「2025年義務化で何が変わる?中小企業が今すぐやるべき男性育休の実務対応と助成金活用術」

「うちの会社は人手が少ないから、男性社員に育休を取らせるのは難しい」——中小企業の経営者や人事担当者からよく聞かれる言葉です。しかし現実には、法改正によって企業側の義務はすでに始まっており、対応が遅れるほどリスクも高まっています。

2022年から段階的に施行されてきた育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得促進は企業規模を問わず取り組むべき課題となりました。さらに2025年には給付金の引き上げや公表義務の拡大など、制度はいまも動き続けています。「何から手をつければいいかわからない」という担当者のために、本記事では法律の要点から実務対応まで、順を追って解説します。

目次

まず整理しておきたい「育休制度の全体像」

育休制度を理解するうえで、まず混乱しやすい用語を整理しておきましょう。

産後パパ育休(出生時育児休業)とは、2022年10月に新設された制度です。子どもが生まれてから8週間以内に、最大4週間(28日)取得できます。2回に分けて取ることも可能で、労使協定(会社と従業員の間で結ぶ取り決め)を締結すれば、休業中に一部就労することもできます。申請は原則として休業の2週間前までに行えばよく、通常の育児休業よりも申請期限が短く設定されています。

通常の育児休業は、子どもが原則1歳になるまで取得できる制度で、2022年10月の改正により分割取得(2回)が可能になりました。申請は原則1ヶ月前までです。

つまり、男性が配偶者の出産後に休みを取る場合、出産直後の8週間以内であれば産後パパ育休を活用し、その後さらに通常の育児休業を取るという組み合わせも可能です。最大で合計4回に分けた取得ができるため、業務への影響を分散できるという側面もあります。

企業に課された義務の内容と対応期限

育児・介護休業法の改正は一度に行われたのではなく、段階的に施行されています。それぞれの義務内容と対象企業を確認しておきましょう。

2022年4月から全企業に課された義務

従業員数に関係なく、すべての企業に適用されている義務があります。

  • 育休を取得しやすい環境の整備:研修の実施、相談窓口の設置、取得事例の収集・提供、取得促進方針の周知などのうち、いずれかの措置を講じること
  • 個別周知・意向確認の実施:従業員本人または配偶者の妊娠・出産の申し出があった際に、育休制度の内容、給付金の仕組み、手続き方法、育休中と復職後の待遇について説明し、取得の意向を確認すること

この「個別周知・意向確認」の義務は、直接的な罰則規定こそありませんが、対応が不十分であれば行政の指導・勧告を受け、さらに企業名が公表される可能性があります。「手続きが面倒だから」「本人が断ったから」という理由で省略することはできません。

2025年4月から300人超の企業に拡大される義務

2023年4月からは従業員1,000人を超える企業に対して育休取得状況の公表が義務化されました。さらに2025年4月からは、従業員300人超の企業にも育休取得率の目標設定・状況把握・公表が義務付けられる予定です。現時点でこの規模に該当する企業は、早めに社内の取得実績を把握し、目標設定と公表に向けた準備を始める必要があります。

「今は300人以下だから関係ない」と感じる経営者もいるかもしれませんが、個別周知・意向確認の義務はすでにすべての企業に適用されています。従業員規模にかかわらず、最低限の対応は今すぐ必要です。

育児休業給付金の最新動向と社会保険料免除

「男性が育休を取ると収入が減って生活できないのでは」という不安を抱える従業員は少なくありません。制度の内容を正確に伝えることが、取得促進の第一歩となります。

育児休業給付金(雇用保険から支給)は、育休開始から180日間は休業前賃金の67%、181日以降は50%が支給されます。さらに、育休期間中は本人・会社ともに社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。手取りベースで考えると、実際の収入減少幅は額面の数字よりも小さくなります。

加えて、2025年度からは一定の条件を満たした場合に給付率が引き上げられる見通しです。両親がともに育休を取得するケースでは、育休開始後28日間を上限として、給付率が最大80%になる制度の導入が予定されています(施行時点での詳細は厚生労働省や社会保険労務士に確認することを推奨します)。

こうした給付内容を従業員に正確に伝えることは、前述の「個別周知」義務の一部でもあります。「会社として説明しなければならないこと」と「従業員が知ることで取得しやすくなること」が一致している点を意識してください。

中小企業が活用できる助成金制度

男性の育休取得に伴うコスト負担を軽減するための助成金制度が設けられています。代表的なものが両立支援等助成金(出生時両立支援コース)です。

この助成金は、男性社員が育休(産後パパ育休を含む)を取得した場合に支給されます。主な支給額の目安は以下の通りです(金額は改定される場合があります。申請前に必ず最新情報を確認してください)。

  • 第1号:連続5日以上の育休取得で20万円程度
  • 第2号:第1号取得後にさらに育休を取得した場合に20万円程度
  • 複数の男性社員が取得した場合には加算が設けられています

また、育休取得者の業務を代替する要員の確保や、代替業務を担う社員への手当支給に対して加算が受けられる業務代替支援加算もあります。「代替要員の確保コストが心配」という中小企業にとっては、活用を検討する価値のある制度です。

ただし、申請には就業規則の整備や書類の準備が必要です。育休が開始される前から準備を始めないと間に合わないケースがあります。支給申請の期限は育休終了日の翌日から原則2ヶ月以内であることが多く、書類が間に合わなかったというミスを防ぐためにも、社会保険労務士に早めに相談することを強くお勧めします。

よくある誤解と失敗を防ぐための実務ポイント

誤解1:「意向確認で取らないと言えば対応完了」ではない

個別周知・意向確認を行い、本人が「育休は取りません」と答えた場合でも、それで会社の義務がすべて果たされたわけではありません。その後、本人の気持ちが変わって取得を希望した場合にも、適切に対応できる体制を整えておく必要があります。意向確認の記録を保管しておくことはもちろん、「取らないと言ったのに今さら」といった対応は、育児・介護休業法上のハラスメント(パタニティハラスメント)に当たる可能性があります。

誤解2:「管理職が反対したら会社は責任を問われない」ではない

現場の管理職が「忙しい時期に取るな」と発言したり、暗黙のプレッシャーをかけたりした場合でも、企業としての責任を問われます。ハラスメント防止措置は会社の義務です。管理職向けの研修を実施し、育休取得を妨げる言動が許容されないことを組織として明確にしておく必要があります。

誤解3:「小規模だから制度整備は後回しでいい」ではない

前述のとおり、個別周知・意向確認の義務は全企業に適用されています。就業規則や育児休業規程が未整備のままでは、万が一従業員から育休申請があった際に対応できません。整備が遅れているうちに申請が来てしまうと、対応の遅延自体が法令違反につながる恐れがあります。

今日から始める実践ポイント

以下は、対応が十分でない企業がまず着手すべき事項のチェックリストです。優先順位をつけながら取り組んでみてください。

  • 就業規則・育児休業規程の確認と更新:2022年の法改正に対応した内容になっているか確認します。産後パパ育休(出生時育児休業)の規定が含まれているかを特にチェックしてください。
  • 個別周知・意向確認の手順書と書式の整備:妊娠・出産の報告を受けた際に誰がどのように対応するかを決め、記録書類のフォーマットを用意します。対応が属人化しないよう、担当者が変わっても同じ手順で動けるようにしておくことが大切です。
  • 管理職への研修の実施:育休制度の概要だけでなく、ハラスメントに当たる言動の具体例と、育休取得者の不在期間における業務分担の考え方を共有します。経営者自身が「男性の育休取得を歓迎する」というメッセージを発信することが、現場の意識を変えるうえで最も効果的です。
  • 業務の見える化と引き継ぎ体制の整備:育休取得の最大の障壁は「自分がいなくなると業務が止まる」という感覚です。業務マニュアルの整備や、特定の人だけが担っている仕事(属人化)の解消を進めることで、育休を取得しやすい土壌をつくります。
  • 助成金活用の検討と社会保険労務士への相談:利用できる助成金の確認と申請準備を育休開始前に行います。申請書類の種類や期限については、専門家に確認しながら進めることを強くお勧めします。
  • 社内への取得実績の共有:実際に育休を取得した社員の体験談を社内報やミーティングで紹介することで、「自分も取得していいのだ」という心理的ハードルを下げる効果があります。

まとめ

男性の育休取得促進は、「大企業だけの話」でも「余裕のある会社がやること」でもありません。2022年の法改正以降、全企業に個別周知・意向確認の義務が課せられており、対応を後回しにするリスクは確実に高まっています。

一方で、助成金制度や給付金の充実により、企業・従業員ともに以前より取り組みやすい環境も整いつつあります。「制度が複雑でわからない」「どこから手をつければいいか」と感じている場合は、社会保険労務士などの専門家に相談しながら、まず就業規則の確認と個別周知の仕組み作りから着手してみてください。

男性育休の取得が当たり前になる職場は、育てやすく働きやすい環境でもあります。採用競争が厳しさを増す中で、こうした取り組みは企業の魅力を高めるうえでも無視できない要素となってきています。

よくある質問

Q1: 人手不足の中小企業でも男性社員に育休を取得させなければならないのですか?

はい、2022年4月から従業員数に関係なくすべての企業に育休を取得しやすい環境整備と個別周知・意向確認の義務が課されています。対応が不十分だと行政指導や企業名公表のリスクがあるため、企業規模を問わず対応が必須です。

Q2: 男性が育休を取ると、給与がどのくらい減ってしまうのでしょうか?

育児休業給付金として開始から180日間は賃金の67%、181日以降は50%が支給され、さらに育休期間中は本人と会社の社会保険料が免除されます。そのため手取りベースでは、額面ほどの大幅な減収にはならないケースが多いです。2025年度からは両親がともに取得する場合、最初の28日間は最大80%の給付率になる予定です。

Q3: 従業員が育休取得を希望しない場合、説明や確認をスキップしても良いですか?

いいえ、「本人が断ったから」という理由での省略は認められません。個別周知・意向確認は企業に課された義務であり、これに対応しないと行政指導や勧告、企業名公表の対象になる可能性があります。

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