「特定健診と定期健診、どちらが義務?中小企業が混同しがちな2つの健診を徹底比較」

「特定健診と定期健診、どちらも健診なので同じものだろう」と思っている経営者・人事担当者は少なくありません。しかし、この二つは根拠となる法律も、実施義務を負う主体も、対象となる従業員の範囲もまったく異なります。混同したまま運用を続けると、法令違反のリスクを抱えるだけでなく、保険者側にペナルティが生じる可能性もあります。

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が実務で迷いやすいポイントを整理しながら、特定健康診査(特定健診)と定期健康診断(定期健診)の違いをわかりやすく解説します。

目次

特定健診と定期健診は「根拠法令」から異なる

まず、それぞれの法的な位置づけを確認しましょう。二つの健診は、根拠とする法律がまったく別物です。

定期健康診断とは

定期健康診断は、労働安全衛生法第66条および労働安全衛生規則第44条に基づく制度です。実施義務を負うのは事業者(会社)であり、常時使用する労働者に対して年1回(有害業務従事者は年2回)実施しなければなりません。

検査項目は問診・身体計測・血圧・血液検査・胸部X線・尿検査など11項目が定められています。費用は会社負担が原則であり、健診結果は5年間の保存義務があります。また、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、健康診断結果報告書を労働基準監督署(労基署)へ提出する義務があります。

特定健康診査(特定健診)とは

特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律第20条に基づく制度です。実施義務を負うのは保険者(健保組合・協会けんぽ等)であり、40歳から74歳までの医療保険加入者(被保険者および被扶養者)を対象とします。

目的はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の早期発見と予防です。費用は保険者が負担するのが基本であり、会社が費用を直接負担するものではありません。結果データは保険者が管理し、国への報告義務を保険者が負います。また、結果に応じて特定保健指導(積極的支援・動機付け支援)を保険者が実施する義務があります。

この二つを整理すると、「会社が主体で行う職域の健診」が定期健診、「保険者が主体で行う医療費適正化のための健診」が特定健診という位置づけになります。

対象者の範囲はどう違うのか――パート・アルバイトの扱いに注意

実務上、特に混乱しやすいのが対象者の範囲です。雇用形態によって、どちらの健診が適用されるかが変わります。

定期健診の対象者

定期健診の対象は「常時使用する労働者」です。正社員はもちろん、週所定労働時間の4分の3以上働くパートタイム労働者も対象に含まれます。年齢制限はなく、雇用形態よりも「働く時間の長さ」によって判断されます。

「パートやアルバイトは対象外」と思い込んでいる会社は少なくありませんが、これは誤りです。要件を満たすパート従業員に健診を実施していない場合、法令違反となりますので注意が必要です。

特定健診の対象者

特定健診の対象は40歳から74歳の医療保険加入者です。従業員本人だけでなく、その被扶養配偶者等も対象となります。ただし、被扶養者への案内は保険者が直接行うため、会社が直接実施するわけではありません。

重要なのは、社会保険に加入しているパート従業員は特定健診の対象にもなりうるという点です。短時間労働でも社会保険の加入要件を満たしている場合、40歳以上であれば特定健診の対象者となります。雇用形態ごとに両健診の対象かどうかを整理しておくことが、実務管理の基本となります。

定期健診と特定健診は「一本化」できる――ただし手続きが必要

「二種類の健診を別々に実施しなければならないのか」と心配される担当者もいますが、一定の条件を満たせば一本化(みなし実施)が可能です。

定期健診の検査項目は特定健診の検査項目を内包しているため、適切に定期健診を実施することで特定健診を代替できます。ただし、「定期健診を受けた=自動的に特定健診も完了」とはなりません

みなし実施として認めてもらうには、健診結果のデータを保険者(協会けんぽ等)へ提供する手続きが必要です。具体的には以下のステップが求められます。

  • 従業員から健診結果データの提供に関する同意書を取得する
  • 同意を得た従業員の健診結果を、保険者が定めた形式・期限に従って提出する
  • 提出後、保険者側で「特定健診実施」として記録される

この手続きを怠ると、定期健診を実施していても特定健診は「未実施」扱いとなります。保険者の特定健診実施率が下がると、後期高齢者医療への支援金が増額されるペナルティが保険者に課されることがあります。直接的には保険者の問題ですが、保険料率や労使関係への影響という形で企業にも無関係ではありません。

一本化の手続きや保険者へのデータ提供に不安がある場合は、産業医サービスを活用して健診管理体制を整えることも有効な選択肢の一つです。

費用負担と労働時間の取り扱い――経理処理での混同に注意

二つの健診は費用負担の仕組みも異なります。経理担当者が混同しないよう、明確に区分して管理することが重要です。

定期健診の費用

定期健診の費用は事業者(会社)が負担することが原則です。従業員に自己負担させることは、原則として認められていません。なお、受診にかかる時間については、厚生労働省の行政解釈として労働時間として取り扱うことが望ましいとされています。

特定健診の費用

特定健診の費用は保険者が負担するものです。一部自己負担が生じる場合もありますが、基本的に会社が費用を負担するものではありません。定期健診とは費用の性質が異なるため、経理処理の際は区分して扱う必要があります。

特定保健指導への対応

特定健診の結果によっては、従業員が特定保健指導の対象となる場合があります。特定保健指導とは、メタボリックシンドロームのリスクが高い人に対して、保険者が生活習慣改善のサポートを行うプログラムです(積極的支援・動機付け支援の2段階)。

実施主体は保険者ですが、従業員が指導を受けやすい環境を整えることは会社の協力義務に含まれます。指導のための時間確保や場所の提供など、できる範囲でのサポートが求められます。

未受診者対応と管理体制の構築

健診の実施率を上げることは、法令遵守の観点からも従業員の健康管理の観点からも重要です。未受診者への対応フローを社内で明確化しておくことが、実務上のリスク管理につながります。

定期健診の未受診者への対応

定期健診は会社が実施義務を負うため、未受診者がいる場合は会社の管理責任が問われます。受診の督促記録を残し、受診の機会を複数回設けるなど、適切な対応を取ったことを文書で証明できる状態にしておくことが重要です。

特定健診の未受診者への周知

特定健診の実施義務は保険者にありますが、従業員への周知を補助することは会社にとっても意義があります。特に被扶養配偶者への案内は保険者が行いますが、従業員を通じて受診を促すアナウンスを行うことで受診率向上に貢献できます。

健診管理の体制づくりに課題を感じている場合は、メンタルカウンセリング(EAP)と組み合わせながら、従業員の健康管理を包括的にサポートする仕組みを検討することも一つのアプローチです。

実践ポイント:今日から取り組める管理体制の整備

特定健診と定期健診の違いを踏まえて、実務担当者が優先的に取り組むべき事項を整理します。

  • 対象者リストの整備:雇用形態・年齢・社会保険加入状況をもとに、定期健診と特定健診それぞれの対象者を明確に分類する
  • 保険者との連携確認:協会けんぽや健保組合と連絡を取り、定期健診結果のデータ提供手続き(みなし実施)の方法と期限を確認する
  • 同意書の取得・管理:健診結果データの保険者提供について従業員の同意を得る手続きを社内フローに組み込む
  • 費用区分の明確化:定期健診(会社負担)と特定健診(保険者負担)の費用を経理上で区別して処理する
  • 未受診者対応の文書化:督促の記録・受診機会の提供状況など、対応の証跡を残せる仕組みを整える
  • 特定保健指導の受けやすい環境整備:対象者が指導を受けるための時間・場所の確保を検討する
  • 50人以上の事業場は報告義務を確認:定期健診結果報告書の労基署提出期限を把握し、年間スケジュールに組み込む

まとめ

特定健診と定期健診は、名称が似ているだけで根拠法令・実施義務者・対象者・費用負担のすべてが異なります。定期健診は会社が実施義務を負う労働安全衛生法上の制度であり、特定健診は保険者が実施義務を負う医療費適正化のための制度です。

両健診は一本化して効率的に運用できますが、そのためには保険者へのデータ提供手続きが不可欠です。手続きを省略したまま「定期健診をやっているから大丈夫」と思い込むことが、最も多い失敗パターンです。

まずは自社の対象者リストと保険者との連携状況を確認し、不備があれば早めに整備することをおすすめします。健診管理の仕組みを一から整えたい場合は、専門家のサポートを活用することも有効な手段です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 特定健診と定期健診は別々に実施しなければなりませんか?

定期健診を適切に実施し、健診結果データを保険者(協会けんぽ等)へ提供する手続きを行えば、定期健診を特定健診の「みなし実施」とすることができます。ただし、データ提供の手続きを行わなければ自動的には代替されないため、保険者と連携して必要な手続きを確実に行う必要があります。

Q2. パートタイム従業員は定期健診の対象になりますか?

週所定労働時間が正社員の4分の3以上であるパートタイム労働者は、定期健診の対象となります。また、社会保険に加入しており40歳以上74歳以下であれば特定健診の対象にもなります。「パートは対象外」という思い込みによる法令違反が起きやすい点ですので、雇用形態ごとに対象者を正確に把握することが重要です。

Q3. 特定健診の費用は会社が負担するのですか?

特定健診の費用は保険者(健保組合・協会けんぽ等)が負担するものであり、基本的に会社が直接費用を負担するものではありません。一方、定期健診の費用は会社負担が原則です。この二つを混同して経理処理してしまうケースがありますので、費用の性質を正確に区分して管理してください。

Q4. 健診未受診者が出た場合、会社にはどのような責任がありますか?

定期健診は会社が実施義務を負うため、対象者が受診できるよう適切な機会を提供したことを記録として残しておくことが重要です。複数回の受診機会の設定や督促の記録を文書化しておくことで、会社として適切な対応を取ったことの証明になります。なお、従業員が正当な理由なく受診を拒否した場合でも、会社が受診の機会を提供した記録があることが重要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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