「特定保健指導の実施率が上がらない」中小企業がすぐ使える5つの改善策

特定保健指導の実施率が上がらない——そんな悩みを抱える中小企業の人事・総務担当者は少なくありません。「健保組合に委託しているから大丈夫だろう」と思っていたら、実施率は一向に改善されず、健康経営優良法人の認定審査で思わぬ足かせになった、というケースも実際に起きています。

特定保健指導は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪の蓄積に起因する生活習慣病のリスクが高い状態)の予防・改善を目的とした制度です。対象者が「忙しい」「自覚症状がない」を理由に後回しにしやすく、企業側も「保険者任せ」になりがちなため、実施率がなかなか伸びないという構造的な課題があります。

本記事では、特定保健指導の制度的な位置づけを整理したうえで、中小企業でも実践できる実施率向上の具体的なコツを解説します。専任担当者がいなくても、仕組みと優先順位を押さえることで着実に改善できます。

目次

特定保健指導とは何か——制度の基本と企業の立ち位置

まず、特定保健指導の制度的な枠組みを正確に把握しておくことが重要です。特定保健指導は、「高齢者の医療の確保に関する法律(高確法)」第18条から第25条を根拠とし、実施義務を負うのは医療保険者(健康保険組合・協会けんぽ・市町村国保など)です。企業(事業主)自体に直接の法的実施義務はありません。

ただし、企業には保険者と連携・協力する努力義務があります。実務的に言えば、職場内での案内・日程調整・受診環境の整備といった部分は、保険者だけでは完結できません。企業側が積極的に関与するかどうかで、実施率は大きく変わります。

対象者は、特定健康診査(いわゆる「メタボ健診」)の結果をもとに選定されます。腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、またはBMIが25以上の方のうち、血圧・血糖・脂質のリスク数に応じて「動機付け支援」か「積極的支援」に区分されます。

2024年度から始まった第4期(2024〜2029年度)では、特定保健指導の実施率目標は45%以上とされています。実施率が目標を下回った保険者には、後期高齢者医療への支援金が加算されるペナルティがあり、企業への協力要請はますます強まる傾向にあります。また、第4期ではオンライン指導の活用が正式に拡大され、ICTを使った柔軟な実施が認められるようになりました。

実施率が上がらない本当の理由——「保険者任せ」という落とし穴

多くの中小企業で実施率が低迷する背景には、共通したパターンがあります。

最も典型的なのは、「保険者が全部やってくれる」という思い込みです。保険者は案内文を送付しますが、職場内でのフォローや日程調整、上司からの声かけといった部分は事業主側の協力なしには機能しません。保険者が送った案内が対象者のデスクの上に積まれたまま、締め切りを迎えるというのはよくある光景です。

次に多いのが、案内を1回送っておしまい、というアプローチです。実施率を向上させるには、最低でも3回以上のアプローチが必要と言われています。1回の案内だけでは、忙しい対象者には届きません。

さらに、「義務ではないから強制できない」という誤解から、何もしない状態に陥るケースも見られます。強制はできませんが、就業時間内に受けることを会社として認める、受けやすい環境を整えるといった取り組みは、事業主の正当な役割です。「受けてもよい環境」を明示するだけで、対象者の受診行動は変わります。

また、完了の定義を誤っている場合もあります。「動機付け支援」は初回面談(1回)で完了となりますが、「積極的支援」は継続的な指導(複数回のやり取り)が必要です。初回面談だけで完了と思い込んで管理を止めてしまうと、積極的支援対象者の実施率が正しく計上されなくなります。

実施率を上げる具体的なコツ①——対象者への案内と申し込みハードルの引き下げ

実施率向上の第一歩は、対象者が「受けよう」と思える環境をつくることです。そのためには、案内の届け方と申し込みのしやすさの両方を見直す必要があります。

案内は速やかに、複数の手段で届ける

健診結果が出たら、1〜2週間以内に案内を送付することが重要です。時間が経つほど対象者の記憶が薄れ、受診意欲も下がります。案内手段は、メール一本に頼らず、紙の案内文を自宅に郵送する方法も有効です。自宅に届けることで家族の目に触れ、家庭から受診を後押しするきっかけになります。

さらに効果的なのが、封書+上司・管理職からの声かけの二段構えです。対象者にとって、書面だけでなく信頼できる人物から直接「受けてみてください」と言われることは、行動への後押しになります。

申し込みの仕組みをシンプルにする

申し込み方法が複雑だと、それだけで受診をやめてしまう人が出ます。QRコードひとつで予約フォームにアクセスできる仕組みや、電話一本で予約が完結する体制を委託先と相談して整えてください。

また、第4期からオンライン(Web会議・電話)での初回面談が要件として認められています。オンライン対応を活用することで、移動時間のない対象者でも受けやすくなります。昼休みや始業前・終業後の時間帯に対応できるよう委託先と調整することも、現場仕事が多い職場では特に重要です。

実施率を上げる具体的なコツ②——進捗管理と未受診者へのフォロー体制

案内を送るだけでなく、誰が完了していて誰がまだか、リアルタイムで把握できる仕組みを作ることが実施率向上の鍵です。

対象者リストを一元管理し、月次で追跡する

健保組合や協会けんぽから対象者リストを取り寄せ、「完了・未着手・辞退・連絡待ち」の状況を月次で管理します。このリストを部署別に集計して管理職にフィードバックすることで、現場レベルでの意識が高まります。

管理が煩雑に感じられる場合でも、Excelで管理するだけでも十分効果があります。重要なのは、誰が担当して誰が管理するかを明確にすることです。専任担当者がいない中小企業こそ、役割分担を明文化しておく必要があります。

未完了者には複数回のリマインドを行う

1回リマインドして反応がなければ終わり、では実施率は上がりません。時期をずらして最低3回はアプローチすることを前提に、スケジュールを組みましょう。第1回案内→2週間後にリマインド→さらに1か月後に最終案内、という流れを標準化するのが現実的です。

また、「辞退届」を提出させる運用にすることで、未回答者と明確な辞退者を区別して管理できます。辞退者に対してはその理由を把握し、翌年度の仕組み改善に活かすことができます。

健診と同日に初回面談を実施するハイブリッド型

完了率向上に特に効果的とされているのが、健診当日に特定保健指導の初回面談もセットで実施するハイブリッド型です。健診会場に保健師・管理栄養士が同席し、健診後すぐに面談を行うことで、対象者が「また別の日に行かなければならない」という手間を感じずに済みます。委託先や健保組合と調整の余地があれば、ぜひ検討してみてください。

実施率を上げる具体的なコツ③——職場の関与を高め、保険者との連携を強化する

特定保健指導の実施率は、職場の雰囲気と保険者との連携次第で大きく変わります。

経営トップ・管理職のメッセージが行動を変える

対象者にとって、経営者や上司が「受けてほしい」と明言してくれることは、受診への後押しになります。社内通達や朝礼でのひとこと、社内報のメッセージなど、手段は問いません。「会社が本気でやろうとしている」という空気が伝わるだけで、受診率は変わります。

また、就業時間内に受けることを会社として明示的に認めることも重要です。対象者が「有給を使わなければならないのか」と感じていると、受診を後回しにする傾向があります。就業時間内の受診を認める旨を明文化し、周知してください。

保険者との連携——コラボヘルスを活用する

コラボヘルスとは、保険者(健保組合など)と事業主が連携して従業員の健康管理を共同で行う取り組みのことです。健保組合が実施している場合は、この枠組みを活用することで、健診データの共有や出張型の指導実施など、単独では難しい施策を進めやすくなります。

協会けんぽを利用している企業は、「事業者健診データの提供」制度を活用することで、自社の特定保健指導実施状況をより詳細に把握できます。保険者のアウトリーチ支援(職場への出張指導など)も積極的に活用しましょう。

産業医がいる企業であれば、健診後の就業判定面談と特定保健指導の案内をセットで行うことも有効です。産業医サービスを活用することで、健診結果のフォロー体制を強化し、保健指導への橋渡しをスムーズに行うことができます。

実践ポイントをまとめる——中小企業でできる優先順位の付け方

ここまで紹介してきたコツを、優先度の高い順に整理します。専任担当者がいない中小企業では、すべてを同時に実施しようとすると逆に何も進まなくなります。以下の順序で取り組むことをおすすめします。

  • ステップ1:対象者リストを保険者から取り寄せ、現状の完了・未完了を把握する(まず現状を見える化する)
  • ステップ2:就業時間内受診の可否を明文化し、社内周知する(受けやすい環境の整備)
  • ステップ3:案内を複数回・複数手段で送付するスケジュールを標準化する(アプローチの仕組み化)
  • ステップ4:オンライン面談の活用と申し込み方法の簡略化を委託先と協議する(ハードルの引き下げ)
  • ステップ5:月次で完了状況を集計し、管理職にフィードバックする(継続的なPDCA)

メンタルヘルス不調を抱えながら特定保健指導の案内を見落としているケースもあります。健康管理の取り組みをより総合的に進めたい場合は、メンタルカウンセリング(EAP)との組み合わせも検討に値します。身体的健康と心理的健康の両面からアプローチすることで、従業員の健康意識全体が高まりやすくなります。

まとめ

特定保健指導の実施率向上は、保険者任せにせず、事業主が積極的に関与する体制をつくることが出発点です。「強制はできない」という認識は正しいですが、「受けやすい環境を整えること」は企業の重要な役割です。

対象者への早期・複数回の案内、申し込みハードルの引き下げ、進捗管理の仕組み化、そして経営トップや管理職の関与——これらを組み合わせることで、中小企業でも実施率を着実に高めることができます。2024年度から始まった第4期では、オンライン指導の活用が拡大されており、以前より取り組みやすい環境が整っています。

実施率の向上は、健康経営優良法人の認定取得にもつながる取り組みです。小さな一歩から始めて、継続的な改善を積み重ねていきましょう。

よくある質問(FAQ)

特定保健指導の実施義務は企業にありますか?

特定保健指導の実施義務は医療保険者(健康保険組合・協会けんぽなど)にあり、企業(事業主)に直接の法的義務はありません。ただし、保険者と連携・協力する努力義務があり、職場内での案内・日程調整・受診環境の整備など、企業側の関与が実施率に大きく影響します。

第4期の特定保健指導で変わった点は何ですか?

2024年度から始まった第4期では、主に3つの変更があります。①腹囲・体重の改善度を評価するアウトカム評価の導入、②ICT・オンライン指導の活用が正式に拡大・要件緩和、③積極的支援の「継続支援」におけるポイント要件の変更です。特にオンライン対応の拡大により、対象者が受けやすい環境を整えやすくなっています。

実施率向上のために企業がまず取り組むべきことは何ですか?

最初のステップは、保険者から対象者リストを取り寄せ、誰が完了していて誰が未完了かを把握することです。現状を「見える化」することで、どこに課題があるかが明確になります。そのうえで、就業時間内の受診を会社として認める旨を社内に周知し、対象者が受けやすい環境を整えることが有効な取り組みです。

中小企業で専任担当者がいない場合、どうやって推進すればよいですか?

専任担当者がいなくても、「誰が対象者リストを管理するか」「誰が案内文を発送するか」「誰が進捗を確認するか」という役割分担を明文化することが重要です。人事・総務が兼務で対応する場合でも、月次の進捗確認と3回以上のリマインド送付を仕組みとして標準化することで、属人的な対応を減らしながら実施率を高めることができます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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