「ストレスチェックで高ストレス判定が出たら何をすべきか」産業医なしでも使える中小企業向け対応プロセス完全ガイド

「ストレスチェックを実施したら、高ストレスと判定された社員が出た。でも、次に何をすればいいのか正直わからない」——そう感じている人事担当者や経営者の方は、決して少なくありません。

ストレスチェック制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施が義務づけられています(労働安全衛生法第66条の10)。しかし、義務があることは知っていても、高ストレス判定が出た後の具体的な対応プロセスを体系的に理解している担当者は多くないのが実情です。

対応が遅れたり、誤った手順を踏んだりすると、社員のメンタルヘルス悪化を防げないだけでなく、法的リスクを抱える可能性もあります。一方で、正しいプロセスを踏めば、社員の健康を守りながら職場環境の改善にもつなげることができます。

本記事では、高ストレス判定が出た社員への対応をStep1からStep6まで順を追って解説します。産業医がいない中小企業での代替手段や、本人が面談を拒否した場合の対処法、個人情報の取り扱いルールなど、現場で迷いやすいポイントも丁寧にカバーします。ぜひ、社内の対応マニュアルづくりの参考にしてください。

目次

まず押さえておきたい「高ストレス判定」の仕組みと法律の基本

対応プロセスを理解する前に、高ストレス判定がどのような仕組みで行われるのかを整理しておきましょう。

ストレスチェックでは、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」という3つの領域を評価します。これらの結果をもとに、実施者(医師・保健師等)が高ストレス者を選定します。選定の目安は受検者の約10%とされており、誰が高ストレスかを判断するのは、人事や経営者ではなく実施者です。

ここで多くの担当者が混乱するのが、「事業者は個人の結果を見てはいけない」というルールです。労働安全衛生法では、本人の同意なしに高ストレス判定の結果を事業者が取得することを禁止しています。部署別の集団分析結果は事業者が受け取ることができますが、あくまで個人情報の保護が大前提です。

また、面接指導を受けたことを理由とした不利益取扱いも法律で禁止されています。降格・減給・解雇はもちろん、不当な配置転換なども許されません。この点を社内で徹底しておくことが、社員が安心して面談を申し出られる環境づくりの第一歩です。

Step1〜2:高ストレス者への通知と面接指導の申出受付

Step1:通知は「実施者」が行う

高ストレスと判定された社員への通知は、実施者(医師・保健師等)または実施事務従事者が直接行います。事業者(会社)が通知するわけではありません。通知には、①高ストレスと判定されたこと、②面接指導を申し出る権利があること、の2点が含まれます。

通知方法は書面やメール等が一般的ですが、重要なのは事業者を経由しないことが原則という点です。なぜなら、結果の通知ルートに会社が介在することで、本人が「上司に知られてしまうかもしれない」と不安を感じ、面談申し出を躊躇してしまう可能性があるからです。

Step2:申出受付の仕組みを整える

通知を受けた社員が面接指導を希望する場合、事業者(または窓口担当者)に申し出ます。申出の期限はストレスチェック結果の通知後おおむね1ヶ月以内が目安とされており、この期限を社内規程に明記しておくことが望まれます。

担当窓口は人事部門や産業保健スタッフが担うことが多いですが、「申し出やすい雰囲気・仕組み」をつくることが極めて重要です。たとえば、上司を通さず直接人事に連絡できる仕組みや、オンラインフォームによる申請などを整備することで、申出のハードルを下げることができます。

本人が申し出をしない場合、事業者は高ストレスという個人の判定結果を知ることができません。ただし、努力義務として保健師等による相談勧奨を行うことは認められています。これは「申し出てほしい」と働きかけることであり、強制ではありません。

Step3〜4:面接指導の実施と医師からの意見聴取

Step3:面接指導は「医師」が実施する

本人から申し出があった場合、事業者は申出後おおむね1ヶ月以内に面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の10第3項)。実施者は医師でなければならず、産業医がいる場合は産業医が担当するのが理想的です。

面接指導では、以下の3点を中心に確認が行われます。

  • 勤務の状況(労働時間・業務内容・職場環境など)
  • 心理的な負担の状況(ストレスの内容・程度など)
  • その他の心身の状況(睡眠・食欲・体調など)

面談時間の目安は30分〜1時間程度です。面談を実施する前に、「話した内容は秘密が守られる」という秘密保持の説明を本人に行うことが、安心感を高めて本音を引き出す上でとても重要です。

産業医がいない場合はどうする?

常時50人未満の事業場では産業医の選任義務がなく、「誰に面接指導を頼めばいいのかわからない」という声をよく聞きます。この場合に活用できる選択肢として、地域産業保健センター(地産保)があります。

地域産業保健センターは、都道府県の産業保健総合支援センターが設置している機関で、50人未満の小規模事業場を対象に、医師による面接指導などを無料または低コストで提供しています。費用や人員に制約のある中小企業にとって、ぜひ知っておきたいリソースです。

また、産業医サービスを外部委託する方法もあります。近年はオンラインで産業医面談を実施できるサービスも増えており、地理的な制約を受けずに専門家のサポートを受けられる環境が整ってきています。

Step4:医師からの意見聴取

面接指導が終わったら、医師から事業者に対して就業上の措置に関する意見が提出されます。書面での提出が推奨されており、主な内容は以下のとおりです。

  • 就業区分の判定(通常勤務可/就業制限が必要/要休業など)
  • 職場環境の改善提案(業務量の軽減・配置転換など)
  • 経過観察の必要性の有無

事業者はこの医師意見を尊重する義務がありますが、最終的な措置の決定は事業者が行います。医師の意見を無視して何も対応しないことは、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に問われるリスクがあるため、意見を軽視しないようにしましょう。

Step5:就業上の措置の実施——本人・上司・人事の連携が鍵

医師の意見をもとに、具体的な就業上の措置を決定・実施するのがStep5です。このステップで最も重要なのが、本人の意向を必ず確認するという点です。本人抜きで上司と人事だけが対応を決めてしまうと、「自分のことを勝手に決められた」という不信感を生み、かえって状態を悪化させることがあります。

措置の例としては以下が挙げられます。

  • 時間外労働・深夜業の制限または免除
  • 出張や転勤の一時的な免除
  • 業務内容・業務量の軽減
  • 配置転換・部署異動
  • 休業・休職の勧奨

措置を決定したら、内容と期間を書面で明確にし、定期的に見直す仕組みを設けることが重要です。「とりあえず残業を減らした」で終わらせず、いつ、どのような基準で見直すのかをあらかじめ決めておきましょう。

ハラスメントや人間関係が原因でストレスが高まっている場合は、上司や同僚との調整が必要になることもあります。この際、当事者の上司が介入すること自体が本人の負担になる可能性があるため、人事部門が主導して対応するのが基本です。

Step6:フォローアップと職場環境改善——対応はここで終わらない

定期的な状態確認を続ける

就業上の措置を実施した後も、1〜3ヶ月に一度を目安に定期的な面談や状態確認を行うことが求められます。「一度対応したら終わり」と考えてしまいがちですが、ストレスの根本原因が解消されなければ状態は改善しません。フォローアップを通じて、措置の効果を継続的に評価していくことが不可欠です。

改善が見られない場合や症状が悪化している場合は、医療機関への受診勧奨や、休職を含む追加措置の検討が必要になります。社員が一人で抱え込まないよう、相談窓口を明示することも大切です。社外の専門家によるカウンセリングを提供するメンタルカウンセリング(EAP)の導入も、継続支援の有効な手段として検討する価値があります。

集団分析を職場環境改善につなげる

個人の高ストレス対応と並行して、集団分析(部署・チーム単位の分析)の結果を活用した職場環境改善にも取り組みましょう。集団分析は事業者が受け取ることができるデータであり、特定の部署に高ストレス者が集中している場合は、職場環境そのものに問題がある可能性を示しています。

業務の偏り、コミュニケーションの不足、管理職のマネジメントスタイルなど、組織的な課題を発見して改善する機会として捉えることが、ストレスチェック制度の本来の目的にも沿っています。

本人が面談を拒否した場合はどうすべきか

「高ストレスの通知を受けたが、面談は受けたくない」という社員への対応に悩む担当者も多いでしょう。法律上、本人が希望しない面接指導を強制することはできません。一方で、事業者として何もしないことも安全配慮義務の観点からリスクがあります。

この場合の対応として現実的なのは、①保健師等による非公式な相談を勧奨する、②本人のプライバシーを尊重しながら「何かあれば相談できる」という窓口の存在を繰り返し伝える、という2点です。強制ではなく、「申し出やすい関係性と仕組みを維持し続ける」ことが重要です。

実践ポイント:中小企業がすぐに整備すべき3つのこと

以上の対応プロセスを踏まえ、人員やコストの制約がある中小企業が優先的に整備すべき実践ポイントをまとめます。

  • 対応フローを文書化する:「高ストレス判定が出たら誰が何をするか」を社内規程またはマニュアルとして明文化しておく。担当者が変わっても同じ対応ができるようにする。
  • 相談窓口と秘密保持ルールを周知する:社員が「誰に相談すればいいか」「情報はどこまで守られるか」を事前に知っていることで、面談申出のハードルが下がる。
  • 産業医または外部相談先を確保しておく:産業医がいない場合は、地域産業保健センターや外部の産業医サービスとあらかじめ連携しておく。「高ストレス者が出てから探す」では遅い。

記録・書類管理も忘れずに行いましょう。面接指導の実施記録は5年間の保存が義務づけられています(労働安全衛生規則第52条の18)。誰がいつ面談を実施し、どのような意見が出されたかを記録しておくことは、万が一のトラブル時の備えにもなります。

まとめ

ストレスチェックで高ストレス判定が出た社員への対応は、通知→申出受付→面接指導→意見聴取→就業措置→フォローアップという6つのステップで構成されます。それぞれのステップで「誰が」「何を」「いつまでに」行うのかを明確にしておくことが、適切な対応の第一歩です。

「余計なお世話では」という躊躇や、「産業医がいないから難しい」という諦めは、早期対応の機会を逃す原因になります。地域産業保健センターや外部の専門サービスを活用しながら、できる範囲から仕組みを整えていきましょう。

社員のメンタルヘルスを守ることは、人道的な観点だけでなく、生産性の維持や離職防止、そして法的リスクの回避という経営上の課題でもあります。ストレスチェックの結果を「実施して終わり」にせず、職場改善のきっかけとして積極的に活用していただければ幸いです。

よくある質問

高ストレス判定の結果を上司に伝えてもよいですか?

本人の同意なしに個人のストレスチェック結果を上司に伝えることは、法律上禁止されています。個人の判定結果は本人に帰属するものであり、事業者(人事・上司)が本人の許可なく取得・共有することはできません。ただし、本人が「上司にも伝えてほしい」と同意した場合はこの限りではありません。

産業医がいない場合、面接指導はどうすればよいですか?

産業医がいない50人未満の事業場では、地域産業保健センター(地産保)を通じて無料または低コストで医師による面接指導を受けられます。また、外部の産業医サービスやオンライン産業医サービスを契約する方法もあります。「高ストレス者が出てから探す」のではなく、あらかじめ相談先を確保しておくことが重要です。

本人が面接指導を拒否した場合、会社として何ができますか?

法律上、面接指導を本人の意思に反して強制することはできません。ただし、努力義務として保健師等による相談勧奨を行うことは認められています。また、社内相談窓口や外部EAPの存在を繰り返し周知し、いつでも相談できる環境を整えておくことが、会社としてできる重要な対応です。

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