【2024年問題】労働基準法改正で中小企業がいま絶対やるべき労働時間管理の対応策

「うちは小さな会社だから、多少の残業超過は見逃してもらえるだろう」——そのような認識をお持ちの経営者・人事担当者の方はいませんか。残念ながら、その考えは現在の法的リスクとまったく釣り合っていません。

働き方改革関連法の施行以降、労働基準法をはじめとする労働法規の改正が相次いで行われ、中小企業を含むすべての企業に対して厳格な労働時間管理が求められるようになっています。違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象になることも、決して絵空事ではありません。

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべき労働基準法改正の要点を整理し、実務上の具体的な対応策まで丁寧に解説します。複数の改正が同時並行で進んでいるため「何から手をつければよいかわからない」と感じている方こそ、ぜひ最後までお読みください。

目次

労働基準法改正の全体像——中小企業に直結する主な変更点

「働き方改革関連法」は2018年に成立し、労働基準法・労働安全衛生法など複数の法律を一括して改正するものでした。大企業への適用が先行した項目も多かったため、「中小企業はまだ猶予がある」という印象をお持ちの方もいるかもしれません。しかし、現時点では猶予期間がすでに終了している項目が大半です。

中小企業にとって特に重要な変更点を以下にまとめます。

  • 時間外労働の上限規制(2020年4月〜中小企業にも適用):原則として月45時間・年360時間を超える残業は禁止。特別条項を設けた場合でも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内という上限がある。
  • 年次有給休暇の取得義務化(2019年4月〜):年10日以上の有給が付与される従業員に対し、使用者が年5日の取得を確実に付与する義務が生じた。
  • 月60時間超の割増賃金率引き上げ(2023年4月〜中小企業にも適用):月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられた。
  • 労働時間の客観的把握義務(2019年4月〜):管理監督者を含むすべての労働者について、タイムカードやPCログなど客観的な方法で労働時間を把握・記録し、5年間(当面は3年)保存する義務が課された。

これらはすべて「猶予期間終了済み」の項目です。「知らなかった」では済まされない段階に入っています。

36協定の正しい理解と適正管理——「締結すれば安心」は大きな誤解

36協定(さぶろくきょうてい)とは、労働基準法第36条に基づく「時間外労働・休日労働に関する協定」のことです。この協定を労使間で締結し労働基準監督署へ届け出ることで、法定の労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた残業が認められます。

しかし、36協定を締結していれば「何時間でも残業させられる」というのは大きな誤解です。現在の法律では、特別条項付き36協定を結んでいる場合でも、以下の上限を必ず守らなければなりません。

  • 年間の時間外労働:720時間以内
  • 単月の時間外労働+休日労働:100時間未満
  • 2〜6ヶ月の平均(時間外+休日):いずれも80時間以内
  • 原則の月45時間超えを認める特別条項:年6回まで

これらの上限に違反した場合、事業主は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

また、36協定は事業場単位で締結・届出が必要です。本社・支店・工場など複数の事業場を持つ企業は、それぞれの事業場ごとに協定を締結しなければなりません。さらに、労働者代表の選出方法にも注意が必要で、管理監督者(いわゆる課長職以上の方)は代表になれず、挙手・投票など民主的な手続きによる選出が求められます。

毎年の更新作業が形式的になっている企業では、協定書の上限時間が法改正後の新ルールに対応していないケースもあります。次回の更新時には必ず内容を精査してください。

労働時間の客観的把握——テレワーク・直行直帰社員も対象

改正労働安全衛生法(第66条の8の3)により、使用者はすべての労働者の労働時間を客観的な方法で把握する義務を負います。「すべての労働者」には管理監督者や裁量労働制(業務の進め方を労働者の裁量に任せる制度)の適用者も含まれます。

「客観的な方法」として認められるのは、主に以下のものです。

  • タイムカード・ICカードによる打刻記録
  • パソコンのログイン・ログオフ記録
  • 勤怠管理システムの記録

一方、手書きの日報や自己申告のみによる記録は、実態との乖離(かいり)が生じやすいとして、単独では客観的な記録とは認められにくい状況です。自己申告制を採用せざるを得ない場合は、申告内容が実態を反映しているか定期的に確認・指導する仕組みを設ける必要があります。

テレワーク(在宅勤務)や直行直帰の多い営業社員については、把握が特に難しいと感じている企業が多いようです。実務上は以下のような方法が活用されています。

  • 始業・終業時のチャットツールやメールへの連絡ログを記録として活用する
  • クラウド型勤怠管理システムをスマートフォンから利用させる
  • PCの電源オン・オフ記録を間接的な証跡として保管する

記録は5年間の保存(当面は3年間)が義務づけられています。労務トラブルや行政調査が発生した際に証拠として提示できるよう、適切に保管・整理しておくことが重要です。

年次有給休暇5日取得義務——「申請を待つ」では違法になる

年次有給休暇(有給休暇)については、改正前は「労働者が申請したときに付与すればよい」と考えていた企業も多かったのではないでしょうか。しかし現在は、年10日以上の有給が付与されている従業員に対し、使用者が主体的に年5日の取得を確保させる義務があります(労働基準法第39条第7項)。

たとえ従業員が「有給は要らない」と言っていたとしても、その言葉に甘えて5日の取得を確保しなかった場合、違反として扱われます。違反した場合は30万円以下の罰金の対象となり、しかも対象者1人ひとりについて違反が成立するため、従業員が多いほどリスクが高まります。

実務対応として、以下の取り組みを整備してください。

  • 年次有給休暇管理台帳(時季指定簿)の整備:誰がいつ有給を取得したかを個人単位で記録・管理する。
  • 計画的付与制度の活用:夏季休暇・年末年始に合わせて有給を充てる「計画的付与」を労使協定で定めることで、まとめて5日分を消化させやすくなる。
  • 付与日からの期限管理:有給付与日から1年以内に5日取得できるよう、個人別に残日数と取得状況を定期確認する。

月60時間超の割増賃金率引き上げ——給与計算の見直しを急ぐ

2023年4月から、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。大企業ではすでに2010年から適用されていたルールが、ようやく中小企業にも適用されたかたちです。

月60時間超の残業が常態化している企業では、人件費が大幅に増加する可能性があります。給与計算システムが旧来の計算式のままになっていないか、至急確認してください。手計算や旧バージョンのシステムを使用している場合は、計算ミスによる未払い残業代が発生するリスクがあります。

なお、月60時間超の割増賃金の代わりに有給の「代替休暇」を付与する制度(代替休暇制度)を設けることも可能ですが、その場合は労使協定の締結が必要となります。また、代替休暇の取得は強制ではなく、あくまで労働者が選択できる仕組みです。

なお、長時間労働が続く職場では、従業員のメンタルヘルス不調が生じるリスクも高まります。労働時間管理の整備と並行して、メンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討することも、従業員の健康保持と離職防止の観点から有効な取り組みです。

実践ポイント——今日から着手できる5つの対応

ここまで解説してきた内容を踏まえ、中小企業がまず取り組むべき実践的な対応を5点にまとめます。

①現状の36協定を今すぐ確認する

現在締結している36協定の内容を取り出して確認してください。上限時間の設定が法改正後の新ルール(年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間)に沿っているかどうかを必ずチェックしましょう。次回更新時には、形式的に前年分をコピーするのではなく、内容を精査した上で適正な協定書を作成することが重要です。

②客観的な労働時間把握の仕組みを導入する

タイムカードや手書き日報のみに頼っている場合は、クラウド型の勤怠管理システムの導入を検討してください。月額数百円〜数千円で利用できるサービスも多く、中小企業でも導入しやすくなっています。テレワーク対応機能があるものを選ぶと、在宅勤務者の管理も一元化できます。

③有給休暇管理台帳を整備し個人ごとに管理する

有給取得状況を全員分、個人別に管理できる台帳を整備してください。Excelでも構いませんが、付与日・残日数・取得日・残り義務取得日数を一覧で把握できる形式にすることが重要です。年度の折り返し時点で5日未達の従業員がいれば、速やかに時季指定を行いましょう。

④給与計算システムの割増賃金率を確認・修正する

月60時間超の割増賃金率が50%に更新されているか確認し、修正されていなければ直ちに対応してください。未払い残業代が積み上がっている場合、後から追加支払いを求められるリスクがあります。

⑤名ばかり管理職の実態を見直す

役職名が「課長」「マネージャー」であっても、実態として経営への参画度合いが低く、労働時間の裁量もない場合は「名ばかり管理職」とみなされ、時間外割増賃金の支払い義務が生じます。定期的に管理監督者の実態を確認し、必要に応じて処遇や役割の見直しを行いましょう。なお、管理監督者であっても深夜割増賃金の支払いと健康管理のための労働時間把握は必須です。

労働時間管理の適正化を進めるにあたっては、従業員の健康状態のモニタリングも欠かせません。長時間労働が続く従業員がいる場合は、産業医による面接指導(月80〜100時間超の時間外労働を行った従業員には申し出があれば実施義務あり)を適切に実施する体制を整えることが求められます。産業医サービスを活用することで、法令対応と健康管理を同時に進めることができます。

まとめ

労働基準法をはじめとする一連の改正は、中小企業にとっても例外なく適用されています。「猶予があるはず」「小さな会社は見逃される」という認識は、すでに通用しない時代です。

改正の要点を整理すると、①時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間が原則)、②年次有給休暇5日取得の義務化、③月60時間超の割増賃金率50%への引き上げ、④労働時間の客観的把握義務——これら4点が中小企業にとって特に重要な柱です。

違反時の罰則は軽くありません。しかし、罰則を恐れるだけでなく、適正な労働時間管理を実現することが、従業員の健康維持・離職防止・生産性向上につながるという前向きな視点も大切にしてください。

まずは現状の36協定と有給管理台帳の確認から始め、課題が見えてきたら専門家(社会保険労務士・産業医など)への相談も積極的に活用することをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q. 中小企業への時間外労働の上限規制はいつから適用されていますか?

中小企業への時間外労働の上限規制は、2020年4月1日から適用されています。大企業は2019年4月から適用されており、中小企業には1年間の猶予が設けられていましたが、その猶予期間はすでに終了しています。原則として月45時間・年360時間が上限となり、特別条項付き36協定を結んだ場合でも年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内の上限があります。

Q. テレワーク中の従業員の労働時間はどのように把握すればよいですか?

テレワーク中の従業員についても、客観的な方法による労働時間の把握が義務づけられています。実務上は、始業・終業時のチャットやメールの送信記録、クラウド型勤怠管理システムへのスマートフォンからの打刻、PCのログイン・ログオフ記録などを組み合わせて活用する方法が有効です。自己申告制を用いる場合は、申告内容が実態と乖離していないか定期的に確認・指導する仕組みを設ける必要があります。

Q. 有給休暇5日取得義務に違反した場合、どのような罰則がありますか?

年次有給休暇5日取得義務(労働基準法第39条第7項)に違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。注意が必要なのは、この罰則は義務を果たせなかった労働者1人ひとりについて成立する点です。従業員数が多い企業ほどリスクが高まるため、年次有給休暇管理台帳を整備して個人別に取得状況を管理し、未取得者への時季指定を計画的に行うことが不可欠です。

Q. 管理監督者(課長・マネージャーなど)は労働時間の管理対象外ですか?

管理監督者は時間外・休日割増賃金の支払い対象外となりますが、深夜割増賃金の支払い義務と健康管理のための労働時間把握義務は免除されません。また、役職名だけの「名ばかり管理職」は、経営への参画度合いや労働時間の裁量が実質的に認められない場合、法的には一般の労働者と同様の扱いとなり、時間外割増賃金の支払い義務が生じます。管理監督者の実態については定期的に確認することをお勧めします。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次