「健康診断の受診率が上がらない中小企業必見!100%達成した会社がやっていた5つの工夫」

「今年も健康診断の受診率が8割に届かなかった……」。そんな悩みを抱えている経営者・人事担当者の方は少なくありません。従業員が「忙しい」「面倒くさい」と後回しにしてしまい、年度末になって慌てて案内を出しても予約が取れず、結局受診できないまま期限切れ——これは中小企業でよく見られる典型的なパターンです。

しかし、健康診断の実施は単なる社内ルールではありません。労働安全衛生法に基づく法的義務であり、違反した場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、未受診者の健康リスクを放置することで、突然の離職や長期休職が発生すれば、中小企業にとってその損失は計り知れません。

この記事では、受診率が上がらない根本的な原因を整理したうえで、法律の正確な理解、実務に使える具体的な対策、そしてよくある失敗パターンと回避策をわかりやすく解説します。

目次

まず確認したい「健康診断」に関する法律の基本

健康診断の受診率向上に取り組む前に、法律上の義務の範囲を正確に把握しておくことが欠かせません。誤った理解が、対応漏れや法令違反につながるケースがあります。

事業者・従業員それぞれに課される義務

労働安全衛生法第66条第1項は、事業者に対して従業員に年1回以上の一般健康診断を受けさせることを義務付けています。これはすべての雇用形態に共通する義務です。

さらに重要なのは、同条第5項により従業員にも受診義務が課されている点です。「受診するかどうかは本人の自由」と考えていた方は認識を改める必要があります。ただし、会社が指定した医療機関以外での受診も法律上は認められているため、「他の病院で受けた場合は結果を提出する」といった柔軟な運用ができます。

パート・契約社員の受診義務はどこから?

中小企業でとくに見落とされがちなのが、非正規社員への健診義務です。基準は以下のとおりです。

  • 週30時間以上(正社員の所定労働時間の4分の3以上)勤務するパート・契約社員→ 一般健康診断の実施義務あり
  • 週20時間以上30時間未満→ 義務ではないが、実施することが努力義務として推奨される

「パートだから健診しなくてよい」という判断は誤りであり、対象者の見落としは法令違反になります。まず自社の従業員リストを精査し、対象者を正確に把握することが第一歩です。

健診後の「事後措置」も義務

健康診断を実施しただけで義務を果たしたと思っている方も多いのですが、それだけでは不十分です。労働安全衛生法第66条の4および第66条の5により、異常所見のあった従業員については、医師・産業医への意見聴取と、その意見をふまえた就業上の配慮や再検査の勧奨(異常がないか確認するための追加検査)を行う義務があります。健診結果の個人票は5年間の保存義務(労働安全衛生規則第51条)もあります。

事後措置については、産業医サービスを活用することで、産業医が健診結果を確認して就業判定や再検査勧奨の助言を行う体制を整えることができます。

受診率が上がらない本当の原因を探る

対策を講じる前に、なぜ受診率が低いのかを正確に把握することが重要です。中小企業に共通する主な原因を整理します。

従業員側の要因

  • 「忙しい」という理由での先送り:業務の合間に予約を取ること自体を煩雑に感じる従業員は多い
  • 「自分は大丈夫」という過信:自覚症状がないため、健診の優先度が低くなりがち
  • 結果への不安や無関心:悪い結果が出ることを恐れて回避するケース、結果を見ても意味がわからないケースもある
  • 受診コストの心理的負担:費用が自己負担になっている場合、受診意欲が著しく低下する

会社・管理体制側の要因

  • 案内が年度末に集中する:期限間際に一斉通知しても予約が集中し、受診できないまま終わる
  • 未受診者の把握・フォロー体制がない:誰が受けていないかを管理しておらず、個別の声かけがされない
  • シフト・外回り職への配慮不足:定時勤務者と同じ案内方法では、営業職や現場職には機能しない
  • 管理職が率先して受けていない:上司が「忙しいから免除」という姿勢では、部下も同じ行動を取る
  • 健診機関の選択肢が少ない:1か所しか案内しないと、予約が取りにくい・時間帯が合わないといった問題が生じる

これらの原因のうち、自社に当てはまるものがいくつあるかを確認してみてください。複数当てはまる場合は、複合的な対策が必要です。

受診率を高める具体的な仕組みづくり

原因が明確になれば、対策も絞り込みやすくなります。ここでは実務で取り入れやすい方法を段階的に紹介します。

①「年度初め」から動く:スケジュール管理の前倒し

受診率向上に成功している企業に共通しているのは、年度初めの4〜5月に受診計画を立てていることです。具体的には以下のような流れが効果的です。

  • 4月に受診対象者リストを確定し、受診可能期間(例:5月〜11月)をカレンダーで周知する
  • 各部署の管理職に受診期限と担当者の受診状況を管理させる
  • 毎月1回、未受診者リストを更新して管理職と共有する

受診を「個人の自己管理」から「業務の一環として管理する事項」に位置付けることが重要です。

②受診のハードルを物理的に下げる

従業員が健診を受けにくい環境そのものを変える工夫です。

  • 巡回健診の活用:健診機関に職場へ来てもらう方式(出張健診)なら、従業員の移動時間がゼロになる。特に製造業・小売業など現場職が多い企業に有効
  • 予約の一括代行:従業員が各自で予約するのではなく、会社(または担当者)が健診機関との日程調整を一括で行う
  • 受診日を勤務扱い・有給扱いにする:受診時間を給与から控除しない制度設計にするだけで、受診率が大きく改善するケースがある(法律上の義務ではないが、受診を促す実効性が高い)
  • 時間帯の多様化:土曜・早朝・夜間対応の医療機関も案内の選択肢に加える
  • 女性への配慮:女性スタッフ対応や女性専用メニューを案内することで、受診をためらうケースを減らせる

③リマインドと個別フォローを仕組み化する

未受診者への声かけを「誰かがやるだろう」という状態にしないことが大切です。

  • メール・社内チャット・掲示板による定期的なリマインド(月1回程度)
  • 未受診者リストを管理職と共有し、直属の上司から声かけをしてもらう
  • 受診期限の1〜2か月前に「最終確認」として個別通知を行う

リマインドの主体を人事担当者だけに集中させると担当者の負担が増大します。管理職の役割として明確に位置付けることで、組織全体での取り組みになります。

④インセンティブで受診を後押しする

受診完了に対して何らかのプラスがある設計にすることも、受診率向上に効果があります。

  • 受診完了者へのポイント付与や商品券のプレゼント(福利厚生として実施)
  • 部署別の受診率を公表し、達成率の高い部署を表彰する
  • 経営者・管理職が率先して受診した様子を社内で共有する(トップの行動は強いメッセージになる)

競争意識や承認のしくみをうまく使うことで、健診が「義務」だけでなく「自分事」として認識されやすくなります。

⑤健診管理を「見える化」する

エクセルでも構いませんが、以下の情報を一元管理できる状態にすることが重要です。

  • 対象者リスト(正社員・パート・契約社員の区分を含む)
  • 受診予定日・受診完了日
  • 異常所見の有無・事後措置の対応状況
  • 健診個人票の保管状況(5年分)

従業員数が増えてきた場合や、管理の属人化が心配な場合は、健診管理システムの導入も検討に値します。

事後措置の整備が「本当の健診管理」の完成形

受診率を100%に近づけることは重要な目標ですが、健康診断はそれだけで完結しません。受診後に何もしなければ、従業員の健康リスクは放置されたままになります。

異常所見者へのフォローを怠らない

健診結果に異常所見(血圧・血糖値・脂質異常など)が見られた従業員については、産業医または医師の意見をもとに就業上の配慮や再検査の受診勧奨を行うことが義務です。

具体的には以下のような対応が求められます。

  • 異常所見者のリストアップと産業医・医師への情報提供
  • 産業医による就業判定(通常勤務可・制限付き勤務・要休業など)
  • 再検査・精密検査の受診勧奨と受診確認
  • 長時間労働者や高ストレス者との面談実施

産業医が在籍していない企業では、メンタルカウンセリング(EAP)と組み合わせることで、健診後のフォロー体制を補完することも一つの選択肢です。また、50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられているため、未対応の事業場は早急に体制を整える必要があります。

健診結果の本人通知も忘れずに

労働安全衛生法第66条の6により、健診結果は本人に通知することが義務付けられています。健診票を会社が受け取った後、放置したまま従業員本人に伝えないケースは法令違反です。通知のタイミング・方法も含めて運用ルールを明文化しておきましょう。

実践ポイントのまとめ:今日から始められること

健康診断の受診率を高めるためには、「案内を出す」だけでなく、仕組みとして機能させることが必要です。以下に実践ポイントを整理します。

  • 対象者の正確な把握:週30時間以上のパート・契約社員を含め、健診義務対象者を正確にリストアップする
  • 年度初めの早期スタート:4〜5月に受診計画を立て、受診可能期間を十分に確保する
  • 受診のハードル低減:巡回健診・予約一括代行・受診日の勤務扱い化など、従業員が動きやすい環境を整える
  • 管理職の役割を明確化:未受診者フォローを管理職の業務として位置付け、人事担当者だけに集中しない体制を作る
  • 定期的なリマインド:月1回の状況確認と個別フォローを仕組み化する
  • 費用は会社負担を原則に:自己負担の設定は受診率低下の大きな要因になる
  • 事後措置の整備:健診結果の本人通知・産業医への情報提供・再検査勧奨までを一連のフローとして管理する
  • 健診個人票の5年保存:法定の保存義務を遵守し、紛失リスクのない管理体制を整える

どれか一つを完璧にするより、複数の対策を組み合わせてバランスよく運用することが、受診率の安定的な向上につながります。まずは自社の現状を正直に棚卸しするところから始めてみてください。

受診率の改善と並行して、健診後の対応体制を整えることが従業員の健康を守る経営の基本です。産業医の活用や社外の専門サービスを組み合わせることで、人事担当者の負担を増やさずに実効性のある体制が実現できます。

よくある質問

パートタイム社員にも健康診断を実施する義務はありますか?

はい、週30時間以上(正社員の所定労働時間の4分の3以上)勤務するパートタイム・契約社員については、正社員と同様に一般健康診断を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条)。週20時間以上30時間未満の場合は法律上の義務ではありませんが、努力義務として実施が推奨されています。「パートだから不要」という判断は法令違反につながる可能性があるため、まず対象者の洗い出しを行ってください。

健康診断を実施しなかった場合、どのような罰則がありますか?

労働安全衛生法第120条により、健康診断の実施義務に違反した場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準監督署の調査で指摘を受けるリスクもあります。健診の未実施だけでなく、異常所見者への事後措置を怠ることも別途義務違反となる場合があるため、実施から事後対応まで一連の管理体制を整えることが重要です。

健診費用は会社が全額負担しなければなりませんか?

法律上、健康診断の費用は事業者が負担することが原則とされています。従業員への自己負担の課し方については明確な禁止規定があるわけではありませんが、費用を従業員負担にすることで受診意欲が大きく下がることが実務上確認されています。また、受診に要した時間の賃金支払いについては法律上の義務規定はないものの、受診日を勤務扱いにすることが受診率向上に効果的とされています。

健診結果の個人票はどのくらいの期間保存する必要がありますか?

労働安全衛生規則第51条により、健康診断の個人票は5年間の保存が義務付けられています。紙での管理が属人化しているケースでは、担当者の異動や退職時に紛失するリスクがあります。電子データ化や健診管理システムの活用など、継続的に保存できる体制を整えることをお勧めします。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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