「なぜ辞めた?」を聞けない会社が損をする─退職者の離職理由分析と定着率を上げる5つの改善策

「なぜ辞めてしまったのか、本当の理由が分からない」——人事担当者や経営者からよく聞かれる言葉です。採用に数十万円から数百万円のコストをかけ、育成に時間を投じた人材が、理由も分からないまま会社を去っていく。この繰り返しが続けば、組織の体力は徐々に失われていきます。

厚生労働省の調査によると、中小企業における若手(入社3年以内)の離職率は業種によって30〜40%を超える場合もあります。しかし多くの中小企業では、退職者の離職理由を体系的に記録・分析する仕組みがなく、対策も場当たり的になりがちです。

この記事では、退職者の離職理由を正しく把握し、職場改善につなげるための実践的な方法を、法律的な観点も含めて解説します。「うちには専任の人事がいない」「データを集めたことがない」という企業でも、今日から取り組める内容を中心にまとめました。

目次

なぜ退職の「本音」は聞けないのか——離職理由分析の落とし穴

退職者へのアンケートや面談を実施しても、「一身上の都合」「家庭の事情」「キャリアアップのため」といった表面的な回答しか得られないケースが少なくありません。これは退職者が嘘をついているわけではなく、本音を語れる環境が整っていないことが主な原因です。

よくある失敗パターンとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 直属の上司が退職面談を担当するため、不満を言いにくい
  • 退職の意思を告げた後すぐに面談が行われ、退職者がすでに「次のステップ」に気持ちが向いている
  • 「何が嫌だったか」という詰問式の質問が、退職者を防衛的にさせる
  • 退職理由を記録する書式がなく、担当者の印象でしか残らない

もう一つの問題は、経営者や幹部が「あの人は特殊なケース」と個別事例として処理してしまうことです。1件の退職は偶然かもしれませんが、同じ部署から3人が半年以内に辞めていれば、それはもはや偶然ではなく組織の構造的な課題である可能性が高いといえます。感情や主観で判断するのではなく、データとして可視化することが第一歩です。

離職理由分析の基本——正しい「出口調査」の設計方法

退職者へのヒアリングは、「出口調査(Exit Interview)」とも呼ばれます。正しく設計すれば、組織改善のための貴重な情報源になります。

実施のタイミングと担当者

退職の意思が固まった直後ではなく、退職日の1〜2週間前が適切なタイミングです。感情が落ち着き、かつ在職中であるため協力を得やすい時期です。

担当者については、直属の上司以外が実施することが原則です。上司への不満が退職理由の一つである場合、当事者が面談担当では本音を引き出せません。人事担当者、または社長・役員など別のラインの人物が適しています。専任の人事がいない企業では、外部の専門機関や社労士に委託する方法も有効です。

効果的な質問の設計

「何が不満でしたか」という直接的な問いは防衛的な回答を招きやすいため、「もし○○が変わっていれば、続けて働いていましたか」という逆算式の問いが効果的です。退職者が「変えてほしかったこと」を自然に語れるよう誘導します。

具体的な質問例としては、以下が参考になります。

  • 入社前と後で、会社に対するイメージに違いはありましたか
  • 仕事のやりがいや成長の機会についてはどう感じていましたか
  • 職場の人間関係や上司との関係はいかがでしたか
  • 給与・待遇面について、率直な感想をお聞かせください
  • 次のステップとして、どのような環境を求めていますか

離職理由の分類と記録の仕組み

収集した情報は、以下のような分類軸で整理すると傾向が見えやすくなります。

  • PUSH要因(会社への不満):給与・労働時間・人間関係・上司の言動・キャリア機会の欠如など
  • PULL要因(外部への魅力):他社のオファー・転居・家庭の事情・独立・学業への復帰など

PUSH要因は会社が改善できる課題ですが、PULL要因は必ずしも会社の問題ではありません。この区別ができていないと、対策の方向性がずれてしまいます。また、離職理由のヒアリング内容は個人情報保護法に基づき適切に管理する義務があります。記録は担当者のみが参照できる形で保管し、不要になった時点で適切に廃棄する手順も定めておきましょう。

離職率の正しい計算と業種別の目安

自社の状況を客観的に把握するために、まず離職率を正確に算出しましょう。

離職率(年間)の計算式は以下のとおりです。

離職率 =(年間退職者数 ÷ 期初従業員数)× 100

たとえば、期初に50人いた会社で1年間に8人退職した場合、離職率は16%になります。

この数字を全体だけでなく、部署別・勤続年数別・年齢層別に分解することが重要です。全体の離職率が10%でも、特定の部署だけで30%の離職が起きている場合、その部署特有の問題がある可能性が高いです。

厚生労働省が毎年発表する「雇用動向調査」によると、産業全体の年間離職率はおおむね15%前後で推移しています。ただし業種によって大きく異なり、宿泊・飲食サービス業や医療・福祉分野では相対的に離職率が高い傾向があります。自社の数字をこうした業種平均と比較することで、「高止まりしているのか、平均的なのか」を判断できます。

特に注目すべき指標は、入社1年以内の早期離職率です。この数字が高い場合、採用段階でのミスマッチや、入社後のオンボーディング(新入社員への定着支援)に問題がある可能性を示しています。採用コストを回収するどころか、育成コストまで失う最も損失が大きいパターンです。

離職の主な原因別——具体的な改善策

給与・待遇への不満

「給与が低い」は最も多い離職理由の一つです。ただし「上げれば解決する」というほど単純ではなく、評価・昇給のルールが不透明なことへの不満が本質にある場合も多くあります。

まず実施すべきは、同業他社・地域相場との給与比較です。ハローワークの求人票や厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを活用し、自社の水準が市場と比べてどの位置にあるかを把握します。その上で、賞与・昇給の基準を明文化し、社員に開示することが重要です。「頑張れば上がる」という曖昧な基準では、社員は将来の見通しを持てず、不安から転職を考えるようになります。

長時間労働・休暇が取りにくい環境

労働基準法に基づく時間外労働の上限規制(いわゆる36協定の適正運用)は、法的義務であると同時に離職防止の観点からも重要です。時間外労働が慢性化している職場では、心身の疲弊から退職を考える社員が増えます。

業務の効率化や人員配置の見直し、有給休暇の取得促進など、すぐに取り組める施策から始めましょう。メンタルカウンセリング(EAP)を導入することで、過重労働による心理的負担を早期に把握・ケアできる体制を整えることも効果的です。

職場の人間関係・ハラスメント

職場の人間関係の悪化や上司によるハラスメントは、深刻な離職原因です。2022年4月からは、パワーハラスメント防止措置が中小企業においても義務化されています(労働施策総合推進法第30条の2)。相談窓口の設置や防止方針の策定は、法令対応として必須です。

ここで注意すべき法的リスクがあります。パワハラや長時間労働、賃金未払い等が原因で退職した場合、たとえ本人が「自己都合」で退職届を出していても、ハローワークの調査で「会社都合(特定受給資格者)」と認定される可能性があります。そうなると、雇用保険の離職票における離職理由の記載が訂正され、企業は不適切な記載をしたとして信用リスクを負うことになります。離職票の離職理由は正確に記載することが求められます。

キャリア・成長機会の不足

特に若手・中堅社員に多い離職理由が、「この会社にいてもキャリアが見えない」という閉塞感です。改善策として有効なのが、月1回程度の1on1ミーティングの定期実施です。評価や業務報告ではなく、本人のキャリア志向や現在の悩みを聞く場として機能させることがポイントです。

加えて、キャリアパスや等級制度を文書化して社員に示すこと、資格取得支援や社外研修費用の補助制度を設けることも、長期的な定着に寄与します。

退職が起きる前に手を打つ——エンゲージメントサーベイの活用

退職意思が固まってからの引き留めは、ほぼ不可能です。大切なのは、離職の予兆を在職中に察知し、先手を打つことです。そのための有効なツールが、エンゲージメントサーベイ(従業員の仕事への主体的な関与度・満足度を定期的に測る調査)です。

「中小企業には難しい」と思われがちですが、現在は低コストで導入できるクラウド型のサービスが多数あります。四半期に1回、10項目程度の簡易アンケートから始めるだけでも、職場の変化を定点観測できます。

エンゲージメントサーベイの結果を退職者データと照らし合わせることで、「エンゲージメントが低下した半年後に離職者が増えている」といった相関関係が見えてくることがあります。こうした分析ができるようになると、人材マネジメントが後手から先手に転換します。

また、メンタルヘルスの不調が離職の一因になっているケースも少なくありません。産業医サービスを活用して、定期的な職場環境のチェックや従業員面談を実施することで、個人の不調を早期に発見し、離職につながる前に対処できる体制を整えることが可能です。

実践ポイント——今日から始められる5つのアクション

「やるべきことは分かったが、何から手をつけていいか分からない」という方のために、優先度が高い取り組みを整理します。

  • ①過去の退職者データを集計する:直近2〜3年の退職者について、部署・勤続年数・年齢・退職理由(分かる範囲で)を一覧化し、離職率を計算する
  • ②出口調査の書式を1枚作成する:次の退職者が出た際にすぐ使えるよう、ヒアリング用のフォーマットを今のうちに準備する
  • ③担当者と面談場所を決める:直属上司以外の担当者を決め、プライバシーが守られる場所を確保する
  • ④エンゲージメントサーベイを試験導入する:無料または低価格のツールで、まず1回実施してみる
  • パワハラ相談窓口を設置する:法的義務を果たすとともに、ハラスメントを原因とする離職リスクを低減する

すべてを一度に実施する必要はありません。まず自社の離職率と離職理由を「見える化」するところから始めることが最も重要です。データがなければ、改善策の方向性も定まりません。

まとめ

退職者の離職理由分析は、単なる「なぜ辞めたか」の確認作業ではありません。組織の構造的な課題を発見し、次の離職を防ぐための経営情報です。

中小企業では専任の人事担当者がいないケースも多く、退職対応が後手に回りがちです。しかし、出口調査の設計・離職率の定点観測・エンゲージメントサーベイの導入といった仕組みは、決して大企業だけのものではありません。小さくても継続できる仕組みを作ることが、採用コストの無駄遣いを防ぎ、職場の安定につながります。

また、パワーハラスメント防止措置の義務化や離職票の離職理由記載といった法的な観点も、経営者・人事担当者として必ず押さえておく必要があります。法令を正しく理解した上で、社員が安心して働き続けられる環境を整えることが、結果として最も効果的な定着率向上策といえるでしょう。

よくある質問

退職者ヒアリングで本音を引き出すコツはありますか?

最も効果的なのは、直属の上司以外の第三者が担当し、退職日の1〜2週間前という落ち着いたタイミングで実施することです。また「何が嫌だったか」という詰問型ではなく、「もし○○が変わっていれば残っていましたか」という逆算式の問いかけを使うと、退職者が自然に本音を語りやすくなります。匿名のアンケートと組み合わせる方法も有効です。

離職率は何%以下であれば問題ないのでしょうか?

業種によって大きく異なるため、一概に「○%以下なら問題ない」とは言えません。厚生労働省の雇用動向調査では産業全体の年間離職率はおおむね15%前後ですが、飲食・宿泊業や介護業界ではこれを大きく上回ることもあります。重要なのは自社の数字を業種平均と比較しつつ、前年比での変化を継続的にモニタリングすることです。特に入社1年以内の早期離職率は重点的に管理することをおすすめします。

パワハラが原因で退職した場合、離職票の離職理由はどう記載すればよいですか?

パワーハラスメントや長時間労働、賃金未払いなどが退職の主因である場合、たとえ退職者が「自己都合」で退職届を提出していても、ハローワークの審査で「会社都合(特定受給資格者)」と認定される可能性があります。事実と異なる理由で「自己都合」と記載することはリスクを伴います。正確な事実関係を記載することが原則であり、判断に迷う場合は社会保険労務士に相談することをおすすめします。

専任の人事担当者がいなくても退職者分析はできますか?

できます。まずは退職者の一覧を部署・勤続年数・退職理由の大カテゴリだけでも記録するシートを1枚作るところから始めましょう。ヒアリングの担当は社長や他部門の管理職が兼務する形でも機能します。また、出口調査の設計や分析を外部の社会保険労務士やコンサルタントに一部委託することで、専任不在でも継続的な仕組みを作ることが可能です。

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