「やっと戻ってきてくれたのに、また休んでしまった」——そんな経験を持つ人事担当者や経営者は少なくありません。精神疾患による休職者の再休職率は、5年以内で約50〜60%にのぼるとされており、復職支援の”質”が再休職を防ぐ鍵を握っています。
しかし多くの中小企業では、復職対応は担当者の経験や感覚に頼りがちで、「本人が戻りたいと言っているから」「主治医の診断書をもらってきたから」といった理由だけで復帰を決めてしまうケースが後を絶ちません。その結果、準備不足のまま職場に戻った従業員が短期間で再び崩れてしまい、本人も組織も消耗するという悪循環が生まれます。
本記事では、再休職を予防するための段階的復帰プランの設計と運用方法を、法律・制度の根拠とともに具体的に解説します。専門スタッフを多数揃えられない中小企業でも実践できる内容に絞っていますので、ぜひ自社の仕組みづくりにお役立てください。
なぜ再休職は起きるのか——根本的な課題を整理する
再休職の多くは「回復が不十分なまま職場に戻ったこと」と「職場環境が改善されていないこと」の2つが重なって起きます。どちらか一方だけを対処しても、再発のリスクは下がりません。
まず、回復の不十分さについて。メンタルヘルス不調からの回復は、身体疾患のように「熱が下がったから仕事に戻れる」とはいきません。主治医が「復職可能」と診断書に書いていても、それは医療的な意味での安定であり、フルタイムで通常業務をこなせるかどうかとは別問題です。実際、日常生活を送れる状態と、職場でストレスにさらされながら成果を求められる状態には、大きなギャップがあります。
次に、職場環境の問題です。休職前に本人を追い詰めた要因——過重な業務量、人間関係のトラブル、マネジメントの問題——が解消されていないまま復職すると、同じ環境に戻ることになります。「また同じことが起きるかもしれない」という不安だけでも、症状の再燃を引き起こすことがあります。
また、労働契約法第5条が定める安全配慮義務(使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保しながら労働させる義務)の観点からも、復職後に過重労働やハラスメントで再発した場合、企業側が法的責任を問われるリスクがあります。再休職予防は「本人のため」であると同時に、「会社を守るため」でもあるという認識が重要です。
復職支援の5ステップを自社の仕組みに落とし込む
厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(2024年改訂版)の中で、復職支援を5つのステップで整理しています。このフレームワークを社内の手順書として整備することが、属人的な対応から脱却する第一歩です。
第1ステップ:休業開始と療養への集中
休業が始まったら、まず本人が療養に専念できる環境を整えます。この段階で大切なのは、「連絡ルールを明確にする」ことです。「誰から・どの手段で・どのくらいの頻度で連絡するか」を文書で合意しておかないと、頻繁な連絡が本人への心理的プレッシャーになりかねません。月1回の近況確認と、緊急時の連絡先の確認程度に留めるのが基本です。
第2ステップ:主治医による復職可否の判断
本人から「復帰したい」という意思表示があったら、主治医の診断書を取得してもらいます。ただし、この診断書だけで復職を決定してはいけません。主治医は職場の業務内容や人間関係を把握していないため、「就労可能」という判断が職場の実態と乖離している場合があります。
第3ステップ:職場復帰の可否判断と復帰支援プランの作成
人事担当者と(可能であれば)産業医・産業保健師が関与し、主治医の診断書をベースに職場での就労可能性を多面的に確認します。「毎日6〜8時間、4週間連続して日中活動できているか」「通勤できる体力・生活リズムが整っているか」といった具体的な行動実績を本人に確認し、数値や期間で判断できる基準を社内規程に明記しておくことが重要です。
第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
関係者(本人・上司・人事・産業医等)が合意した上で、復帰日・復帰後の条件・フォローアップの予定を文書化します。口頭での約束は後々のトラブルになりやすいため、必ず書面に残してください。
第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
このステップが最も重要であり、最も疎かにされやすい部分です。復職後のフォローアップについては、次のセクションで詳しく解説します。
段階的復帰(リハビリ出勤)の具体的な設計方法
再休職を防ぐ上で最も効果的な手段の一つが、段階的復帰(リハビリ出勤)です。フルタイムの通常業務に一気に戻すのではなく、業務量・労働時間・職務内容を段階的に引き上げていくことで、本人の回復状態と職場への適応を並行して確認できます。
なお、リハビリ出勤中の傷病手当金(健康保険から支給される生活保障給付で、支給開始から通算1年6ヶ月が上限)の取り扱いは保険者によって異なります。事前に健康保険組合や協会けんぽに確認しておくことをお勧めします。
以下は、1〜3ヶ月程度を目安とした段階的復帰のフェーズ例です。
- フェーズ1(1〜2週間):短時間出勤(4時間以内)。業務は原則なし。職場環境や通勤に慣れることを目的とする。残業・休日出勤は禁止。
- フェーズ2(3〜4週間):通常時間出勤。業務は軽微なもの(資料の確認・整理、単純な入力作業など)に限定。残業禁止。
- フェーズ3(5〜8週間):通常業務の一部を担当。対人折衝や判断を要する業務は避ける。残業禁止継続。
- フェーズ4(9週目以降):通常業務への段階的移行。出勤状況・体調記録をもとに残業制限を徐々に緩和。
重要なのは、各フェーズの移行条件を文書化しておくことです。「出勤率が○%以上」「体調記録で睡眠スコアが一定水準以上」「上司評価で問題なし」といった基準を事前に合意しておけば、本人・上司・人事の認識のズレを防げます。
また、50人未満の小規模事業所で産業医が選任されていない場合は、地域産業保健センター(地さんぽ)の無料相談を活用することができます。労働安全衛生法では50人以上の事業場に産業医の選任が義務づけられていますが、50人未満の事業場向けにこうした公的サポートが整備されています。産業医サービスの活用も、専門的な判断を得る有力な選択肢の一つです。
関係者の役割分担と再燃サインの早期察知
段階的復帰プランがうまく機能するかどうかは、関係者それぞれの役割が明確になっているかどうかにかかっています。「誰が何をするか」が曖昧なまま復職を進めると、本人がSOSを出したときに誰も気づかない、という状況が生まれます。
関係者ごとの主な役割
- 本人:睡眠・意欲・不安度を記録した体調記録を定期的に提出する。通院を継続し、主治医との連携を維持する。
- 直属上司:週1回程度の短時間面談を実施し、業務量・内容の調整役を担う。「仕事は大丈夫か」と直接聞くのが難しければ、「体の調子はどう?」といった声かけから始めるだけでも効果がある。
- 人事担当者:復帰支援プランの全体管理と進捗確認、関係者間の調整を担当する。定期的にプランの見直しを行う。
- 産業医・産業保健師:医学的判断と主治医との情報連携、就業上の意見書の作成を担う。
- 主治医:治療方針の決定と就業可否の判断。職場復帰支援シートを活用して職場の状況を共有することが望ましい。
再燃サインを事前に合意しておく
復帰後に症状が再燃する前には、多くの場合「前兆サイン」が現れます。本人・上司・人事がこのサインを共有し、「このような状態になったら相談する」というルールを事前に決めておくことが重要です。
具体的な再燃サインの例としては、「連続して2日以上遅刻・欠勤が続く」「表情が暗くなりミスが増える」「昼食を一人でとるようになる」「残業が急に増える(無理をしている可能性)」などが挙げられます。これらを「気になったら声をかけてよい基準」として上司に周知しておくと、現場での対応が格段にやりやすくなります。
また、本人が自分の状態変化を誰かに伝えやすい仕組みとして、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も検討に値します。上司や人事には言いにくいことも、社外の専門家には話せる場合があり、早期発見・早期対応につながります。
中小企業でも実践できる復職支援プランの整備ポイント
「産業医もいない、専任の人事もいない、そんな状況でどこまでできるのか」という声もよく聞きます。中小企業のリソース的な制約は現実として存在しますが、完璧なプランより「ある程度の仕組み」を持っているかどうかが再休職率に大きな差をもたらします。
以下に、最低限整備しておきたい実践ポイントをまとめます。
- 復職判定の基準を文書化する:「主治医の診断書+本人の4週間の活動実績+上司確認」など、判断プロセスをシンプルでも書面に残す。
- 段階的復帰のひな形を用意する:フェーズ分けと移行条件を記したテンプレートを1枚でも作成しておく。毎回ゼロから考える必要がなくなり、担当者が変わっても対応の質が落ちにくくなる。
- 定期面談の頻度をルール化する:復職後3ヶ月間は月2回以上の面談を実施するなど、頻度の最低基準を定める。
- 社内規程への反映:リハビリ出勤制度を就業規則に明記し、制度として運用できる状態にしておく。口頭での運用は後々トラブルの原因になる。
- 外部リソースを積極的に活用する:50人未満でも地域産業保健センターの無料相談は活用できる。産業医サービスやEAPの外部委託も、費用対効果を考えれば選択肢に入る。
- 管理職向けの最低限の研修:「何を聞いてよいか・いけないか」「どんなサインに気づけばよいか」を1時間程度でも共有するだけで、現場の迷いは大幅に減る。
まとめ
再休職予防の本質は、「本人の回復状態」と「職場環境の整備」の両方に目を向け、段階的・計画的に職場復帰を進めることにあります。厚生労働省の5ステップガイドラインを自社の実情に合わせて落とし込み、フェーズを分けた段階的復帰プランと関係者の役割分担を明確化することで、再休職率は大きく改善できる可能性があります。
中小企業においては完璧な体制を一度に整えることは難しいかもしれませんが、「判断基準の文書化」「段階的復帰のひな形作成」「定期面談のルール化」という3点から始めるだけでも、属人的な対応から脱却する第一歩になります。
再休職は本人にとっても会社にとっても大きな損失です。一度の経験を「仕方ない」で終わらせず、次のケースに活かせる仕組みを今から整えておくことが、持続可能な職場環境づくりの鍵となります。
よくある質問(FAQ)
復職支援プランは必ず書面で作成しなければなりませんか?
法律上、復職支援プランの書面作成が直接義務づけられているわけではありません。ただし、厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」では文書化を強く推奨しており、関係者間の認識のズレ防止・記録としての証拠保全・担当者交代時の引き継ぎの観点から、書面化は実務上ほぼ必須といえます。口頭だけの合意はトラブルの原因になりやすいため、簡易なものでも文書に残すことを強くお勧めします。
リハビリ出勤中に傷病手当金は受け取れますか?
リハビリ出勤中の傷病手当金の取り扱いは、加入している健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)によって異なります。賃金が発生しない・または傷病手当金より低い場合に一部支給されるケースもあれば、就労とみなされて支給停止になるケースもあります。復職前に必ず保険者に確認し、本人にも正確な情報を伝えておくことが重要です。
主治医が「復職可能」と言っているのに、会社側が復職を遅らせることはできますか?
主治医の診断書はあくまで医療的な観点からの判断であり、職場での就労可能性を保証するものではありません。会社としては、安全配慮義務の観点から産業医や産業保健師の意見も踏まえた上で、独自に復職可否を判断することが認められています。ただし、合理的な理由なく復職を無期限に拒否することはできないため、判断基準を社内規程に明記しておくことが重要です。








