「復職した社員が3ヶ月で辞める会社がやっていること——中小企業が今すぐ見直すべき育児休業復職支援の落とし穴」

育児休業からの復職は、従業員にとっても企業にとっても大きな転換点です。しかし多くの中小企業では、「制度は整えたつもりだが、いざ復職となると何をすればよいかわからない」「復職後すぐに退職されてしまった」という声が後を絶ちません。実際、復職後1年以内に離職する割合は決して低くなく、せっかく育てた人材を失うリスクは企業経営にとっても無視できない問題です。

この記事では、育児休業からの復職支援を「法的義務の履行」にとどめず、従業員が安心して職場に戻り、長く活躍できる環境をつくるための具体的な取り組みをご紹介します。中小企業でも無理なく実践できる方法を中心に解説しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

なぜ復職支援が中小企業にとって重要なのか

大企業であれば専任の人事部門が復職支援プログラムを整備し、産業医や社会保険労務士と連携した対応が可能です。しかし中小企業では、人事担当者が総務・経理を兼務していることも多く、復職対応が「担当者の経験や感覚任せ」になりがちです。

その結果として起きやすいのが、以下のような問題です。

  • 休業中に組織改編やシステム変更が起き、復職時に大きな情報ギャップが生じる
  • 復職後の業務量の調整が不十分で、従業員が孤立感や罪悪感を抱える
  • 周囲のメンバーに負担が集中し、チーム全体の士気が低下する
  • 育児と仕事の両立ストレスが蓄積し、産後うつや適応障害(環境の変化に適応できず、気分の落ち込みや不安が続く状態)が見過ごされる

こうした問題を放置すると、復職後の早期離職や、最悪の場合はハラスメントとして法的問題に発展するリスクもあります。逆に言えば、丁寧な復職支援は優秀な人材の定着につながり、採用コストの削減や企業イメージの向上にも寄与します。

知っておくべき法律の基本:育児・介護休業法のポイント

復職支援を適切に行うためには、まず法律の基本を押さえておく必要があります。育児・介護休業法(以下、育介法)は、育休取得者の権利を手厚く保護しており、企業側が知らずに違反するケースも少なくありません。

原職または原職相当職への復帰が原則

育介法では、育児休業取得後の復職について、原職または原職相当職への復帰が原則とされています(第10条・第16条等)。「原職相当職」とは、休業前と同じ職種・職位・賃金水準に相当するポジションを指します。本人の同意なき降格や減給、不利な配置転換は「不利益取扱い」として違法となる可能性があります。

ただし、よくある誤解として「原職に絶対に戻さなければならない」と思い込み、組織再編後も無理に元のポジションを維持しようとするケースがあります。実態に即した「原職相当職」への配置は問題ありませんが、その判断は本人の不利益にならないかどうかが基準となります。迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

短時間勤務制度の設置義務

3歳未満の子を持つ従業員に対して、1日6時間の短時間勤務を選択できる制度の設置が事業主に義務付けられています。また、3歳未満の子を持つ従業員が請求した場合、所定外労働(残業)の免除も義務となります。さらに小学校就学前の子を持つ従業員には、子1人につき年5日(2人以上で年10日)の看護休暇が認められており、2021年1月からは時間単位での取得も可能になっています。

個別周知・意向確認の義務化

2023年4月の育介法改正により、従業員が妊娠・出産を申し出た際に、育児休業制度の個別周知と取得意向の確認が全企業に義務化されました。「知らなかった」では済まされない時代になっています。また、マタニティハラスメント(妊娠・出産・育休取得を理由とした不利益取扱いや嫌がらせ)の防止措置として、相談窓口の設置・周知も義務付けられています。

復職支援の3つのフェーズ:休業前・休業中・復職後

復職支援を成功させるカギは、育児休業に入る前から支援を始めることです。復職当日に慌てて対応するのではなく、3つのフェーズごとに計画的に取り組むことが重要です。

フェーズ①:休業前の準備(休業開始の1〜2ヶ月前)

休業に入る前に、本人・直属の上司・人事担当者の三者で面談を実施しましょう。この面談では以下の点を確認します。

  • 育児休業の取得期間の見通し
  • 復職後の希望する働き方(時短勤務・テレワークの希望など)
  • 業務の引き継ぎ計画と担当者の確認
  • 休業中の連絡方法・頻度についての本人の希望

特に連絡方法と頻度は、必ず本人の希望をベースに決めることが重要です。「月に一度、変更情報をメールで送ってほしい」という方もいれば、「育児に集中したいので連絡は不要」という方もいます。企業側から一方的に連絡を続けることは、本人にとって精神的な負担となり、場合によってはハラスメントとして問題になることもあります。

フェーズ②:休業中の情報提供(任意かつ本人希望ベースで)

休業中も職場との接点を完全に断つ必要はありませんが、あくまでも本人が希望する場合のみ情報を提供することが原則です。組織変更・人事異動・新しいシステムの導入など、復職後に影響しそうな情報は、社内報や任意のニュースレターという形で提供することができます。

また、復職予定の1〜2ヶ月前には復職前面談を設定しましょう。この段階で確認すべき内容は次のとおりです。

  • 復職予定日と勤務形態(フルタイム・時短・テレワークなど)
  • 保育所の入所状況や送迎の時間帯
  • 復職後に担当してほしい業務の範囲
  • 体調面での不安・懸念事項

フェーズ③:復職後の定着支援(最初の3〜6ヶ月が特に重要)

復職直後は、従業員が「以前のペースに戻ろう」と無理をしがちです。企業側はスモールスタートの業務設計を意識し、最初の1〜3ヶ月は業務量と責任範囲を段階的に戻していくことを明確に伝えましょう。

また、OJT担当者や「何かあれば相談できる」窓口役を明確に設定することで、復職者の孤立感を防ぐことができます。上司は月1回程度の1on1面談(上司と部下が1対1で行う定期的な対話)を実施し、業務状況だけでなく、体調や育児との両立状況についても自然な形でヒアリングする習慣をつけましょう。

なお、育児と仕事の両立によるストレスが蓄積すると、適応障害や産後うつが復職後に顕在化することがあります。「元気そうに見えるから問題ない」と判断せず、定期的な面談を「早期発見の場」として設計することが大切です。メンタルヘルスの専門的なサポートとして、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も有効な選択肢のひとつです。

見落とされがちな「周囲のメンバー」へのフォロー

復職支援を考える際、どうしても復職者本人への対応に目が向きがちですが、周囲のメンバーへのケアも同様に重要です。「自分たちが負担を抱えながらカバーしてきたのに、特に何も言われない」「時短の人と評価が同じなのは納得できない」という感情が生まれると、チーム全体の関係性が悪化します。

管理職は、復職者の業務を調整する際に以下の点を意識しましょう。

  • チームへの事前説明:「最初の3ヶ月はこういう体制で進める」という見通しを共有する
  • サポートへの感謝を言語化する:「フォローしてくれていること、本当に助かっている」という言葉は職場の雰囲気を大きく変える
  • 業務負荷が特定の人に偏らない仕組みをつくる:業務の可視化・再分配を定期的に見直す

心理的安全性(チームメンバーが安心して意見を言えたり、助けを求めたりできる雰囲気)の高い職場は、復職者だけでなくチーム全体のパフォーマンスにも直結します。

中小企業が今すぐ始められる実践ポイント

「理想はわかるが、うちにはリソースがない」という声もよく聞きます。しかし、復職支援に必要なのは、必ずしも大きな予算や専任担当者ではありません。まずは以下の取り組みから始めてみましょう。

チェックリストを作成する

休業前面談・復職前面談・復職後の定期面談それぞれで確認すべき項目をチェックリスト化しておくだけで、対応の抜け漏れが大幅に減ります。前例がなくても、このリストがあれば誰でも一定水準の対応が可能になります。

就業規則と運用マニュアルを分けて整備する

就業規則に短時間勤務制度や育休取得の条件を明記するだけでなく、「実際に申請が来たときにどう動くか」という運用マニュアルを別途作成することをおすすめします。担当者が変わっても対応が属人的にならないようにするためです。

相談窓口を明確にする

マタハラ・パタハラの防止措置として、相談窓口の設置と周知が義務付けられています。外部の相談窓口として産業医サービスを活用することで、従業員が社内に言いにくいことを専門家に相談できる環境を整えることができます。特に復職後のメンタルヘルス相談や体調管理のサポートに有効です。

「時短=評価を下げてよい」という誤解を管理職から解消する

時短勤務を理由にした不利益な人事評価は、ハラスメントや違法行為にあたる可能性があります。実働時間が短い点を加味した合理的な評価基準を設計し、管理職向けの勉強会や研修を定期的に実施することが重要です。経営者自身がこのメッセージを発信することで、職場全体の意識が変わります。

まとめ:復職支援は「制度の整備」から「文化の醸成」へ

育児休業からの復職支援は、法律を守るだけでは十分ではありません。制度があっても、職場の雰囲気や管理職の関わり方次第で、復職者が「戻ってよかった」と思えるかどうかは大きく変わります。

大切なのは、休業前・休業中・復職後という3つのフェーズで継続的に関わり、従業員が孤立しない環境をつくることです。また、復職者だけでなく周囲のメンバーへのフォローも忘れず、チーム全体で支え合える文化を育てることが、長期的な人材定着と組織力の向上につながります。

「前例がない」「担当者がいない」という中小企業こそ、まずはチェックリストひとつ、面談のルールひとつから始めてみてください。小さな仕組みの積み重ねが、従業員にとって「この会社で働き続けたい」と思える職場環境をつくっていきます。

よくある質問(FAQ)

育児休業から復職した従業員を以前と異なる部署に配置してもよいですか?

原則として、育児・介護休業法では育休後は「原職または原職相当職」への復帰が求められています。部署異動自体が直ちに違法とはなりませんが、本人の不利益(賃金低下・職位の低下など)を伴う変更は「不利益取扱い」として違法となる可能性があります。配置変更を検討する際は、必ず本人との十分な協議を行い、同意を得ることが重要です。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

時短勤務中の従業員は昇進・昇格の対象から外してもよいですか?

時短勤務を理由とした昇進・昇格の見送りや不利益な人事評価は、育児・介護休業法および男女雇用機会均等法に抵触する可能性があります。実働時間が短い点を合理的に評価基準に反映させることは可能ですが、「時短だから昇格させなくてよい」という判断はハラスメントとして問題になりうるため、評価基準の見直しと管理職への周知が必要です。

復職後に従業員のメンタル不調に気づいたときはどう対応すればよいですか?

まず、管理職が1on1面談などを通じて早めに状況を把握することが重要です。不調のサインが見られた場合は、産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)などの専門家につなぐことを検討しましょう。「本人が相談してこないから問題ない」という判断は危険です。育児と仕事の両立ストレスによる産後うつや適応障害は、放置すると長期休業や離職につながるケースもあるため、早期対応が求められます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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