「休職中の給与ゼロでも保険料はかかる?」中小企業が押さえておくべき社会保険と傷病手当金の基本ルール

従業員が病気やメンタル不調で長期間休むことになったとき、経営者や人事担当者が真っ先に頭を抱えるのが「給与はどうする?」「保険料は誰が払う?」という問題です。特に専任の人事担当者を置けない中小企業では、こうしたケースへの対応が後手に回りがちで、手続きのミスや従業員とのトラブルに発展することも少なくありません。

この記事では、休職期間中の給与・社会保険料・傷病手当金の取り扱いについて、法律の原則から実務上の注意点まで、経営者・人事担当者が知っておくべき情報を体系的に解説します。従業員への対応に迷ったとき、ぜひ本記事を手引きとしてご活用ください。

目次

休職中の給与:「払わなくていい」が原則、ただし就業規則次第

まず多くの経営者が最初に抱く疑問、「休職中も給与を払い続けなければならないのか」という点から整理しましょう。

結論から言えば、私傷病(業務外の病気・けが)による休職の場合、労働基準法上、会社に賃金を支払う義務はありません。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」と言い、働いていない期間の給与を支払わなくてよいという考え方が根拠になっています。

ただし、注意が必要なのは就業規則や労働契約に別段の定めがある場合です。たとえば「休職期間中は基本給の〇割を支給する」と就業規則に明記されていれば、その規定に従う義務が生じます。就業規則は会社ごとに異なるため、まず自社のルールを確認することが大前提です。

一方、業務上の災害(労働災害)による休業の場合は扱いが異なります。労災保険から「休業補償給付」として給付基礎日額の60%が支給されるほか、「休業特別支給金」として20%が上乗せされ、合計で80%の補償が受けられます。また、労災の場合は最初の3日間(待期期間)は会社が平均賃金の60%を支払う義務があります。

いずれのケースでも、有給休暇との切り替えタイミングは実務上よく迷う点です。一般的な流れは「欠勤→有給休暇の消化→休職発令」となります。有給休暇の残日数や従業員の希望を確認しながら、休職発令のタイミングを就業規則に明記しておくことが、後々のトラブルを防ぐうえで重要です。

傷病手当金のしくみ:「いくらもらえるのか」を正確に把握する

休職中の収入を支える最も重要な制度が「傷病手当金」です。従業員から「手当はいくらもらえますか」と聞かれたときに正確に答えられるよう、仕組みを整理しておきましょう。

支給対象と待期期間

傷病手当金は業務外の傷病(私傷病)で仕事を休んだ場合に支給されます。連続して3日間仕事を休んだ後(この3日間を「待期期間」といいます)、4日目以降が支給対象となります。待期期間には有給休暇取得日も含まれます。

支給額の計算方法

支給額は標準報酬日額(標準報酬月額を30で割った金額)の3分の2(約66.7%)です。たとえば月給30万円の従業員の場合、標準報酬日額はおよそ1万円となり、傷病手当金は1日あたり約6,667円が支給されます。

なお、会社が給与の一部を支払っている場合は、傷病手当金と合算して標準報酬日額を超えない範囲で調整されるため、両方の支給が重複して得をするというわけではありません。

支給期間と2022年改正のポイント

支給期間は支給開始日から通算して1年6か月です。2022年1月の法改正により「通算制」に変更されました。改正前は一度支給が開始されると暦上1年6か月で打ち切られていましたが、現在は途中で就労できた期間はカウントから除かれるため、実質的に支給を受けられる期間が延びた場合があります。

申請手続きについての正しい理解

よくある誤解として、「傷病手当金は会社が申請するもの」と思っている経営者・人事担当者がいますが、これは誤りです。申請者はあくまで従業員本人(被保険者)であり、会社は申請書の「事業主記載欄」に記載・押印するかたちで協力する義務を負います。従業員が申請書を持参した際には速やかに対応しましょう。また、従業員に対して定期的な医師への受診が申請の条件であることも案内しておくと親切です。

休職中の社会保険料:誰がどのように払うのか

休職期間中の社会保険料の取り扱いは、多くの経営者が最も迷うポイントです。ここを誤ると、会社のキャッシュフローへの影響や、従業員との金銭トラブルにつながるため、正確な知識が欠かせません。

休職中も社会保険料は発生し続ける

重要な前提として、休職中も健康保険・厚生年金の被保険者資格は継続します。「会社を休んでいるのだから保険から外れる」という理解は誤りです。資格が継続するということは、保険料の発生も継続するということを意味します。

休職中の保険料は、休職前の標準報酬月額をもとに引き続き算定されます。給与が大幅に下がったとしても、給与が実際に支払われていない場合は随時改定(月変)の対象外となるため、標準報酬月額は変わりません。

会社負担分・本人負担分の取り扱い

社会保険料は会社と従業員がおよそ半分ずつ負担します。問題が生じるのは給与がゼロになったとき——通常は給与から天引きしている本人負担分を控除できなくなるためです。この場合、会社は次の3つの方法のいずれかで本人負担分を徴収することになります。

  • 毎月の振込で徴収する:月末や給与支払日に合わせて本人から銀行振込してもらう方法。最もシンプルですが、本人の資力が乏しいと滞納リスクがあります。
  • 会社が一時立替し、復職後に分割控除する:本人の負担を分散できる一方、立替期間が長くなるほど会社のキャッシュフローを圧迫します。
  • 復職時または退職時に一括精算する:管理は簡便ですが、退職となった場合に未回収リスクが高まります。

どの方法を選ぶにしても、休職開始前に本人と書面で合意しておくことが非常に重要です。後から「そんな話は聞いていない」というトラブルを防ぐため、合意書や誓約書を作成し、署名・押印を得ておきましょう。

住民税・雇用保険料の取り扱い

住民税は前年の所得をもとに課税されるため、休職中も納付義務は継続します。給与ゼロの場合は給与から天引きできないため、特別徴収から普通徴収(本人が直接納付)への切り替えを市区町村に届け出ることを検討してください。

雇用保険料については、賃金の支払いがない期間は原則として発生しません。給与の一部を支払う場合は、その支払い額に対してのみ保険料が生じます。

休職期間満了後の対応:復職・退職・解雇の分岐点

休職が長引いたとき、経営者・人事担当者が最も頭を抱えるのが「このあとどう対応すればいいのか」という判断です。休職期間満了後の主な対応フローを整理しておきましょう。

復職する場合

復職が認められる場合、まず産業医や主治医の意見を踏まえた復職判断を行います。復職と同時に給与の支払いが再開されるため、社会保険料の給与控除も通常に戻します。立替えていた保険料がある場合は、精算スケジュールを給与計算に組み込んでおくことが必要です。

なお、復職判断に際しては産業医の関与が有効です。医学的な見地から復職可否や就業上の配慮事項についてアドバイスを受けることで、早期の再休職を防ぐことができます。産業医サービスの活用を検討することをお勧めします。

休職期間が満了した場合

就業規則に定めた休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職または解雇の処理が必要になります。多くの就業規則では「休職期間満了時に復職できない場合は退職とする」旨を定めており、この場合は解雇ではなく自然退職(当然退職)として扱われます。ただし、就業規則にこの規定がなければ、解雇の手続きを踏む必要があり、解雇予告や解雇理由証明書の交付が求められます。

退職処理の際は、健康保険・厚生年金の資格喪失届を速やかに提出します。退職後も、1年以上の被保険者期間があるなど一定の要件を満たせば、傷病手当金の継続給付を受けられる場合があります。従業員に正確な情報を伝えることが会社としての誠実な対応につながります。

複数回休職を繰り返す場合

同一または類似の傷病で休職を繰り返すケースへの対応は、特に難しい判断が求められます。就業規則に「同一傷病による再休職の場合、前回の残存休職期間を通算する」などの規定を設けておくことで、際限なく休職が繰り返される事態を防ぐことができます。こうしたケースでは早期からメンタルヘルスのサポートを行うことも重要です。メンタルカウンセリング(EAP)を導入することで、従業員が職場復帰に向けた専門的なサポートを受けやすい環境を整えることができます。

実践ポイント:今すぐ取り組むべき整備事項

休職に関する対応を場当たり的に行っていると、手続きのミスや従業員とのトラブル、さらには法的リスクにもつながります。以下の実践ポイントを参考に、自社の体制を見直してみてください。

就業規則に休職規定を明文化する

休職規定のない就業規則は、対応をその都度決めなければならず、担当者の負担が増えるばかりか公平性の面でも問題が生じます。少なくとも以下の項目を明記しておきましょう。

  • 休職の発令要件(何日欠勤したら休職とするか)
  • 休職期間の上限(勤続年数に応じた段階設定も有効)
  • 休職中の賃金の扱い(無給とするか、一部支給とするか)
  • 休職期間満了時の取り扱い(自然退職の規定)
  • 有給休暇と休職の切り替えルール
  • 同一傷病による再休職の通算規定

休職開始時に従業員と書面で合意する

休職発令の際は、口頭だけでなく書面で以下の内容を確認・合意しておくことが重要です。

  • 休職期間の開始日と満了予定日
  • 休職中の賃金の取り扱い
  • 社会保険料の徴収方法と支払い期限
  • 傷病手当金の申請に関する会社の協力内容
  • 定期的な状況報告の方法(連絡頻度、連絡先の指定)

傷病手当金の申請を積極的にサポートする

傷病手当金は従業員の休職中の生活を支える重要な制度です。申請書の事業主記載欄への対応を速やかに行うとともに、「申請の方法がわからない」という従業員には手順を案内するなどの配慮が望まれます。

社会保険料の立替リスクを管理する

休職が長期化するほど、立替保険料の累積額が増えます。復職時の分割控除上限や、退職時の精算ルールをあらかじめ定めておくことで、未回収リスクを軽減できます。経理担当者と連携し、立替額を定期的に把握・管理する習慣をつけておきましょう。

まとめ

休職期間中の給与・保険料の取り扱いは、「払わなくていい」という単純な話ではなく、就業規則の規定・保険制度・各種申請手続きが複雑に絡み合う領域です。特に中小企業では専任担当者が少ないため、一つのミスが従業員との信頼関係やキャッシュフローに直結します。

重要なポイントを再整理すると、①私傷病休職中の給与支払いは原則不要だが就業規則次第、②傷病手当金は標準報酬日額の3分の2・支給開始から通算1年6か月、③社会保険料は休職中も継続発生し本人負担分の徴収方法を事前に合意すること、④休職期間満了後の対応フローを就業規則に明記しておくこと——この4点が実務上の根幹を成します。

休職対応を適切に行うことは、従業員にとっての安心感につながるだけでなく、会社側のリスク管理としても不可欠です。まだ就業規則に休職規定がない場合や、社会保険の手続きに不安がある場合は、社会保険労務士や専門家への相談も積極的に検討してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 休職中、社会保険から「脱退」することはできますか?

休職中であっても、雇用関係が継続している限り健康保険・厚生年金の被保険者資格は継続します。「休職中だから保険を抜ける」ということはできません。資格が喪失するのは退職したときです。退職後に任意継続被保険者として健康保険に加入し続けることはできますが、それは別の手続きになります。

Q2. 傷病手当金を受給中に有給休暇を使うとどうなりますか?

有給休暇を取得した日は給与(有給賃金)が支払われるため、原則として傷病手当金は支給されません。ただし、有給取得中に会社から支払われる給与が傷病手当金の支給額を下回る場合は、その差額が傷病手当金として支給される場合があります。なお、傷病手当金の待期期間(最初の連続3日間)中に有給休暇を使うことは可能で、待期のカウントとして算入されます。

Q3. 社会保険料を本人が払ってくれない場合、会社はどうすればいいですか?

本人が保険料を支払わない場合でも、会社は毎月の保険料を日本年金機構・健康保険組合に納付する義務があります。そのため、まず休職開始前に「保険料の支払い方法と期限」を書面で合意しておくことが最善策です。万が一未払いが続く場合は、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士に相談のうえ、法的な回収方法を検討することになります。誓約書・合意書の締結は未払いリスクへの備えとして有効です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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