「ストレスチェック結果を漏らすと法違反!?中小企業が今すぐ見直すべき秘密保持の落とし穴」

ストレスチェックの結果を見れば、誰がメンタル不調のリスクを抱えているか把握できる。経営者として早めに手を打ちたいのだが……」。そう思ったことのある経営者・人事担当者は少なくないでしょう。しかし、その「善意」が法令違反につながるケースは実際に存在します。

ストレスチェックは2015年に義務化されて以来、多くの企業で定着しつつある制度です。一方で、結果の取り扱いをめぐるルールは複雑であり、「なんとなく運用している」状態の企業も少なくありません。誤った運用は、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、労務トラブルや損害賠償請求に発展するリスクもあります。

この記事では、ストレスチェック結果の秘密保持をめぐる法的根拠・よくある誤解・具体的な実務対策を、中小企業の経営者・人事担当者の視点からわかりやすく解説します。

目次

なぜストレスチェック結果の秘密保持が重要なのか

ストレスチェック制度が設けられた目的は、従業員が自分のストレス状態を客観的に把握し、セルフケアや医師への相談につなげることです。事業者(会社)にとっても、職場環境の改善に役立てる仕組みとして機能することが期待されています。

しかし、この制度が実効性を持つためには、「正直に回答しても不利益を受けない」という従業員の信頼が前提となります。もし「回答内容が上司や人事部に筒抜けになる」と感じれば、従業員は本音で答えなくなります。受検率が下がり、結果の信頼性も失われ、制度そのものが形骸化してしまうのです。

秘密保持を徹底することは、単なる法令遵守にとどまらず、制度の実効性を守り、従業員との信頼関係を維持するための土台と言えます。

知っておくべき法律・制度の基本ルール

労働安全衛生法が定める「本人同意の原則」

労働安全衛生法第66条の10において、ストレスチェックの結果は実施者(医師・保健師等)から直接本人に通知されると規定されています。そして、事業者(会社)への結果提供は本人が同意した場合に限り認められます。

つまり、「会社が費用を負担して実施したのだから、結果を見る権利がある」という考え方は法律上認められません。費用負担の有無に関わらず、本人の同意がなければ事業者は結果を取得することができないのです。

守秘義務違反には刑事罰もある

労働安全衛生規則第52条の12・第52条の13では、実施者および実施事務従事者(ストレスチェックの実施に携わる担当者)には守秘義務が課せられています。違反した場合は、同法第119条により6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

さらに、ストレスチェック結果は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。要配慮個人情報とは、不当な差別や偏見が生じる可能性があるとして、特に慎重な取り扱いが求められる情報です。取得・利用・第三者提供には本人の明示的な同意が必要であり、事業者はアクセス制限や安全な保管方法などの安全管理措置を講じる義務も負います。

人事権を持つ人は実施に関われない

厚生労働省のストレスチェック指針では、人事権を持つ者は実施事務従事者になれないと明確に規定されています。「人事部の担当者が実施事務を兼ねても問題ない」と思い込んでいる企業は少なくありませんが、昇進・異動・評価などの権限を持つ人が実施事務に関与することは、法令違反のリスクをはらんでいます。

中小企業に多い「誤解」と「失敗例」

よくある誤解

  • 高ストレス者のリストを上司に共有して早めにフォローする」:本人の同意なく上司に共有することは法令違反です。善意であっても、それが理由で従業員が不信感を抱き、離職や訴訟に発展するリスクがあります。
  • 「同意書にサインさせれば何でも使ってよい」:同意は真に任意でなければなりません。上司からの圧力や暗示のもとで取得した同意は、法的に無効とみなされる可能性があります。
  • 「人事評価や配置転換にストレスチェック結果を活用したい」:これは明確に禁止されており、不当労働行為やハラスメント、解雇権の濫用として争われる可能性があります。

実際に起きやすい失敗例

  • 集団分析を少人数単位で実施・共有してしまった:集団分析(職場単位での結果傾向を把握する手法)は、原則として10人以上の集団単位で行うことが求められます。3〜4人単位での分析・共有は個人が特定される恐れがあり、個人情報漏えいに相当するリスクがあります。
  • 外部委託先のセキュリティを確認せずにデータを渡した:委託先で情報漏えいが発生した場合でも、事業者側の安全管理義務違反として責任を問われることがあります(個人情報保護法上の規定)。
  • 小規模職場で「誰が受検したか」が特定されやすい:従業員数が少ない職場では、集団分析をしなくても受検の有無自体が知られやすく、匿名性の確保が構造的に難しいという課題があります。この問題への対策は後述します。
  • 受検しなかったことを理由に不利益な扱いをほのめかした:受検率向上のために上司が「受けないと評価に影響する」などと発言するケースがあります。これはハラスメントや不当労働行為として問題になり得ます。

小規模企業が特に注意すべき「匿名性の問題」

常時50人未満の事業場はストレスチェックの実施義務対象外ですが、努力義務は課せられています。また、50人以上の事業場でも、部署や拠点が小さい場合には匿名性の確保が難しい局面があります。

小規模な職場では、「誰が受検したか」「誰が面接指導を申し出たか」が周囲に知られやすく、従業員が萎縮してしまうことがあります。この問題に対しては、以下のような対策が有効です。

  • 外部の実施機関に委託する:結果の受け取り・保管を社内に持ち込まず、外部機関が直接本人に通知・保管する体制を構築することで、社内での情報漏えいリスクを下げることができます。
  • 面接指導の相談窓口を社外に設ける:産業医や外部相談機関(EAP:従業員支援プログラム)を活用し、社内に相談記録が残らない仕組みを整えることで、高ストレス者が安心して支援を受けやすくなります。詳しくはメンタルカウンセリング(EAP)のページもご参照ください。
  • 受検状況の報告を個人単位にしない:管理職への報告は「受検完了率」のみにとどめ、誰が受けていないかを特定できる情報は共有しないルールを設けましょう。

今日から取り組める実践ポイント

体制・ルールを整備する

  • 実施事務従事者の範囲を社内規程に明文化する:人事権を持つ者・直属の上長を明確に除外し、誰が実施に関与できるかを文書化しましょう。
  • 結果データへのアクセス権限を最小化し、アクセス記録を残す:誰がいつデータにアクセスしたかを記録する仕組みを導入することで、内部漏えいの抑止と事後確認が可能になります。
  • 保管期間・廃棄ルールを規程化する:厚生労働省は5年間の保存を推奨しています。保管期限が過ぎたデータを適切に廃棄する手順も合わせて整備しましょう。
  • 外部委託先と秘密保持契約(NDA)・個人情報取扱委託契約を締結する:既存の委託先との契約内容を点検し、セキュリティ要件や漏えい時の責任範囲が明確になっているかを確認してください。

従業員への周知を徹底する

  • 実施前に「結果は本人同意なく会社に渡らない」ことを書面・説明会で明確に伝える:口頭での説明だけでなく、書面で残すことが重要です。従業員が安心して正直に答えられる環境をつくることが、受検率向上にも直結します。
  • 面接指導の申し出が任意であることを周知する:「申し出ないと評価が下がる」と受け取られないよう、強制にならない旨を明確に伝えましょう。
  • 受検結果が不利益に使われないことを経営者自ら発信する:人事担当者だけでなく、経営者が「この制度は従業員を守るための仕組みだ」というメッセージを発することで、制度への信頼感が高まります。

面接指導後の情報管理を徹底する

  • 産業医から事業者への情報提供は就業上の措置に必要な範囲に限定する:「就業制限が必要か否か」「どのような配慮が必要か」という判断に必要な情報のみを共有し、診断内容や詳細な症状は共有しない運用ルールを設けましょう。
  • 面接指導記録は施錠管理・アクセス制限を徹底する:紙で保管する場合は施錠できるキャビネットに保存し、電子データの場合はアクセス権限を産業医と必要最小限の担当者に限定します。

高ストレス者の適切なフォローのためには、産業医サービスを活用し、専門家が守秘義務を守りながら面接指導にあたる体制を整えることが、法的にも実務的にも最も安全な選択肢の一つです。

まとめ

ストレスチェック結果の秘密保持は、法律が定める義務であると同時に、従業員との信頼関係を守るための根幹です。「誰が高ストレスなのかを知りたい」という気持ちは理解できますが、その情報を不適切に取得・利用すれば、法令違反だけでなく、制度そのものへの不信感、受検率の低下、さらには労務トラブルへと発展しかねません。

特に中小企業では、担当者のリソースが限られているため「なんとなく運用」になりがちです。しかし、それが最大のリスクです。まずは以下の3点を最優先で確認してください。

  • 人事権を持つ者が実施事務に関与していないか
  • 本人同意なく結果を取得・利用していないか
  • 外部委託先との秘密保持契約が適切に締結されているか

これらが整っていれば、制度は従業員にとっての「安心の仕組み」として機能し始めます。職場環境の改善と従業員のメンタルヘルス維持に向けて、今一度、自社の運用ルールを点検してみてください。

よくあるご質問(FAQ)

ストレスチェックの結果を会社が見るためには何が必要ですか?

法律上、事業者がストレスチェックの結果を取得するには本人の同意が必要です(労働安全衛生法第66条の10)。同意は任意であり、同意しないことを理由に不利益な扱いをすることは禁止されています。同意書を取得する際も、上司や管理職からの圧力にならないよう配慮が求められます。

人事担当者がストレスチェックの実施事務を兼任しても問題ありませんか?

厚生労働省のストレスチェック指針では、人事権を持つ者は実施事務従事者になれないと規定されています。昇進・異動・評価等に関与する人事担当者が実施事務を兼務することは法令違反のリスクがあります。実施事務従事者の範囲は社内規程に明文化し、人事権者を明確に除外する必要があります。

集団分析の結果を部署ごとに共有してよいですか?

集団分析の結果共有は、原則として10人以上の集団単位を前提としています。それ以下の少人数単位で分析・共有すると、個人が特定されるリスクがあり、個人情報漏えいに相当する可能性があります。3〜4人程度の小集団への展開は避け、集団分析はあくまでも職場環境改善の参考資料として活用してください。

外部委託先を利用する場合、どのような契約が必要ですか?

外部委託先との間で秘密保持契約(NDA)および個人情報取扱委託契約を締結することが求められます。委託先でのデータ漏えいが発生した場合でも、事業者側の安全管理義務違反として責任を問われることがあるため、委託先のセキュリティ基準や漏えい時の対応手順を事前に確認・合意しておくことが重要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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