延長に関する正しい設定方法

適切な試用期間の長さとは

試用期間の長さについて、法律上の上限規定は存在しません。ただし、実務的には3ヶ月から6ヶ月が一般的とされており、合理的な理由のない長期間(例えば1年を超えるような設定)は、公序良俗違反として無効となるリスクがあります。試用期間は「適性を見極めるために必要な最低限の期間」として合理的に設定することが求められます。

試用期間の延長は就業規則への明記が前提

「もう少し様子を見たい」という理由で試用期間を延長したいケースは珍しくありません。しかし、就業規則や労働契約書に延長できる旨が明記されていなければ、延長は原則として無効となります。

延長を行う際には、以下の点を必ず確認・対応してください。

  • 就業規則に試用期間の延長規定が設けられていること
  • 延長する理由・延長後の期間・評価基準を本人に明示すること
  • 本人の理解と合意を得た上で書面化すること

延長を繰り返すことは、法的リスクを高めるだけでなく、社員との信頼関係を損なう原因にもなります。当初から適切な期間を設定し、その期間内でしっかりと評価を行うことが重要です。

トラブルを防ぐための書面整備と評価記録の実践

労働条件通知書・雇用契約書への明記

試用期間に関する事項は、労働条件通知書および雇用契約書に必ず明記する必要があります。具体的に記載すべき内容は以下のとおりです。

  • 試用期間の開始日・終了日(期間の長さ)
  • 試用期間中の賃金・待遇(本採用後と異なる場合はその差異)
  • 延長の可否と延長できる場合の条件
  • 本採用しない場合の判断基準

特に試用期間中の給与を本採用後よりも低く設定する場合は、必ず労働条件通知書に明記しなければなりません。なお、最低賃金は試用期間中も適用されます。また、本採用後との賃金差が不合理に大きい場合、実質的な労働条件の不利益変更とみなされるリスクもあります。

評価記録・指導記録の整備が解雇の正当性を支える

試用期間中に問題行動や能力不足が見られた場合でも、その事実が客観的な記録として残っていなければ、本採用拒否の正当性を後から立証することは困難です。

実務上は以下の記録を継続的に残しておくことを強く推奨します。

  • 日々の勤怠記録(遅刻・欠勤・早退の状況)
  • 業務指示の内容と本人の対応状況(メールや指示書の保管)
  • 指導の日時・内容・本人の反応(指導記録票の活用)
  • 定期的な面談記録(評価内容・フィードバック内容・本人のコメント)

口頭だけの指導や注意は証拠になりません。メールや記録票など、書面として残るかたちで指導を行うことが重要です。また、問題点を指摘するだけでなく、改善のための具体的なアドバイスや猶予期間を与えていることが、本採用拒否の正当性を補強する要素になります。

試用期間中の適切な評価体制の構築や、メンタルヘルス上の問題が疑われるケースへの対応については、産業医サービスを活用することで、専門的なサポートを受けることができます。

実践ポイント——今日からできる労務管理の見直しチェックリスト

以上の内容を踏まえ、自社の試用期間に関する労務管理を見直すための実践ポイントをまとめます。

  • 就業規則の確認:試用期間の長さ、評価基準、延長規定、本採用拒否の条件が明記されているか確認する
  • 雇用契約書・労働条件通知書の整備:試用期間の期間、賃金、延長可否、本採用判断基準を明示する
  • 社会保険の加入確認:採用初日から適切に加入手続きを行っているか確認する
  • 評価・記録体制の構築:勤怠記録・指導記録・面談記録を継続的に書面で残す仕組みを整える
  • フィードバックの実施:試用期間中に定期的な面談を設け、本人に評価結果と課題を伝える
  • 本採用拒否時の手続き確認:解雇予告(14日超の場合)、書面による通知、客観的な理由の整理を行う

なお、試用期間中にメンタルヘルス不調や職場適応の問題が生じた社員への対応については、専門的なカウンセリング体制の整備が有効です。メンタルカウンセリング(EAP)の導入により、早期発見・早期対応の仕組みを作ることも検討してみてください。

まとめ

試用期間は「社員を見極めるための期間」ですが、それは「何をしてもよい期間」ではありません。労働契約は採用初日から成立しており、社会保険・有給休暇・解雇手続きに関するルールはすべて適用されます。本採用拒否であっても、客観的・合理的な理由と適切な手続きが求められることを改めて認識してください。

トラブルを防ぐための最大の対策は、事前の書面整備と日常的な記録管理です。就業規則・雇用契約書に必要事項を明記し、試用期間中の評価・指導記録を丁寧に残していくことが、経営者・人事担当者を守る最大の備えとなります。

試用期間の労務管理を適切に行うことは、優秀な人材を正しく評価して採用につなげるためだけでなく、企業と社員の双方にとってフェアな雇用関係を築く基盤となります。この機会に、自社の試用期間に関する制度と運用を、ぜひ一度見直してみてください。

よくある質問(FAQ)

試用期間中でも社会保険への加入は必要ですか?

はい、必要です。雇用保険・健康保険・厚生年金保険は、所定の加入要件(週の所定労働時間・雇用見込み期間など)を満たす場合、試用期間中であっても採用初日から加入義務が生じます。「本採用後に加入する」という対応は法令違反となりますので、採用手続きと同時に社会保険の加入手続きを進めてください。

試用期間中に問題のある社員を本採用拒否することはできますか?

一定の要件を満たせば可能です。ただし、本採用拒否は法的に「解雇」と同等の手続きと基準が求められます。客観的かつ合理的な理由(勤怠不良・業務能力の著しい不足・重大な問題行動など)が必要であり、単なる主観的な判断では無効となるリスクがあります。また、雇い入れから14日を超えている場合は解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。事前に指導の記録や改善機会の提供を行っておくことが重要です。

試用期間の延長は自由に行ってよいですか?

いいえ、自由には行えません。試用期間の延長は、就業規則や労働契約書に延長できる旨が明記されていることが前提です。規定がない状態での延長は原則として無効となるリスクがあります。延長を行う場合は、延長の理由・延長後の期間・評価基準を本人に明示し、書面で合意を得ることが望ましいとされています。

試用期間中の給与を正社員よりも低く設定することは問題ありませんか?

労働条件通知書や雇用契約書に明記されていれば、試用期間中の給与を本採用後よりも低く設定すること自体は法律上禁止されていません。ただし、最低賃金は試用期間中も適用されるため、最低賃金を下回る設定は認められません。また、本採用後との差額が不合理に大きい場合は、実質的な労働条件の不利益変更とみなされる可能性があるため注意が必要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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