2022年4月、女性活躍推進法の義務対象が大きく拡大されました。それまで「301人以上の企業が対象」という認識が一般的でしたが、改正によって常時雇用する従業員が101人以上の事業主にも、行動計画の策定・届出・情報公表が義務付けられるようになったのです。この変更を「うちは関係ない」とまだ思っているとしたら、それは大きな誤解です。
さらに、育児・介護休業法も2022年・2023年と続けて改正され、2025年にも新たな施行が予定されています。中小企業の経営者・人事担当者にとって、「どの法律が、いつから、何を求めているのか」を整理するだけでも一苦労という状況が続いています。
本記事では、女性活躍推進法の基本的な義務内容から、育児休業法との関係、行動計画の具体的な作り方、そして制度が「形だけ」にならないための組織風土づくりまでを体系的に解説します。中小企業でも取り組める実践的な視点を中心にお伝えしますので、ぜひ現状確認の出発点としてお役立てください。
女性活躍推進法・育児介護休業法・次世代法の違いを整理する
まず混乱しがちな3つの法律の違いを整理しましょう。それぞれ目的と義務内容が異なるため、「どれが自社に適用されるのか」を正確に把握することが制度設計の出発点になります。
女性活躍推進法(2016年施行・2022年改正)
正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。採用・継続就業・管理職比率・労働時間・多様なキャリアコースという5つの観点から自社の状況を把握・分析し、課題解決に向けた行動計画を策定・届出・公表することを求めています。
2022年4月より、義務対象が「常時雇用301人以上」から「常時雇用101人以上」に拡大されました。100人以下の事業主は努力義務にとどまりますが、後述するえるぼし認定を取得するためには行動計画の策定が必要なため、小規模企業でも積極的に取り組む意義があります。
育児・介護休業法(直近の主な改正ポイント)
育児休業や介護休業の取得ルールを定めた法律です。2022年の改正では、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる産後パパ育休(出生時育児休業)が新設されました。また育児休業の分割取得(2回まで)が可能となり、柔軟な取得スタイルが認められています。
2023年4月からは、従業員1,000人超の企業に対して育児休業取得状況の公表が義務化されています。中小企業には直接の公表義務はありませんが、取引先や採用候補者から取得状況を問われる場面が増えており、実態の整備が急務です。さらに2025年には、子の看護休暇の拡充・育児時短勤務の柔軟化・テレワーク努力義務などの施行が予定されており、引き続き法改正への対応が求められます。
次世代育成支援対策推進法(次世代法)
少子化対策の観点から、仕事と子育ての両立支援を企業に促す法律です。常時雇用101人以上の事業主に行動計画の策定・届出・公表が義務付けられており、女性活躍推進法と一体的に策定することも認められています。くるみん認定(通常/プラチナ/トライくるみん)を取得すると、助成金や税制優遇の対象になります。
3つの法律は対象規模や義務の具体的な内容が異なりますが、いずれも「職場環境の整備」と「情報の可視化・公表」を共通のテーマとしています。担当者として、まずはこの3法を別々のものとして区別して把握することが重要です。
一般事業主行動計画の策定から公表まで:実務の流れ
女性活躍推進法の中核となる義務が一般事業主行動計画の策定・届出・公表です。「何から始めればいいかわからない」という声が中小企業の担当者から多く聞かれますが、ステップを分解すれば対応できます。
ステップ1:状況把握と課題分析
まず自社の現状をデータで把握します。把握が必要な主な項目は次のとおりです。
- 採用者に占める女性の割合
- 男女の継続就業年数の差
- 労働時間(時間外労働・有給取得状況)
- 管理職に占める女性の割合
- 女性のキャリアコース(正社員転換・再雇用など)
収集したデータは、業界平均や地域の統計と比較することで、自社の強みと課題が明確になります。厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」では他社の公表情報を参照できるため、ベンチマーク(比較指標)として活用できます。
ステップ2:行動計画の策定
課題が明確になったら、目標と具体的な取組内容、計画期間を設定します。目標は「女性管理職比率を〇%以上に引き上げる」「育児休業取得率を〇%以上にする」といった数値目標で設定することが望ましいとされています。ただし、現状とかけ離れた高すぎる目標を形式的に設定しても実効性はありません。自社の実態に即した達成可能な目標を設定することが大切です。計画期間は概ね2〜5年程度が一般的です。
ステップ3:届出・公表
策定した行動計画は都道府県労働局へ届出が必要です。電子申請には厚生労働省の「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画策定支援サイト(行動計画策定支援ツール)」が活用できます。
情報の公表については、自社ウェブサイトまたは「女性の活躍推進企業データベース」への掲載が求められます。公表項目数は企業規模によって異なり、101〜300人の場合は1項目以上、301人以上の場合は2項目以上を選択して公表する必要があります。また、従業員への周知(社内掲示・メール配信・説明会など)の方法も計画の中で具体的に定めておくとよいでしょう。
えるぼし認定・くるみん認定で採用力とブランド力を高める
行動計画の策定・届出にとどまらず、さらに一歩進んで認定取得を目指すことも有効な選択肢です。認定は自社の取組みの「見える化」に直結し、採用市場でのブランド力向上につながります。
えるぼし認定とは
女性活躍推進法に基づく認定制度で、①採用、②継続就業、③労働時間等の働き方、④管理職比率、⑤多様なキャリアコースという5つの基準の達成数に応じて1〜3段階で認定されます。より高い水準の取組みを評価するプラチナえるぼし認定を取得した企業は、一般事業主行動計画の策定義務が免除されます。
えるぼし認定を取得すると、公共調達(国や自治体の入札)での加点評価や、金融機関の融資における優遇措置を受けられる場合があります。コスト削減や信用力向上という実利的なメリットもあるため、経営戦略の観点からも認定取得を検討する価値があります。
くるみん認定とは
次世代育成支援対策推進法に基づく認定で、育児支援に積極的な企業に与えられます。認定の種類は「くるみん」「プラチナくるみん」「トライくるみん」の3種類があり、段階的なステップアップが可能です。助成金の受給要件になる場合もあるため、両立支援に力を入れる企業にとってはまず検討したい認定です。
100人以下の中小企業でも、行動計画を自主的に策定してこれらの認定を申請することができます。義務対象外だからと制度活用をあきらめる必要はありません。
制度があっても使われない問題:組織風土の整備が鍵
多くの中小企業で聞かれるのが「制度はあるのに利用率が上がらない」という悩みです。育児休業の申請書を用意したり、短時間勤務制度を就業規則に盛り込んだりしても、実際に利用する従業員が少ないというケースは珍しくありません。この問題の根本には、制度と職場風土のギャップがあります。
アンコンバイアス研修で管理職の意識を変える
アンコンバイアス(無意識偏見)とは、自分では気づいていない先入観や偏見のことです。「育休を取るのは女性の仕事」「時短勤務の社員は昇格対象外」といった無意識の思い込みが、職場の雰囲気を通じて従業員の行動に影響を与えます。管理職・上司向けにアンコンバイアス研修を実施することは、制度利用を実質的に促進するうえで有効な取り組みとされています。
育休中のつながりを切らない工夫
育休中の従業員が「職場に戻りにくい」と感じる要因の一つが、休業中の情報断絶です。社内報の送付、オンライン研修への任意参加の機会提供、復職前の面談など、「職場とのつながりを維持する仕組み」を設けることで、復職後のスムーズな再統合と離職防止につながります。段階的な業務復帰(復職初期は短時間勤務から開始するなど)のプログラムも有効です。
また、育休取得者が出た際の業務カバーは、少人数の職場では特に頭を悩ませる課題です。業務の標準化(担当者不在でも他の社員が対応できる状態にすること)を日常的に進めておくことが、中長期的な解決策になります。こうした体制整備において、従業員のメンタルヘルスや職場コミュニケーションの課題が出てきた場合には、メンタルカウンセリング(EAP)のような外部支援を活用することも選択肢の一つです。
メニュー型両立支援で多様なニーズに対応する
短時間勤務・テレワーク・フレックスタイム制・子の看護休暇などを組み合わせたメニュー型の両立支援は、個々の従業員の生活状況に合わせた柔軟な働き方を可能にします。「育児中の社員だけが使える制度」という印象ではなく、介護・治療・ライフイベントなどさまざまな事情を持つすべての従業員が利用できる制度として整備することで、組織全体の働きやすさが向上し、制度の形骸化を防ぐことができます。
助成金を活用してコスト負担を軽減する
「制度を整備したいが、コストが心配」という声は中小企業に多く聞かれます。厚生労働省の助成金を活用することで、制度構築にかかる費用の一部を補填できる場合があります。主なものを確認しておきましょう。
両立支援等助成金
育児や介護と仕事の両立を支援する制度を整備・導入した事業主を対象とした助成金です。主なコースには以下のものがあります。
- 出生時両立支援コース:男性従業員が育児休業(産後パパ育休を含む)を取得した場合に助成
- 育児休業等支援コース:育休取得・職場復帰の支援プランを策定し実施した場合に助成
- 介護離職防止支援コース:介護を理由とした離職防止のための制度整備・実施に対して助成
助成金の支給要件や金額は改廃されることがあるため、申請前に厚生労働省または都道府県の労働局・ハローワークで最新情報を確認することを強くお勧めします。
働き方改革推進支援助成金
時間外労働の削減や勤務間インターバル(退勤から次の出勤までに一定の休息時間を確保すること)の導入を支援する助成金です。女性活躍推進と密接に関わる「労働時間の適正化」に向けた取り組みに活用できます。
なお、産業保健体制の整備が女性活躍推進の土台になることも少なくありません。女性特有の健康課題(生理・更年期・妊娠など)への対応や、復職後のメンタルヘルスケアについては、産業医サービスを通じて専門家と連携する体制を検討することも有効です。
実践ポイント:今日からできる5つのアクション
法律の理解や制度設計は重要ですが、何より大切なのは「まず動き出すこと」です。以下の5つのアクションは、専任の人事担当者がいない中小企業でも着手できるものです。
- 自社の従業員数を確認する:常時雇用する従業員が101人以上かどうかを正確に確認し、義務対象に該当するか判断する。パートタイム・契約社員も常時雇用に含まれます。
- 5つの把握項目のデータを収集する:採用・継続就業・労働時間・管理職比率・多様なキャリアコースについて、現在の自社の数値を集める。まずは現状の可視化から始める。
- 都道府県労働局に相談する:行動計画の策定方法や届出手続きについて不明な点は、管轄の都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に問い合わせる。無料で相談できます。
- 管理職向けの意識啓発を始める:制度整備と並行して、管理職が「育休取得や時短勤務を阻む側にならない」ための研修や対話の場を設ける。
- 助成金の申請要件を確認する:両立支援等助成金の活用可能性を事前に確認する。導入予定の制度が要件を満たすかどうか、社会保険労務士やハローワークに事前相談する。
まとめ
女性活躍推進法は2022年の改正により、101人以上の事業主に行動計画の策定・届出・情報公表が義務付けられました。「うちは小規模だから関係ない」という認識は、今や通用しません。さらに育児・介護休業法の改正が続き、2025年にも新たな施行が予定されているなど、中小企業の経営者・人事担当者が把握すべき制度は増え続けています。
しかし、法的義務への対応は、単なるコンプライアンス(法令順守)にとどまりません。女性が長く活躍できる環境を整えることは、採用力の強化・離職率の低下・組織全体の生産性向上につながる経営上の投資です。制度の整備と組織風土の改革を両輪で進め、えるぼし認定やくるみん認定の取得を通じて対外的な信頼を高めることも、中小企業にとって現実的な選択肢となっています。
まずは自社の現状データを集めることから始めてください。一歩踏み出すことが、法令対応と組織力強化の両方を同時に前進させる出発点になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 従業員101人以上とは、パートや契約社員も含まれますか?
はい、含まれます。女性活躍推進法における「常時雇用する労働者」には、正社員だけでなく、パートタイム労働者・契約社員・派遣社員(派遣先での常用的使用が見込まれる場合)なども含まれます。頭数のカウントに際しては、雇用形態を問わず実態を確認することが重要です。不明な点は管轄の都道府県労働局にご相談ください。
Q. 行動計画を策定したが、目標が達成できなかった場合はどうなりますか?
目標未達成を理由に直ちに罰則が科されるわけではありませんが、計画通りに取り組みが進まなかった場合は計画の見直しが必要です。重要なのは目標を「絵に描いた餅」にしないことです。定期的に進捗を確認し、取り組みの内容や目標自体を実態に合わせて修正する「PDCAサイクル(計画・実行・確認・改善のサイクル)」を回すことが求められます。なお、届出義務を怠った場合や虚偽の届出をした場合は、是正指導・公表などの行政対応の対象となる可能性があります。
Q. 女性管理職がなかなか増えません。何から手を付ければよいですか?
管理職登用の前段階にある「キャリア形成の機会」と「本人の意欲・不安への対応」の両方を整えることが出発点として有効です。具体的には、女性従業員に対するキャリア面談の実施、管理職候補者向けのメンター制度(経験豊富な先輩が支援する制度)の導入、小規模なリーダー経験の機会提供(プロジェクトリーダーなど)などが考えられます。また、管理職になることへのためらいの背景には「育児と管理職の両立への不安」がある場合も多いため、両立できる職場環境の整備を同時並行で進めることが重要です。









