【2025年最新】副業を許可したら会社が負う「5つの落とし穴」——就業規則・労働時間・労災まで人事担当者が今すぐ確認すべきこと

副業・兼業を解禁する企業が増えています。厚生労働省が2018年にモデル就業規則から副業禁止規定を削除して以降、政府は一貫して副業・兼業を推進する方針を打ち出しています。しかし「許可したいけれど、何をどこまで管理すれば良いかわからない」という声は、中小企業の経営者・人事担当者から今なお多く聞かれます。

副業を許可すること自体はさほど難しくありません。問題は許可した後の管理体制をどう整えるかです。労働時間の通算管理、労災保険の取り扱い、社会保険の手続き、健康管理、情報漏洩リスクへの対応——これらを放置したまま「許可だけした」状態は、むしろ企業にとってのリスクを高めます。

本記事では、副業・兼業を許可する際に中小企業が押さえておくべき労務管理の注意点を、法律・制度の根拠とともに実務的な視点から解説します。

目次

副業・兼業を許可するための就業規則整備

まず最初に取り組むべきは就業規則の改訂です。従来「副業禁止」と定めていた場合、その条文を削除し「許可制」へと切り替えることが基本的な方向性となります。

ただし「許可する」という一文を追加するだけでは不十分です。曖昧な規定は運用時のトラブルを招くため、以下の項目を明文化することが求められます。

  • 副業・兼業の定義:自社以外での有償労働を広く対象とするか、業務委託・フリーランス活動なども含めるか
  • 申請・届出手続き:副業先の業種、就業場所、労働時間数などを事前に申告させる仕組み
  • 許可基準・不許可事由:どのような場合に許可しないかを具体的に列挙する
  • 報告義務:副業先の変更・終了時にも届け出を義務付ける
  • 禁止行為:競業行為、秘密漏洩、名誉毀損などの禁止事項
  • 違反時の措置:懲戒処分の対象となることを明記する

厚生労働省のガイドライン(2018年策定・2022年改定)では、企業が副業を制限・禁止できる合理的な理由として「労務提供上の支障がある場合」「企業秘密が漏洩する場合」「競業により企業の利益が害される場合」「企業の名誉・信用を損なう行為がある場合」の4つが例示されています。これらを就業規則の不許可事由として盛り込むことで、判断基準の客観性を担保できます。

就業規則を変更する場合は、労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届け出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。手続きを怠ると就業規則自体の効力が問われる可能性があるため、注意してください。

労働時間の通算管理:「管理モデル」の活用が現実的

副業・兼業を許可した際に多くの企業が頭を抱えるのが労働時間の通算管理です。労働基準法第38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり、自社での労働時間と副業先での労働時間を合算して、法定労働時間(週40時間・1日8時間)の管理をしなければならないのです。

しかし現実には、副業先の労働時間をリアルタイムで把握し続けることは困難です。そこで活用したいのが、2020年の改定ガイドラインで導入された「管理モデル」という簡便な管理方法です。

管理モデルの仕組み

管理モデルとは、自社と副業先がそれぞれ「自社の所定労働時間の範囲内」で働かせることを前提とし、所定外労働(残業)の上限を双方であらかじめ取り決めておく方法です。具体的には次のような手順で運用します。

  • 自社と副業先が、それぞれ従業員との間で「自社での所定外労働の上限時間」を設定する
  • その上限の合計が法定の時間外労働の上限(原則月45時間・年360時間)を超えないように設計する
  • 従業員には月次で実労働時間の報告を義務付け、自己申告ベースで管理する

この方法を採用すれば、副業先の労働時間を逐一把握しなくても、法律の趣旨に沿った管理が可能になります。中小企業にとっては最も現実的なアプローチといえるでしょう。

割増賃金の負担者はどちらになるか

通算した労働時間が法定労働時間を超えた場合、割増賃金(時間外割増25%以上)の支払い義務は後から労働契約を締結した側に発生するのが原則です。ただし管理モデルを正しく運用していれば、所定外労働の上限内での就労を担保できるため、この問題が生じにくくなります。

労災保険・社会保険:2020年改正で変わった対応のポイント

労災保険の複数事業労働者対応

2020年9月に労災保険法が改正され、複数の会社で働く「複数事業労働者」への対応が大きく変わりました。改正前は、労災の給付基礎日額(休業補償などの計算基準)を被災した就業先の賃金だけで計算していましたが、改正後は全就業先の賃金を合算して計算できるようになりました。

さらに、精神障害(うつ病など)の業務上認定については、全就業先の業務負荷を総合的に評価する仕組みになっています。これは企業にとって重要な意味を持ちます。たとえ自社での業務量が適切であっても、副業先も含めた総労働時間・総ストレス量が過大であった場合、労災認定のリスクが高まるからです。

副業を許可した従業員が過重労働状態に陥っていないかを自社が把握・管理する義務(安全配慮義務)は、副業許可後も継続します。

社会保険の「二以上事業所勤務」への対応

副業先でも週20時間以上の勤務・月額賃金8.8万円以上などの要件を満たすと、副業先でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生します。この場合、従業員は「二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要があります。

手続き後は、各社の報酬を合算した標準報酬月額をもとに保険料が算定され、各社の報酬比率に応じて按分(あんぶん)負担となります。自社の給与担当者が突然この手続きを求められて戸惑うケースも多いため、副業許可時に従業員へあらかじめ説明しておくことが大切です。

健康管理と安全配慮義務:「過労死ライン」への注意

副業を許可した後も、企業には従業員に対する安全配慮義務(労働契約法第5条)が課せられます。副業込みで長時間労働になっていないかを定期的に確認する仕組みを設けることは、企業としての義務といえます。

特に注意が必要なのが、副業を含む総労働時間が月80時間(いわゆる過労死ライン)を超えるような状態が続いている場合です。このような状態にある従業員については、産業医への相談や就業上の措置を検討する必要があります。

具体的な健康管理の仕組みとしては、以下のような対応が効果的です。

  • 月次の労働時間報告制度:副業先を含む総実労働時間を毎月自己申告させる
  • ラインによる定期面談:上長が体調・仕事量を定期的に確認する
  • 産業医面談の積極活用:月80時間に近い状況であれば産業医への相談につなげる
  • ストレスチェックの適切な運用:結果を踏まえた就業配慮の実施

産業医との連携体制をあらかじめ整えておくことで、副業許可後の健康トラブルに早期対処できます。自社に産業医がいない場合は、外部の産業医サービスを利用することも有効な選択肢です。副業許可を機に体制を見直すことを検討してみてください。

競業避止・情報管理:どこまで制限できるか

副業を許可する企業が最も神経を使うのが競業他社への就業や機密情報の漏洩リスクです。就業規則や個別の契約で競業避止義務・秘密保持義務を定めることは法律上可能ですが、その有効性には限界があります。

競業避止義務の合理的な範囲

競業避止義務とは、在職中または退職後に競合する会社で働いたり、競業する事業を営んだりすることを禁じる義務のことです。在職中の制限は比較的広く認められますが、退職後の制限については「職種・地域・期間」の合理的な範囲に限定されなければ無効とされる判例が多数あります。

副業許可の文脈では、在職中の競業他社への就業を不許可事由とすることは合理的な制限として認められやすいといえます。ただし、「同業種であれば一切禁止」といった過度に広い制限は、従業員の職業選択の自由(憲法第22条)との兼ね合いから問題が生じる場合があります。

情報管理の実務的対策

情報漏洩リスクに対しては、就業規則・秘密保持契約による義務付けに加えて、以下のような実務的対策を組み合わせることが効果的です。

  • 副業申請時に「取り扱い業務内容」「使用ツール・機器」を申告させ、リスクを事前に評価する
  • 社内情報へのアクセス権限を業務上必要な範囲に絞り込む
  • 副業許可時に秘密保持誓約書を別途取得する
  • 退職・副業終了時に情報の持ち出しがないことを確認するプロセスを設ける

実践ポイント:副業許可を円滑に運用するための5つのステップ

以上を踏まえ、副業・兼業許可制度を導入・運用するための実践的な手順をまとめます。

  • ステップ1:就業規則の改訂
    副業禁止規定を削除し、許可制へ移行する。不許可事由・申請手続き・禁止行為・違反時の措置を明文化する。労働者代表への意見聴取と労基署への届け出を忘れずに行う。
  • ステップ2:申請・審査フローの整備
    申請書の書式を作成し、副業先の業種・就業時間・場所・業務内容を記載させる。競業リスク・情報漏洩リスク・健康への影響の観点から審査する仕組みを作る。
  • ステップ3:管理モデルの採用
    自社での所定外労働の上限を設定し、従業員に対して月次の実労働時間報告を義務付ける。副業先でも同様の管理をするよう従業員を通じて促す。
  • ステップ4:健康管理体制の強化
    総労働時間の月次把握と定期面談を制度化する。産業医やメンタルカウンセリング(EAP)との連携体制をあらかじめ整えておく。
  • ステップ5:従業員への周知・教育
    制度の内容・申請方法・税務上の注意点(確定申告の要否、住民税の普通徴収選択など)を従業員に丁寧に説明する。制度を「運用して終わり」にせず、定期的な見直しサイクルを設ける。

まとめ

副業・兼業の許可は、優秀な人材の確保・離職防止・従業員のスキルアップという観点から、多くの中小企業にとってプラスに働く可能性があります。一方で、適切な管理体制を整えずに「許可だけした」状態は、労務トラブル・健康被害・情報漏洩などのリスクを高めます。

重要なのは以下の4点です。

  • 就業規則を「許可制」に整備し、判断基準を明文化すること
  • 労働時間管理は「管理モデル」を活用して現実的な仕組みを作ること
  • 副業込みの総労働時間を把握し、安全配慮義務を果たすこと
  • 競業リスク・情報漏洩リスクに対して実務的な対策を講じること

副業解禁は「許可するかどうか」の判断より、「許可した後をどう管理するか」の設計が本質です。制度の導入を機に、自社の労務管理体制全体を見直す機会としてとらえることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

副業を許可した場合、自社は他社での労働時間をどこまで把握する義務がありますか?

労働基準法第38条により、自社と副業先の労働時間を通算して法定労働時間を管理する義務があります。ただし副業先の労働時間をリアルタイムで完全把握することは現実的に困難なため、厚生労働省は「管理モデル」の活用を推奨しています。管理モデルでは、双方が所定外労働の上限を設定し、従業員に月次の実労働時間を自己申告させることで対応できます。完全な把握よりも「管理の仕組みを整備していたか」が、トラブル時の企業の責任判断に影響します。

副業先で労災が発生した場合、本業の企業にも責任が及ぶことはありますか?

直接的な労災補償の責任は原則として被災した就業先が負いますが、2020年の労災保険法改正により、精神障害などの認定では全就業先の業務負荷が総合評価されます。本業での業務量が適切であっても、副業を含む総労働時間が過大な状態を本業側が把握しながら放置していた場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあります。副業を許可した後も従業員の総労働時間を定期的に確認する仕組みが必要です。

競合他社での副業を禁止することはできますか?

在職中の競業他社への就業を就業規則で禁止することは、合理的な制限として認められやすいといえます。ただし「同業種であれば一律禁止」のような過度に広い制限は、従業員の職業選択の自由との兼ね合いで問題となる場合があります。就業規則には不許可事由として「競業により企業の利益が害される場合」と明記したうえで、個別の申請ごとに業種・業務内容・競合の程度を判断する審査プロセスを設けることが実務的な対応です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次