「うちの若手も…」20〜30代の健康診断D判定が急増中——中小企業が今すぐ取るべき対策と安全配慮義務の落とし穴

「うちの若い社員は健康だから大丈夫」——そう思っている経営者・人事担当者は少なくありません。しかし近年、20〜30代の従業員の健康診断において「d判定(要治療)」が増加傾向にあることをご存知でしょうか。かつては中高年の問題とされていた生活習慣病や血圧・血糖値の異常が、若い世代にも着実に広がっています。

中小企業にとって、若手社員は事業を支える重要な戦力です。その若手が突然倒れたり、慢性的な体調不良で生産性が低下したりすれば、事業継続にも影響しかねません。さらに、健診結果を把握しながら適切な対処をしなかった場合、企業は安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクもあります。

本記事では、20〜30代のd判定急増の背景と原因を整理したうえで、中小企業が今すぐ取り組むべき具体的な対策を法令の観点も交えて解説します。

目次

そもそも「d判定(要治療)」とは何か:軽視できない理由

健康診断の判定区分は一般的に、異常なし(A)・軽度異常(B)・要経過観察(C)・要精密検査または要治療(D)・治療中(E)などに分類されます(機関によって表記は異なります)。このうちd判定(要治療)とは、「すでに何らかの疾患が疑われ、医療機関での診察・治療が必要な状態」を意味します。

重要なのは、d判定は「念のため受診を」というレベルではなく、放置すれば脳卒中・心筋梗塞・糖尿病合併症などの重篤な疾患へ進行するリスクがある状態だという点です。高血圧・脂質異常症・高血糖などは自覚症状が乏しいため、本人も深刻さを認識しにくい傾向にあります。だからこそ、事業者側の積極的な関与が不可欠なのです。

「若いから自然に治る」「生活習慣を直せばよくなる」と楽観視して医師への受診を先延ばしにすると、気づいた時には取り返しのつかない状態になっているケースもあります。d判定を「要注意のサイン」として確実に受け止めることが、企業と従業員双方を守る第一歩です。

なぜ今、20〜30代のd判定が急増しているのか

かつて生活習慣病は「40代以降の問題」とされていましたが、近年はその様相が変わりつつあります。背景には複数の要因が絡み合っています。

生活習慣の急速な悪化

コンビニ食や外食、超加工食品への依存度が高まる一方で、運動習慣を持つ若者の割合は低下しています。特にコロナ禍以降、テレワークの普及により通勤による歩行量が激減したことは、多くの調査で指摘されています。また、スマートフォンやゲームの影響による就寝時間の後退・睡眠の質低下も、代謝異常や免疫機能の低下につながる要因として注目されています。

さらに、在宅勤務での「家飲み」増加により、アルコール摂取量のコントロールが難しくなっているという指摘もあります。これらが組み合わさることで、20〜30代でも血圧・血糖値・中性脂肪などが基準値を超えるケースが増えています。

慢性ストレスの身体化

メンタルヘルスの問題が身体に影響を与えることは医学的にも広く知られています。慢性的なストレスは自律神経のバランスを乱し、血圧や血糖値の上昇、脂質代謝の異常を引き起こすことがあります。キャリア不安や将来への漠然とした不安を抱える20〜30代は、精神的な負荷が高い傾向にあり、それが検査値に反映されているケースも少なくありません。

職場環境の影響

人手不足が続くなか、若手社員に業務が集中しやすい構造があります。特にIT・飲食・物流・医療介護などの業界では、長時間労働や不規則勤務が常態化しているケースもあります。睡眠不足と過重労働が重なれば、生活習慣病リスクが若い年齢から高まるのは当然といえます。

企業が負う法的義務:知らなかったでは済まされない

健康診断後の対応は、企業の「任意の取り組み」ではありません。労働安全衛生法により、事業者にはいくつかの明確な義務が課されています。

医師の意見聴取義務(第66条の5)

健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員(d判定者はその代表例)については、事業者は医師から就業上の措置に関する意見を聴取しなければなりません。これは努力義務ではなく、法律上の義務です。「健診結果を本人に渡して終わり」という対応は、この義務を果たしていないことになります。

就業上の措置義務

医師の意見に基づき、必要に応じて就業場所の変更・労働時間の短縮・深夜業の回数削減などの措置を講じる義務があります(労働安全衛生法第66条の5第2項)。特に重篤な状態にあるd判定者については、本人の希望だけでなく、事業者側から積極的に配慮する姿勢が求められます。

安全配慮義務違反のリスク(労働契約法第5条)

事業者はd判定を把握していながら何も措置を取らなかった場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。過労死や脳心臓疾患が発症した際には、直前の健診記録との整合性が裁判で争点になるケースがあります。「若いから問題ない」と判断して放置した記録が残れば、企業側の責任は重くなります。

なお、健康診断の個人票は5年間の保存義務があり(労働安全衛生規則第51条)、常時50人以上の事業場は定期健康診断結果報告書を労働基準監督署に提出する義務もあります。

こうした法令対応を適切に進めるためには、産業医サービスの活用が非常に有効です。産業医は医師の意見聴取・就業判定・受診勧奨の支援を専門的に担う存在であり、法令遵守体制の構築に不可欠な役割を果たします。

中小企業がすぐに着手すべき4つの実践対策

①d判定者の確実な把握と記録管理の整備

まず行うべきは、健診結果をただ本人に渡すだけでなく、事業者側でd判定者を把握・記録する仕組みを作ることです。具体的には以下の手順が有効です。

  • 健診機関から届いた結果を担当者が確認し、d判定者のリストを作成する
  • 年齢層別・部署別に集計し、特定の職場や業務との関連がないか分析する
  • 個人情報の取り扱いに注意しながら、必要な関係者(産業医・上司等)への情報共有範囲を明確にルール化する

健康診断結果は要配慮個人情報(個人情報保護法)に該当します。本人の同意なく第三者に開示することは原則禁止されているため、社内での情報管理ルールを事前に整備しておく必要があります。

②適切な受診勧奨と追跡管理の実施

d判定者に対しては、医療機関への受診を明確に勧奨することが企業の責務です。ただし、プライバシーへの配慮を理由に一切の関与を避けることは、安全配慮義務の観点から問題があります。バランスの取れたアプローチとして以下が推奨されます。

  • 口頭だけでなく、書面で受診勧奨を行い記録を残す(安全配慮義務の履行証跡として重要)
  • 「受診確認票」などの様式を整備し、本人が受診したかどうかを追跡管理する
  • 受診を本人が拒否した場合も、勧奨した事実と拒否した経緯を記録しておく
  • 受診後の経過について、就業上の措置が必要かどうかを産業医等と連携して判断する

③産業保健の専門家との連携体制を作る

「産業医は従業員50人以上の企業が選任するもの」というイメージがありますが、50人未満の小規模事業場でも活用できる無料の支援制度があります。

各都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(産保センター)内の「地域産業保健センター」では、小規模事業場の事業者や従業員を対象に、医師による健康相談・保健指導・産業保健に関するアドバイスを無料で提供しています。まずこうした公的支援を活用することから始めるとよいでしょう。

また、50人以上の事業場では嘱託産業医(月1回程度の訪問契約)の選任が義務付けられており、d判定者への医師意見聴取はこの産業医を通じて行うことが基本となります。

④職場環境・働き方の見直しによる根本対策

個人への受診勧奨だけでは、問題の根本解決にはなりません。若手社員のd判定増加の背景に職場環境の問題がある場合、業務の見直しや働き方の改善が不可欠です。

  • 長時間労働の実態を把握し、特定の社員への業務集中を解消する
  • テレワーク中の運動不足・孤立感への対策として、定期的なオンラインミーティングや歩数計測ツールの導入を検討する
  • 食環境の改善(社内での健康的な食品・飲料の提供、外食補助など)を小さなコストで実施する
  • ストレス対策として、メンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討する。EAP(従業員支援プログラム)は、従業員が気軽に相談できる外部の専門機関を活用するものであり、メンタル不調の早期発見・慢性ストレスによる身体化の予防にも効果が期待できます

コストを抑えて健康管理を強化するための助成金・支援制度

「健康管理に取り組みたいが、コストが心配」という中小企業のために、活用できる制度をご紹介します。なお、各制度の要件・助成額・受付状況は変更・廃止されることがありますので、必ず最新情報を厚生労働省や各都道府県労働局の公式窓口でご確認ください。

  • 小規模事業場産業医活動助成金:常時50人未満の小規模事業場が産業医や保健師による産業保健活動を実施する際に、費用の一部を助成する制度。独立行政法人労働者健康安全機構が窓口となっています
  • 健康経営優良法人認定制度(経済産業省):中小規模法人部門があり、認定取得により採用力・対外的な信頼性の向上にもつながります
  • 産業保健総合支援センター:産業保健に関する相談・情報提供・研修を無料で実施。全都道府県に設置されています

d判定が出た従業員に受診を強制できますか?

受診を法的に強制することは原則としてできませんが、事業者は受診を勧奨する義務があります。本人が拒否した場合も、勧奨した事実と経緯を書面で記録しておくことが重要です。記録を残すことで、企業側が安全配慮義務を果たした証跡となります。なお、業務上必要な就業判定(業務制限・配置転換等)は医師の意見に基づき事業者が判断できる範囲があるため、産業医に相談しながら対応することを推奨します。

従業員が50人未満の会社でも産業医は必要ですか?

常時50人未満の事業場は産業医の選任義務がありませんが、産業保健の支援を受けることは可能です。各都道府県の産業保健総合支援センター(地域産業保健センター)では、無料で医師による健康相談や保健指導を受けられます。また、任意で嘱託産業医と契約することもでき、健診結果の活用や法的対応の観点から有益です。コストを抑えたい場合は、まず公的支援制度の活用から検討されることをお勧めします。

健康診断の結果を上司に共有してもよいですか?

健康診断の結果は「要配慮個人情報」(個人情報保護法)に該当するため、取り扱いには注意が必要です。就業上の措置(業務制限・配置転換等)を判断するために必要な範囲に限り、産業医や直属の上司に情報提供することは認められていますが、本人の同意を得るか、社内規程に基づいた適切な手続きが必要です。「みんなに知られたくない」という従業員の心情にも配慮し、情報共有の範囲と手続きを事前にルール化しておくことが望ましいです。具体的な運用については、社会保険労務士や産業医などの専門家にご相談ください。

まとめ:「若いから大丈夫」という思い込みが最大のリスク

20〜30代の健康診断d判定急増は、生活習慣の変化・慢性ストレス・職場環境の問題が複合的に絡み合った結果です。これは特定の個人の問題ではなく、現代の職場環境が生み出している構造的な課題と捉える必要があります。

中小企業にとって、若手社員の健康は事業継続の根幹です。d判定者への対応は、法令上の義務であるとともに、優秀な人材を守り、生産性を維持し、離職を防ぐための経営的投資でもあります。「健診をやっている」だけでは不十分です。結果を把握し、受診を勧奨し、職場環境の改善につなげる——この一連のサイクルを回す仕組みを作ることが、今まさに求められています。

まずは自社の健診結果を年齢層別に集計するところから始めてみてください。そこから見えてくる課題が、次の一手を教えてくれるはずです。

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