「傷病休暇と休職は別物だった」中小企業が知らないと損する違いと正しい運用ルール

従業員が病気やケガで働けなくなったとき、「有給休暇を使い切ったら次はどうすればいいのか」「休職させるべきなのか、それとも別の対応があるのか」と頭を悩める経営者・人事担当者は少なくありません。特に中小企業では、就業規則の整備が追いついておらず、その場しのぎの対応をしているうちにトラブルに発展するケースもあります。

本記事では、傷病休暇と休職の違いを整理したうえで、制度設計の考え方、運用上の注意点、復職・期間満了時の対応まで、実務に役立つ形で解説します。

目次

傷病休暇と休職は「別物」です——まず制度の位置づけを理解する

「傷病休暇」と「休職」は、どちらも従業員が病気やケガで職場を離れる際に関係する制度ですが、その性質は大きく異なります。まずここを明確に理解しておくことが、適切な運用の第一歩です。

傷病休暇とは何か

傷病休暇は、労働基準法に規定がない、会社が任意で設ける制度です。年次有給休暇(労働基準法第39条)とは別に、病気やケガを理由に取得できる休暇として設計します。有給にするか無給にするかは会社が自由に決められますが、設ける場合は就業規則への記載が必要です(労働基準法第89条)。

傷病休暇の主な役割は、有給休暇と休職の「橋渡し」です。年次有給休暇を消化した後、すぐに休職に入るのではなく、一定の傷病休暇期間を設けることで、従業員が段階的に休養できる仕組みをつくれます。この制度がないと、有給休暇を使い切った翌日から休職扱いにしなければならないケースが生じ、双方にとって余裕のない状況になりかねません。

休職とは何か

休職もまた、法律上の義務規定はありません。労働基準法にも労働契約法にも休職制度の規定は存在せず、実務慣行の中で「解雇を猶予する措置」として発展してきた制度です。つまり、就業規則に休職の規定がない会社では、理論上、休職命令を出すことができず、無断欠勤扱いや解雇のリスクが生じる可能性があります。

休職中の賃金については、法的に支払い義務はなく、「ノーワーク・ノーペイの原則」(働かない日の賃金は支払わなくてよいという原則)が適用されるのが一般的です。ただし、社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格は休職中も継続するため、保険料の負担は労使ともに続きます。従業員側の保険料については、休職中の給与から控除できないため、振込などで本人から徴収する取り決めを事前に決めておくことが重要です。

制度の適用順序を整理する——有給休暇・傷病休暇・休職の関係

従業員が病気で休む場合、どの制度をいつ適用するかの流れを就業規則で明確に定めておく必要があります。一般的な適用順序の例は次のとおりです。

  • ①年次有給休暇の取得:まず本人の請求に基づき有給休暇を消化する
  • ②傷病休暇の適用(会社が制度を設けている場合):有給休暇終了後、会社が定めた日数の傷病休暇を付与する
  • ③休職命令の発令:傷病休暇でも回復が見込めない場合、正式に休職を命じる
  • ④休職期間満了:定められた期間内に復職できない場合、就業規則の規定に基づき退職となる

この順序を就業規則に明記しておくことで、「なぜ休職になったのか」「いつまで休めるのか」が本人にも明確に伝わります。また、傷病休暇の日数(例:年間10日間・無給など)や休職期間の上限(例:勤続年数に応じて3か月〜2年)も具体的に記載しておくことが、後のトラブル防止につながります。

なお、休職制度が整備されていない小規模企業は、まず就業規則に最低限の規定を加えることから始めてください。「制度がない」ままで対応を続けることが、最もリスクの高い状態です。

休職中の従業員への対応——傷病手当金と連絡管理

傷病手当金の仕組みと会社の役割

休職中の従業員の経済的な支えとなるのが、傷病手当金です(健康保険法第99条)。業務外の病気やケガで連続3日間休んだ後(待期期間)、4日目以降から支給が始まります。支給額は標準報酬日額(直近12か月の平均月額を30で割った金額)の3分の2で、支給期間は支給開始日から最長1年6か月です。

ここで重要なのは、傷病手当金は健康保険組合または協会けんぽが支給する制度であり、会社が支払う制度ではないという点です。会社が行う実務は、申請書の「事業主の証明欄」への記入のみです。ただし、この証明が遅れると従業員の受給開始が遅れ、経済的な不安が生じます。人事担当者は迅速に対応するよう心がけてください。

なお、退職後も傷病手当金を継続して受給できる場合があります。被保険者期間が継続して1年以上あり、退職時に傷病手当金を受給中(または受給できる状態)であれば、退職後も最長1年6か月の支給開始日から残りの期間は受給できます。期間満了で退職となる従業員には、この点も丁寧に説明することが大切です。

休職中の連絡は「ルールに基づいた最小限」が原則

休職中の従業員との連絡については、「頻繁に連絡すべきか、放置していいのか」と迷う担当者が多いようです。基本的な考え方は、事前にルールを決めたうえで、必要最低限の連絡にとどめるというものです。

月1回程度の状況確認(体調の経過、医療機関への通院継続の有無など)を、電話やメールで行うのが一般的な目安です。連絡窓口は原則として人事担当者に一本化し、上司からの直接連絡は避けることが望ましいとされています。業務の話や職場復帰を急かすような内容は、ハラスメントや療養妨害とみなされるリスクがあります。連絡のルールは、休職命令の書面に記載しておくと双方にとって安心です。

メンタルヘルス不調の従業員については特に配慮が必要です。連絡の方法・頻度・内容を慎重に設計しないと、回復の妨げになることがあります。こうした対応に不安を感じる場合は、メンタルカウンセリング(EAP)などの外部専門機関に相談する体制を整えることも有効な選択肢です。

復職時の判断——主治医の診断書だけでは不十分

休職からの復職は、制度運用の中で最もトラブルが起きやすい場面のひとつです。最大の誤解は、「主治医が復職可と言ったから、すぐに職場に戻してよい」という判断です。

主治医が評価するのは、あくまで「日常生活に支障がない程度まで回復しているか」という観点です。実際の業務に耐えられるかどうか、職場の人間関係の中でストレスなく働けるかどうかは、主治医の診断書だけでは判断できません。

適切な復職判断のプロセスとして、以下のステップが推奨されています。

  • 本人からの復職申出と主治医の診断書提出を受け付ける
  • 産業医による意見聴取(業務内容・職場環境を踏まえた就労可否の判断)
  • 復職面談の実施(人事・上司・必要に応じ産業医が同席)
  • 復職条件の決定(短時間勤務・配置転換・業務軽減など合理的配慮の検討)
  • 試し出勤・リハビリ勤務の活用(就業規則に定めがある場合)

産業医サービスを活用することで、主治医との連携も含めた科学的な復職判断が可能になります。特にメンタルヘルス不調による休職の場合、再発防止の観点からも産業医の関与は欠かせません。復職後に再休職を繰り返すケースは、事前の就業適性評価が不十分な場合に多くみられます。

休職期間満了時の対応——「自然退職」は慎重に運用する

休職期間が満了しても復職できない場合、就業規則の定めに基づき退職(または解雇)の処理を行います。多くの企業では「休職期間満了をもって自然退職とする」と規定していますが、この運用には慎重さが求められます。

まず、業務上の傷病(労働災害)による休職の場合は、療養中および復職後30日間は解雇が禁止されています(労働基準法第19条)。自然退職規定があっても、業務上災害に起因する休職には適用できません。

業務外の私傷病による休職の場合は解雇制限の規定はありませんが、実質的に解雇と同等と判断されるケースでは、解雇権濫用法理(合理的な理由のない解雇は無効とする考え方)が適用される可能性があります。また、精神・身体の障害を持つ従業員については、障害者雇用促進法に基づく合理的配慮義務の観点から、退職の前に配置転換や業務軽減などの対応策を検討したかどうかが問われることがあります。

実務上の対応として、休職期間満了の1〜2か月前には本人・必要に応じて家族に対して書面で通知し、退職手続きの説明と傷病手当金の継続受給の可能性についても丁寧に案内することが重要です。

実践ポイント——今日から取り組める制度整備のステップ

これまでの内容を踏まえ、中小企業が今すぐ取り組むべき実践ポイントを整理します。

  • 就業規則に傷病休暇・休職の規定を明記する:適用順序、期間の上限、有給・無給の別、復職手続きを具体的に記載する
  • 休職命令は必ず書面で行う:口頭での命令だけでは、後に「命令を受けていない」とのトラブルになるリスクがある
  • 診断書の提出ルールを定める:休職開始時・継続時・復職申請時、それぞれの提出タイミングと様式を明確にする
  • 傷病手当金の申請書対応は速やかに行う:会社証明欄の記入遅延は従業員の経済的な不安に直結する
  • 復職判断に産業医を関与させる仕組みを整える:特にメンタルヘルス不調のケースでは必須と考える
  • 休職中の連絡ルールを事前に取り決め、書面に残す:連絡窓口・頻度・内容の範囲を明確にする
  • 休職期間満了前の通知を怠らない:期間満了による退職は、十分な事前告知と手続き説明がセットでなければトラブルになりやすい

まとめ

傷病休暇と休職は、どちらも法律上の義務規定はないものの、整備されていなければ従業員が病気になったときに会社が適切に対応できず、トラブルに発展するリスクがある制度です。

大切なのは、制度の適用順序・期間・手続きを就業規則に明確に定めること、そして復職や期間満了の判断を根拠に基づいて行うことです。特に復職判断については、主治医の診断書だけに頼らず、産業医の意見を取り入れた仕組みを整えることが、再休職の防止と従業員保護の両立につながります。

制度設計の段階から専門家の知見を取り入れることで、経営者・人事担当者の判断の負担を大幅に軽減できます。まずは現在の就業規則を見直し、傷病休暇・休職の規定が適切に整備されているかを確認するところから始めてみてください。

よくある質問

傷病休暇と休職は同じ制度ですか?

いいえ、異なります。傷病休暇は会社が任意で設ける短期の休暇制度で、有給・無給は会社が決めます。休職は長期にわたる就労不能に対応する制度で、解雇猶予措置としての性格を持ちます。どちらも法律上の義務規定はなく、就業規則に明記することで初めて有効に機能します。

休職中に給与は支払う必要がありますか?

法律上、休職中の給与支払い義務はありません(ノーワーク・ノーペイの原則)。ただし、社会保険料(健康保険・厚生年金)の被保険者資格は継続するため、本人負担分の保険料については振込などで徴収する取り決めを事前に行う必要があります。休職中の生活保障としては、健康保険の傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最長1年6か月)が活用できます。

主治医が「復職可」と言えば復職させなければなりませんか?

主治医の診断書は復職判断の重要な材料ですが、それだけで復職を決定する必要はありません。主治医は日常生活レベルでの回復を評価しますが、実際の業務遂行能力については産業医の意見も参考にしながら、会社が総合的に判断することが重要です。復職基準と手順を就業規則に明記しておくと、判断の根拠が明確になります。

就業規則に休職規定がない場合、どう対応すればよいですか?

就業規則に休職規定がない状態で休職命令を出すと、後から「無断欠勤扱いにされた」「不当に解雇された」とトラブルになるリスクがあります。まずは速やかに就業規則を整備することが先決です。規定のないまま当面対応する場合も、本人との合意を書面で残すなど、慎重な対応が求められます。社会保険労務士や弁護士への相談もご検討ください。

休職期間満了で退職させることはできますか?

就業規則に「期間満了をもって自然退職とする」旨の規定があれば可能ですが、いくつかの注意点があります。業務上の傷病(労災)による休職の場合は療養中の解雇が禁止されます。また、障害を持つ従業員については合理的配慮の検討が求められる場合があります。退職の際は1〜2か月前に書面で通知し、手続きの説明と傷病手当金継続受給の案内を丁寧に行うことが重要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次