「うちは女性社員も多いし、何かしないといけないのはわかっているけれど、何から手をつければいいのか……」
中小企業の経営者・人事担当者の方から、このような声をよく耳にします。女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は2015年に制定され、2022年の改正を経て義務の範囲が拡大しました。しかし、「自社が対象になるかどうかわからない」「計画は作ったが形骸化している」「何をどこに公表すればいいかわからない」といった悩みを抱えている企業は少なくありません。
本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべき対応義務の全体像を、企業規模別に整理しながら実務的な視点でわかりやすく解説します。「まず何をすべきか」を明確にするための指針としてお役立てください。
女性活躍推進法の対象企業と義務の範囲
女性活躍推進法の対応義務は、常時雇用する労働者数によって異なります。まず自社がどの区分に該当するかを正確に把握することが出発点です。
「常時雇用する労働者」のカウント方法
労働者数を算定する際、パートタイム労働者・アルバイト・契約社員なども常時雇用に含まれます。一方、派遣社員は派遣元企業でカウントするため、派遣先はカウントしないのが原則です。また、グループ企業であっても各社ごとに判断するため、連結での合算はしません。
「正社員しか数えていなかった」という誤りは実務でよく見られます。パートや契約社員を含めた実態での人数確認を最初に行いましょう。
企業規模別の義務一覧
常時雇用する労働者が101人以上の企業には、以下の対応が法的義務として課されています。
- 自社の状況把握・課題分析
- 一般事業主行動計画の策定・届出
- 行動計画の社内周知および外部公表
- 女性活躍に関する情報の公表
一方、常時雇用100人以下の企業については、これらはいずれも努力義務とされています。ただし、努力義務であるからといって無関係ではありません。取引先からの評価や求職者の企業選びに影響するケースもあり、将来的な義務化の動向も踏まえて早期から取り組む姿勢が経営上の強みになりえます。
さらに、常時雇用301人以上の企業には、2022年7月施行の改正により男女の賃金差異の公表が義務化されています。これは全労働者・正規・非正規の3区分について開示が必要です。中規模から大規模に成長しつつある企業は特に注意が必要です。
状況把握・課題分析で整備すべきデータ
行動計画を策定する前提として、自社の現状を数値で把握することが求められます。法律上、状況把握の必須項目(基礎項目)は以下の4つです。
- 採用した労働者に占める女性労働者の割合
- 男女の平均継続勤務年数の差異
- 労働時間の状況(所定外労働時間など)
- 管理職に占める女性労働者の割合
101〜300人規模の企業はこれら4項目に加え、選択項目から1項目以上を追加します。301人以上の企業は基礎項目全てに加えて選択項目から2項目以上の把握が求められます。
データ収集で注意すべき実務ポイント
実務上、特に「管理職」の定義が社内で曖昧になっているケースがあります。課長代理やプレイングマネージャー(管理職でありながら現場業務も担う職位)を管理職に含めるかどうかで、数値が大きく変わることがあります。集計前に社内で定義を統一しておくことが重要です。
また、勤怠システムや人事台帳から男女別データを抽出できる体制が整っていない場合は、まずその仕組みづくりから始めることが必要です。数値は毎年更新し、推移を継続的にモニタリングすることで実効性のある改善につながります。
行動計画の策定・届出・公表の実務手順
行動計画に盛り込むべき内容
行動計画には、以下の4点を記載することが法律上求められています。
- 計画期間(一般的に2〜5年)
- 数値目標(必須)
- 取り組みの内容
- 取り組みの実施時期
策定で陥りがちな失敗は、数値目標が「管理職比率を向上させる」といった抽象的な表現になっていることや、取り組み内容が「研修を実施する」という曖昧なものにとどまっていることです。「何を」「いつまでに」「どの水準まで」行うかを具体的に記載することが、実効性ある計画の条件です。
数値目標は、現状の実績から見て「達成できないほど高すぎず、努力しなくても達成できるほど低くない」水準に設定することが求められます。また、経営トップが計画にコミットしていることを明示しておくと、社内のPDCA(計画・実行・評価・改善のサイクル)が回りやすくなります。
届出先と手続きの方法
行動計画の届出先は、都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))です。厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」からオンラインで電子申請することも可能で、同データベースへの情報公表も併せて行えます。行動計画は策定後速やかに届け出る必要があり、計画を変更した際にも届出が必要です。
情報公表の義務内容
情報公表は「職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活の両立」の2分野から、それぞれ1項目以上を公表する必要があります。公表先は、厚生労働省の女性の活躍推進企業データベース、または自社ホームページのいずれかです。
301人以上の企業については、これに加えて男女の賃金差異(全労働者・正規・非正規の3区分)の公表が義務となっています。計算方法は「女性の平均賃金÷男性の平均賃金×100」をパーセントで表示する形式で、賞与や各種手当も含めて算出します(通勤手当は除く場合があります)。
えるぼし認定・プラチナえるぼし認定の活用
行動計画を届け出た企業が一定の基準を満たすと、厚生労働大臣から認定を受けることができます。これがえるぼし認定(1〜3段階)およびプラチナえるぼし認定(えるぼし3段階取得後、さらに実績要件を満たす最上位認定)です。
認定取得のメリット
- 公共調達での加点:厚生労働省など政府機関の調達における総合評価での加点対象になります
- 融資優遇:日本政策金融公庫などの融資で優遇措置が受けられる場合があります
- 採用ブランディング:認定ロゴを自社の求人広告や名刺に使用でき、求職者への訴求力が高まります
中小企業にとって特に採用面でのメリットは大きく、「女性が働きやすい環境を整えている企業」として差別化できることは、人材確保が課題となっている昨今において実質的な競争力につながります。
なお、2025年3月末まで時限立法とされている本法律については、現時点では延長に向けた議論があると報告されていますが、今後の国会審議や法改正の動向を引き続き注視することが必要です。認定制度の仕組みも変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省の公式サイトや都道府県労働局に確認するようにしてください。
実践ポイント:中小企業が今すぐ取り組めること
対応義務を把握したうえで、実務的に取り組みを進めるための具体的な手順を整理します。
- STEP1:常時雇用労働者数を正確に確認する——パート・アルバイト・契約社員を含めた実態人数を把握し、101人以上か100人以下かを確認します
- STEP2:基礎4項目のデータを収集・整理する——採用比率・継続勤務年数の差異・労働時間・管理職比率を男女別に集計します。管理職の定義はあらかじめ社内で統一してください
- STEP3:課題を言語化して数値目標を設定する——データを見て「何が課題か」を明確にし、2〜5年の計画期間で達成可能かつ意欲的な目標を設定します
- STEP4:具体的な取り組みを行動計画に落とし込む——「研修を実施する」ではなく「○月までに管理職候補の女性社員向けキャリア面談を全員に実施する」など、実施時期と担当部署を明記します
- STEP5:届出・社内周知・情報公表を行う——都道府県労働局への届出後、社内全体への周知と、データベースまたは自社HPへの公表を行います
- STEP6:毎年データを更新してPDCAを継続する——一度作って終わりにせず、年1回はデータを更新し、目標達成状況を評価・見直しする仕組みをつくります
「昇進を希望しない女性社員にはどう対応するか」という問いも現場ではよく聞かれます。女性活躍推進の目的は、希望を持つ女性が能力を発揮できる環境を整えることにあり、全員に昇進を強制することではありません。ただし、「希望しない」背景に職場環境や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が影響していないかを確認する視点も重要です。
社員のキャリアや心理的な課題に向き合う仕組みとして、メンタルカウンセリング(EAP)の導入は、女性社員が安心してキャリアの悩みを相談できる環境づくりにも役立ちます。専門家への相談窓口を整備することが、実効性ある取り組みの一助となります。
まとめ
女性活躍推進法への対応は、罰則を避けるための義務履行にとどまらず、人材の定着・採用力の強化・職場環境の改善という経営上のメリットをもたらす取り組みです。
まず自社の労働者数を正確に把握し、101人以上であれば状況把握・行動計画策定・届出・情報公表という一連のステップを着実に進めてください。100人以下の企業も、努力義務の範囲で今から体制を整えておくことが、将来的な義務化への対応や採用市場での差別化につながります。
専門家のサポートを活用しながら、形骸化しない実効性ある取り組みを継続することが、長期的な企業競争力の源泉となります。自社の産業保健体制の整備と合わせて、産業医サービスの活用も検討しながら、従業員が安心して働ける職場環境の構築を進めてください。
よくある質問(FAQ)
常時雇用101人以上の企業が行動計画を届け出なかった場合、罰則はありますか?
女性活躍推進法では、都道府県労働局長による勧告制度が設けられており、勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性があります。直接的な罰金などの罰則規定とは異なりますが、社会的信用への影響は無視できません。届出を怠ることで認定制度の利用や公共調達での加点を受けられなくなるデメリットもあるため、義務対象企業は速やかな対応が求められます。
行動計画の計画期間はどれくらいに設定するのが適切ですか?
法律上は明確な上限規定はありませんが、2〜5年が一般的な目安とされています。短すぎると取り組みが深まらず、長すぎると実態に即した見直しが難しくなります。初めて策定する場合は、まず2〜3年の計画を立てて実績を積み、次期計画でより精度の高い目標設定を行うという方法も有効です。
男女の賃金差異の公表義務は、101〜300人規模の企業にも適用されますか?
2022年7月施行の改正で義務化された男女の賃金差異の公表は、現時点では常時雇用301人以上の企業が対象です。101〜300人規模の企業への適用については、今後の法改正の動向を注視することが必要です。なお、101〜300人規模でも情報公表項目の選択肢として賃金差異を任意で公表することは可能です。








