従業員の働き方が多様化するなかで、育児や介護、通院など、少しだけ仕事を休みたいという場面は珍しくなくなっています。しかし、有給休暇を1日単位でしか取れない場合、「2時間だけ病院に行きたい」という理由で丸1日休むのはためらわれる、という従業員の声を聞いたことはないでしょうか。そのような課題を解決するために設けられているのが、有給休暇の時間単位取得制度です。
この制度は2010年(平成22年)の労働基準法改正で導入されましたが、中小企業では「仕組みがよくわからない」「導入のメリットが見えない」といった理由から、まだ活用されていないケースが少なくありません。また、「就業規則に書けば使える」「何時間でも自由に取れる」といった誤解も根強く残っています。
本記事では、有給休暇の時間単位取得制度の基本的なルールから、労使協定の締結方法、勤怠管理の実務、よくある失敗例まで、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
有給休暇の時間単位取得制度とは:基本ルールをおさらい
有給休暇の時間単位取得制度は、労働基準法第39条第4項に根拠を持つ制度です。通常、年次有給休暇(以下「年休」)は1日または半日単位で取得するものですが、この制度を導入すると従業員が1時間を最小単位として年休を取得できるようになります。
主なルールは以下のとおりです。
- 取得単位:1時間単位(1時間未満の端数が生じる場合は切り上げ)
- 年間上限:1年間につき5日分(時間に換算した上限時間数)まで
- 導入要件:労使協定の締結が必須(届出は不要だが、保存義務あり)
- 対象労働者:労使協定で定めた範囲(全従業員でなくても可)
重要な点として、年間5日という上限は時間換算で管理します。たとえば所定労働時間が1日8時間の職場であれば、5日分は40時間が年間の上限となります。2時間だけ取得した場合は「40時間のうち2時間を消化した」という形で残日数を管理することになります。
また、この時間単位で取得した年休は、使用者が従業員に年5日の年休を取得させる「時季指定義務」のカウントにも充当できます。この点を知らずに管理している企業もあるため、注意が必要です。
導入の前提:労使協定の締結が必須です
時間単位取得制度を導入する際に、最も多い誤解が「就業規則に記載すれば使える」というものです。しかし、就業規則への記載だけでは導入の法的根拠になりません。必ず労使協定(会社と労働組合または労働者代表との書面による協定)を締結する必要があります。
労使協定に定めなければならない事項は以下の5項目です。
- ①対象労働者の範囲:全従業員を対象にするか、正社員のみ、育児・介護対象者のみなど、範囲を限定することも可能です
- ②時間単位年休の日数:年間5日が上限。5日以内の範囲で会社ごとに設定できます
- ③時間単位年休1日の時間数:所定労働時間数を基準として設定します
- ④1時間以外の単位を採用する場合はその旨:原則1時間ですが、2時間単位など労働者に不利にならない範囲で設定可能です
- ⑤有効期間:協定の有効期間を必ず定める必要があります
よくある失敗として、有効期間を定めずに協定を締結し、その後更新せずに協定が失効しているケースがあります。この状態で従業員が時間単位で年休を取得した場合、法的に有効な取得とならない可能性があるため、定期的な協定の更新と有効期限の管理が不可欠です。
労使協定の締結後は、就業規則にも時間単位取得に関するルール(申請方法、締め切り、対象者など)を明記し、従業員への周知を徹底することが求められます。
パート・アルバイトの扱い:所定労働時間が異なる場合の注意点
中小企業では正社員のほかにパートタイムやアルバイトなど、所定労働時間が異なる従業員が混在していることが多いです。時間単位取得制度を設計する際、「1日あたりの時間数」を一律に設定してしまうという失敗が起こりがちです。
制度の基本的な考え方として、時間単位年休における「1日」は、その従業員の所定労働時間数を基準に計算します。端数が生じる場合は切り上げて処理します。
- 所定労働時間が1日7時間30分の従業員 → 切り上げて1日8時間として計算
- 所定労働時間が1日6時間の従業員 → 1日6時間として計算
つまり、正社員(8時間勤務)に対して「5日分=40時間」を上限として設定していても、パートタイム従業員(6時間勤務)には「5日分=30時間」が上限となります。このルールを混同すると、パートタイム従業員に過大または過少な時間を付与してしまう可能性があります。
雇用形態ごとに異なる設定が必要になることを踏まえ、勤怠管理システムや管理表を従業員区分ごとに整備することが重要です。また、労使協定に定める「1日の時間数」についても、雇用形態ごとに区分して規定するか、「所定労働時間数(1時間未満の端数は切り上げ)」と包括的に定める方法が考えられます。
勤怠管理と残日数管理の実務:ここでつまずく企業が多い
時間単位取得制度を導入した際に多くの中小企業がつまずくのが、残日数の管理方法です。日単位の年休と時間単位の年休が混在するため、残日数の計算が複雑になります。
基本的な考え方は以下のとおりです。
- 時間単位で取得した時間数を、所定労働時間数で割って「日数」に換算し、年休残日数から差し引きます
- 例:所定労働時間8時間の従業員が2時間取得した場合 → 2時間 ÷ 8時間 = 0.25日消化として管理
手作業で管理している企業では、計算ミスや残日数の二重付与といったトラブルが発生しやすくなります。また、使用者が年5日の取得を促す「時季指定義務」との整合管理も必要なため、勤怠管理システムへの「時間単位年休」の項目追加や、日数換算の自動計算機能の導入を検討することをおすすめします。
システムの対応が難しい場合でも、少なくとも以下の項目を個人ごとに記録・管理する台帳を整備しましょう。
- 年休の付与日数・残日数(日単位)
- 時間単位取得の累計時間数・残時間数
- 時間単位取得分の日換算累計(5日上限の管理用)
- 年5日の時季指定義務の消化状況
なお、従業員から時間単位での取得申請があった場合、「理由が不十分」として申請を拒否することは法律上認められません。取得理由の申告を求めること自体は可能ですが、申告された理由が取得を拒否する根拠にはならない点に注意が必要です。実際に「理由が不十分」として申請を拒否し、労働基準法違反となった事例も報告されています。
従業員のメンタルヘルスや心身の健康に関わる問題は、このような休暇制度の整備と並行して取り組むことが重要です。従業員が気軽に相談できる環境を整えるために、メンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討することも一つの選択肢です。
よくある誤解と失敗例:導入前に必ず確認してください
制度の導入にあたって、現場でよく見られる誤解と失敗例を整理します。自社の運用を今一度確認してみてください。
誤解①:「就業規則に書けば導入できる」
繰り返しになりますが、労使協定の締結なしには制度の導入はできません。就業規則への記載は必要ですが、それだけでは不十分です。まず労使協定を締結することが先決です。
誤解②:「何時間でも時間単位で取れる」
時間単位取得には年間5日分という上限があります。この上限を超えた分については、時間単位での取得は認められません。上限を超えた場合は日単位での取得を案内する必要があります。
誤解③:「30分単位・15分単位でも問題ない」
法律上、時間単位取得の最小単位は1時間です。30分や15分といった1時間未満の単位での取得は原則として認められません。1時間未満の端数が生じる場合は切り上げて処理します。
誤解④:「時間単位取得は年5日の義務とは別管理」
時間単位で取得した年休も、日数換算して年5日の時季指定義務のカウントに充当できます。別々に管理する必要はなく、むしろ整合性を持って一元管理することが望ましいです。
失敗例:協定の有効期限切れに気づかない
労使協定に有効期間を定めていても、更新を忘れて協定が失効したまま運用を続けているケースがあります。協定の有効期限をカレンダーや管理台帳に登録し、期限の3か月前には更新手続きを開始するルールを設けることを推奨します。
実践ポイント:導入・運用のステップ
時間単位取得制度を適切に導入・運用するために、優先順位の高い順に取り組むべきポイントを示します。
- ステップ①:労使協定の締結(最優先)
未締結の場合は速やかに対応が必要です。労働者代表または労働組合と協議し、5項目をすべて盛り込んだ書面を作成・締結してください。締結した協定書は適切に保管(協定の有効期間中および終了後3年間の保存が望ましいとされています)します。 - ステップ②:就業規則・規程への明文化
申請方法(前日まで、当日申請の可否など)、対象者の範囲、上限時間数などを就業規則または別規程として明記します。 - ステップ③:勤怠管理システムの確認・整備
時間単位年休の項目追加や日数換算の自動計算に対応しているか確認します。対応していない場合は、管理台帳の整備や改修の検討を行います。 - ステップ④:従業員への周知
制度の内容、申請方法、上限ルールについて、社内説明会や文書配布などにより全従業員に周知します。制度があっても知られなければ活用されません。 - ステップ⑤:定期的な協定更新と残日数の棚卸し
少なくとも年1回は残日数・取得状況の棚卸しを行い、協定の有効期限も合わせて確認します。
従業員の健康管理や就労上の配慮が必要な場面では、産業医サービスの活用も検討してください。産業医は育児・介護を抱える従業員や、通院が必要な疾患を持つ従業員への就労支援においても重要な役割を担います。
まとめ
有給休暇の時間単位取得制度は、育児・介護・通院などの事情を抱える従業員が働きやすい環境を整えるうえで、非常に有効な仕組みです。また、従業員が柔軟に年休を活用できるようになることで、年休取得率の向上や職場満足度の改善にも寄与する可能性があります。
一方で、労使協定の締結なしには導入できないこと、年間5日分という上限があること、所定労働時間が異なる従業員への個別対応が必要なことなど、正確に理解しておかなければならないポイントが複数あります。特に「就業規則に書けば使える」「口頭で合意したから大丈夫」という誤解に基づいて運用している場合、労働基準法違反となるリスクがあります。
まずは自社の現状を確認し、労使協定が適切に締結・更新されているか、勤怠管理が正確に行われているかを点検することから始めてみてください。制度の整備は従業員の信頼を高め、長く働ける職場づくりの基盤となります。
よくあるご質問(FAQ)
時間単位の有給休暇は、労使協定なしに就業規則だけで導入できますか?
いいえ、導入できません。有給休暇の時間単位取得制度は、労働基準法第39条第4項に基づき、労使協定の締結が必須要件となっています。就業規則への記載だけでは法的根拠になりません。労働組合または労働者代表との書面による協定を締結したうえで、就業規則にも規定することが必要です。
時間単位で取得できる有給休暇の上限は何日ですか?
1年間につき5日分(時間換算した上限時間数)が上限です。たとえば所定労働時間が1日8時間の場合、年間40時間が上限となります。5日を超えた分については時間単位での取得は認められず、日単位での取得となります。なお、この時間単位取得分は、使用者が従業員に年5日の年休を取得させる「時季指定義務」のカウントにも充当可能です。
パートタイム従業員にも時間単位取得制度を適用できますか?
はい、適用することができます。ただし、パートタイム従業員の「1日あたりの時間数」は、その従業員の所定労働時間数を基準に設定する必要があります。正社員(8時間勤務)と同じ設定を一律に適用することは誤りで、所定労働時間が6時間のパートタイム従業員であれば、1日6時間(5日分で30時間)が上限となります。労使協定や管理台帳も雇用形態ごとに整備することを推奨します。







