「面談の場を用意したものの、何を話せばよいのか分からなかった」「本人がふさぎ込んでしまい、かえって傷つけてしまったのではないかと心配になった」——休職をめぐる面談は、多くの中小企業の経営者・人事担当者が不安を抱えながら対応している場面の一つです。
産業医や専門スタッフを常駐させられる大企業とは異なり、中小企業では人事担当者や経営者が一人で面談の準備から記録管理まで担うケースが少なくありません。知識や経験が不十分なまま面談に臨むと、本人の状態を悪化させたり、復職後すぐに再休職を招いたりするリスクがあります。
本記事では、休職前後の面談において実際に気を付けるべきポイントを、法律的な根拠や厚生労働省のガイドラインを踏まえながら、実務レベルで解説します。「何をどこまで聞いてよいか」「どんな言葉をかけるべきか」「記録はどう残すか」といった現場の疑問に応える内容をまとめました。
休職前面談の基本:「支援の場」であることを最初に伝える
休職前の面談でまず押さえるべきことは、面談の目的を本人に明確に伝えることです。「なぜ自分はここに呼ばれたのか」「何か責められるのではないか」という不安を最初から取り除かなければ、本人は心を開いて話すことができません。
面談の冒頭で「今日はあなたの体調や状況をきちんと把握して、一緒に最善の対応を考えたいと思っています」と伝えることで、処分・査定の場ではなく健康支援の場であることを示しましょう。この一言があるかないかで、その後の対話の質は大きく変わります。
面談者の選定にも注意が必要です。直属の上司が不調の原因の一端を担っている可能性がある場合は、その上司を面談の場に同席させないことが原則です。人事担当者が主担当となり、可能であれば産業医サービスを活用して専門家に同席してもらうことが望ましい対応といえます。
傾聴・共感を軸にした話の聞き方
メンタル不調者への声かけや言葉遣いに自信が持てない方は多いですが、基本姿勢は「まず聞くこと」に尽きます。
- 本人が話している途中で遮らない
- 「なぜ?」「どうして?」という詰問調の質問は避ける
- 「どんな状態が続いていますか」「最近、特につらく感じることはありますか」といった開かれた質問(オープンクエスチョン)を使う
- うなずきや相づちで「しっかり聞いている」という姿勢を示す
「もっと頑張れ」「気持ちの問題だ」という励まし方はかえって逆効果になることがあります。アドバイスや評価は後回しにして、まず本人の言葉を受け止めることを優先してください。
業務・職場環境の状況把握も面談の重要な目的
本人の話を丁寧に聞く一方で、面談では職場環境の客観的な把握も行います。ハラスメントの有無、過重労働の実態、人間関係のトラブルなどを確認することは、再発防止のために不可欠です。ただし、「なぜそんなことになったのか」といった責め口調にならないよう注意しましょう。
面談前には、本人の勤怠データや残業時間の実績を事前に整理しておくと、客観的な状況把握の助けになります。主観的な訴えだけでなく、数字としての事実も組み合わせることで、より適切な支援方針を立てることができます。
休職前面談で確認・説明すべき具体的な事項
休職前の面談は「気持ちを聞く場」であると同時に、本人が安心して休職に入れるよう、制度・手続きを丁寧に説明する場でもあります。以下の項目を漏れなく確認・説明することを心がけてください。
休職制度の内容説明
- 休職期間の上限(就業規則に基づく規定)
- 休職中の給与の取り扱い(無給・有給の別)
- 社会保険料の負担方法(休職中も本人負担分が発生する)
- 傷病手当金制度の概要(健康保険から支給される所得補償給付。給与の約3分の2相当が最長1年6か月支給される)
- 復職の流れと条件
「休職=解雇への第一歩」と誤解している方は少なくありません。制度の内容を具体的に説明することで、過剰な不安を取り除くことができます。
主治医との連携と同意取得
休職中の支援を適切に行うためには、主治医からの情報が欠かせません。ただし、健康情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に当たり、本人の同意なく取得・共有することは原則として認められません。
面談の場で、主治医に対して情報提供を依頼することへの同意書を準備し、丁寧に説明した上で署名をもらうようにしましょう。また、取得した健康情報は業務上必要な範囲でのみ使用し、不必要に上司や他の社員に開示しないことが重要です。
休職中の連絡方法の取り決め
休職中、会社とどのようにコミュニケーションを取るかを最初に合意しておくことで、本人・会社双方の混乱を防げます。
- 連絡の窓口担当者を一人に絞る(複数の人から連絡が来ると負担になる)
- 連絡の頻度(目安:月1回程度から始める)
- 連絡の手段(電話・メール・郵便など、本人の希望に合わせる)
これらを口頭だけで決めるのではなく、文書として残し、本人に渡しておくことが大切です。
休職中の定期連絡で気を付けること
休職中の連絡は、本人の状態確認と職場との関係維持を目的として行います。しかし、頻度や内容を誤ると、回復の妨げになることがあります。
絶対に避けるべきは「いつ戻れますか」という催促です。休職中の本人は「早く戻らなければ」というプレッシャーをすでに感じていることが多く、そこに職場から督促のような連絡が来ると、心理的負担が増大します。
連絡の内容は「体調はいかがですか」「何か困っていることはありますか」という安否確認とサポート確認を中心に据えましょう。傷病手当金の申請書類や診断書の手続きなど、事務的な連絡が必要な場合は、内容を明確にして簡潔に伝えます。
また、本人から「連絡がつらい」という申し出があった場合は、頻度を下げる柔軟な対応も必要です。回復の段階によって適切な関わり方は変化します。状態が安定してきた段階で、2週間に1回程度に連絡頻度を増やしていくといった段階的なアプローチが現実的です。
休職中のメンタルフォローに不安を感じている場合は、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も選択肢の一つです。専門のカウンセラーが従業員の相談に対応することで、人事担当者の負担を軽減しつつ、本人への適切なサポートを継続できます。
復職面談:「本人が希望すれば復職させてよい」は誤り
復職面談は、休職前面談と同様に重要です。多くの企業が陥りやすい誤解として、「本人が復職したいと言っているから」「主治医が復職可能と言っているから」という理由だけで復職を認めてしまうケースがあります。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰のプロセスを5つのステップに整理しています。主治医による復職可能の判断(ステップ2)はあくまで一つの判断材料に過ぎず、最終的な復職の決定(ステップ4)は事業者が行うものとされています。
主治医は日常生活が送れるかどうかの観点から診断しますが、職場での業務が遂行できるかどうかは別問題です。復職面談では以下の点を確認することが求められます。
復職面談で確認すべき主なポイント
- 睡眠の状態は安定しているか(毎日決まった時間に起床できているか)
- 通勤に相当する外出が継続してできているか
- 集中力・注意力が業務に必要なレベルまで回復しているか
- 休職の原因となった問題(ハラスメント・過重労働など)に対して職場側の対応ができているか
- 本人が「元の職場・業務に戻ることへの不安」を具体的に話せているか
- 復職後の業務内容・勤務時間・フォロー体制について本人と合意できるか
復職後の再休職を防ぐためには、「元通りの勤務に完全復帰」ではなく、最初は業務量を軽減した「試し出勤」から段階的に慣らしていく復職プラン(職場復帰支援プラン)を作成することが有効です。
面談記録の残し方と情報管理
面談を行っても記録が残っていなければ、後日トラブルが生じた際に対応が困難になります。また、担当者が変わった場合でも継続した支援を行うためには、適切な記録が欠かせません。
記録として残すべき事項
- 面談の日時・場所
- 参加者(面談者・本人の氏名)
- 本人から聴取した主な内容(状態・希望・不安など)
- 会社側が説明・伝達した事項
- その場で決定した事項(連絡頻度、窓口担当者、次回面談予定など)
- 今後の対応方針
記録は作成後に本人に内容を確認・共有することで、認識のずれを防ぐことができます。また、健康情報を含む記録は施錠できる場所や閲覧制限をかけたシステムで管理し、閲覧できる人間を業務上必要な最小限に絞ることが個人情報保護の観点から求められます。
実践ポイント:専門家不在の中小企業が今すぐできること
産業医の選任義務は常時50人以上の労働者を使用する事業場に課されており(労働安全衛生法)、50人未満の事業場は努力義務にとどまります。そのため、多くの中小企業では専門家がいない状態で対応せざるを得ないのが現実です。
そのような状況でも、以下の取り組みを実践することで、リスクを低減しながら本人を支援する体制を整えることができます。
- 就業規則の休職規定を整備する:休職制度は法律上の義務ではなく就業規則で定める任意制度です。規定がなければ対応の根拠がなくなります。
- 面談の流れをチェックリスト化する:面談前に確認事項を一覧化しておくことで、抜け漏れを防げます。
- 厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」を活用する:無料で入手できるガイドラインであり、復職支援の流れが5ステップで整理されています。
- 地域の産業保健総合支援センターを活用する:全国に設置されており、中小企業に対して産業保健の相談支援を無料で提供しています。
- 外部の産業医・EAPサービスを検討する:自社での対応に限界を感じる場合は、外部サービスの活用が現実的な選択肢です。
まとめ
休職前後の面談は、単なる手続きの場ではありません。本人の状態を正確に把握し、適切な支援につなげ、復職後の再発を防ぐための重要なプロセスです。
特に中小企業では、人事担当者や経営者が一人で多くの役割を担わなければならず、「何が正解か分からない」という状態で対応しているケースが多く見受けられます。しかし、基本的な姿勢として「支援の場であることを伝える」「まず傾聴する」「記録を残す」「専門家と連携する」という4点を守るだけでも、面談の質は大きく改善します。
法律上の安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たすためにも、そして何より従業員が安心して働ける職場をつくるためにも、休職前後の面談を「なんとなくこなす場」から「実効性のある支援の場」へと変えていくことが、経営者・人事担当者に求められる重要な責務といえます。
よくある質問
休職前面談では本人の病名を聞いてもよいですか?
病名の確認は必須ではなく、業務遂行能力や状態の把握を目的とした質問が基本です。健康情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当するため、取得する情報は業務上必要な最小限にとどめ、取得に際しては本人の同意を得ることが原則です。病名よりも「どのような状態が続いているか」「どのような支援が必要か」に焦点を当てた問いかけの方が、支援の場として適切です。
本人が面談を拒否する場合はどう対応すればよいですか?
「また説教される」「責められる」という不安から面談を拒否するケースがあります。この場合は、面談の目的が支援にあることをメール等の文書で事前に丁寧に伝えることが有効です。また、面談形式にこだわらず、電話やメールでのやりとりから始めるという柔軟な対応も選択肢の一つです。無理に出社を求めることは避け、本人のペースを尊重しながら関係を維持することを優先してください。
主治医が「復職可能」と診断書に書いていれば、そのまま復職させてよいですか?
主治医の診断はあくまで日常生活レベルでの回復を示すものであり、職場での業務遂行能力の回復を保証するものではありません。厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」でも、最終的な復職の可否判断は事業者が行うとされています。復職面談を通じて生活リズムの安定・通勤能力・集中力の回復状況などを確認した上で、段階的な復職プランを作成して判断することが望ましい対応です。









