「不安障害で休職した社員の給与はどうなる?傷病手当金との関係と中小企業がやるべき対応手順」

従業員が突然「不安障害で休みたい」と申し出てきたとき、中小企業の経営者や人事担当者は何から手をつければいいのかわからず、パニックになるケースが少なくありません。「給与はどうすべきか」「傷病手当金とはどんな制度か」「社会保険料の支払いはどうなるのか」——こうした疑問が一度に押し寄せてきます。

不安障害をはじめとするメンタルヘルス疾患は、外見からは症状が見えにくく、「本当に休む必要があるのか」と判断に迷う経営者も多いのが実情です。しかし、対応を誤ると安全配慮義務違反や不当解雇のリスクにつながる可能性があります。専門知識を持つ担当者がいない中小企業こそ、正確な手順を事前に把握しておくことが重要です。

この記事では、不安障害で休職した社員への給与対応・傷病手当金の仕組みから、社会保険料の扱い、復職判断まで、中小企業が実務で直面する課題をステップ別に解説します。

目次

不安障害と休職:まず知っておくべき法律の基本

不安障害は、強い不安・恐怖・緊張が続くことで日常生活や業務に支障をきたす精神疾患です。パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害などが含まれます。外見からわかりにくい一方で、症状によっては十分な休養が必要な状態であることを、まず前提として理解しておきましょう。

休職に関する法律の原則として押さえておきたいのが、労働契約法第5条の安全配慮義務です。使用者(会社)は、労働者の生命・身体・健康を損なわないよう配慮する義務を負っています。主治医から休養が必要との診断書が出ているにもかかわらず休職を拒否し、その結果として病状が悪化した場合には、損害賠償を求められるリスクがあります。

また、労働基準法第19条では、療養中および療養終了後30日間の解雇が禁止されています。「休職が長引いているから解雇してしまおう」と安易に判断すると法律違反となる場合があるため、注意が必要です。ただし、就業規則に定めた休職満了による退職扱いは、要件を正しく満たした場合に限り認められています。これについては後述します。

なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務(労働基準法第89条)となっています。休職制度の手続きや期間を就業規則に明記していない中小企業では、いざ休職が発生したときに対応が後手に回りがちです。この機会に整備を検討することをお勧めします。

休職中の給与はどう扱うべきか

多くの経営者が誤解しているのが「休職中も給与を払い続けなければならない」という思い込みです。結論から言えば、私傷病(業務外の病気やけが)による休職中の給与支払いに法的義務はありません

労働基準法第76条に定める休業補償は、業務災害(労災)が対象であり、私傷病の休職には適用されません。給与を支払うかどうかは、就業規則や労働契約の定めによります。

  • 有給扱いで給与を支払う規定がある場合:規定に従って給与を支給します。ただし後述する傷病手当金との調整が必要です。
  • 無給(給与ゼロ)の規定がある場合:給与の支払い義務はなく、社員には傷病手当金の申請を案内します。
  • 就業規則に規定がない場合:本人と書面で合意の上、取り扱いを決定します。口頭での約束は後のトラブルの原因になるため、必ず書面化してください。

重要なのは、給与と傷病手当金を同時に受け取ることはできないという点です。正確には、「給与が傷病手当金の額を下回る部分についてのみ、差額として傷病手当金が支給される」という仕組みになっています。たとえば傷病手当金が月20万円相当のところ、会社が休職中に月10万円を支給しているなら、残り10万円が傷病手当金として支給されます。給与を払い続けると後で調整が複雑になるため、給与をゼロにして傷病手当金を全額活用するほうがシンプルな場合が多いといえます。

傷病手当金の仕組みと申請手順

傷病手当金とは、健康保険に加入している会社員が業務外の病気やけがで働けなくなったときに、生活保障として支給される給付金です。国民健康保険には同様の制度がないため、協会けんぽや健保組合に加入している社員が対象となります。

支給要件

  • 業務外の疾病・負傷であること
  • 療養中であること(自宅療養も含む)
  • 労務不能(仕事ができない状態)であること
  • 連続する3日間の待期期間が完成していること(有給・欠勤・土日祝を問わず連続3日で成立)

支給額の計算方法

支給額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3が日額となります。月給30万円の社員であれば、30万円 ÷ 30日 × 2/3 = 約6,667円/日が目安です。

支給期間

2022年1月の法改正により、支給期間は支給開始日から通算1年6か月に変更されました。以前は暦日で計算されていたため、途中で働いた期間も期間に含まれていましたが、現在は実際に受給した日数を通算して1年6か月分を受け取れる仕組みになっています。復職と再休職を繰り返す場合でも、受給日数が残っていれば引き続き受給できます。

申請書類と会社が行う手続き

傷病手当金の申請書は、協会けんぽや加入健保組合のウェブサイトからダウンロードできます。申請書は主に3つの欄に分かれています。

  • 被保険者(本人)記載欄:氏名・住所・口座情報など
  • 事業主証明欄:会社が記入。休職開始日・出勤状況・給与支払いの有無などを証明します。
  • 医師の意見欄:主治医が労務不能の状態にあることを証明します。

会社として求められる作業は、事業主証明欄への記入と押印のみです。申請書を回収→事業主欄を記入→本人に返却し、本人が医師の意見欄を主治医に依頼→協会けんぽへ郵送、という流れが一般的です。申請は月単位でまとめて行うケースが多く、初回は待期3日を含む期間から申請します。

なお、申請手続きの煩雑さが課題の場合は、産業医サービスを活用することで、産業医から申請フローの整備や書類確認に関するアドバイスを受けられる場合があります。

休職中の社会保険料はどう扱うか

休職中も社員の雇用関係は継続しているため、健康保険・厚生年金保険の保険料は休職中も発生し続けます。これは会社負担分・本人負担分ともに同様です。給与が支払われていれば給与から控除できますが、無給休職では給与がないため別途対応が必要です。

実務上の主な対応方法は以下のとおりです。

  • 毎月請求書を発行し、本人に振込を依頼する:最もシンプルな方法です。休職開始時に取り決めを書面で交わしておきましょう。
  • 休職開始時にまとめて預かる:長期休職が見込まれる場合、複数か月分を事前に預かるケースもあります。ただし金額が大きくなるため、慎重な管理が必要です。
  • 会社が立て替えて後日回収する:回収漏れや退職後の未回収リスクがあるため、書面での取り決めが必須です。

雇用保険料については、賃金の支払いがない期間は発生しません。ただし、休職中に有給休暇を消化している期間や、一部賃金を支払っている期間がある場合には、その分の保険料計算が必要です。

社会保険料の未回収が続くと会社の負担になるため、休職開始時に本人と書面で取り決めを行うことが最大のリスク管理といえます。

休職期間満了と復職の判断手順

休職が長引いた場合の対応と、復職時の判断手順についても整理しておきましょう。

復職時の判断プロセス

復職を認める際は、感情的・主観的な判断を避け、以下のプロセスを踏むことが重要です。

  • 主治医の診断書の取得:「復職可能」という記載が含まれているか確認します。ただし主治医は就労環境を直接知らないため、診断書だけで即復職を決定するのは慎重に。
  • 産業医による就業判定:可能であれば産業医に意見書を作成してもらい、業務内容や職場環境と照らし合わせた判断をしてもらいましょう。主治医の「復職可能」と産業医の「職場での就業可否」は別の判断です。
  • 試し出勤(リハビリ出勤)の活用:いきなりフルタイムに戻すのではなく、短時間・軽作業から始める制度を設けることで、再休職リスクを下げることができます。

不安障害の回復は一進一退することがあります。段階的な復職支援が社員の長期的な定着につながります。メンタルカウンセリング(EAP)を導入している企業では、復職後のフォローアップをカウンセラーに委ねることで、再発防止と職場定着率の向上が期待できます。

休職期間満了による退職扱いについて

就業規則に「休職期間満了後、復職できない場合は退職とする」旨の規定がある場合、期間内に復職できなければ退職扱いとすることが認められています。これは「解雇」ではなく「自然退職」として扱われますが、手続きが不適切だと解雇と判断されるリスクがあります。

満了退職を行う場合は、以下の点を確認してください。

  • 就業規則に休職期間と満了時の取り扱いが明記されているか
  • 休職期間中に本人への通知・確認が適切に行われているか
  • 主治医・産業医への相談機会を十分に設けているか
  • 書面による通知と記録が残っているか

実践ポイント:中小企業が今すぐできる対応整備

不安障害による休職への対応を改善するために、中小企業が優先的に取り組むべきポイントをまとめます。

  • 就業規則に休職規定を整備する:休職期間・給与の取り扱い・社会保険料の対応・復職条件・満了退職の条件を明記してください。常時10人未満の事業場でも、規定を作成しておくことでトラブルを防げます。
  • 傷病手当金の申請フローをあらかじめ作成しておく:申請書の入手先・記入担当者・提出先をフロー化しておくと、初めての担当者でもスムーズに動けます。
  • 休職開始時に書面で合意事項を確認する:給与の取り扱い・社会保険料の負担方法・定期連絡の方法を書面化し、本人と会社双方が保管します。
  • 連絡頻度は適切に保つ:月1回程度の状況確認は合理的ですが、過度な連絡・出社要求は安全配慮義務違反やハラスメントと判断される可能性があります。連絡の目的と内容を業務的・事務的な範囲に留めましょう。
  • 産業医・EAPとの連携体制を構築する:中小企業では専任の産業保健スタッフを置くことが難しいケースが多いですが、外部の産業医サービスやEAPを活用することで、専門的なサポートを得ることができます。

まとめ

不安障害で休職した社員への対応は、法律・制度・実務が複雑に絡み合うテーマです。ポイントを改めて整理します。

  • 私傷病の休職中に給与支払いの法的義務はなく、就業規則・労働契約の定めによる
  • 傷病手当金は健康保険加入者が対象で、支給開始日から通算1年6か月受給できる
  • 支給額は標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3。会社は事業主証明欄を記入するだけで申請をサポートできる
  • 休職中も社会保険料は発生するため、休職開始時に本人と書面で対応を取り決める
  • 療養中および療養終了後30日間は解雇が禁止されており、安易な解雇はリスクを伴う
  • 復職時は主治医の診断書だけでなく産業医の意見も参考にし、段階的復職を設計する

対応に不安を感じる場合は、社会保険労務士・産業医・EAPなどの専門家に早めに相談することが、会社と社員双方を守る最善の策です。一人で抱え込まず、適切なサポート体制を整えることが、中小企業における健全な職場環境づくりへの第一歩となります。

よくある質問(FAQ)

不安障害の診断書が出たら、すぐに休職させなければなりませんか?

診断書が提出されたからといって、必ずしも即日・無条件に休職させる義務があるわけではありません。業務の引き継ぎ期間を設けることや、休職開始日を会社と本人で協議することは合理的な対応です。ただし、主治医が「即時休養が必要」と判断している場合に無理な就業継続を求めると、安全配慮義務違反となるリスクがあります。診断書の内容を確認した上で、本人・主治医と丁寧に協議することが重要です。

休職規定が就業規則にない場合、休職を拒否することはできますか?

規定がないことを理由に休職を一律に拒否することは、安全配慮義務の観点から望ましくありません。就業規則に規定がない場合でも、本人・会社間で個別に書面合意を結ぶことで休職に応じる対応が現実的です。規定がない状態でのトラブルを防ぐためにも、今後に備えて就業規則へ休職規定を整備することを強くお勧めします。

傷病手当金の申請で会社がすることは何ですか?

会社(事業主)が行う作業は、傷病手当金申請書の「事業主記載欄」に、休職開始日・給与支払いの有無・出勤状況などを記入・押印することです。申請書の入手や協会けんぽへの提出は基本的に本人が行いますが、中小企業では総務担当者が代行して申請をサポートするケースも多くあります。初めて対応する場合は、協会けんぽの窓口に確認しながら進めるとスムーズです。

休職期間が満了しても復職できない場合、解雇できますか?

就業規則に「休職期間満了後に復職できない場合は退職とする」旨が明記されており、かつ手続きが適切に行われている場合には、解雇ではなく「休職満了による自然退職」として扱うことが認められています。ただし、手続きや通知が不十分な場合、解雇と同等に扱われる可能性があります。退職扱いを行う前に、社会保険労務士や弁護士への相談を検討してください。

産業医・メンタルヘルスのご相談はお気軽に

まずは資料請求・無料相談から。専任担当がサポートします。

目次