「副業を許可したら会社の責任はどこまで?」中小企業が今すぐ整えるべき安全衛生管理の全ポイント

「副業を認めたいけれど、何かあったときに会社がどこまで責任を負うのか不安で踏み出せない」——こうした声は、副業・兼業を検討中の中小企業の経営者・人事担当者から頻繁に聞かれます。

政府が副業・兼業を推進し、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を整備したことで、副業を許可する企業は年々増加しています。一方で、制度の実態や自社の管理責任について十分に理解しないまま「なし崩し的に副業を認めている」企業も少なくありません。

副業・兼業を許可することは、優秀な人材の確保やエンゲージメント向上につながる反面、労働時間の通算管理、健康診断・面接指導の義務、安全配慮義務、労災発生時の対応など、経営者・人事担当者が把握しておくべき法的義務が複数発生します。「健康管理は本人の自己責任」と同意書を取得するだけでは、法的リスクを回避できない点も重要なポイントです。

本記事では、副業・兼業を許可する際に中小企業が取り組むべき安全衛生管理の要点を、法律の根拠とともに実務的な視点から解説します。

目次

副業・兼業を取り巻く法律の基本を整理する

まず、副業・兼業許可に関係する法律の主要なポイントを整理します。制度を正しく理解することが、適切な管理体制を構築する第一歩です。

労働基準法第38条:労働時間は「通算」される

労働基準法第38条は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり、従業員が複数の会社で働く場合、それぞれの会社での労働時間を合計して法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えるかどうかを判断しなければなりません。

通算した結果、法定労働時間を超えた部分については時間外割増賃金(25%以上)の支払義務が生じます。原則として、後から労働契約を締結した使用者が割増賃金を支払う義務を負いますが、実務上の管理が複雑になることは避けられません。

この複雑さを軽減するために、厚生労働省は2020年に「管理モデル」を提示しました。これは、自社での労働時間の上限枠をあらかじめ設定し、その範囲内で副業を認める方式です。中小企業にとっては特に活用しやすい仕組みといえます。

労働安全衛生法:健康診断・面接指導の義務

労働安全衛生法第66条に基づく定期健康診断は、各使用者が実施義務を負います。副業先の会社も、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上など一定の要件を満たす場合は健康診断の実施義務が生じます。

さらに重要なのが、同法第66条の8に規定する面接指導(医師による面談)の義務です。時間外・休日労働が月80時間を超える場合(研究開発業務等の特定業務は月100時間超)に、医師による面接指導の実施が義務づけられています。

厚生労働省の副業・兼業ガイドラインの改定(2022年)により、この「月80時間」の判断には副業・兼業先の労働時間も含めて通算する必要があるという考え方が明確化されました。自社だけでは月80時間に達していなくても、副業先を合算すると超過する場合、面接指導の義務が生じる可能性があります。この点を見落としている企業が非常に多いため、注意が必要です。

労災保険法の改正:複数業務要因災害の新設

2020年9月の労働者災害補償保険法の改正により、複数の会社に雇用される労働者(複数事業労働者)に関する制度が大きく変わりました。主なポイントは以下の2点です。

  • 給付基礎日額の合算算定:労災が発生した際の休業補償などの給付額を算定する「給付基礎日額」が、全就業先の賃金を合算して計算されるようになりました。
  • 複数業務要因災害の新設:1社だけでは過重労働と認定されなくても、複数の会社の業務負荷を合算することで過重労働と認定され、労災が認められる可能性があります。

つまり、自社の業務量は適切な範囲であっても、副業先との合算で従業員が過重労働状態にあると判断された場合、自社の業務負荷も労災認定の対象として考慮される可能性があるのです。

「自己責任の誓約書」では安全配慮義務を免れない

副業許可時によく見られる対応として、「副業に関する健康管理は自己責任とします」という同意書や誓約書を従業員から取得するケースがあります。しかし、この対応だけでは法的リスクを回避できません。

使用者は、民法第415条および労働契約法第5条に基づき、従業員に対して安全配慮義務(労働者が安全に働ける環境を整える義務)を負っています。この義務は、副業を許可した従業員についても例外ではありません。

副業での過労やストレスが積み重なって健康被害が生じた場合、自社業務との因果関係が問われる可能性があります。誓約書の存在は、安全配慮義務違反の免責事由にはならないというのが法的な一般的解釈です。

特に中小企業では、「副業は本人の自由」「管理しきれない」という感覚から対応が後手に回りがちですが、副業を許可した時点で、その従業員の健康状態に対する一定の管理責任が生じるという認識を持つことが重要です。

従業員の健康管理に不安を感じる場合は、産業医サービスを活用し、副業従業員を含む健康管理体制の整備を専門家と一緒に検討することも有効な選択肢です。

中小企業が整備すべき副業管理の仕組み

では、実際に中小企業が副業・兼業を許可する際に整備すべき仕組みとはどのようなものでしょうか。大きく4つの観点から解説します。

① 就業規則・副業規程の整備

副業を認める場合、まず就業規則または別途の副業規程に以下の内容を明記することが必要です。

  • 副業の申請・承認フローと許可・不許可の判断基準
  • 副業先の業務内容・労働時間・労働環境の報告義務
  • 健康状態が悪化した場合の副業制限・禁止条項
  • 競業他社での副業の取り扱い、秘密保持に関する条項
  • 申告内容に虚偽があった場合の懲戒規定

「明文化されたルールがない」状態で副業を認めると、トラブル発生時に対応の根拠が曖昧になります。厚生労働省が公開している「モデル就業規則」の副業・兼業規定の参考例も活用できます。規程の整備は、従業員を守るためでもあり、会社を守るためでもあります。

② 労働時間の管理モデルの活用

副業・兼業における労働時間通算の管理は、実務上の複雑さが大きな課題です。この問題に対し、厚生労働省が推奨する「管理モデル」の活用が現実的な解決策となります。

管理モデルとは、自社での労働時間の上限をあらかじめ設定し(例:法定内労働時間の範囲で設定)、その枠内でのみ副業を認める方式です。この場合、自社は設定した上限枠を超えて労働させない管理をすれば足り、副業先の実際の労働時間をリアルタイムで把握し続ける必要がなくなります。

あわせて、以下の運用も重要です。

  • 副業先での月ごとの実労働時間を本人から定期申告させる
  • 申告に基づき、通算労働時間が月80時間を超えそうな場合は早期に対応する
  • 自社単独で月45時間以上の残業が続いている従業員には、副業を許可しない運用を検討する

③ 健康管理・面接指導の体制強化

副業従業員の健康管理においては、通常の健康管理よりも一歩踏み込んだ対応が求められます。具体的な取り組みとして以下が考えられます。

  • 副業込みの総労働時間の把握:月80時間超の面接指導要件を副業先の時間も含めて判断する。
  • 独自の健康チェックシートの導入:副業許可者を対象に、疲労感・睡眠状況・集中力低下などを確認するセルフチェックを定期的に実施する。
  • 産業医・保健師との連携:副業従業員の情報共有ルールを産業医・保健師との間で整備し、疲労の蓄積が認められる場合は早期に面接を実施できる体制を整える。
  • 副業の一時停止勧告の根拠規定:健康状態が悪化した場合に副業を一時停止するよう勧告できる根拠を規程に明記しておく。

メンタルヘルス面での不調が心配な場合には、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も検討に値します。副業・兼業による疲弊やモチベーションの変化は、早期発見・早期対応が重要です。

④ 労災発生時の対応準備

副業中の労災(業務中の事故や過重労働による疾病など)が発生した際に備え、以下の点を事前に確認・整備しておくことが重要です。

  • 給付基礎日額が全就業先の賃金合算で算定されることを経営層・人事が理解しておく
  • 副業先で事故・疾病が発生した場合の自社への連絡ルートをあらかじめ取り決めておく
  • 複数業務要因災害として自社の業務負荷も問われる可能性があることを念頭に置く
  • 従業員の副業先の業務内容(危険度、夜間勤務の有無など)を把握できる体制を整える

副業管理における実践ポイントまとめ

ここまでの内容を踏まえ、中小企業が副業・兼業許可時の安全衛生管理を実践するうえで押さえておくべきポイントを整理します。

  • 制度の理解:労働時間通算(労基法第38条)、面接指導の通算判断(安衛法第66条の8)、複数業務要因災害(労災保険法改正)の3点は必須知識として社内に浸透させる。
  • 規程の整備:副業規程に申請・承認フロー、報告義務、健康悪化時の対応根拠を明記し、「なし崩し許可」を避ける。
  • 管理モデルの活用:自社上限時間枠を設定し、副業先労働時間の定期申告と組み合わせることで現実的な労働時間管理を実現する。
  • 健康管理の強化:副業込みの総労働時間を把握したうえで面接指導の要否を判断し、定期的なセルフチェックや産業医・保健師との連携体制を整備する。
  • 安全配慮義務の自覚:同意書・誓約書の取得だけでは不十分であり、副業を認めた従業員の健康状態への継続的な関与が求められる。
  • 労災対応の準備:副業先での事故・疾病発生時の連絡ルートを確認し、合算算定・複数業務要因災害の仕組みを理解しておく。

まとめ

副業・兼業の許可は、従業員の多様な働き方を支援し、企業の採用競争力を高める重要な施策です。しかし、許可するだけで管理体制が伴わなければ、労働時間超過・健康被害・労災発生といったリスクが自社に跳ね返ってくる可能性があります。

特に中小企業では、人事担当者一人が多くの業務を兼務していることも多く、「副業管理まで手が回らない」という声もよく聞かれます。しかし、法律上の義務は企業規模を問いません。まずは就業規則・副業規程の整備と、副業込みの労働時間・健康状態を把握する仕組みの構築から着手することをお勧めします。

副業管理の体制が整い、従業員が安心して多様な働き方を選択できる環境を整えることは、長期的には企業の信頼性向上にもつながります。法的リスクを回避しながら副業推進を実現するために、産業医や社会保険労務士などの専門家と連携しながら、実態に即した管理体制を一歩ずつ構築していきましょう。

よくある質問(FAQ)

副業を許可した従業員が副業先で労災に遭った場合、自社にも責任が及びますか?

直接的な責任の所在は副業先の使用者にありますが、2020年9月の労災保険法改正で新設された「複数業務要因災害」により、自社業務の負荷も労災認定の判断材料として考慮される場合があります。自社業務が過重でなくても、副業先との合算で過重労働と認定されるケースがあるため、副業従業員の総労働時間を定期的に把握しておくことが重要です。具体的な対応については、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。

「副業に伴う健康被害は自己責任」と誓約書を取れば、会社の安全配慮義務はなくなりますか?

なくなりません。使用者の安全配慮義務は民法第415条および労働契約法第5条に基づく法的義務であり、誓約書の存在がその義務を免除する根拠にはなりません。副業を許可した時点で、その従業員の健康状態に対する一定の管理責任が生じるという認識を持ち、労働時間の把握や健康チェックの仕組みを整備することが必要です。個別の法的判断については、弁護士や社会保険労務士にご相談ください。

副業込みの月80時間超の面接指導義務は、どのように運用すればよいですか?

副業従業員に対して、副業先での月ごとの実労働時間を定期的に申告させる仕組みを整備し、自社の時間外労働と合算して月80時間を超える見込みがある場合は、速やかに医師(産業医など)による面接指導を実施してください。申告内容の虚偽については就業規則に懲戒規定を設けておくことで、従業員の正確な申告を促す効果も期待できます。運用の詳細については、産業医や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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