「試用期間中に解雇したら訴えられた」中小企業が知らずに踏む法的地雷と回避策

「試用期間中だから、合わなければいつでも辞めてもらえる」。採用面接の場や社内会議で、こうした発言を耳にしたことはないでしょうか。実はこの認識は法律上の大きな誤解であり、中小企業が労働トラブルに巻き込まれる主要な原因のひとつです。

近年、労働審判(労使のトラブルを迅速に解決するための裁判手続きで、申し立てから原則3回以内の期日で結論が出る制度)の申立件数は増加傾向にあり、試用期間中の解雇をめぐる紛争も決して珍しくありません。解雇無効の判断が下れば、未払い賃金の支払いや職場への復帰命令といった深刻な事態を招くこともあります。

本記事では、試用期間中の解雇に関する法律の基本から、実務上の対応手順、よくある誤解と失敗例まで、中小企業の経営者・人事担当者が知っておくべき情報を体系的に解説します。

目次

試用期間中の解雇は「自由」ではない:法律の基本を押さえる

試用期間とは、企業が採用した労働者の適性・能力・勤務態度などを実際の業務を通じて評価し、本採用の可否を判断するための期間です。この期間中は、使用者(会社)が「留保解約権」を持つとされており、一定の条件を満たせば本採用を拒否できます。

留保解約権とは、採用時点では確認できなかった事情が試用期間中に明らかになった場合に限り、雇用契約を解除できる権利のことです。1973年の最高裁判例(三菱樹脂事件)では、試用期間中の本採用拒否は通常の解雇よりも広い裁量が認められると示されました。

しかし、だからといって「いつでも・どんな理由でも解雇できる」というわけではありません。

労働契約法第16条の「解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)」は、試用期間中にも適用されます。これは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効とみなすという原則です。裁判所が「本採用拒否に合理的理由なし」と判断した事例は多数存在しており、試用期間中であることは、解雇の正当性を担保する魔法の免罪符にはなりません。

また、労働基準法第19条により、業務上の傷病による休業期間中や産前産後休業期間中は、試用期間中であっても解雇は禁止されています。育児・介護休業の取得を理由とした解雇も、育児・介護休業法により禁じられています。これらは試用期間の有無にかかわらず適用される絶対的なルールです。

解雇予告と予告手当:「14日ルール」を見落とさない

試用期間中の解雇手続きで最も見落とされやすいのが、解雇予告に関するルールです。

労働基準法第20条は、使用者が労働者を解雇する場合、原則として30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。

ここで重要なのが「14日ルール」です。試用期間中に雇用開始から14日以内であれば、解雇予告は不要とされています(労働基準法第21条)。ただし、これはあくまで例外規定であり、14日を1日でも超えて雇用が継続している場合には、30日前の予告または解雇予告手当の支払いが必要になります。

試用期間が3か月や6か月に設定されているケースでは、当然14日を超えて雇用されているため、解雇予告手当の支払いは必須です。この支払いを怠ると、労働基準法違反として行政指導や罰則の対象となる可能性があります。

なお、解雇予告手当の計算式は以下のとおりです。

  • 解雇予告手当 = 平均賃金 × 不足する予告日数分(30日前に予告した場合は不要、予告日数が短いほど手当が増加)
  • 平均賃金とは、直前3か月間の賃金総額をその期間の暦日数で割った金額

試用期間が短い場合でも、賃金支払い実績をもとに計算します。金額の算出方法が不明な場合は、社会保険労務士に確認することをおすすめします。

本採用拒否・解雇が認められるための条件と証拠の積み上げ方

試用期間中の解雇が法的に有効とされるためには、「客観的に合理的な理由」が必要です。では、どのような理由が認められるのでしょうか。代表的なものを挙げます。

  • 採用時に提出した経歴・資格に重大な虚偽記載があった場合
  • 業務遂行に必要な能力が著しく不足しており、改善の見込みが低い場合
  • 無断欠勤・遅刻を繰り返し、注意・指導を行っても改善されない場合
  • 職場内でのハラスメント行為や重大な規律違反があった場合

ただし、これらの理由があるだけでは不十分です。「指導・注意を行ったにもかかわらず改善されなかった」という事実の積み上げが不可欠です。

特に重要なのが書面による記録です。口頭での指導だけでは証拠として弱く、労働審判において使用者側が不利な結果を招くことは少なくありません。以下のような記録を継続的に残すことが求められます。

  • 日報・業務記録(問題行動が発生した日時・状況の記載)
  • 書面による指導記録(指導日・指導内容・本人の反応・署名)
  • メール・チャットのやり取り(業務上の指示と応答の履歴)
  • 定期的な評価面談の議事録(課題の共有と改善目標の設定)

「改善の機会を与えた」という事実の積み上げが、解雇の相当性を支える根拠になります。問題が発生した際には、その都度記録に残す習慣を組織全体で徹底することが大切です。

また、本採用拒否・解雇を検討する前に、弁護士や社会保険労務士への相談を必ず行うことを強くおすすめします。第三者の視点で解雇理由の合理性を確認することが、後のトラブル回避につながります。解雇通知は書面で行い、解雇理由を明記してください。労働者から請求があれば、解雇理由証明書を交付する義務もあります(労働基準法第22条)。

なお、訴訟リスクや職場環境への影響を考慮し、退職勧奨(合意退職)という選択肢も検討する価値があります。合意のうえでの退職は、後の紛争リスクを大幅に低減できる場合があります。

試用期間の適切な設定と就業規則整備のポイント

試用期間の長さについて、法律に具体的な上限規定はありませんが、実務上は3か月〜6か月が一般的です。極端に長い試用期間(たとえば1年以上)は、公序良俗違反とみなされるリスクがあるとされており、設定には慎重な判断が必要です。

試用期間の延長については、以下の条件が揃っている場合のみ有効とされることが多いです。

  • 就業規則に試用期間の延長に関する規定が明記されていること
  • 延長の事実・理由・延長後の期間を書面で本人に通知し、合意を得ていること
  • 延長の理由が正当であること(能力不足や問題行動など)

就業規則の根拠なく、または本人の同意なく試用期間を一方的に延長することは、法的に無効とされるリスクがあります。

就業規則の整備においては、少なくとも以下の項目を明確に規定することが求められます。

  • 試用期間の長さ(「○か月とする」と明記)
  • 試用期間中の解雇・本採用拒否が認められる事由
  • 試用期間の延長条件と手続き
  • 試用期間中の労働条件(賃金・待遇など)

就業規則が存在しない、または試用期間に関する規定が曖昧な場合、解雇の正当性を主張することが難しくなります。常時10人以上の労働者を雇用する事業場では就業規則の作成・届出が義務付けられていますが、10人未満の事業場でも作成しておくことが強く推奨されます。

また、入社時には労働条件通知書・雇用契約書に試用期間の目的・期間・本採用拒否の基準を明記し、本人の署名確認を取ることが重要です。「試用期間=査定期間である」という事実を入社時点で明確に伝えることが、後のトラブル防止に直結します。

パート・アルバイト・外国人労働者の試用期間中解雇における注意点

「非正規雇用や外国人労働者の場合は別のルールが適用される」と思い込んでいる経営者もいますが、これは大きな誤解です。

パートタイム・アルバイト労働者についても、労働基準法・労働契約法は同様に適用されます。雇用形態にかかわらず、試用期間中の解雇には合理的な理由が必要であり、14日を超えて雇用している場合は解雇予告または予告手当が必要です。

外国人労働者の試用期間中解雇については、在留資格との関係にも注意が必要です。解雇によって在留資格の根拠となる雇用関係が失われる場合、出入国在留管理庁への届出義務が生じることがあります(外国人雇用状況の届出制度)。また、言語の壁から「指導が適切に伝わっていたか」が争点になるケースもあるため、重要な指導や通知は母国語での書面を用意するか、通訳を介して実施することが望ましいといえます。

外国人労働者・非正規労働者を含む職場全体の労務管理体制の整備、また精神的健康の維持・職場適応支援のためには、メンタルカウンセリング(EAP)を活用することも有効な選択肢です。特に採用後の早期離職防止や職場定着支援の観点から、外部専門機関によるサポートが注目されています。

実践ポイント:試用期間トラブルを防ぐためのチェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、経営者・人事担当者がすぐに確認・実行すべきポイントを整理します。

採用・入社時の対応

  • 労働条件通知書・雇用契約書に試用期間の期間・目的・本採用拒否事由を明記する
  • 就業規則に試用期間に関する規定(延長条件を含む)を整備・明記する
  • 入社時に試用期間の意味を本人に説明し、署名確認を取る

試用期間中のマネジメント

  • 問題行動・能力不足が発生した際はその都度書面または記録に残す
  • 口頭指導だけでなく書面指導(指導日・内容・本人の反応)を残す
  • 定期的な評価面談を実施し、課題と改善目標を本人と共有する
  • 「改善の機会を与えた」という事実を積み重ねる

解雇・本採用拒否を検討する際の対応

  • 解雇検討前に必ず弁護士・社会保険労務士に相談する
  • 14日超の雇用の場合、解雇予告(30日前)または解雇予告手当を支払う
  • 解雇通知は書面で行い、解雇理由を明記する
  • 退職勧奨(合意退職)の選択肢も検討する
  • 外国人・非正規雇用の場合、追加の届出義務がないか確認する

職場環境の整備と並行して、従業員が安心して相談できる体制を構築することも、早期のトラブル発見と解決につながります。産業医サービスを導入することで、採用後の健康管理・職場適応の支援を専門家と連携しながら進めることが可能です。

まとめ

試用期間中の解雇は、通常の解雇より裁量の幅が広いとはいえ、「自由に解雇できる期間」では決してありません。労働契約法・労働基準法の枠組みの中で、合理的な理由と適正な手続きが求められます。

特に中小企業では、就業規則の整備が不十分なまま、記録もとらずに口頭指導だけで対応しているケースが多く、これが労働審判や未払い賃金請求といった深刻なトラブルを招く原因となっています。

採用時の書類整備、試用期間中の丁寧な記録管理、専門家への早期相談という三つの柱を意識することで、法的リスクを大幅に軽減することができます。「採用ミスマッチが発覚した後」ではなく、「採用の前から」備えることが、経営者・人事担当者に求められる姿勢です。

試用期間制度を正しく理解し、適切に運用することが、従業員との信頼関係を築き、健全な職場環境を維持するための第一歩です。

試用期間中に解雇する場合、解雇予告手当は必ず必要ですか?

雇用開始から14日以内であれば解雇予告は不要とされていますが、14日を1日でも超えて雇用が継続している場合は、30日前の解雇予告または30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法第20条・第21条)。試用期間が3か月や6か月の場合は14日を超えることが明らかであるため、解雇予告手当の支払いは原則として必要になります。支払いを怠ると労働基準法違反となる可能性があるため、注意が必要です。

「能力不足」を理由に試用期間中の解雇を行う場合、どのような証拠が必要ですか?

能力不足を理由とする解雇が有効とされるためには、単に「仕事ができない」という主観的な判断だけでは不十分です。具体的には、業務上の問題行動や成果不足を記録した日報・業務記録、書面による指導記録(指導日・内容・本人の反応・署名)、定期的な評価面談の議事録など、「改善の機会を与えたにもかかわらず改善されなかった」という事実を客観的に示せる証拠が求められます。口頭指導だけでは証拠として弱く、労働審判で使用者側が不利な結果となるケースが多いため、日頃からの記録管理が重要です。

試用期間の延長は就業規則に規定がなくても認められますか?

原則として、就業規則に試用期間の延長に関する規定がない場合や、本人の同意なく一方的に延長することは、法的に無効とされるリスクがあります。試用期間の延長が有効とされるためには、就業規則への明記、延長の事実・理由・延長後の期間を書面で通知し本人から合意を得ること、そして延長の理由が正当であることが条件として求められます。また、試用期間の長さとしては6か月以内が一般的とされており、著しく長い期間の設定は公序良俗違反とみなされるリスクもあります。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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