【2025年義務化】ストレスチェック、中小企業が最初にやるべき5つの準備とよくある失敗

「うちは対象になるのか」「何から始めればいいかわからない」「やり方を間違えると法律違反になるのでは」——ストレスチェック制度をめぐって、こうした不安の声は中小企業の経営者・人事担当者から今も多く聞かれます。

ストレスチェック制度は、2015年12月1日に労働安全衛生法第66条の10に基づき施行されました。メンタルヘルス不調の一次予防(問題が深刻化する前に未然に防ぐこと)を目的とした制度ですが、「健康診断と同じようにやればいい」「外部委託すれば終わり」といった誤解が根強く残っています。その結果、形式だけで実効性のない運用になってしまっているケースも少なくありません。

本記事では、対象の判断基準から実施手順、高ストレス者への対応、そして職場改善への活用まで、中小企業が押さえるべき実務ポイントを体系的に解説します。法令上の注意点とよくある失敗例も合わせてお伝えしますので、ぜひ自社の運用を見直す機会としてご活用ください。

目次

まず確認:自社はストレスチェックの「義務対象」か

ストレスチェックの実施義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に課されています(労働安全衛生法第66条の10)。年1回以上の実施が必要です。一方、常時50人未満の事業場は努力義務にとどまりますが、「やらなくていい」と判断するのは早計です。

まず確認が必要なのが「常時使用する労働者数」の算定方法です。ここには以下のような落とし穴があります。

  • パートタイム労働者も含む:週所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば、原則としてカウントの対象となります
  • 派遣労働者の扱い:派遣先事業場での安全衛生管理は派遣先が責任を持ちますが、ストレスチェックの実施義務は派遣元事業者に課されます
  • 複数事業場を持つ企業:義務の対象は企業全体ではなく「事業場単位」です。本社は50人以上でも、支店が49人以下であれば、その支店単独では義務対象外となります

また、50人未満でも努力義務は存在します。厚生労働省は義務化対象の拡大に向けた検討を進めており、今後の動向に注意が必要です。「今は対象外だから」と何も準備しないのではなく、早めに体制を整えておくことが経営リスクの軽減につながります。

実施前に必ず整えるべき「準備の4ステップ」

ストレスチェックは、思いついたら即実施できるものではありません。法令に沿った適切な準備が、従業員の信頼確保と法令遵守の両面で不可欠です。

ステップ1:衛生委員会での審議・方針決定

常時50人以上の事業場には衛生委員会の設置が義務付けられています。ストレスチェックの実施方法・スケジュール・個人情報の取り扱い方針などは、この衛生委員会で審議し、決定内容を文書化しておく必要があります。この手続きを省いてしまうと、たとえ実施自体は行われていても手続き違反とみなされるリスクがあります。従業員からの信頼低下にもつながるため、必ず踏んでおきたいステップです。

ステップ2:実施体制の整備

ストレスチェックを実施できる実施者は、医師・保健師・一定の研修を修了した看護師または精神保健福祉士に限られます。重要なのは、事業主や人事権を持つ者は実施者になれないという点です。公平性の確保が目的であり、これを守らないと従業員のプライバシーが侵害されるリスクが生じます。

産業医がいる事業場では産業医が実施者となるケースが多いですが、産業医の確保が難しい場合は外部の実施機関に委託する方法が現実的です。外部委託費用の相場は従業員1人あたり数百円〜数千円程度と幅がありますが、産業保健関係の助成金を活用できる場合もあるため、最新の要件を厚生労働省や最寄りの都道府県労働局で確認することをお勧めします。

ステップ3:調査票の選定

使用する調査票は自由に選択できますが、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が標準的です。この調査票は仕事の量・質・職場のサポートなど多角的な視点でストレス要因を評価でき、集団分析への活用においても信頼性が高いとされています。

ステップ4:従業員への事前周知

「会社に監視されるのでは」「結果が人事評価に使われるのでは」という不安は、多くの職場で起きがちです。実施前に、制度の目的・個人情報の取り扱い方針・本人の同意なく結果が事業者に渡ることはないことを丁寧に説明することが受検率向上と従業員の安心感につながります。

実施・結果通知・個人情報管理の注意点

準備が整ったら実施に移ります。この段階で特に注意すべき点を整理します。

受検は任意、しかし高受検率を目指す働きかけは必要

ストレスチェックは受検を強制することができません。健康診断とは制度の性格が根本的に異なります。ただし、受検率が低いと集団分析の精度が大幅に低下し、職場改善に活用できるデータが得られません。「受けてほしい理由」を丁寧に伝え、受検しやすい環境を整えることが担当者の重要な役割です。ITリテラシーが低い従業員がいる場合は、紙の調査票も選択肢として用意するといった配慮も必要です。

結果の通知・管理は厳格に

ストレスチェックの結果は本人に直接通知されます。事業者(会社)への通知には、必ず本人の同意が必要です。また、結果データは実施者(医師・保健師等)が管理し、人事担当者が直接閲覧できない仕組みを構築することが求められます。人事部が結果を管理してしまうと、情報漏洩リスクだけでなく、従業員の不信感や法令違反の可能性が生じます。

結果等の記録は5年間の保存が必要です。また、実施後50日以内に所定の様式で労働基準監督署への報告が必要です(常時50人以上の事業場)。

高ストレス者が出たら:面接指導と事後フォローの進め方

ストレスチェックの結果、一定の基準を超えたストレス状態にある人が高ストレス者と判定されます。この対応こそが制度の核心であり、多くの企業が課題を感じているところです。

面接指導の申出は「本人の意思」が前提

高ストレスと判定された従業員には、医師による面接指導の機会が提供されます。ただし、申出はあくまで本人の自由意志です。会社が強制することは許されません。「案内を送ったら終わり」では面接につながらず、制度が形骸化します。申出しやすい雰囲気づくり、匿名性の確保、相談先の明確化が重要です。

面接後の就業上の措置

医師による面接指導が行われた後は、医師の意見を踏まえた就業上の措置(時間外労働の制限、業務内容の変更など)を事業者が検討・実施する必要があります。ここで絶対に禁止されているのが不利益取扱いです。ストレスチェックの受検や面接指導の申出を理由とした解雇・降格・減給・配置転換などは、労働安全衛生法第66条の10第3項により明確に禁止されています。

産業医がいない場合の対応

常時50人以上の事業場には産業医の選任が義務付けられていますが、地方や小規模事業所では確保が難しいケースがあります。その場合、外部の産業医サービスを活用することが有効な選択肢です。また、高ストレス者の日常的なメンタルサポートとしてメンタルカウンセリング(EAP)を導入する企業も増えています。EAPとは「Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)」の略称で、従業員が抱える仕事・家庭・健康などの悩みを外部の専門家がサポートする仕組みです。

「やりっぱなし」で終わらせない:集団分析と職場改善の活用

ストレスチェックで得られたデータは、個人の結果にとどまらず、部署・職場単位でのストレス傾向を把握する集団分析に活用できます(努力義務)。これこそが、制度を「一次予防」として機能させる鍵です。

ただし、10人未満の集団では個人が特定されるリスクがあるため、原則として集団分析の対象外とされています。分析対象の集団人数には十分注意が必要です。

集団分析で得られた結果を部署ごとのアクションプランに落とし込み、衛生委員会でPDCAを回すことで、職場環境の継続的な改善が可能になります。「どの部署が業務量の過負荷を抱えているか」「上司のサポートが不足している職場はどこか」といった組織課題が可視化され、管理職の行動変容や業務見直しにつながります。

「分析結果を見て終わり」「年に一度のイベント」にしてしまうのが最も多い失敗パターンです。ストレスチェックを職場づくりの継続的な取り組みの一部として位置づけることが、経営者・人事担当者に求められる視点です。

実践ポイントまとめ:中小企業が今すぐできること

  • 自社の義務対象を正確に確認する:パート・派遣受入れを含めた労働者数を事業場単位で算定する
  • 衛生委員会での審議を最初に行う:手続きを省くと後で取り返しのつかないトラブルになりかねない
  • 産業医・実施者の確保に早めに動く:外部委託・産業医サービスの活用も視野に入れる
  • 従業員への丁寧な周知を行う:不信感を払拭することが高受検率につながる
  • 結果の管理は人事から切り離す:医療職または外部機関に管理を委ねる仕組みを作る
  • 高ストレス者への案内は「届けるだけ」で終わらない:申出しやすい環境づくりが実効性を決める
  • 集団分析を職場改善につなげる:年1回のイベントではなくPDCAの起点として活用する
  • 50人未満でも準備を始める:義務化拡大の方向性を踏まえ、今から体制を整えることが将来のリスク軽減になる

ストレスチェック制度は、正しく運用すれば従業員のメンタルヘルス改善だけでなく、職場環境の可視化・管理職の意識向上・組織全体のパフォーマンス向上にも寄与する、経営にとって価値ある取り組みです。「義務だから仕方なくやる」という姿勢から「職場をよくするために活用する」という姿勢へ——その転換が、制度を真に機能させる第一歩です。

よくある質問(FAQ)

ストレスチェックの対象になるかどうか、パート社員はどう数えればいいですか?

「常時使用する労働者数」の算定では、パートタイム労働者も一定の条件下でカウントに含まれます。一般的には、週所定労働時間が正社員の4分の3以上である場合などが目安とされますが、実態に合わせた判断が必要です。判定に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをお勧めします。

産業医がいない場合、ストレスチェックの実施者はどうすればよいですか?

産業医以外にも、保健師や一定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士が実施者になれます。また、外部の実施機関や産業医紹介サービスを利用することも一般的な対応策です。産業医の選任義務がある事業場(常時50人以上)では、未選任のままでいると別途の法令違反になるため、早期に確保に向けた検討を行うことが重要です。

50人未満の事業場ですが、ストレスチェックは本当にやらなくていいのですか?

現行法では努力義務ですが、「やらなくていい」と断言するのは危険です。厚生労働省は義務化範囲の拡大を検討しており、法改正の動向によっては将来的に義務対象となる可能性があります。また、実施することで職場の課題が可視化され、人材定着や生産性向上に寄与するメリットもあります。今から準備を進めることが中長期的なリスク管理につながります。

高ストレス者に産業医面談を「受けさせる」ことはできますか?

できません。医師による面接指導の申出はあくまで本人の意思に基づくものであり、会社が強制することは法律上認められていません。強制した場合、従業員のプライバシーや権利を侵害するリスクがあります。申出しやすい環境づくりや丁寧な案内・フォローによって、自発的な申出を促すことが求められます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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