【保存版】休職者が出たら何をすべき?給与・傷病手当金・社会保険料の実務対応を完全解説

社員が体調を崩して長期休職に入ったとき、経営者や人事担当者が最初に直面するのは「給与はどうすればよいのか」「傷病手当金とはどう関係するのか」という疑問です。特に人事専任担当者を置けない中小企業では、こうした手続きが初めての経験になることも少なくありません。

法律の定めと就業規則の内容、そして実際の申請手続きを正確に理解しておかなければ、会社と社員の双方が不利益を被るリスクがあります。本記事では、休職中の給与・傷病手当金の実務的な取り扱いを、中小企業の現場で即座に活用できるレベルで整理してお伝えします。

目次

休職中の給与支払いは法律で義務付けられているのか

結論から申し上げると、病気やケガによるいわゆる「私傷病休職」において、会社に給与を支払い続ける法律上の義務はありません。

労働基準法第26条には「休業手当」の規定がありますが、これは会社都合による休業に適用されるものです。社員本人の私傷病を原因とする休職は会社都合には当たらないため、この条文は適用されません。

では、休職中の給与をどのように扱えばよいのでしょうか。その答えは就業規則の定めにあります。就業規則に「休職中は無給とする」と明記されていれば無給での処理が適法であり、「基本給の○割を支給する」と規定があれば、その水準で支払う必要があります。就業規則に何も定めがない場合は、「働いていない日には賃金が発生しない」という「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、無給となるのが一般的です。

よくある現場の失敗として、明確な規定がないまま「これまでの慣例」として給与を支払い続けてしまうケースがあります。後から無給に変更しようとすると、就業規則の不利益変更として労使トラブルに発展する可能性があります。まだ規定が整備されていない場合は、早急に就業規則の見直しを行うことをお勧めします。

傷病手当金の仕組みと支給要件を正確に理解する

「傷病手当金」とは、健康保険法第99条に基づく給付制度で、業務外の病気やケガで働けなくなった社員を経済的に支える仕組みです。会社の給与とは独立した制度であり、申請・受給の主体はあくまで社員本人です。「傷病手当金は会社が申請して会社が受け取るもの」という誤解が一部の現場で見られますが、これは明確に誤りです。

支給を受けるための4つの要件

  • 業務外の傷病によること:業務上のケガや病気は労災保険の対象となるため、傷病手当金は対象外です。
  • 労務不能であること:主治医が「仕事ができない状態にある」と判断していることが前提です。
  • 待期期間(3日間)を満たしていること:連続して3日間欠勤した後、4日目から支給の対象となります。有給休暇を使った日も待期期間に算入されます。
  • 報酬を受けていない日(または報酬が手当金より少ない日)であること:給与が全額支払われている期間は支給されません。

支給額と支給期間

支給額の計算式は以下のとおりです。

支給開始日以前12ヶ月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3

標準報酬月額とは、社会保険料の計算に使われる給与の区分値です。おおよそ月給の3分の2相当が毎月受け取れる計算になります。

支給期間については、2022年1月の法改正により、「支給開始日から最長1年6ヶ月」から「通算1年6ヶ月」に変更されました。この改正により、途中で復職して再び休職した場合でも、支給を受けた日数の合計が1年6ヶ月に達するまで受給できるようになっています。

なお、国民健康保険には傷病手当金制度がありません(一部自治体が独自に実施している場合を除きます)。このため、社員が健康保険の被保険者でなくなると受給できなくなる点も覚えておきましょう。

傷病手当金の申請実務:会社が担うべき作業とは

傷病手当金は社員本人が申請するものですが、会社が申請書の一部を記載する必要があります。実務上は会社が書類を取りまとめて協会けんぽや健康保険組合に提出する流れが一般的です。

申請書の構成と会社記載欄の内容

申請書は主に次の3つのパートで構成されています。

  • 被保険者(社員本人)記入欄:氏名・住所・申請期間・口座情報など
  • 事業主(会社)記入欄:申請期間中の出勤・欠勤状況、報酬支払いの有無と金額、事業主の証明・押印
  • 医師の意見書欄:主治医が「労務不能であった期間」を記載する欄(会社は記載しません)

会社の記入欄でよく問われるのが「報酬の支払い状況」です。無給の場合は「支払いなし」と明記します。一部給与を支払っている場合は金額を正確に記載します。給与が傷病手当金の金額を下回る場合は差額分が支給され、上回る場合は支給されません。

申請は一般的に月単位で行います。過去分の申請も2年の時効内であれば遡って申請できます。書式や提出先は協会けんぽと健康保険組合で異なるため、社員が加入している保険者に確認することが必要です。

社員への案内は早めに行う

傷病手当金の案内は法律上の義務ではありませんが、「知らなかったために受け取れなかった」という後からのトラブルを防ぐためにも、休職開始時に速やかに社員本人へ案内することを強くお勧めします。特に初めて長期休職をする社員は、この制度の存在自体を知らないケースが多くあります。

社員のメンタルヘルス支援の一環として、メンタルカウンセリング(EAP)を活用することで、休職に至る前の早期対応や休職中のサポートを組織的に提供できます。

休職中の社会保険料と有給休暇の扱い

社会保険料は休職中も継続して発生する

休職中であっても、社員は健康保険・厚生年金の被保険者であり続けます。そのため、給与の支払いがない月でも、会社・社員双方の社会保険料の負担義務は継続します。

育児休業中は社会保険料の免除制度がありますが、私傷病による休職にはこの免除制度は適用されません。このことを知らずに「育休と同じ扱いで免除になる」と誤認しているケースも見受けられます。

給与がゼロの月は、本来給与から天引きするはずだった社員負担分の保険料を会社が立替払いし、後日社員から回収する方法が一般的です。この回収ルールは、トラブルを防ぐために事前に書面(振込依頼書・誓約書など)で合意を得ておくことが重要です。

また、復職後の給与から分割控除する場合は、労使協定(賃金控除協定)の締結が必要です。根拠なく控除すると、労働基準法に抵触する可能性があります。休職規程にこの精算ルールをあらかじめ明記しておくと、実務上の混乱を防げます。なお、雇用保険料は給与の支払いがない場合には発生しません。

有給休暇と休職の順序をどう扱うか

有給休暇(年次有給休暇)は、労働者から請求があれば休職前・休職中を問わず取得させる義務があります。ただし、会社が「有給休暇をまず消化してから休職に入るように」と強制することはできません。

実務上は、社員に対して有給休暇の選択肢があることを説明し、本人の意向を確認したうえで書面で申請を受ける形が適切です。有給休暇を消化している期間は給与が支払われるため、その期間中は傷病手当金は支給されません(ただし待期期間への算入は可能です)。

休職期間満了と復職・退職時の実務対応

復職の判断には就業規則上の手順を設ける

休職期間が長引いた場合、最終的には「復職できるのか」「このまま退職・解雇になるのか」という判断が必要になります。この判断を曖昧なまま進めると、後に労使紛争に発展するリスクがあります。

復職可否の判断プロセスは就業規則に明記しておくことが重要です。主治医の診断書、必要に応じた産業医の意見、会社側の職場環境確認といった手順を定めておきましょう。産業医が関与することで、医学的な観点から客観的な判断を得やすくなります。産業医サービスの活用は、こうした復職判断の場面でも大きな助けになります。

退職後も傷病手当金を受け取れる場合がある

休職期間が満了し、退職(自然退職)または解雇となった場合でも、条件を満たせば「資格喪失後の継続給付」として傷病手当金を引き続き受給できます。主な条件は次のとおりです。

  • 資格喪失(退職)の日の前日まで継続して1年以上の健康保険の被保険者期間があること
  • 資格喪失時に傷病手当金を受給中または受給できる状態にあること

退職する社員に対しても、この継続給付の仕組みを案内することで、退職後のトラブルを未然に防ぐことができます。

実践ポイント:休職対応を属人化させないための整備事項

中小企業では、人事担当者が専任でないケースも多く、休職対応が特定の担当者に属人化してしまう問題があります。以下のポイントを整備しておくことで、組織としての対応力を高めることができます。

  • 就業規則の休職規定を整備する:給与支給の有無・水準、休職期間の上限、社会保険料の精算ルール、復職判断の手順を明記する
  • 休職命令書を書面で交付する:開始日・期間・条件を文書化し、双方が確認したことを記録として残す
  • 傷病手当金の案内を休職開始時に行う:案内した記録(メール等)も残しておくと安心です
  • 社会保険料の立替・回収についての書面合意を得る:休職開始時に振込依頼書や誓約書を交わす
  • 申請書類のフォーマットをあらかじめ準備する:協会けんぽ・健保組合の書式を社内に保管しておく
  • チェックリストを作成する:担当者が変わっても対応できるよう、手順をリスト化して標準化する

まとめ

休職中の給与・傷病手当金の取り扱いは、法律の知識と実務の両方を組み合わせた判断が求められます。重要なポイントを改めて整理します。

  • 私傷病による休職中の給与支払いは法律上の義務ではなく、就業規則の定めに従う
  • 傷病手当金は社員本人が申請・受給するものであり、会社は申請書の一部(事業主記入欄)を記載する役割を担う
  • 支給額は標準報酬月額の約3分の2相当で、通算1年6ヶ月が支給上限(2022年1月改正後)
  • 社会保険料は休職中も継続発生し、私傷病休職には育休のような免除制度がない
  • 社会保険料の立替・回収ルールと復職判断の手順は、就業規則に事前に明記しておく

これらの対応を「その都度考える」のではなく、制度として整備しておくことが、中小企業における安定した労務管理の土台となります。社員が安心して療養に専念できる環境を整えることは、職場全体の信頼関係を築くうえでも重要な経営上の取り組みです。

よくある質問(FAQ)

休職中に給与を一切支払わなくても問題はないのでしょうか?

就業規則に「休職中は無給とする」と定められていれば、法律上の問題はありません。ただし、規定がないまま慣例的に支払い続けた実績がある場合は、後から無給に変更するとトラブルになる可能性があります。まず自社の就業規則を確認し、不明確な場合は専門家に相談のうえ整備することをお勧めします。

傷病手当金の申請書に会社として何を記載すればよいですか?

事業主記入欄には、申請期間中の出勤・欠勤状況、報酬(給与)の支払いの有無と金額、そして事業主の証明(署名・押印)を記載します。医師の意見書欄は主治医が記載する欄であり、会社が記入する箇所ではありません。書式は協会けんぽと健康保険組合で異なるため、加入している保険者に確認してください。

休職中の社会保険料は会社と社員のどちらが負担しますか?

休職中も会社・社員双方の保険料負担義務は継続します。給与が支払われない月は、会社が社員負担分を立て替えて支払い、後日社員から回収するのが一般的な処理方法です。回収ルールは事前に書面で合意を得ておくことが重要であり、復職後の給与から分割控除する場合は労使協定(賃金控除協定)の締結が必要です。

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