# 「健康診断を受けない20代・30代社員」放置で会社が負う3つのリスクと、受診率を劇的に上げた中小企業の実践策

「毎年案内を送っているのに、20〜30代の受診率だけがなかなか上がらない」。多くの中小企業の人事担当者が口にするこの悩みは、決して意識の低い従業員が多いからではありません。仕組みと伝え方に課題があるケースがほとんどです。

健康診断の受診率向上は、従業員の健康を守るだけでなく、企業の法的リスクを回避し、将来の労働力を確保するための経営課題でもあります。本記事では、若年層を中心とした健康診断受診促進の戦略を、法律の基礎知識から具体的な実践施策まで体系的に解説します。

目次

なぜ若年層の健康診断受診率は上がらないのか

20〜30代の従業員が健康診断を後回しにする背景には、「自分はまだ若いから大丈夫」という過信が根強くあります。しかし実態は異なります。近年は若年層でも脂質異常症(血中の中性脂肪やコレステロールが基準値を外れる状態)や高血圧、さらにはメンタル不調の予兆が検出されるケースが増えており、早期発見による対処が可能な疾患を見逃すリスクが高まっています。

受診率が伸び悩む原因は、主に以下の3つに整理できます。

  • 受診機会の確保のしにくさ:営業職や現場スタッフなど外勤が多い職種は、平日日中の受診日程を確保すること自体が難しい
  • 案内の形骸化:毎年同じフォーマットのメールや紙の通知を送るだけでは、若年層の行動を促す動機づけにならない
  • 受診後のフォロー不足:受診しても結果が活かされず、健診の意義を実感できないまま翌年を迎えてしまう

これらは「個人の意識の問題」ではなく、企業側の仕組みの設計次第で解決できる課題です。まずその認識を持つことが出発点となります。

知っておくべき法律の基礎と事業者の義務

受診促進の取り組みを進めるうえで、法的な立ち位置を正確に理解しておくことは不可欠です。

労働安全衛生法が定める事業者の義務

労働安全衛生法第66条は、事業者が労働者に対して医師による健康診断を実施する義務を定めています。定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)では、常時使用する労働者に対して年1回の実施が求められます。この義務を怠った場合、同法第120条により50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

よく誤解されるのが「案内を送ったから義務は果たした」という認識です。しかし事業者には受診させる義務があります。案内の送付だけでは不十分であり、未受診者への是正措置を講じなければ行政指導の対象になる可能性があります。

パート・契約社員も対象になる

「パートは健診不要」という誤解も非常に多く見受けられます。実際には、週の所定労働時間が正規従業員の4分の3以上のパートタイム・契約社員も定期健康診断の対象です。この条件に該当する非正規雇用者を対象から漏らしている場合、法令違反となります。まず自社の雇用条件を確認し、対象者リストを正確に整備することが優先事項です。

費用負担と受診時間の扱い

定期健康診断の費用は事業者が負担するのが原則です。従業員に費用を転嫁すると、労使トラブルの原因になりかねません。また、受診時間を労働時間として賃金を支払う法的義務は必ずしも生じませんが、実務上は有給扱いにすることで受診率が向上する傾向があります。「時間を取られる=損をする」という心理的ハードルを下げる効果が期待できるためです。

受診機会そのものを設計し直す

若年層の受診率を上げるための最初のステップは、「受けやすい環境をつくる」ことです。いかに意識を高めても、物理的な障壁がある限り行動には結びつきません。

出張健診(集団健診)の導入

外部の健診機関を職場に招き、就業時間内に受診できる体制を整える「出張健診」は、受診率向上に効果的な施策のひとつです。従業員が自ら予約・移動・受診を行う手間を省き、「受けに行く」から「職場で受ける」に変えることで、外勤の多い職種でも参加しやすくなります。

なお、一度に全社員を同じ日に集めると業務への支障が大きく現場から反発を招くケースがあります。部署やグループごとに分散して実施する設計が現実的です。

受診日・場所の選択肢を広げる

土日や夜間に対応しているクリニックと契約し、勤務時間外でも受診できる選択肢を提示することも有効です。また、本人が予約を取る手間を省く「予約代行サービス」の活用も、行動の障壁を大きく下げます。受診の選択肢が増えることで、「自分のスケジュールに合う日がない」という言い訳が成立しにくくなります。

若年層の心理に届くコミュニケーション戦略

受診機会を整えたうえで次に重要なのが、動機づけのためのコミュニケーション設計です。若年層は「定期的に健診を受けるべき」という義務感よりも、自分の将来にとって意味があるかどうかという視点で行動を判断する傾向があります。

メッセージを将来価値に変換する

「義務だから受けてください」という案内は、若年層には伝わりにくい表現です。代わりに「今の健康状態を知ることで、将来のパフォーマンスを守れる」「メンタル不調の予兆を早期に発見できる」といった、自分ごととして受け止めやすい価値訴求に切り替えることを検討してください。

特にメンタルヘルスへの関心は近年の若年層に高い傾向があります。健康診断がストレスチェックやメンタルカウンセリング(EAP)と連携した総合的な健康支援の入口であることを伝えることで、受診への興味関心を高める効果が期待できます。

案内チャネルを多様化する

毎年同じフォーマットのメールを一斉送信するだけでは、情報が埋もれてしまいます。SlackやMicrosoft Teamsといった社内チャットツールへの投稿、ポスターの掲示、締め切り前のリマインダー自動送信など、複数のチャネルを組み合わせることが効果的です。

さらに効果的なのが、上長や産業保健スタッフによる個別の声かけです。締め切り2週間前・1週間前・前日に未受診者へ直接連絡する仕組みをつくることで、対応漏れをなくすことができます。

ゲーミフィケーションと可視化の活用

受診完了者へのポイント付与や部署別受診率の社内公開(ランキング形式)など、健診にゲーム的な要素を取り入れて参加意欲を高める仕組みにすることも一定の効果があります。また、受診結果をアプリ等で管理し、昨年との比較や健康トレンドとして可視化できるツールを活用することで、「受診し続けることに意味がある」という実感を持ちやすくなります。

データ管理と未受診者フォローの仕組みづくり

受診率を継続的に向上させるには、単発の施策ではなく、データに基づいたPDCAサイクルを回せる体制が必要です。

健診管理システムの導入

受診状況を紙や個人任せで管理していると、未受診者の把握が遅れ、フォローアップの機会を逃してしまいます。健診管理システムを導入し、人事担当者がリアルタイムで受診状況を確認できる環境を整えることで、未受診者リストの自動抽出やアラート設定が可能になります。

受診率をKPIとして経営に組み込む

部署別の受診率を経営指標(KPI:組織の目標達成度を測る数値)として定期的に報告する仕組みをつくることで、受診管理が「人事の担当業務」から「組織全体の課題」へと位置づけが変わります。管理職が自部署の受診率を意識するようになると、現場レベルでの日程調整や声かけが自然と促進される効果もあります。

また、受診後のフォローとして異常所見が見られた従業員への保健指導や、必要に応じた産業医サービスとの連携も、健診を「受けて終わり」にしないための重要な仕組みです。労働安全衛生法第66条の5では、健診結果に基づく医師等からの意見聴取と必要な措置が事業者に義務づけられています。

実践ポイント:中小企業が今日から動ける5つのステップ

  • ステップ1:対象者リストの整備 パート・契約社員を含めた全対象者を正確にリストアップする。週の所定労働時間を確認し、法的な対象者の漏れをゼロにする
  • ステップ2:受診機会の多様化 出張健診の導入または土日・夜間対応クリニックとの契約により、受診できる日程・場所の選択肢を増やす
  • ステップ3:有給扱いの明確化 受診時間を有給扱いとすることを社内に周知し、「受けに行きづらい」という心理的障壁を取り除く
  • ステップ4:コミュニケーションの多層化 一斉メールに加え、チャットツール・個別声かけ・リマインダー自動送信を組み合わせた多チャネル案内に切り替える
  • ステップ5:受診率のKPI化と定期モニタリング 部署別受診率を経営指標として設定し、月次または四半期ごとに報告・共有する体制をつくる

まとめ

若年層の健康診断受診率を向上させるためには、「意識を変えさせる」アプローチより、「受けやすい環境と動機を設計する」アプローチの方が、確実かつ持続的な効果をもたらします。

法律上、事業者には健診を実施するだけでなく受診させる義務があり、対象はパートタイム労働者にも及びます。費用は事業者負担が原則であり、これらを正確に理解したうえで、受診機会の設計・コミュニケーション戦略・データ管理という3つの柱を整えることが、実効性のある受診促進策の基本です。

中小企業では一度にすべてを整備するのが難しい場合もあります。まずは対象者リストの確認と、受診時間の有給化という2点から着手することをお勧めします。小さな改善の積み重ねが、数年後の受診率に大きな差をもたらします。従業員の健康は企業の最大の資産です。今年の健診シーズンを、仕組みを見直す機会として活用してください。

よくある質問(FAQ)

パートタイム従業員も健康診断の対象になりますか?

はい、週の所定労働時間が正規従業員の4分の3以上のパートタイム・契約社員は、定期健康診断の対象となります。この条件に該当する従業員を対象から外すと法令違反になる可能性があるため、雇用条件をもとに対象者リストを正確に整備することが重要です。

健康診断の費用は従業員に負担させてもよいですか?

定期健康診断の費用は事業者が負担するのが原則です。従業員に費用を転嫁すると、労使トラブルの原因になる可能性があります。なお、協会けんぽや健康保険組合の補助制度を活用することで、企業側の実質的な費用負担を軽減できる場合があります。

案内を送付しても受診しない従業員がいる場合、会社の責任はどうなりますか?

労働安全衛生法上、事業者には単に案内を送るだけでなく、従業員に健康診断を受診させる義務があります。未受診者への是正措置を講じなければ行政指導の対象になる可能性があり、悪質なケースでは50万円以下の罰金が科せられる場合もあります。未受診者への個別フォローや、未受診が続く場合の面談対応など、組織的な対応が必要です。

受診率向上に産業医はどのように関わりますか?

産業医は健診結果に基づく就業判定や保健指導(健康改善のための指導)を行うだけでなく、受診促進の取り組みについても企業に助言する役割を担います。特に健診結果に異常所見があった従業員への対応は、労働安全衛生法第66条の5に基づき、産業医等の意見を聴取することが義務づけられています。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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