従業員が突然「親の介護が必要になった」と申し出てきたとき、あなたの会社はすぐに対応できますか。介護休暇制度の存在は知っていても、社内規定が整備されていなかったり、申請を受けた担当者が手続きを把握していなかったりするケースは、中小企業を中心に少なくありません。
日本では少子高齢化が加速しており、働きながら家族の介護を担う「ビジネスケアラー」(仕事と介護を両立する労働者)は年々増加しています。経済産業省の試算では、介護離職による経済損失は年間約9.2兆円にのぼるとも言われており、企業にとっても人材の流出防止という観点から、介護支援制度の整備は急務の課題です。
本記事では、育児・介護休業法の規定内容から社内規程の整備方法、申請対応の具体的な手順まで、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
介護休暇と介護休業の違いを正確に理解する
まず、多くの担当者が混同しやすい「介護休暇」と「介護休業」の違いを整理します。この2つは同じ育児・介護休業法に基づく制度ですが、目的・取得方法・日数が大きく異なります。
介護休暇とは
介護休暇は、要介護状態(負傷・疾病・身体上または精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態)にある家族を介護するために取得できる短期の休暇制度です。
- 取得日数:対象家族が1人の場合は年間5日、2人以上の場合は年間10日
- 取得単位:1日または半日単位(2025年4月の法改正により、時間単位取得が義務化される予定)
- 主な用途:通院の付き添い、役所への手続き、ケアマネージャーとの面談など、短時間の介護対応
介護休業とは
介護休業は、より長期にわたって介護が必要な状況に対応するための制度です。
- 取得日数:対象家族1人につき通算93日
- 分割取得:3回まで分割して取得可能(2017年改正により可能になりました)
- 主な用途:介護体制が整うまでの間、職場を離れて家族の介護に専念する期間
簡単にまとめると、介護休暇は「日常的な介護対応のための短期休暇」、介護休業は「介護体制を整えるための中長期の休業」という位置づけです。両方の制度を社内規程に明記し、用途に応じて使い分けられる環境を整えることが重要です。
対象家族と対象労働者の範囲
対象家族の範囲は、配偶者(事実婚を含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫です。同居・扶養の有無は問いません。
対象労働者については、日雇い労働者を除くすべての労働者が対象です。パートタイム・有期契約・派遣社員も原則として取得できます。なお、労使協定(労働者と会社が締結する協定)を締結することで、勤続6ヵ月未満の労働者を適用除外とすることは可能です。
「正社員しか取得できない」という誤解は管理職を中心に根強く残っていますが、これは明確な誤りです。パート社員から申請があった場合も、適切に対応する必要があります。
中小企業に多い制度整備の落とし穴と誤解
社内規程や運用体制が不十分な中小企業では、次のような誤解や失敗が起こりがちです。あらかじめ把握しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
よくある誤解
- 「介護保険の要介護認定がないと取得できない」:法律上の要件は「常時介護を必要とする状態」であることであり、介護保険の認定とは連動していません。認定を受けていなくても、医師の診断書や実態確認で要件を満たすと判断できれば取得可能です。
- 「会社が認めなければ取得させなくてよい」:法定の要件を満たした申出があった場合、会社は拒否できません。正当な理由なく申請を却下すると、法令違反となります。
- 「介護休業は1回しか取れない」:2017年の法改正以降、対象家族1人につき3回まで分割取得が可能です。
実務上の失敗例
- 規程は整備したが管理職への周知が不十分で、申出時に現場が対応できなかった
- 介護休暇取得後に本人の評価を下げてしまい、不利益取扱いとして問題になった
- 申請書のひな形がなく、書類不備のまま口頭だけで処理し、後日トラブルが発生した
- 業務引継ぎの仕組みがなく、取得者と残ったメンバーの双方に負担が集中した
特に不利益取扱いの禁止については、管理職が認識していないケースが目立ちます。降格・減給・解雇はもちろん、「介護休暇を取ったせいで評価を下げる」という行為も禁止されています。また、介護に関する申出を理由に嫌がらせをする「ケアハラスメント(介護ハラスメント)」の防止策も、会社として講じる義務があります。
社内規程の整備と就業規則への記載方法
介護休暇・介護休業の制度を実際に機能させるためには、就業規則や育児介護休業規程への明文化が不可欠です。規程がなければ、申請を受けた担当者が対応に迷い、従業員も「本当に取得できるのか」と不安を抱えることになります。
規程に盛り込むべき主な項目
- 対象者の範囲:パート・有期社員を含む場合はその旨を明記。除外する場合は労使協定の締結が必要
- 対象家族の定義:法令に基づく範囲を明記
- 要介護状態の定義:「2週間以上常時介護を必要とする状態」であることを記載し、介護保険の認定と連動しない旨も補足
- 取得単位:1日・半日・時間単位の可否(2025年4月以降は時間単位取得への対応も必要)
- 有給・無給の取扱い:法律は無給でも可としていますが、有給とする企業も増えています。自社の方針を明確に記載
- 申請手続きと期限:口頭申請でも法的には受け付ける必要がありますが、書面での申請を原則とするフローを整備しておくと管理しやすくなります
- 不利益取扱いの禁止:規程内に明記することで、管理職への牽制にもなります
規程の作成・見直しに際しては、社会保険労務士(社労士)への相談を推奨します。法改正への対応漏れや、自社の雇用形態に合わない記載を防ぐためにも、専門家の確認を経た上で整備することが確実です。
申請から職場復帰までの対応手順
制度を整備するだけでなく、実際に申請があったときの対応フローを事前に決めておくことが重要です。フローが明確でないと、担当者ごとに対応がバラバラになり、取得者への不公平感や業務上の混乱を招きます。
推奨する対応フロー
- ステップ1:本人からの申出(書面化)
口頭での申出を受けたら、速やかに申請書への記入を促します。書式のひな形を人事部門で用意しておき、いつでも提供できるようにしておきましょう。 - ステップ2:要介護状態の確認
診断書や介護認定書があれば参考資料として収集します。ただし、これらが揃っていなくても、申出を拒否することはできません。 - ステップ3:人事部門への報告・記録
取得日数・残日数の管理台帳を整備し、記録を残します。後日のトラブル防止にも有効です。 - ステップ4:業務引継ぎ計画の策定
上司・本人・人事の三者で調整を行います。代替要員の確保が難しい中小企業では、業務の一時的な再分担や外部リソースの活用も検討します。 - ステップ5:取得期間中のフォロー
取得者が孤立しないよう、定期的な情報共有や連絡体制を維持します。ただし、介護状況への過度な介入はプライバシーの侵害となる場合があるため注意が必要です。 - ステップ6:職場復帰後のフォローアップ面談
復帰後も介護状況は変化します。定期的に状況を確認し、必要に応じて所定労働時間の短縮やテレワーク等の追加措置を検討します。
従業員が一人で抱え込まないよう、社内に相談窓口を設けることも効果的です。外部の専門機関として、メンタルカウンセリング(EAP)を導入することで、介護に伴う精神的な負担を早期にケアする体制が整います。介護と仕事の両立に悩む従業員が、安心して相談できる環境を提供することは、離職防止にも大きく寄与します。
2025年法改正と助成金の活用で制度整備をさらに前進させる
2025年改正の主なポイント
2025年4月には育児・介護休業法の改正が施行される予定であり、中小企業にとっても対応が求められる変更が含まれています。
- 介護休暇の時間単位取得の義務化:現在は努力義務とされている時間単位での取得が、義務として明文化される予定です。規程への反映と勤怠管理システムの対応が必要になります。
- 個別周知・意向確認の義務化:従業員が40歳に達した時点等を目安に、介護に関する制度の個別周知と意向確認を行うことが義務化される予定です。これにより、制度を知らないまま介護離職してしまうケースの防止が期待されています。
- テレワーク等の措置の拡充:介護中の従業員に対するテレワーク活用が、努力義務としてさらに強調される方向で検討されています。
改正の施行に先立ち、自社の規程とフローを見直しておくことが重要です。
活用できる助成金
介護支援制度を整備する際に活用できる助成金として、両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)があります。これは、介護支援プランの策定・実施に取り組んだ企業に対して支給される助成金です。介護休業の取得実績や職場環境整備の取組みによって、支給額が変わります。
申請にあたっては、要件や期限を事前に管轄の労働局または社労士に確認することを強くお勧めします。要件を満たしているにもかかわらず申請漏れとなるケースも多いため、制度整備と並行して助成金の活用を検討する習慣をつけておくとよいでしょう。
実践ポイント:今すぐできる整備ステップ
最後に、これから制度整備に着手する中小企業の担当者に向けて、優先順位の高い実践ポイントをまとめます。
- 就業規則・育児介護休業規程の確認と更新:介護休暇・介護休業の両方が記載されているか確認し、2025年改正を踏まえた内容に更新する
- 申請書ひな形と対応マニュアルの作成:担当者が変わっても同じ対応ができるよう、フローとひな形を文書化しておく
- 管理職への研修・周知:不利益取扱いの禁止・ケアハラスメント防止・申出を拒否できないことを管理職全員に周知する
- 個別周知の仕組みの構築:40歳前後の従業員に対して介護制度を案内する仕組みを作る(面談・配布資料・社内ポータルへの掲載等)
- 相談窓口の整備:社内窓口の設置のほか、外部の産業医サービスを活用して、健康管理と労務管理を連携させる体制を整える
- 助成金の申請検討:制度整備のタイミングで両立支援等助成金の要件を確認し、該当する場合は申請準備を進める
まとめ
介護休暇制度の整備は、従業員が安心して働き続けるための基盤であると同時に、企業が貴重な人材を失わないための重要な施策です。「制度があるから大丈夫」ではなく、実際に機能するフローと規程が整備されて初めて制度として成立します。
法律の要件を正確に理解し、社内規程への明文化・管理職への周知・申請フローの整備・復帰後のフォローという一連の流れを構築することが、介護離職を防ぐための確実な第一歩です。2025年の法改正に向けた対応と合わせて、今のうちに自社の体制を見直してみてください。
よくある質問
介護保険の要介護認定を受けていない場合でも、介護休暇を取得できますか?
はい、取得可能です。育児・介護休業法における要介護状態の定義は「2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態」であり、介護保険の要介護認定とは連動していません。医師の診断書や実態に基づいて要件を満たすと判断できれば、認定を受けていなくても申請できます。
パートタイムや有期契約の従業員も介護休暇を取得できますか?
はい、原則として取得できます。日雇い労働者を除くすべての労働者が対象です。ただし、労使協定を締結することで、勤続6ヵ月未満の労働者を適用除外とすることは可能です。正社員のみを対象とした運用は法令違反となる可能性があるため注意が必要です。
介護休暇の取得申出を会社側が拒否することはできますか?
法定の要件を満たした申出があった場合、会社はこれを拒否することができません。正当な理由なく申請を却下すると育児・介護休業法違反となります。また、申出を理由とした不利益取扱い(降格・減給・評価の引き下げ等)も禁止されています。
介護休暇の取得中は給与を支払う必要がありますか?
法律上は無給でも問題ありません。ただし、有給とする企業も増えており、自社の就業規則・育児介護休業規程に有給・無給の取扱いを明記しておく必要があります。規程が不明確なままだと、取得者との間でトラブルになる可能性があるため、早めに明文化することをお勧めします。
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