メンタルヘルス不調や身体疾患による休職者が職場に戻る際、「復職か休職継続か」という二択の対応に悩んでいる中小企業の経営者・人事担当者は少なくありません。主治医から「復職可」の診断書が出ても、実際に以前と同じペースで働けるかどうかは別問題です。そのギャップを埋める仕組みが「リハビリ勤務制度」です。
しかし、中小企業では制度そのものが存在しないことも多く、毎回担当者が個別判断を迫られて疲弊するケースも見られます。本記事では、リハビリ勤務制度の設計に必要な法律知識・実務上のポイントを体系的に解説します。制度整備の第一歩として、ぜひ参考にしてください。
リハビリ勤務制度とは何か、なぜ必要なのか
リハビリ勤務制度とは、休職者が完全復帰する前に、勤務時間や業務内容を段階的に引き上げながら職場に慣れていくための仕組みです。「試し出勤」や「段階的復職」「軽易業務への従事」などと呼ばれることもあります。
厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」では、職場復帰支援を5つのステップで整理しています。その中でも「第4ステップ:最終的な職場復帰」に至るまでの準備段階として、段階的な勤務形態の導入が強く推奨されています。
この制度が必要とされる理由は主に3点あります。
- 主治医の診断書と職場での実態のギャップを埋めるため:主治医は「日常生活が送れるか」という視点で診断しており、「8時間集中して業務ができるか」「対人ストレスに耐えられるか」といった職場特有の要素を十分に評価できないことがあります。
- 再休職のリスクを下げるため:一気に元の勤務条件に戻すと身体的・精神的な負荷が急増し、短期間で再発・再休職につながるリスクが高まります。
- 企業の安全配慮義務を果たすため:労働契約法第5条は、使用者に対して労働者が安全に働ける環境を整える義務(安全配慮義務)を定めています。段階的な復職支援はこの義務の履行にも直結します。
制度設計の前に押さえておくべき法律・制度の知識
就業規則への明記が必須
リハビリ勤務制度を運用するにあたって、まず確認しなければならないのが就業規則との整合性です。労働基準法第89条は、労働時間・休日・休暇・賃金などの事項を就業規則に記載することを義務づけています。リハビリ勤務中の勤務時間・賃金の扱いは、これに該当する可能性が高いため、制度運用を始める前に就業規則への明記が必要です。
就業規則に明記しないまま実態として運用が続くと、「黙示の労働条件」として定着してしまい、後から変更・廃止が難しくなるリスクがあります。制度設計と並行して、規程の整備を進めることをおすすめします。
傷病手当金と給与の関係を正確に理解する
リハビリ勤務中の給与設定に悩む担当者は多いですが、特に健康保険の傷病手当金(1日あたり標準報酬日額の3分の2相当)との関係を整理しておく必要があります。
傷病手当金は、給与が支払われると減額または不支給になります。具体的には「支給される給与額が傷病手当金の相当額を下回る場合、その差額が支給される」という仕組みです。たとえば、リハビリ勤務で短時間の給与しか支払われない場合は、不足分が傷病手当金として補填されるケースがあります。
ただし、この取り扱いは健康保険組合や協会けんぽによって細部が異なります。復職者本人が不利益を被らないよう、人事担当者が事前に確認したうえで、本人に丁寧に説明することが重要です。
産業医・産業保健スタッフの関与
従業員数50人以上の事業場では、労働安全衛生法により産業医の選任が義務づけられています。復職判断においては、産業医による就業適性評価を経ることが望ましいとされています。一方、50人未満の中小企業では産業医の選任義務はありませんが、各都道府県に設置されている地域産業保健センター(産保センター)が無料で相談に応じています。
外部の専門家リソースを活用しながら、復職判断を属人化させない体制をつくることが重要です。産業医サービスの導入も、専門的な復職支援体制の構築に有効な選択肢の一つです。
段階的な勤務ステップの具体的な設計方法
リハビリ勤務制度の核心は「段階的なステップ設計」にあります。一般的には以下のような3段階構成が参考になります(疾患の種類・重症度に応じて調整が必要です)。
- 第1段階(目安2週間):勤務時間は1日4時間程度、出社日数は週3日、業務内容は資料整理や確認作業など負荷の低い軽易業務に限定する。
- 第2段階(目安2週間):勤務時間を1日6時間程度に延長、出社日数を週4日に増やし、通常業務の補助的な役割を担う。
- 第3段階(目安1ヶ月):フルタイム勤務・週5日に移行し、通常業務への段階的な復帰を図る。
設計にあたって特に重要なのは、期間の上限をあらかじめ定めることです。上限を設けないと「永続的なリハビリ状態」に陥り、本人の回復意欲が低下したり、周囲の従業員との公平感の問題が生じたりするリスクがあります。目安としてはトータルで1〜3ヶ月以内に設定している企業が多く見られます。
また、リハビリ勤務の「位置づけ」も就業規則に明確にしておく必要があります。「休職期間の延長として位置づける」か「正式復職後の配慮措置として位置づける」かによって、休職期間満了による雇用終了リスクへの対応が変わるため、自社の休職規程と整合性をとって設計してください。
復職可否の判断を「仕組み」にする
主治医の診断書だけを根拠にしない
復職判断において最もよくある失敗が、主治医の「復職可」診断書を唯一の根拠として復職を承認してしまうことです。繰り返しになりますが、主治医の評価軸は「日常生活が送れるか」であり、「職場特有のストレスに対応できるか」「集中して業務を遂行できるか」という観点は十分にカバーされていない場合があります。
可能であれば産業医による就業適性評価を経ることが理想ですが、産業医が不在の場合でも、以下の確認を行うことで判断の精度を高めることができます。
- 通勤ラッシュ時に1時間以上の電車移動ができているか
- 毎日決まった時間に起床・就寝できる生活リズムが2週間以上継続しているか
- 図書館や施設への「試し出勤」(模擬通勤訓練)を一定期間実施できているか
- 本人が復職に前向きであり、業務の概要を理解した説明ができるか
復職判断を「チーム」で行う
復職の可否判断を上司や人事担当者一人に委ねると、担当者の心理的負担が大きくなるうえ、判断のばらつきや後のトラブルにもつながります。本人・主治医の診断書・産業医や産業保健スタッフの意見・所属部署の上司・人事の情報を統合して判断する合議体の仕組みをつくることが重要です。
判断基準と判断プロセスを文書化して共有しておけば、担当者が変わっても一定の質が保たれます。
リハビリ勤務中の管理と再発防止のポイント
定期的な面談と記録の徹底
リハビリ勤務が始まったあとも、放置は禁物です。週1回程度を目安に、上司または人事担当者が本人と面談を行い、体調・業務量・人間関係の状況を確認します。面談内容は必ず記録に残してください。万一トラブルが生じた際、記録の有無が企業の安全配慮義務の履行を証明する重要な根拠となります。
また、業務の「軽減」と「やりがい」のバランスにも気を配る必要があります。単純作業ばかりを割り当てると、本人の自己効力感(自分にはできるという感覚)が低下し、かえって回復を妨げることがあります。本人の希望や得意分野を踏まえた業務設計が理想的です。
再発時のルールを事前に合意しておく
リハビリ勤務中に体調が悪化した場合の対応を、事前に本人と文書で合意しておくことが大切です。具体的には以下の内容を確認しておきましょう。
- 体調悪化の「早期サイン」(睡眠の乱れ、食欲低下、集中力の低下など)を本人と共有する
- サインが現れたときの連絡先・手順を決めておく
- 一定の欠勤が続いた場合は休職に戻るなど、判断基準を就業規則に明記する
本人への過度な配慮から問題を先送りにしてしまうと、結果的に回復が遅れ、再休職期間が長引くことになります。明確なルールがあることは、本人にとっても安心感につながります。
周囲の従業員への配慮も忘れずに
リハビリ勤務者の業務を他の社員が肩代わりする場合、「なぜあの人だけ特別扱いなのか」という不満が生じやすくなります。制度の趣旨や公平性についてチームや職場全体に丁寧に説明することが、職場全体の協力を引き出すために欠かせません。個人情報への配慮は必要ですが、「誰でも利用できる制度である」という点は共有できます。
実践ポイントまとめ:中小企業が今日からできること
- 就業規則にリハビリ勤務制度を明記する:期間の上限・勤務形態・賃金の扱い・打ち切り基準を盛り込む。
- 段階的な勤務ステップの標準モデルを作成する:3段階程度のモデルを用意し、個別ケースに応じて柔軟に調整する。
- 復職判断チェックリストを整備する:主治医診断書に加え、生活リズムや通勤訓練などの確認項目を文書化する。
- 面談記録のフォーマットを用意する:週1回の面談内容を記録として蓄積できる仕組みをつくる。
- 傷病手当金との関係を事前に説明する:協会けんぽや健康保険組合に確認したうえで、本人への丁寧な説明を行う。
- 外部専門家を活用する:産業医が不在の場合は地域産業保健センターを活用し、メンタルヘルス面のサポートにはメンタルカウンセリング(EAP)の導入も検討する。
まとめ
復職時のリハビリ勤務制度は、休職者の早期回復と再休職の防止、そして企業の安全配慮義務の履行という観点から、今後ますます重要性が高まる取り組みです。「制度がないから個別対応で乗り切る」という状況を続けていると、担当者の疲弊や判断のばらつき、さらには労使トラブルへと発展するリスクがあります。
中小企業だからこそ、「シンプルでわかりやすい制度」を整備しておくことが効果的です。まずは就業規則への明記と段階的な勤務モデルの文書化から着手し、必要に応じて外部の専門家リソースを組み合わせながら、自社に合った復職支援体制を構築してください。
よくある質問(FAQ)
リハビリ勤務中の給与はどのくらい支払えばよいですか?
法律上の下限は定められていませんが、実際の勤務時間に応じた賃金(時間給換算)を基本とするケースが多く見られます。ただし、傷病手当金の受給状況によって、給与の支払い額が受給額に影響します。給与が傷病手当金の相当額を下回る場合は差額が支給される仕組みになっているため、事前に協会けんぽや健康保険組合に確認のうえ、本人に丁寧に説明することが重要です。
リハビリ勤務中に体調が悪化した場合、どう対応すればよいですか?
事前に「一定の欠勤が続いた場合は休職に戻る」などの基準を就業規則に定め、本人とも合意しておくことが重要です。週1回程度の定期面談で早期に体調変化を把握し、悪化のサインが見られた場合は主治医・産業医への相談を促す手順を準備しておきましょう。問題を先送りにすると回復が遅れるため、明確なルールに基づいて速やかに対応することが本人のためにもなります。
産業医がいない中小企業でも復職支援は適切に行えますか?
従業員数50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、各都道府県に設置されている地域産業保健センター(産保センター)が無料で相談に応じています。また、外部の産業医サービスやEAPを活用することで、専門的なサポートを受けることが可能です。主治医の診断書だけに頼らず、外部専門家の意見を組み合わせて復職判断を行う体制を整えることをおすすめします。
休職・復職支援の体制強化には、INTERMINDのEAPをご活用ください。復職プログラムの設計から職場復帰後のフォローまで専門家がサポートします。







