「コロナ後の安全衛生管理、まだ旧ルールのまま?中小企業が今すぐ見直すべき7つのポイント」

新型コロナウイルス感染症が2023年5月に感染症法上の5類へ移行して以降、多くの企業では「コロナ対応モード」から通常の事業運営へと切り替えが進んでいます。しかし、現場の実態を見ると、コロナ禍が残した課題はまだ解決されていないケースが少なくありません。安全衛生委員会の機能が低下したまま、テレワーク社員の健康状態が十分に把握できていない、ストレスチェックは実施しているものの高ストレス者への対応が後回しになっている——こうした状況に心当たりのある経営者・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、コロナ禍後の中小企業が直面する安全衛生管理の新しい課題を整理し、限られた人員・予算の中でも実行できる具体的な対処法を解説します。

目次

コロナ禍後に噴出した「先送り課題」の正体

コロナ禍の3年間、多くの中小企業の安全衛生担当者(多くは総務・人事の兼務)は、感染防止対策の対応に追われました。マスクや消毒液の調達、時差出勤や在宅勤務のルール整備、濃厚接触者発生時の対応フロー策定など、従来の安全衛生活動の枠を超えた業務が次々と発生したのです。

その結果として生じたのが、「本来やるべき安全衛生活動の停滞」です。現場でのKY活動(危険予知活動)やヒヤリハット報告は中断し、安全衛生委員会は感染対策の情報共有の場として機能する一方、本来の議題である職場環境改善や健康管理は後回しになりました。5類移行後もこの状態が続いているとすれば、それは単なる「惰性」ではなく、組織として取り組むべき構造的な問題です。

加えて、テレワークの定着により、従業員の健康状態や働き方の変化が「見えにくく」なっています。オフィス勤務であれば管理職が日常の会話の中で気づくことができた体調不良や精神的な不調も、在宅勤務中は発見が遅れる可能性があります。コロナ禍後の安全衛生管理は、こうした複合的な課題に同時に対処することが求められているのです。

テレワーク環境の安全衛生管理:法的義務と実務対応

「テレワーク中の従業員の安全衛生は、事業者の管理が及ばない」と誤解している経営者・担当者も少なくありません。しかし、労働安全衛生法第3条は、事業者が快適な職場環境を形成する義務を負うと定めており、これはテレワーク中の環境にも適用されると解釈されています。厚生労働省が2021年に策定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」も、事業者はテレワーク中の労働者の安全衛生管理を怠ってはならないと明示しています。

では、具体的に何をすべきでしょうか。まず取り組みやすいのが、在宅作業環境チェックリストの活用です。厚生労働省が公開している様式を使い、在宅勤務者全員に配布・回収・確認する流れを作ることが推奨されています。チェック項目としては、デスクと椅子の高さが適切か、モニターとの距離が確保されているか、照明は十分かといった内容が含まれます。

VDT作業(ディスプレイを使った作業)については、厚生労働省のガイドラインで1時間に10〜15分程度の休憩を取ることが推奨されています。在宅勤務者は移動や雑談といった自然な「中断」が少ないため、眼精疲労や腰痛、肩こりのリスクが高まりやすい傾向があります。こうした作業環境に関する情報を社内報やチャットツールで定期的に周知するだけでも、意識的な改善につながります。

労働時間管理も重要な課題です。テレワーク中は「仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすい」ため、長時間労働に気づかないまま過重労働が蓄積されるリスクがあります。PCのログ記録や勤怠管理システムを活用して、客観的に労働時間を把握する仕組みを整えることが、過重労働防止の第一歩となります。

メンタルヘルス対策:形式的実施からの脱却

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、労働安全衛生法第66条の10に基づき、年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています(50人未満の事業場は努力義務)。多くの中小企業ではこの実施自体は行われていますが、問題はその後の対応です。高ストレス者と判定された従業員への産業医による面接指導の申出案内が形式的になっている、あるいは面接後のフォローが不十分なケースが散見されます。

コロナ禍後のメンタルヘルス課題として特に注目すべき点が、いくつかあります。

  • 在宅勤務者の孤立と燃え尽き症候群(バーンアウト):出社頻度が低い従業員は、同僚や上司との雑談や自然なコミュニケーションが減少します。成果は出しているのに虚無感を感じる、仕事への意欲が急に失われるといった変化は、バーンアウトのサインである可能性があります。
  • 職場の人間関係の希薄化とハラスメントリスクの変質:対面コミュニケーションが減ることで、上司・部下・同僚間の関係が薄くなる一方、チャットや電子メールでのやり取りにおいて言葉のニュアンスが伝わりにくくなることで、意図せずハラスメントが生じるリスクもあります。
  • コロナ後遺症(Long COVID)への配慮:倦怠感・集中力の低下・息切れなど、コロナ感染後も長期にわたって症状が続く「コロナ後遺症」を抱える従業員への対応は、現時点では法令上の明確な規定が少ない状況です。主治医や産業医の意見書を踏まえ、事業者が総合的に就業配慮の内容を判断することが求められます。後遺症による機能障害がある場合には、障害者差別解消法の合理的配慮(障害のある人が困らないよう、個人の状況に応じた調整を行うこと)の観点からの検討も必要になる場合があります。

メンタルヘルスの維持には、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が示す「4つのケア」が参考になります。セルフケア(本人自身による気づきと対処)、ラインケア(管理職による部下のケア)、事業場内産業保健スタッフによるケア、外部機関の活用という4層の仕組みを、自社の規模に応じて整えることが重要です。

安全衛生委員会の再活性化:機能回復の具体策

労働安全衛生法第17・18条は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、安全委員会・衛生委員会(または安全衛生委員会)の設置を義務付けています。コロナ禍では多くの事業場でこの委員会がオンライン開催に移行しましたが、議題がコロナ対策に偏り、本来の機能が低下したまま今日に至っているケースが少なくありません。

再活性化に向けた実務的なポイントは以下の通りです。

  • テレワーク者を含めた議題設定:在宅勤務者の作業環境や労働時間の問題、メンタルヘルスの現状といった「見えにくい職場」の課題を積極的に議題に取り上げることで、委員会の実効性が高まります。
  • 衛生管理者・産業医の役割の明文化と周知:誰がどのような場面で相談窓口になるのかを従業員に分かりやすく伝えることが重要です。産業医面談の申込方法、相談内容の守秘義務についても、入社時や定期的に改めて周知するようにしましょう。
  • KY活動・ヒヤリハット報告の段階的再開:コロナ禍で中断した活動を無理なく再開するには、まず小さな単位(特定の部署や作業工程)から始め、成功事例を横展開する方法が有効です。
  • 地域産業保健センター(地さんぽ)の活用:50人未満の小規模事業場では、産業医の選任義務がなく、専門家のサポートが得にくい状況があります。各都道府県に設置されている地域産業保健センターでは、産業保健に関する相談対応・産業医の紹介・各種研修などを無料または低コストで提供しています。積極的に活用することをお勧めします。

感染症リスクへの備え:「やめ時」の判断とBCP整備

2023年5月の新型コロナ5類移行以降、事業者に課されていた法的な感染防止対応義務は大幅に縮小されました。一方で、「マスクをやめていいのか」「消毒作業はいつまで続けるべきか」という判断に迷っている現場も多いようです。

感染防止対策の「継続・縮小・廃止」の判断は、地域の感染状況、職場の特性(高齢者・基礎疾患を持つ従業員の割合など)、従業員の意向を踏まえ、事業者が合理的に判断することになります。法令上の義務がなくなったとしても、従業員が安心して働ける環境を整えることは、労働安全衛生法第3条が定める「快適な職場環境の形成」の観点からも重要です。

また、次のパンデミックへの備えとして、BCP(事業継続計画)の整備を検討している企業も増えています。BCPとは、大規模な災害や感染症の流行など、通常の業務継続が困難になった場合に、事業を継続または早期に復旧するための計画のことです。コロナ禍の経験を踏まえ、感染症を想定した項目(在宅勤務移行手順、重要業務の絞り込み、従業員の健康管理フローなど)をBCPに盛り込むことが、今後のリスク管理として有効です。中小企業庁が提供するBCP策定の手引きも参考にしながら、まず骨格だけでも整備しておくことをお勧めします。

実践ポイント:今すぐ着手できる5つのアクション

ここまで解説してきた内容を踏まえ、特に人手が限られた中小企業が優先して取り組むべき実践ポイントを整理します。

  • 在宅作業環境チェックリストの実施:厚生労働省が公開している様式を活用し、テレワーク者全員に配布・回収・確認する機会を設けます。問題が見つかった場合の改善策(椅子の購入補助など)についても検討しておきましょう。
  • ストレスチェック結果の活用見直し:実施自体は行われていても、高ストレス者への産業医面接案内が形骸化していないか確認します。面接申出のハードルを下げる工夫(匿名性の保証・申出方法の簡略化)も効果的です。
  • 管理職向けのラインケア研修の実施:部下の変化に気づく「ラインケア」は、外部専門家に頼らずとも管理職が実践できるメンタルヘルス対策の基本です。eラーニングやオンライン研修を活用すれば、コストを抑えた実施が可能です。
  • 定期的な1on1ミーティングの導入:テレワーク者の孤立防止と体調把握に有効です。週1回・15〜30分程度でも、継続することで業務上の問題や体調変化の早期発見につながります。
  • 地域産業保健センターへの相談:産業医の選任が義務付けられていない50人未満の事業場は、地域産業保健センターを活用することで、専門家のアドバイスを無料で受けることができます。まず一度相談してみることをお勧めします。

まとめ

コロナ禍後の安全衛生管理は、感染防止対策の縮小とともに「終わった課題」と捉えられがちです。しかし実際には、テレワーク環境の整備、メンタルヘルス対策の充実、安全衛生委員会の機能回復、次のリスクへの備えなど、むしろ新しい取り組みが求められる局面に入っています。

安全衛生管理は、法令の義務を最低限満たすためだけに存在するものではありません。従業員が安心して働ける環境を整えることは、採用力や定着率の向上にも直結する経営上の重要な取り組みです。中小企業だからこそ、一人ひとりの従業員の健康が事業の継続に直接影響します。

まずは「今の自社の安全衛生管理に抜け漏れがないか」を点検するところから始めてみてください。完璧な体制を一気に構築する必要はありません。優先順位をつけて、できるところから着実に取り組んでいくことが、持続可能な安全衛生管理の第一歩となります。

よくある質問

Q1: テレワーク中の従業員の安全衛生管理は企業の責任ですか?

はい、労働安全衛生法第3条により、事業者は従業員が在宅勤務中でも快適な職場環境を形成する義務があります。厚生労働省のガイドラインでも、テレワーク中の労働者の安全衛生管理を怠ってはならないと明示されています。

Q2: ストレスチェック実施後、高ストレス者への対応は必須ですか?

はい、高ストレス者と判定された従業員には産業医による面接指導の申出案内を行い、その後のフォローも重要です。多くの企業でこの対応が形式的または不十分になっており、実際の改善につなげることが課題です。

Q3: 在宅勤務者が過重労働になりやすいのはなぜですか?

在宅勤務では仕事とプライベートの境界が曖昧になり、長時間労働に気づきにくくなるためです。PCログ記録や勤怠管理システムを活用して、客観的に労働時間を把握する仕組みを整えることが過重労働防止に有効です。

労働法改正への対応や安全衛生管理体制の整備には、INTERMINDの産業医サービスが力になります。専門家による継続的なサポートで法令対応を進められます。

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