「ストレスチェックで高リスク判定が出た部門に、人事担当者が今すぐ取るべき7つの対応策」

ストレスチェックを実施した後、集団分析の結果を見て「この部門は高リスクだとわかった。でも、次に何をすればいいのか…」と頭を抱える経営者・人事担当者は少なくありません。高ストレス者割合が高い部門が判明しても、具体的な対応手順がわからず、結果を「引き出しの中にしまったまま」になってしまうケースは中小企業に特に多く見られます。

しかし、集団分析結果をもとに職場環境改善につなげることこそが、ストレスチェック制度の本来の目的です。実施して終わりでは、従業員のメンタルヘルスリスクを放置することになりかねません。本記事では、高リスク部門と判定された場合の正しい読み解き方から、管理職へのフィードバック、具体的な改善策の立案・実施、そしてフォローアップの仕組みまで、実務に即した手順を解説します。

目次

ストレスチェック集団分析の結果を正しく読み解く

集団分析の結果を受け取ったとき、多くの人事担当者が最初に目にするのは「高ストレス者割合(%)」という数字です。しかし、この数字だけを見て「問題あり・なし」を判断するのは不十分です。重要なのは、どのストレス要因がスコアを押し上げているかを確認することです。

ストレスチェックでは一般的に「仕事の要求度(量的負担・質的負担)」「仕事のコントロール度(裁量権・スキルの活用)」「職場のサポート(上司・同僚)」といった要因別にスコアが算出されます。たとえば、仕事量が多いのにコントロールが利かない状態(いわゆる高負担・低裁量)は、メンタルヘルス不調との関連が特に強いとされています。一方、サポート不足が主因の場合は、管理職のコミュニケーションスタイルや職場の人間関係に焦点を当てた対策が有効です。

また、結果を読む際には全社平均や業界平均との比較を行うことが重要です。ある部門の高ストレス者割合が20%であっても、全社平均が15%であれば相対的に高いと判断できます。逆に、全社平均が25%であれば、その部門は平均以下かもしれません。数字の絶対値だけでなく、文脈の中で相対的に見ることが正確な判断につながります。

なお、集団分析は10人以上の集団を対象とすることが目安とされています(厚生労働省のストレスチェック実施マニュアルより)。10人未満の場合は個人が特定されるリスクがあるため、原則として集団分析結果は開示しません。ただし、「結果が出せないから何もしない」というのは誤りです。10人未満の部署については、管理職への聞き取りや個別面談など他の手段で状況把握を行うことが求められます。

高リスク部門への対応に優先順位をつける方法

複数の部門が高リスクと判定された場合、すべてに同時に対応するのは現実的に難しいことがあります。限られた人員とコストの中で効果を最大化するためには、優先順位を明確にする必要があります。

優先度の判断基準として、以下の3点を組み合わせて評価することをお勧めします。

  • 高ストレス者割合の高さ:全社平均や業界水準と比較して有意に高い部門
  • 仕事の量・コントロールに問題がある部門:業務量過多と裁量権の低さが重なると、メンタルヘルス不調が発生しやすい
  • 離職率・休職者の発生状況:すでに休職者が出ている、もしくは離職が相次いでいる部門は緊急性が高い

サポート不足(上司・同僚からの支援が少ない)が主因の部門は、コミュニケーション改善や1on1面談の導入など比較的取り組みやすい施策が有効な場合があります。一方、業務量過多やコントロール不足が根本にある場合は、人員配置や業務設計の見直しといった踏み込んだ対応が必要になります。

また、従業員数が少ない中小企業では、一つの部門の問題が会社全体に波及しやすい傾向があります。「うちの会社は小さいから問題も小さいはず」という考え方は危険です。むしろ、早期に対応することで改善効果が出やすいという側面もあります。

管理職へのフィードバックを成功させるための伝え方

高リスク部門の管理職に集団分析結果を伝える場面は、多くの人事担当者が難しさを感じるポイントです。「あなたの部署が問題です」というニュアンスで伝えると、管理職が防衛的になり、「うちの部署を問題扱いされた」という反発を招きます。これでは職場環境改善への協力が得られず、対応が形骸化してしまいます。

フィードバックの基本姿勢は、「問題の指摘」ではなく「職場改善のための情報共有」であることを明確にすることです。具体的には以下の点を意識してください。

  • 管理職を「犯人」にしない:高ストレス者が多い原因は、業務量・業務設計・人員配置など組織構造的な要因であることも多い。管理職個人の能力や責任だけに帰着させないことが重要
  • 結果を「課題」ではなく「改善の出発点」として位置づける:「この数字は、チームをより良くするためのヒントです」という枠組みで伝える
  • 可能であれば産業医や外部専門家を同席させる:人事担当者だけでなく第三者の専門家が説明することで、客観性が担保され管理職も受け入れやすくなる
  • 管理職自身の意見を引き出す:「この結果を見て、どう思いますか?」と問いかけ、管理職が当事者として考える場をつくる

なお、集団分析結果は事業者への提供が可能(本人同意不要)であり、これは労働安全衛生法に基づく正当な情報共有です。個人の結果を管理職に無断開示することとは明確に異なります。この点を従業員にも正しく説明しておくことで、「会社に都合よく使われるのでは」という不信感を和らげることができます。

産業医との連携が難しい中小企業では、産業医サービスを活用することで、専門家によるフィードバック支援や改善提案を受けることが可能です。

職場環境改善の具体的な進め方

高リスク部門が特定され、管理職との合意が形成できたら、いよいよ職場環境改善の実施です。ここで重要なのは、トップダウンで「やらせる」のではなく、従業員が主体的に参加する形で進めることです。これを「参加型職場環境改善」と呼び、厚生労働省のメンタルヘルス指針でも効果的な手法として紹介されています。

参加型ワークショップの活用

対象部門の従業員が集まり、「職場のストレス要因は何か」「どうすれば改善できるか」をグループで話し合うワークショップを実施します。上から押し付けられた改善策より、従業員自身が考えた策のほうが実行されやすく、定着率も高くなります。厚生労働省が公開している「職場環境改善のためのメンタルヘルスアクションチェックリスト」はこのワークショップで活用できる無料ツールです。

具体的な改善策の例

  • 業務量の可視化・再分配:誰にどれだけの業務が集中しているかを見える化し、適切に分散させる
  • 定期的な1on1面談の導入:管理職と部下が週1回・15分程度で進捗・困りごとを共有する場を設ける
  • 相談しやすい環境づくり:「悩みを話せる相手がいない」という孤立感を減らすための仕組み(社内相談窓口、外部EAPの導入など)
  • 業務プロセスの見直し:無駄な会議・報告業務の削減、権限委譲によるコントロール感の向上
  • 有給休暇取得の促進:取得しやすい雰囲気・制度上のサポートを整える

改善計画は衛生委員会(安全衛生委員会)での審議を経ることが、ストレスチェック制度の指針上求められています。衛生委員会を設置していない常時50人未満の事業場でも、それに準じた従業員代表を交えた話し合いの場を設けることが望ましいです。

また、外部のメンタルカウンセリング(EAP)を導入することで、従業員が社内の人間関係を気にせず専門家に相談できる環境を整えることも有効な選択肢です。特に、心理的安全性が低く社内での相談が難しい職場では、外部窓口が重要な役割を果たします。

効果測定とフォローアップの仕組みをつくる

「施策を打っても改善したかどうか翌年まで確認できない」という声はよく聞かれます。確かに、ストレスチェックは年1回の実施ですが、改善の手応えを翌年まで待つ必要はありません。むしろ、途中経過を定期的に確認する仕組みを設けることが、改善の継続につながります。

パルスサーベイの活用

パルスサーベイとは、短い設問(5〜10問程度)を月次や四半期で繰り返し実施する簡易調査です。ストレスチェックほど詳細ではありませんが、職場の雰囲気や業務負担感の変化を短期間でモニタリングできます。多くのHRツールで低コストから導入可能なため、中小企業でも活用しやすい方法です。

管理職との進捗確認の定例化

改善策の実施状況を、月次または四半期に一度、人事担当者と管理職の間で確認するミーティングを設定します。「1on1を週1回導入したが、実際に実施できているか」「業務量の再分配後に状況はどう変わったか」などを定期的に確認することで、施策が形骸化するのを防ぎます。

衛生委員会での定期審議

改善計画の進捗を衛生委員会で四半期ごとに審議する議題として設定します。衛生委員会は月1回の開催が義務づけられている(常時50人以上の事業場)ため、この場を活用することで組織的なフォローアップが可能になります。

実践のための3つのポイント

最後に、高リスク部門への対応を実際に動かしていくための重要ポイントを整理します。

  • 「実施して終わり」にしない:ストレスチェックの実施は出発点です。集団分析→課題の特定→職場環境改善→効果確認というPDCAサイクルを回すことが、制度の本来の趣旨です。労働安全衛生法第66条の10が定めるストレスチェック制度は、単なる義務履行ではなく職場改善を目的としています。
  • 専門家を孤立させない:産業医が選任されている場合は、集団分析結果の評価と改善提案を積極的に依頼しましょう。常時50人未満で産業医を選任していない事業場でも、地域産業保健センター(都道府県の産業保健総合支援センターが運営)では無料で専門家への相談が可能です。一人で抱え込まず、専門家の知見を借りることが改善の近道です。
  • 従業員の信頼を守る:「ストレスチェックの結果が会社に都合よく使われるのでは」という不安は、対応を誤ると離職や制度不信につながります。集団分析と個人情報の違いを丁寧に説明し、改善策の立案・実施プロセスに従業員が参加できる仕組みを設けることが、信頼の醸成につながります。

高リスク部門への対応は、決して管理職や人事担当者が一人で背負うべきものではありません。外部の専門家や支援制度を上手に活用しながら、組織全体で取り組む姿勢が、従業員のメンタルヘルス保持と職場の生産性向上の両方につながります。ストレスチェックの結果を「宝の持ち腐れ」にせず、職場改善の確かなきっかけとして活かしていただければ幸いです。

Q. ストレスチェックの集団分析で高リスクと判定された部門は、具体的にどんな対応が必要ですか?

まず集団分析結果のどのストレス要因(業務量・コントロール・サポート等)が高いかを確認し、対応の優先順位をつけます。その上で、当該部門の管理職に「改善のための情報共有」として結果をフィードバックし、従業員を交えた参加型ワークショップで改善策を立案・実施します。改善計画は衛生委員会で審議し、パルスサーベイや管理職との定期確認で途中経過をモニタリングすることが重要です。

Q. 10人未満の部署は集団分析結果を出せないと聞きました。何もしなくていいのでしょうか?

個人が特定されるリスクがあるため、10人未満の集団への結果開示は原則行いません。ただし、これは「何もしなくていい理由」にはなりません。管理職への聞き取り、従業員との個別面談、日常的な観察など、別の手段で状況を把握し、必要な支援につなげることが求められます。

Q. 産業医がいない中小企業でも、高リスク部門への対応を専門家に相談できますか?

はい、可能です。常時50人未満で産業医を選任していない事業場でも、各都道府県の産業保健総合支援センターが運営する地域産業保健センターでは、医師や保健師への無料相談が受けられます。また、外部の産業医サービスやEAP(従業員支援プログラム)を活用することで、継続的な専門家支援を受ける体制を整えることも有効です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

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