「高ストレス者が面接を申し出ない…」産業医なし・中小企業でもできるストレスチェック後の面接指導、義務・進め方・費用まで徹底解説

毎年のストレスチェック実施が義務化されて以降、「とりあえず実施している」という企業は増えました。しかし、ストレスチェックはあくまでスタートラインに過ぎません。本来の目的は、高ストレスと判定された従業員に対して適切な支援を届け、メンタルヘルス不調の未然防止につなげることです。その中核を担うのが「面接指導」という制度です。

ところが現場では、「高ストレス者が出ても誰も申し出てこない」「産業医とのやり取りが煩雑で対応が遅れる」「面接後に何をすべきかわからない」といった声が後を絶ちません。特に専任の人事担当者を置く余裕のない中小企業では、制度の理解が不十分なまま形式的な運用にとどまっているケースが多く見られます。

本記事では、ストレスチェック後の面接指導について、法的な根拠から実務上のステップ、よくある失敗例まで体系的に解説します。自社の対応を見直すきっかけとして、ぜひご活用ください。

目次

面接指導とは何か——制度の基本と法的位置づけ

面接指導とは、ストレスチェックの結果において高ストレスと判定された労働者が申し出た場合に、事業者が医師(産業医が望ましい)による面接を実施しなければならない制度です。根拠法令は労働安全衛生法第66条の10および労働安全衛生規則第52条の15から第52条の21に定められています。

まず押さえておきたいのは、実施義務の対象です。常時50人以上の労働者を使用する事業場については、ストレスチェックの実施と面接指導の対応が法律上の義務となります。一方、50人未満の事業場については当面の間は努力義務とされていますが、従業員のメンタルヘルスを守るうえで実施が強く推奨されています。

面接指導の流れを簡単に整理すると、以下のようになります。

  • ストレスチェックの結果を本人に通知する
  • 高ストレスと判定された労働者本人が事業者に面接指導の申し出を行う
  • 申し出からおおむね1か月以内に、医師が面接指導を実施する
  • 医師から就業上の措置に関する意見を受け取り、必要な対応を講じる

ここで重要なのは、申し出の主体は労働者本人であるという点です。事業者が高ストレス者に対して強制的に面接を受けさせることはできません。だからこそ、申し出やすい環境を整えることが事業者側の最大の責務となります。また、面接指導にかかる費用は事業者が負担するのが原則であり、労働者に費用を負担させることは認められていません。

申し出が来ない最大の理由——「不利益への不安」を取り除く

面接指導の運用で最も多く聞かれる悩みが、「高ストレス者と判定された人が誰も申し出てこない」というものです。この問題には、従業員側の根強い不安が背景にあります。

「面接を申し出たら上司に知られるのではないか」「メンタルヘルスの問題があると思われて評価が下がるのではないか」「最悪の場合、解雇や配置転換に使われるのではないか」——こうした懸念を従業員が抱くのは無理のないことです。

しかし法律は、この点について明確に禁止規定を設けています。面接指導を申し出たこと、または受けたことを理由とした解雇・降格・減給・不当な配置転換等は、労働安全衛生法により禁止されています。違反した場合は50万円以下の罰金の対象となる可能性があります。

制度として禁止されていることを従業員に正しく伝えることが、申し出率を高めるための第一歩です。具体的には以下のような工夫が効果的とされています。

  • 結果通知と同時に、面接申し出の案内文書を必ず同封し、「申し出を理由とした不利益扱いは一切行わない」という文言を明記する
  • 申し出の窓口を複数用意する(メール・専用フォーム・電話など)
  • 直属の上司を介さない申し出ルートを設けることで、上司への情報漏えいへの不安を払拭する
  • 社内告知や研修を通じて、ストレスチェック制度の目的と守秘義務について定期的に周知する

申し出のしやすさは、社内の心理的安全性(従業員が安心して発言・行動できる職場環境)と密接に関係しています。制度の整備と並行して、日常的なコミュニケーションの質を高める取り組みも重要です。

産業医との連携——選任がない・形式的になっている場合の対処法

面接指導を実施するためには、医師の確保が不可欠です。実務上は産業医が担うことが一般的ですが、中小企業では「産業医が選任されていない」「名前だけで実際にはほとんど関わりがない」というケースも少なくありません。

まず確認しておきたいのは、産業医の選任義務についてです。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務づけられています。未選任の場合は法令違反となりますので、早急に対応が必要です。

産業医が選任されていない50人未満の事業場や、産業医との連携が十分に機能していない場合には、地域産業保健センター(産保センター)の活用が有効な選択肢です。全国の労働基準監督署管内に設置されており、小規模事業場向けに産業医相談や保健指導を無料で提供しています。

また、産業医が選任されている場合でも、面接指導を実効的に運用するためには日常的な連携が欠かせません。以下の点を事前に整備しておくことが望まれます。

  • 月1回以上の産業医面談日程を確保し、申し出があった際に迅速に対応できる体制を整える
  • 面接指導に際して必要な情報(勤務状況・残業時間・業務内容・過去の健康診断結果等)を事前に産業医へ提供する
  • 産業医との情報共有のルール(何をいつ、どのような形で伝えるか)を明文化しておく

産業医との関係構築に課題を感じている企業には、産業医サービスの活用も選択肢のひとつです。選任から面接指導の実施まで一貫してサポートする体制を提供しているサービスもあります。

面接指導の実施から就業措置まで——5つのステップで理解する実務フロー

面接指導の実務は、申し出の受付から職場改善まで一連の流れとして捉えることが重要です。それぞれのステップで押さえるべきポイントを以下に整理します。

ステップ1:申し出の受付と初期対応

高ストレス者からの申し出を受けたら、速やかに受付を確認し、面接日程の調整に入ります。この段階で、申し出の事実を直属上司や他の従業員に伝えてはなりません。情報管理の担当者を明確に定め、知り得る人間を最小限に絞ることが原則です。

ステップ2:医師との事前情報共有

面接を担当する医師に対して、当該労働者の勤務状況(労働時間・残業・休日出勤の状況)、業務内容、これまでの健康診断結果などを事前に提供します。医師が適切な面接指導を行うためには、この事前情報が不可欠です。ただし、提供する情報は必要最小限にとどめ、プライバシーへの配慮を忘れないことが重要です。

ステップ3:面接指導の実施

面接は医師と労働者の1対1で行うことが基本であり、人事担当者や上司は原則として同席しません。面接場所は個室を確保し、会話が外部に漏れない環境を整えてください。面接では、労働時間や業務内容などの勤務状況、ストレスの状況、心身の自覚症状、睡眠・飲酒などの生活状況が確認されます。

ステップ4:医師からの意見聴取と就業上の措置

面接指導後、医師から就業上の措置に関する意見書を受け取ります。意見書には、就業上の配慮事項や必要な措置の内容が記載されます。具体的な措置の例としては以下が挙げられます。

  • 就業場所の変更(部署異動・在宅勤務への切り替えなど)
  • 作業内容の転換(負荷の高い業務の軽減など)
  • 労働時間の短縮や時間外労働の制限
  • 深夜業の回数の減少
  • 休暇の取得促進

これらの措置を検討する際は、必ず労働者本人と十分に話し合いながら進めることが重要です。一方的な措置は、従業員の信頼を損ない、かえって状況を悪化させる可能性があります。また、措置の内容と実施状況は記録として残しておく必要があります。具体的な措置の内容や手続きについては、産業医や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

ステップ5:職場環境の改善と集団分析の活用

面接指導で把握した情報は、個人の支援にとどまらず、職場全体の改善に活かすことが本来の目的です。ストレスチェックの集団分析(部署単位でのストレス傾向の集計)と組み合わせることで、職場環境における問題の傾向が見えてきます。管理職へのフィードバックを行う際は、個人が特定されないよう十分に配慮したうえで、組織課題として共有することが大切です。

心理的な負担が大きい職場の従業員向けにメンタルカウンセリング(EAP)を導入することも、面接指導と並行した支援策として有効です。面接指導だけでは拾いきれない従業員の悩みに、継続的なカウンセリングで対応できる体制が整います。

記録管理とプライバシー保護——見落とされがちな義務的対応

面接指導の結果記録は、5年間の保存が法律上義務づけられています。記録には、面接を実施した日時・担当医師名・労働者の勤務状況・ストレスや心身の状況・就業上の措置の内容などが含まれます。紙媒体・電子媒体いずれの場合も、担当者以外がアクセスできないよう厳格に管理する必要があります。

プライバシー管理の観点から、特に注意すべき点を以下に整理します。

  • 面接指導を受けた事実・内容は、当該労働者の同意なく上司や同僚に伝えてはならない
  • 就業上の措置を実施する際も、理由の開示範囲を最小限に絞る
  • 記録媒体の保管場所・アクセス権限を明確に定め、文書化しておく
  • 担当者が変わった場合の引き継ぎルールも事前に定めておく

中小企業では専任の人事担当者がいないため、総務・経理など他業務と兼務しているケースが多く見られます。その場合でも、健康情報の取り扱いについては他の業務情報と明確に分離して管理することが求められます。社内規程(就業規則や個人情報取扱規程)に健康情報の管理ルールを明記しておくと、担当者が変わった際のリスクを軽減できます。

実践ポイント——今日からできる運用改善のチェックリスト

面接指導の制度を実効的に機能させるために、まず自社の現状を確認してみましょう。以下はすぐに確認・着手できる実践ポイントです。

  • 面接申し出の案内文書を整備する:結果通知に同封する文書に「不利益扱いをしない旨」を明記し、複数の申し出窓口を設けているか確認する
  • 直属上司を介さない申し出ルートを設ける:人事部門・外部相談窓口など、上司に知られずに申し出ができる仕組みがあるか見直す
  • 産業医との連携を定期化する:月1回以上の面談枠を確保し、事前に提供する情報の種類・方法を取り決めておく
  • 産業医が不在の場合は地域産業保健センターに問い合わせる:無料で利用できるため、まず連絡して対応可能な範囲を確認する
  • 面接後の意見書対応フローを文書化する:医師の意見書を受け取った後、誰が何をどの順序で行うかを事前に整理しておく
  • 記録管理のルールを社内で明確化する:保存期間・保管場所・アクセス権限を文書で定め、担当者全員が理解している状態にする
  • 集団分析の結果を職場改善に活用する仕組みを作る:分析結果を管理職へ共有するタイミングと方法を定期的に設定する

まとめ

ストレスチェック後の面接指導は、従業員のメンタルヘルスを守り、職場環境を改善するための重要な制度です。しかし、「申し出が来ない」「産業医との連携が難しい」「面接後の対応が不明確」といった課題により、多くの中小企業で形骸化しているのが実情です。

制度を機能させるためには、従業員が安心して申し出られる環境づくりを最優先に、産業医との実質的な連携体制の確立、面接後の就業措置と記録管理の仕組み化、そして集団分析を活用した職場改善への展開という一連の流れを整備することが求められます。

「義務だから実施する」という姿勢から、「従業員の健康を守り、組織として成長するために活用する」という視点への転換が、制度の本来の価値を引き出す鍵となります。まずは自社の現状をチェックリストで確認し、改善できるところから一歩ずつ着手してみてください。

よくある質問(FAQ)

面接指導は全員に実施する必要がありますか?

面接指導の対象はストレスチェックで高ストレスと判定された労働者に限られます。また、実施には労働者本人からの申し出が必要であり、事業者が強制することはできません。ただし、申し出がしやすい環境を整えることは事業者の重要な責務です。

産業医がいない場合、面接指導はどうすればよいですか?

産業医が選任されていない場合でも、要件を満たす医師であれば面接指導を実施することは可能です。50人未満の小規模事業場であれば、地域産業保健センター(産保センター)に相談することで、無料で産業医による相談・面接指導を受けられる場合があります。まずは最寄りの産保センターに問い合わせてみることをお勧めします。

面接指導の結果は上司に報告しなければなりませんか?

面接指導の内容や結果を上司や同僚に伝えることは、原則として労働者本人の同意なしには認められません。就業上の措置を実施する際も、理由の開示範囲を必要最小限に絞ることが求められます。プライバシー保護は従業員の申し出意欲に直結するため、社内ルールとして明確に定めておくことが重要です。

面接指導の申し出期限に法的な定めはありますか?

法律上の明確な申し出期限は定められていませんが、結果通知後1か月以内に申し出ることが望ましいとされています。また、申し出を受けた事業者は、おおむね1か月以内に面接指導を実施することが求められています。スムーズな対応のために、産業医の面談枠を定期的に確保しておくと安心です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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