【社労士監修】育休中に社員が病気になったら?給与・社保・給付金の正しい対応を解説

育休取得中の従業員が病気やケガで働けなくなる——そのような事態は、決して珍しいことではありません。しかし「育休中だから傷病手当金ももらえるはず」「自動的に傷病休職に切り替わるのでは」といった誤解が重なると、会社と従業員の双方が大きな不利益を被るリスクがあります。

特に中小企業では、こうした複合的なケースに対応するためのノウハウや社内規程が整っていないことが多く、「どちらの制度を優先すればよいのか」「社会保険料はどうなるのか」「育休の残期間はどう扱うのか」といった疑問に、担当者が一人で対応しなければならない場面も珍しくありません。

本記事では、育休と病気休職が重なった場合の給与・社会保険料の取り扱いについて、法律の根拠を踏まえながら実務的な視点で丁寧に解説します。人事担当者として正確な知識をもち、従業員に適切な説明と対応ができるよう、ぜひ最後までお読みください。

目次

育休中に病気になった場合、傷病手当金は受け取れるのか

結論から言えば、育休中は原則として傷病手当金を受け取ることができません。

傷病手当金(健康保険法第99条に基づく給付)は、業務外の病気やケガによって「労務不能」の状態になった場合に支給される制度です。支給要件として「療養中であること」「労務不能であること」「連続3日の待期期間があること」「給与が支払われていないこと」の4つを満たす必要があります。

ここで重要なのが「労務不能」の解釈です。育休中の従業員はすでに育児を理由として休業しているため、健康保険の取り扱い上「就労可能かどうか」を問う状況にない、つまり「病気によって労務不能になった」とは判断されないのです。この点はしばしば誤解されますが、育休給付金(雇用保険)と傷病手当金(健康保険)の同時受給はできません。

ただし、これは「育休中に病気になっても何もできない」という意味ではありません。傷病手当金を受け取るためには、育休を一度終了または中断し、傷病休職に切り替えるという手続きが必要になります。この切り替えを正式に行うことで、健康保険上の傷病手当金の受給資格が発生します。

「育休中に病気になったら自動的に傷病休職になる」と思い込んでいる担当者も見受けられますが、切り替えには会社・本人双方の意思決定と書類手続きが必要です。放置していると給付を受けられない期間が生じることもあるため、早めの対応が求められます。

給与・給付金の金額比較:育休継続と傷病休職切り替え、どちらが有利か

育休中に病気になった従業員に対して、会社はどちらの制度を選択するよう案内すべきでしょうか。一概には言えませんが、以下の比較表を参考に、個々の状況に応じた試算を行うことが重要です。

  • 育休継続の場合:育児休業給付金として、休業開始から180日間は休業前賃金の67%、以降は50%が支給されます。社会保険料(健康保険・厚生年金)は申出により免除されるため、手取りへの影響が少なくなります。
  • 傷病休職に切り替えた場合:傷病手当金として標準報酬日額の3分の2(約67%相当)が通算1年6か月支給されます。ただし、社会保険料の免除制度は適用されず、会社・本人それぞれが引き続き納付義務を負います。

一見すると給付率は似ていますが、社会保険料の免除の有無が手取り額に大きな差をもたらします。育休継続の場合、社保料の自己負担がゼロになるため、実質的な手取りは傷病休職への切り替えよりも高くなるケースが多いです。

一方で、傷病が重篤で育休終了後もすぐには復職できない見通しがある場合は、傷病手当金の通算1年6か月という受給期間をフルに確保しておく戦略的判断もあり得ます。育休給付金の残余期間が短い場合や、育休終了後に傷病手当金の待期期間が新たに発生するリスクを避けたい場合も同様です。

いずれにせよ、どちらが有利かは「現在の給付残余期間」「病気の重篤度・回復見込み」「社保料の負担額」「育休残存日数」を総合して判断する必要があります。人事担当者が一人で判断しようとせず、社労士や産業医サービスと連携して検討することを強くお勧めします。

社会保険料の取り扱い:育休と傷病休職では大きく異なる

社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の取り扱いは、育休中と傷病休職中で明確に異なります。この違いを理解しておかないと、会社・従業員ともに予期せぬ費用負担が発生することがあります。

育休中の社会保険料免除

育休中は、育児・介護休業法に基づく健康保険法・厚生年金保険法の特例により、会社が申出を行うことで労使双方の社会保険料が免除されます。2022年10月の育児・介護休業法改正以降は、短期の育休についても月をまたぐ形で取得すれば月単位の免除が受けられるようになりました。免除期間中も将来の年金額の計算には影響しない(保険料を払ったものとみなされる)点も大きなメリットです。

傷病休職中の社会保険料

これに対し、傷病休職中(育休を終了して傷病休職に切り替えた場合)は、社会保険料の免除制度は適用されません。会社・従業員の双方が、休職中も引き続き社会保険料を納付し続ける必要があります。

問題となりやすいのが、従業員の自己負担分の徴収方法です。傷病休職中は給与が無給または低額となるため、通常の給与天引きができないケースがあります。こうした場合に備えて、「休職中の社保料は翌月以降の給与から分割徴収する」「会社が一時立替し、復職後に清算する」「毎月本人から直接振込で受け取る」といった取り決めを就業規則や労働条件通知書に明記しておくことが重要です。規程がないまま長期休職に入ると、会社の立替分が膨らみ、トラブルの原因になります。

育休の「中断」と残存期間の取り扱いについて

育休中に傷病休職へ切り替える場合、「育休を中断して後から再開できるのか」という点が多くの担当者の悩みどころです。

育児・介護休業法には、育休を中断して再開するという仕組みは明文では規定されていません。法律上の制度としては、2022年10月の改正により「産後パパ育休(出生時育児休業)」の取得が可能になり、育休の分割取得(同一子につき2回まで)も認められるようになりました。しかし、育休中に病気になった場合の「中断・再開」については法の明文規定がなく、各企業の就業規則・労使協定の定め方に委ねられているのが実情です。

実務上よく取られる対応は次の通りです。

  • 育休を一度終了し、回復後に改めて育休を再申請する:最も一般的な方法ですが、同一子に対する育休取得回数(原則2回まで)の残りを消費することになるため注意が必要です。
  • 育休中断の規程を就業規則に設ける:「病気等のやむを得ない事由がある場合は育休を中断し、傷病休職に移行できる。回復後は中断前の育休残存期間を再取得できる」といった条項を定めることで、従業員が安心して制度を利用できる環境を整えられます。

なお、育休給付金(雇用保険)については、育休を終了して傷病休職に切り替えた後に改めて育休を再開した場合、要件を満たせば給付金も再開できます。ただし、給付金の支給残余日数や受給期限(子どもが原則1歳または最長2歳に達するまで)との兼ね合いを必ず確認してください。

こうした複雑な制度の判断には、社内だけで抱え込まずに社労士や専門家へ相談することが大切です。また、従業員の精神的なストレスが高まるケースも多いため、メンタルカウンセリング(EAP)の活用も検討してみてください。

実践ポイント:今すぐ取り組むべき就業規則と社内体制の整備

育休と病気休職の重複という事態は、事前に規程と対応フローを整えておくことで、会社・従業員双方の混乱を大きく減らすことができます。以下に、中小企業の人事担当者がすぐに着手できる実践的なポイントをまとめます。

1. 就業規則に重複ケースの規定を設ける

「育休中に傷病休職へ切り替える場合の手続き」「育休の中断・再開に関する条件」「社会保険料の自己負担分の徴収方法」を就業規則に明記してください。規定がないまま個別対応を繰り返すと、後から「他の人と対応が違う」とトラブルになりやすくなります。

2. 給付金・社保料の試算を事前に行う

従業員から相談を受けた際に備え、育休継続と傷病休職切り替えそれぞれの手取り額・社保料負担を試算できる簡易シートを用意しておくと対応がスムーズになります。試算には標準報酬月額の確認が必要です。

3. 申請窓口と書類を整理する

育児休業給付金はハローワーク(雇用保険)、傷病手当金は協会けんぽまたは健康保険組合(健康保険)と、申請先が異なります。切り替えの際には医師の診断書・意見書の取得、休職辞令の発行、各種届出書類の準備が必要です。担当者が迷わないよう、申請手順をフロー化しておくことをお勧めします。

4. 従業員本人・家族への丁寧な説明を行う

育休中に病気になった従業員は、身体的・精神的に不安定な状態にあることがほとんどです。「二重取りはできないこと」「どちらの制度を選ぶかで手取りが変わること」「手続きには会社側のサポートが必要なこと」を、図や比較表を使って分かりやすく説明してください。情報が不足したまま放置されると、従業員の不信感につながります。

5. 専門家との連携体制を構築する

社労士、産業医、健保組合との連携窓口を担当者レベルで確認しておくことが、いざというときの迅速な対応につながります。特に社会保険料の免除申請や各種届出は期限があるものも多く、専門家のサポートが不可欠です。

まとめ

育休と病気休職が重なった場合の主なポイントを整理します。

  • 育休中は傷病手当金を原則受給できない(同時受給不可)
  • 傷病手当金を受け取るには、育休を終了・切り替えて傷病休職へ移行する手続きが必要
  • 社会保険料は育休中は免除、傷病休職中は免除なし——この差が手取りに大きく影響する
  • 育休の中断・再開については法的明文規定がなく、就業規則の整備が必要
  • 育休給付金の再開には回数制限・期間制限があるため、残余日数の確認が不可欠
  • 判断に迷ったら社労士・専門家への早期相談が最善策

「まさかうちの会社でそんなことは起きない」と思っていると、いざ直面したときに対応が後手に回ります。就業規則の整備と社内フローの確認を、ぜひ今のうちに進めておいてください。従業員が安心して育休を取得し、万が一の際にも適切なサポートを受けられる職場環境が、結果として会社への信頼と定着率向上につながります。

よくある質問(FAQ)

育休中に病気になった従業員から傷病手当金の申請について相談されました。会社は申請を手伝うべきですか?

まず、育休中は原則として傷病手当金を受け取ることができない点を従業員に説明する必要があります。傷病手当金を申請するには育休を正式に終了し、傷病休職に切り替える手続きが先決です。会社は休職辞令の発行や医師の診断書取得のサポートを行い、切り替え後に健康保険組合または協会けんぽへの申請を一緒に進めることが望ましい対応です。

育休と傷病休職の切り替えで社会保険料の免除はどうなりますか?

育休中は会社が申出を行うことで労使双方の社会保険料が免除されます。しかし、傷病休職に切り替えた時点で育休の社保料免除は終了し、以降は会社・本人ともに通常通りの納付義務が生じます。従業員が給与無給の状態で自己負担分を支払えない場合に備えて、就業規則に徴収方法(立替・分割等)を定めておくことが重要です。

育休を中断して傷病休職に切り替えた後、回復したら育休を再開できますか?

法律上、育休の中断・再開を明示的に定めた規定はありません。実務上は「育休を一度終了し、回復後に改めて育休を申請する」という形が多く取られています。ただし、同一の子に対する育休は原則2回までという取得回数制限があるため、残回数を確認したうえで対応してください。就業規則に中断・再開に関する条項を設けておくと、会社・従業員ともにスムーズな対応が可能になります。

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