「テレワーク導入で「労務管理どうする?」と悩む中小企業が最初に確認すべき7つのポイント」

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、多くの企業でテレワーク(在宅勤務・リモートワーク)が急速に普及しました。一時的な緊急措置として導入した企業も、今では恒常的な働き方として定着させているケースが少なくありません。しかし、導入からある程度の時間が経過した今もなお、「労働時間が正確に把握できない」「社員のメンタルヘルスが心配」「就業規則が実態に追いついていない」といった声が中小企業の経営者・人事担当者から多く聞かれます。

テレワークは従業員の生産性向上やワークライフバランスの改善に寄与する一方で、従来のオフィス勤務を前提とした労務管理の仕組みをそのまま適用することには無理があります。制度の整備が後手に回ると、残業代計算のトラブルや過重労働の見落とし、さらには社員の精神的健康の悪化といったリスクが顕在化しかねません。

本記事では、テレワーク時代における労務管理の主要課題を法的根拠とともに整理し、中小企業が今すぐ取り組める実践的な対策をわかりやすく解説します。

目次

テレワーク下での労働時間管理:見えないリスクにどう対処するか

テレワーク導入企業が最初に直面する課題が、労働時間の正確な把握です。オフィス勤務であれば、始業・終業時刻をタイムカードで記録し、管理職が直接確認できます。しかし在宅勤務では、始業と終業の境界が曖昧になりやすく、「なんとなく仕事を始めて、気づけば深夜まで働いていた」という状況が生まれやすくなります。

ここで重要なのが労働安全衛生法第66条の8の3の規定です。この条文は、使用者(企業)に対して、タイムカードやPCログ等の客観的な方法によって労働時間を把握する義務を課しています。2019年4月に施行されたこの規定では、一般従業員だけでなく管理監督者も把握義務の範囲に含まれることが明確化されました。なお、裁量労働制の対象者については、健康管理時間として把握する義務が別途設けられています。

また、テレワークに対して「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法第38条の2)を適用しようとする企業もありますが、注意が必要です。この制度は「労働時間の算定が困難な場合」に適用されるものですが、情報通信機器を使用者の指示によって常時通信可能な状態に置いている場合は適用できないと解釈されています。つまり、チャットやメールで随時指示を出している通常のテレワーク形態では、みなし制を適用することはほぼ難しく、実際の労働時間を記録・管理する義務が生じます。

さらに見落とされやすいのが、育児や介護による「中抜け時間」の扱いです。子どもの世話や家族の通院対応などで一時的に業務を中断するケースは在宅勤務ならではの状況であり、この時間を「休憩時間」として扱うのか、「時間単位の有給休暇」として処理するのかを、就業規則に明確に定めておくことが不可欠です。定めがないまま運用を続けると、後々の残業代計算や労使トラブルの原因になりかねません。

客観的な勤怠管理の仕組みを整える

労働時間管理の実務対策として、まず取り組むべきはIT勤怠管理ツールの導入です。PC操作ログを自動記録するシステムや、スマートフォンで打刻できるクラウド型の勤怠管理サービスを活用することで、客観的な記録が残ります。さらに、「業務終了後の連絡やメールへの対応を労働時間として扱うか否か」といった「つながらない権利」に関するルールも明確化し、就業規則または別途定めるテレワーク規程に盛り込むことを検討してください。

テレワーク規程の整備:制度の「抜け穴」をふさぐ

テレワークを導入しているにもかかわらず、就業規則がオフィス勤務を前提としたままになっている企業は、中小企業を中心に依然として多く存在します。口頭や慣習による運用は、トラブルが発生した際に会社側の主張の根拠が乏しくなるという大きなリスクをはらんでいます。

厚生労働省が2021年に改訂した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、費用や機器の負担に関する取り決めを書面化することを推奨しています。また、作業環境整備やメンタルヘルス対策における事業者責任も明記されており、規程の整備は法的な観点からも重要な経営課題です。

テレワーク規程に盛り込むべき主な事項

  • 適用対象者と対象業務の範囲:全社員が対象か、特定の部署・職種のみか
  • 始業・終業時刻の申告・記録方法:メール報告か、勤怠システムへの入力か
  • 中抜け時間の取り扱い:休憩時間として扱うか、時間単位有給休暇で処理するか
  • 費用負担の範囲と計算方法:通信費・光熱費の補助額と算定根拠
  • 情報セキュリティの遵守事項:使用可能なネットワーク、機器の管理方法
  • 作業場所の要件:自宅以外(カフェ・コワーキングスペース等)を認める場合のルール

費用負担については、国税庁が「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」において、通信費・電気料金の一部を会社が負担する場合の非課税計算方法を示しています。計算根拠なく一律に補助費を支給すると、給与として課税対象になるリスクがあるため、支給ルールは必ず根拠を整えた上で規程化しておきましょう。なお、具体的な税務上の取り扱いについては、税理士等の専門家にご相談ください。

テレワーク下のメンタルヘルス対策:「見えない不調」を見逃さないために

テレワークが長期化するにつれて顕在化してきた課題のひとつが、従業員のメンタルヘルスの悪化です。オフィスであれば、表情や様子から同僚や上司が不調に気づくことができますが、テレワーク環境ではその機会が著しく減少します。孤独感や仕事とプライベートの境界の曖昧さから、不調が深刻化するまで周囲に気づかれないケースも報告されています。

常時50人以上の労働者を使用する事業場ではストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10)の実施が義務付けられており、テレワーク勤務者も対象に含まれます。しかし、ストレスチェックの実施だけで不調を早期に発見することには限界があります。日常的なコミュニケーションの仕組みを制度として整えることが重要です。

テレワーク環境でできる不調の早期発見策

  • 1on1ミーティングの制度化:週1回程度、業務報告だけでなく体調や悩みを聴く場を設ける
  • 変化のサインへの注目:チャットの返信速度の低下、会議での発言減少、業務品質の変化などに気を配る
  • オンラインでのセルフケア研修:入社時や定期的なタイミングでメンタルヘルス教育を継続する
  • 相談しやすい体制の整備:産業医やEAP(従業員支援プログラム)とのオンライン相談窓口を設け、従業員が気軽にアクセスできるようにする

特に新入社員や若手社員は、OJT(職場内教育訓練)の機会が失われることで業務習得に遅れが生じやすく、孤立感を抱えるリスクが高い層です。入社直後からのフォロー体制を意識的に設計することが求められます。

産業医との連携やEAPの活用については、産業医サービスメンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討することで、専門家によるオンライン相談体制を比較的低コストで整備できる場合があります。テレワーク下では、従業員が「誰にも言えない」と感じやすいため、匿名で利用できる外部相談窓口の存在は特に効果的です。従業員の心身の健康に関する具体的な対応については、産業医等の専門家にご相談ください。

マネジメントと評価制度の見直し:成果で見る組織への転換

テレワーク導入によって多くの管理職が感じる不安のひとつが、「部下が本当に働いているかわからない」という感覚です。オフィスであれば、在席していることそのものが一定の安心感を生んでいましたが、テレワーク環境ではその視覚的な確認ができません。その結果、過度な監視ツールの導入やメッセージへの即時応答の強要など、かえって従業員の自律性や信頼感を損なう対応に走る企業も見られます。

本質的な解決策は、評価の軸を「行動・姿勢」から「成果・プロセス目標」へとシフトさせることです。MBO(目標管理制度)やOKR(目標と主要な結果指標)といったフレームワークを活用することで、従業員が何を達成すべきかを明確化し、管理職が「見ていないと評価できない」という状況を脱することができます。

管理職に求められる新しいマネジメントスキル

  • 目標の言語化と共有:期待する成果を具体的な言葉で伝え、合意形成する
  • プロセスの可視化:タスク管理ツール(Asana・Trello等)を活用して日次の進捗を共有する仕組みをつくる
  • 評価者訓練の実施:オフィスで長時間働いている人を高く評価する傾向(いわゆる「在席バイアス」)を除去し、成果に基づいた公正な評価スキルを習得させる
  • 心理的安全性の確保:失敗や相談をしやすい雰囲気をオンラインでも意識的につくる

こうしたマネジメントの転換は、テレワークの有無にかかわらず、組織全体の生産性向上につながる取り組みでもあります。管理職向けの研修や外部コンサルタントの活用も含めて、計画的に進めることをお勧めします。

今すぐ始める実践ポイント:優先順位を絞って着手する

テレワークの労務管理課題は多岐にわたるため、「何から手をつければよいかわからない」と感じる経営者・人事担当者も多いでしょう。以下に、優先度の高い取り組みを整理します。

  • 【最優先】勤怠管理ツールの導入:法律上の義務を果たすために、客観的な労働時間記録の仕組みを最初に整備する
  • 【次に取り組む】テレワーク規程の策定:既存の就業規則に別規程または付則として追加し、費用負担・セキュリティ・申請手続きを明文化する
  • 【並行して進める】1on1ミーティングの制度化:特別な予算がなくても今日から始められる、最もコストパフォーマンスが高いメンタルヘルス対策のひとつ
  • 【中期的に検討】評価制度の見直し:目標管理制度の導入と管理職研修をセットで計画する
  • 【専門家との連携】産業医・EAPの活用:内製で対応しきれない健康管理・相談対応は専門家に委ねることで、会社のリスクを下げる

中小企業では人事部門の人員が限られていることが多く、すべての課題を一度に解決しようとすると担当者の負担が過大になります。法律上の義務が明確なものから順に対応し、段階的に制度を整えていくアプローチが現実的です。

まとめ

テレワークは、適切な制度設計と運用の仕組みが整って初めて、企業と従業員の双方にメリットをもたらす働き方です。労働時間の把握義務、就業規則の整備、メンタルヘルス対策、評価制度の見直しは、いずれも「後回しにしてよい課題」ではなく、リスク管理の観点から早期に着手すべき経営課題です。

特に法律面では、知らないまま放置していると、残業代未払いや安全配慮義務違反として問題化するリスクがあります。自社の現状を客観的に点検し、社会保険労務士や弁護士などの専門家の力も借りながら、テレワーク時代にふさわしい労務管理体制を着実に構築していきましょう。

テレワーク導入時に就業規則は必ず変更が必要ですか?

テレワークを恒常的に実施する場合は、就業規則にその旨を規定するか、テレワーク規程を別途整備することが強く推奨されます。労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出義務を課しており、労働条件を変更する際には変更後の規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。10人未満の場合も、トラブル防止の観点から書面によるルールの明確化が重要です。具体的な手続きについては、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

テレワーク中の社員の過重労働はどのように防げばよいですか?

まず、PCログや勤怠管理ツールを活用して実際の労働時間を客観的に記録・確認する仕組みを整えることが基本です。その上で、時間外労働の上限に近づいている社員を自動でアラートするシステムの活用や、上長による定期的な勤務状況の確認を制度化することが有効です。また、業務終了後の連絡対応に関するルール(いわゆる「つながらない権利」の明確化)を設けることも、過重労働の予防につながります。

テレワーク中の社員のメンタルヘルス対策として、小規模な会社でも実施できることはありますか?

従業員数が少ない企業でも、週1回程度の1on1ミーティングの実施、業務報告にあわせた体調確認の習慣化、社内チャットでの気軽な雑談チャンネルの設置など、費用をかけずに始められる取り組みがあります。常時50人未満の事業場でストレスチェックの義務がない企業でも、外部のEAP(従業員支援プログラム)を導入することで、専門家によるオンライン相談窓口を設けることが可能です。詳しくはメンタルカウンセリング(EAP)のサービスもご参考ください。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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