「産休が終わったら次は育休?それとも復帰?」——中小企業の人事担当者から、こうした基本的な疑問を耳にすることは珍しくありません。産休・育休はどちらも子育てに関わる休業制度ですが、根拠となる法律も対象者も期間もまったく異なります。にもかかわらず、現場では混同されたまま運用されているケースが後を絶たず、復帰時のトラブルや法令違反につながることがあります。
本記事では、産前産後休業(産休)と育児休業(育休)の違いを正確に整理したうえで、復帰前後の実務対応を比較表を交えて解説します。中小企業の経営者・人事担当者が「明日から使える」知識として活用できるよう、手続きの流れ・配置の注意点・ハラスメントリスクまで網羅しています。
産休と育休は「似て非なる制度」——根拠法から確認する
まず大前提として、産休と育休はまったく別の法律に基づく制度です。混同が起きやすい理由は「どちらも出産・子育てに関連している」という点にありますが、対象者・期間・給付の仕組みがそれぞれ異なります。以下の比較表で整理しましょう。
産休・育休の基本比較表
| 項目 | 産前産後休業(産休) | 育児休業(育休) |
|---|---|---|
| 根拠法 | 労働基準法 第65条 | 育児・介護休業法 |
| 対象者 | 女性労働者のみ | 男女ともに取得可(日雇いを除く) |
| 期間(産前) | 出産予定日の6週前から(多胎は14週前)※本人申請が必要 | — |
| 期間(産後) | 出産翌日から8週間(産後6週は強制休業) | 原則子が1歳まで(最長2歳まで延長可) |
| 分割取得 | 不可 | 2回まで分割可(2022年10月改正) |
| 産後パパ育休 | なし | 出生後8週以内に最大28日(2回分割可) |
| 社会保険料 | 労使ともに免除 | 労使ともに免除(要件あり) |
| 給付金 | 出産手当金(健康保険):賃金の約2/3 | 育児休業給付金(雇用保険):最初の180日は67%、以降50% |
特に注意したいのは産後休業の「強制休業」部分です。産後6週間は、本人が希望しても就業させることができません(労働基準法第65条)。これは「本人が働きたいと言っているから」という理由で出勤させると法律違反になる点で、小規模事業所では見落とされやすいリスクのひとつです。
また、育休の給付金は雇用保険から支給される一方、産休中の出産手当金は健康保険から支給されるという違いも押さえておく必要があります。申請先・手続き先が異なるため、担当者は混同しないよう注意が必要です。
手続きタイムラインで見る「会社がやるべきこと」
産休・育休に関する会社側の手続きは、妊娠の報告を受けた時点からすでに始まっています。タイミングを逃すと給付金が受け取れなくなったり、社会保険料の免除が適用されなかったりするリスクがあります。以下のフローで確認してください。
- 妊娠報告を受けた直後:制度の周知と取得意向の確認(2022年4月から個別周知・意向確認が義務化)
- 産休開始前:健康保険組合(または協会けんぽ)への産前産後休業取得申出書の提出・社会保険料免除申請
- 出産後:出産手当金の請求手続き(健康保険)
- 育休開始時:ハローワークへの育児休業給付金の申請(被保険者本人と連名で)
- 育休延長時:保育所の入所不承諾通知書が必要(1歳6ヶ月・2歳への延長それぞれで確認)
- 復帰予定日の1ヶ月前:書面での復帰確認・面談の実施・短時間勤務の希望確認
- 復帰後:社会保険料免除終了・標準報酬月額の改定手続き
特に中小企業で見落とされやすいのが、育児休業給付金の申請期限です。支給単位期間ごとに申請が必要であり、担当者が失念していると給付が遅れ、従業員との信頼関係に影響することがあります。カレンダーやリマインダーを活用して、期日管理を徹底することを推奨します。
復帰後の配置・処遇で陥りやすい3つの誤解
育休・産休明けの復帰対応は、手続きが終わったら完了ではありません。復帰後の配置や処遇を誤ると、法令違反やハラスメントのリスクが生じます。現場でよく見られる誤解を整理します。
誤解1:「復帰後に別部署へ異動させても問題ない」
育児・介護休業法では、育休復帰後は原職復帰が原則とされています。「原職に限定」とまでは明文化されていませんが、同等の地位・賃金・業務内容が保障される必要があります。合理的な理由のない異動・降格・賃金引き下げは、マタニティハラスメント(マタハラ)に該当する可能性があります。
「本人のためを思って負担の少ない部署に」という配慮のつもりでも、本人の同意なく処遇を変更した場合はトラブルのもとになります。異動が必要な場合は、必ず事前に丁寧な説明と合意形成を行ってください。
誤解2:「短時間勤務はいつでも終了できる」
短時間勤務制度(1日6時間勤務)は、子が3歳になるまで申請があれば会社は必ず付与する義務があります(育児・介護休業法第23条)。「業務が回らないから」「他の社員が不満を持っているから」という理由で拒否することはできません。
また、関連する制度として以下も覚えておく必要があります。
- 所定外労働(残業)の免除:子が3歳になるまで(申請ベース)
- 時間外労働の制限:月24時間・年150時間まで(子が小学校就学まで)
- 深夜業の制限:子が小学校就学まで
これらの制度は段階的に適用期間が異なるため、子の年齢に応じて適用できる制度が変わるという点を人事担当者が正確に把握しておく必要があります。
誤解3:「育休取得率の公表は大企業だけの話」
2023年4月から、常時雇用1,000人超の企業には育児休業取得率の公表が義務化されました。現時点で中小企業は努力義務にとどまりますが、今後義務化の範囲が拡大する可能性が高いとされています。採用活動においても「育休取得実績」は求職者が重視する情報のひとつとなっており、中小企業でも早めに取り組む意義があります。
男性育休への対応——「周知・意向確認」は義務です
2022年4月の育児・介護休業法改正により、妊娠・出産の申し出をした労働者(本人またはその配偶者が対象)に対して、会社は個別に育休制度を周知し、取得の意向を確認する義務が生じました。これは女性だけでなく、男性の配偶者が出産した場合も同様に適用されます。
また、同年10月には産後パパ育休(出生時育児休業)が新設されました。これは出生後8週以内に最大28日間取得できる制度で、2回に分割して取得することも可能です。従来の育休とは別に取得できるため、「もう育休は取り終わった」という状況でも産後パパ育休を取得できる場合があります。
中小企業においては「男性が育休を取るなんて現実的ではない」という意識が残っていることも多いですが、意向確認を怠ること自体が法令違反となりうる点に注意が必要です。まずは「制度を伝える」「取得の意向を聞く」という2ステップを確実に実施することが求められます。
男性の育休取得推進や、復帰後の職場環境づくりに課題を感じている場合は、メンタルカウンセリング(EAP)を活用して従業員の心理的サポートを充実させることも有効な選択肢のひとつです。
復帰後の定着を高める「オンボーディング」実践ポイント
手続きや制度の整備が完了しても、職場への「再適応」がうまくいかなければ早期退職や生産性の低下につながります。特に1人の不在が業務に大きな影響を与えやすい中小企業では、復帰者本人だけでなくチーム全体へのフォローが重要です。
復帰前面談で確認すべきこと
- 希望する勤務時間・曜日・在宅勤務の可否
- 保育所の送迎時間帯や突発的な子どものお迎えへの対応方針
- 復帰後に担当したい業務・避けたい業務
- 育休中に変化した社内状況(システム変更・組織変更など)の共有
- 本人の不安や心配事の傾聴
復帰後1〜3ヶ月のフォローアップ
- 上司による定期的な1on1ミーティングの実施(月1回以上が目安)
- 業務量の段階的な調整(最初から全負荷をかけない)
- チームメンバーへの配慮ある役割分担の説明
- マタハラ・パタハラに関する管理職への研修実施
「職場に戻りにくい」という心理的ハードルを下げるためには、上司や人事だけでなく職場全体の受け入れ姿勢を整えることが重要です。「子育て中は特別扱いしなければならない」という過度な意識も、かえって本人を孤立させることがあるため、自然な形で業務に戻れるよう環境を整えましょう。
復帰者の心理的サポートや職場のメンタルヘルス対策に取り組む際には、産業医サービスを活用して専門家の知見を取り入れることも選択肢として検討してみてください。
実践ポイントまとめ——中小企業が今すぐできること
- 制度の整理:産休と育休の違いを社内の人事担当者・管理職全員が正確に把握する
- タイムライン管理:妊娠報告→産休→育休→復帰の各フェーズで必要な手続きをリスト化し、担当者が期日を管理する
- 周知・意向確認の徹底:妊娠・出産の申し出があった際は、男女問わず速やかに個別対応する
- 復帰前面談の制度化:復帰予定日の1ヶ月前を目安に、面談を必ず実施する仕組みをつくる
- 原職復帰の原則を守る:配置変更が必要な場合は必ず事前に本人と合意形成を行う
- 管理職へのハラスメント研修:マタハラ・パタハラへの無意識の言動を防ぐための定期研修を実施する
- 短時間勤務等の制度周知:復帰後に利用できる制度(短時間勤務・残業免除等)を書面で案内する
制度の正確な理解と、丁寧な対話によるフォローアップ——この2つを組み合わせることが、育休・産休後の職場復帰を成功させる鍵です。従業員が安心して休業を取得し、職場に戻ってこられる環境は、採用競争力の向上や離職率の低減にもつながります。「対応が難しい」と後回しにするのではなく、まずは自社の現状を確認することから始めてみてください。
よくある質問
産休と育休は連続して取得しなければなりませんか?
産休(産後8週)が終了した翌日から育休を開始するケースが一般的ですが、必ずしも連続取得は義務ではありません。ただし、育休の給付金(育児休業給付金)の受給には雇用保険の加入期間など一定の要件があるため、手続きのタイミングについて事前に担当者と確認しておくことを推奨します。
有期雇用の代替スタッフが本人の復帰と重なった場合、どう対処すればよいですか?
育休取得者の復帰を事由として代替スタッフの雇用契約を終了する場合、「期間の定めのある雇用」であれば契約期間満了をもって終了できますが、事前に「育休取得者の復帰をもって雇用終了とする」旨を雇用契約書に明記しておくことが重要です。口頭での説明だけでは後日トラブルになるリスクがあるため、書面による合意を徹底してください。
男性社員が育休を取得したいと申し出た場合、会社は拒否できますか?
原則として拒否することはできません。育児・介護休業法に基づき、一定の要件(子の年齢・雇用保険加入など)を満たした労働者は育休を取得する権利を持ちます。「業務上の理由」のみをもって取得を拒むことは法令違反となる可能性があります。取得が難しい業務上の事情がある場合でも、拒否ではなく「開始日の調整」についての協議(一定の範囲で可)にとどめるべきです。
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