「高ストレス者が面談を拒否したら?」中小企業の担当者が知っておくべき対応の全手順

「ストレスチェックを実施したが、高ストレス者と判定された社員への対応をどうすればよいかわからない」——そうした声は、中小企業の人事担当者や経営者から非常に多く聞かれます。ストレスチェック制度は2015年に義務化されて以来、多くの企業に定着してきました。しかし、高ストレス者が出た後の面談指導や就業上の措置まで適切に機能している職場は、まだ少数にとどまっているのが現実です。

制度を「やりました」で終わらせることには、大きなリスクが伴います。高ストレス状態を放置した場合、事業者は安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に問われる可能性があります。一方で、不適切な情報管理や強引な面談勧奨は、プライバシー侵害や不利益取り扱いにつながりかねません。

本記事では、高ストレス者への面談指導を法令に沿って、かつ現場で実践できる形で進めるための手順を、面談前の準備から面談後のフォローまで体系的に解説します。

目次

高ストレス者面談の法的根拠と会社の義務範囲

まず制度の基本を整理しておきましょう。ストレスチェック制度は労働安全衛生法第66条の10に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場に年1回の実施が義務付けられています。50人未満の事業場は努力義務ですが、後述するとおり「努力義務だから何もしなくていい」とはなりません。

高ストレス者に対する医師による面接指導については、次の点を正確に理解しておく必要があります。

  • 面接指導の申し出は本人の意思による:事業者が強制することはできません。
  • 申し出があれば事業者は必ず実施する義務がある:「産業医の都合が悪い」「費用がかかる」などの理由で断ることは認められません。
  • 申し出を理由とした不利益取り扱いは法律で明確に禁止されています。
  • 面接指導の結果は医師から事業者への意見聴取が必要で、事業者はその意見を踏まえて就業上の措置を講じる義務があります。

重要なのは、「本人が申し出なければ会社の責任はない」という誤解です。高ストレス者が申し出をためらっているケースでも、会社には積極的に面談の機会を周知・勧奨する努力義務があります。面談勧奨の記録を残さず放置した場合、後の訴訟において安全配慮義務違反と判断されるリスクがあります。

また、ストレスチェックの結果は本人の同意なく事業者に提供することが禁止されています。実施者(産業医・保健師など)や実施事務従事者には守秘義務が課されており、高ストレス者リストを人事評価や配置転換に流用することは明確な法令違反です。社員の信頼を失うだけでなく、制度そのものが機能しなくなります。

面談前に整えておくべき準備と社内体制

面談指導がうまく機能しない背景には、多くの場合「準備不足」があります。高ストレス者が出た時点で慌てて動くのではなく、事前に体制を整えておくことが重要です。

高ストレス者の抽出基準を明文化する

高ストレス者の判定基準は、法律上は事業者が設定することとされています。厚生労働省が提示する標準的な方法(「仕事のストレス判定図」や一定の点数基準)を参考にしつつ、衛生委員会(または安全衛生委員会)で審議・決定し文書化しておきましょう。基準があいまいなまま運用すると、対象者の選定が恣意的になり、公平性への疑念を生みます。

産業医・保健師との役割分担を明確にする

嘱託産業医など非常勤の産業医を活用している場合、「産業医の面談時間が確保できない」という問題は頻繁に発生します。対策として、以下のような役割分担が有効です。

  • 産業医:医師による面接指導(法的要件)、就業上の措置に関する意見提供
  • 保健師・看護師:面談前のスクリーニング、生活習慣や睡眠などの一次ヒアリング
  • 外部EAP(従業員支援プログラム):面談の窓口拡大、心理的サポート

産業医が月1回の訪問しかできない場合でも、メンタルカウンセリング(EAP)を併用することで面談の入口となる相談窓口を複数確保し、申し出のハードルを下げることができます。

案内文の言い方に注意する

高ストレス者への面談案内は、文言の選び方が申し出率に直結します。「あなたはストレスが高いので面談を受けてください」という表現は、本人に「問題社員扱いされた」という印象を与えかねません。「仕事や健康のサポートのために、産業医との面談の機会を設けています」というようにニュートラルに伝えることが重要です。また、面談は就業時間内に実施し、費用は会社が負担するのが原則です。

面談指導の具体的な進め方とポイント

実際の面談では、どのように話を進めるかが支援の質を大きく左右します。面談は診断・評価の場ではなく、本人を支援するための場であることを、面談者(産業医・保健師など)も、本人も共通認識として持つことが大切です。

最初の10分でラポールを形成する

ラポールとは「信頼関係」のことです。いきなりストレスの原因を聞き出そうとすると、本人は防御的になります。まずは日常的な話題(最近の仕事の状況、繁忙期かどうかなど)から入り、「ここは安心して話せる場所」という雰囲気をつくることが最優先です。

仕事・生活・心身の状態を幅広く聴取する

面談では次のような領域を幅広く確認します。

  • 仕事の状況:業務量・質、人間関係、役割の明確さ
  • 睡眠:寝つき、途中覚醒、朝の倦怠感
  • 食欲・体重の変化
  • 気分・意欲:楽しみを感じられるか、将来への希望があるか
  • サポートの状況:職場や家庭で相談できる人がいるか

「なぜストレスを感じるのか」を問い詰めるのは逆効果です。特に管理職が単独で面談を行う場合、詰問型になりやすく、状況を悪化させるリスクがあります。踏み込んだ面談は必ず産業医・保健師などの専門職が担当してください。

本人の認知と対処法に焦点を当てる

面談の目標は「ストレスの原因を特定して排除する」ことではなく、本人がストレスをどのように認識し、どう対処しているかを把握し、より適切な対処法を一緒に考えることです。「今どんなことが一番つらいですか」「それに対して今、どんな対処をしていますか」というような開かれた質問が有効です。

面談の終わりに必ず次のアクションを合意する

面談が「話して終わり」になってしまうことは珍しくありません。面談の終了時には、必ず次のステップを明確にしましょう。

  • 1〜2週間後にフォロー面談を設定する
  • 必要であれば受診勧奨(精神科・心療内科など)をする
  • 就業上の配慮について具体的な選択肢を提示する

本人と合意した内容は必ず記録に残してください。

面談後の就業上の措置と情報管理の実務

面談を実施して終わりではありません。面談後の対応こそが、制度の実効性を左右します。

医師の意見を具体的に文書化してもらう

産業医は面接指導の結果を事業者に報告する義務があります。このとき、「就業区分(通常勤務・就業制限・要休業など)」と「措置内容(時間外労働の制限、業務変更、配置転換など)」を具体的に文書化してもらうことが重要です。「経過観察」といった曖昧な表現だけでは、現場の管理職が何をすべきかわかりません。

就業上の措置は本人の同意を得ながら進める

産業医の意見を受けて事業者が就業上の措置を講じる際は、本人への十分な説明と同意のもとで進めることが大原則です。一方的な業務変更や降格は、本人の不信感を高め、回復を妨げる可能性があります。措置の目的(健康保護のためであること)を丁寧に伝えましょう。

管理職への情報共有は必要最小限に

上司(管理職)に高ストレス者の情報を共有する場合は、本人の同意を得たうえで、職場環境の改善や配慮に必要な最小限の情報のみを伝えるにとどめます。「あの人はストレスチェックで高ストレスだった」といった形での共有は、プライバシー侵害に当たります。また、管理職への情報共有が社員に知れると、今後の申し出をためらう人が増える原因になります。

記録は5年間保存する

面談実施記録・措置記録は、労働安全衛生法の規定に基づき5年間の保存が必要です(ストレスチェック結果は5年間保存が規定されています)。万が一、労働基準監督署の調査や訴訟が発生した場合、記録の有無が会社の対応を証明する重要な根拠になります。

1〜3ヶ月後に必ず再評価する

就業上の措置は固定的なものではありません。1〜3ヶ月後にフォロー面談を設定し、本人の状況と措置内容を見直すことを仕組み化してください。状態が改善したのに制限が続いていれば本人のモチベーション低下につながり、逆に状態が悪化しているのに措置が変わらなければリスクが高まります。

50人未満の中小企業・産業医不足の現場でできること

「うちは50人未満だからストレスチェックは義務じゃない」「産業医が嘱託で時間が確保できない」——こうした状況にある中小企業も多くあります。しかし、努力義務や産業医の不足を理由に何もしないことは、安全配慮義務の観点からリスクがあります。

活用できるリソースとして、以下のようなものがあります。

  • 地域産業保健センター:50人未満の事業場を対象に、産業医による健康相談や面接指導を無料で提供しています(各都道府県に設置)。
  • 外部EAP(従業員支援プログラム):外部のカウンセラーが社員の相談窓口となり、産業医への橋渡し役を担います。小規模企業でも導入できるサービスが増えています。
  • 産業医の契約見直し:嘱託産業医の訪問回数を増やすか、オンライン面談に対応した産業医サービスの活用を検討することで、面談機会を確保しやすくなります。

高ストレス者面談を機能させるための実践ポイント

最後に、現場ですぐに活かせる実践ポイントを整理します。

  • 抽出基準と手順を事前に衛生委員会で決めておく:高ストレス者が出てから慌てないために。
  • 面談案内はサポートの機会として伝える:「問題視されている」と感じさせない文言を使う。
  • 面談の入口を複数持つ:産業医・保健師・外部EAPなど、申し出やすい経路を用意する。
  • 管理職が単独で面談しない:専門職との連携なしに踏み込んだ面談をしない。
  • 面談後に必ず次のアクションと記録を残す:「やったことにする」だけの形骸化を防ぐ。
  • 措置内容を定期的に見直す:1〜3ヶ月後のフォロー面談を仕組み化する。
  • 情報管理のルールを明文化する:誰が、何を、誰まで共有できるかを事前に決めておく。

高ストレス者への面談指導は、「やらなければならない義務」として受け身で取り組むのではなく、メンタル不調による休職・離職・訴訟リスクを未然に防ぐための予防投資として位置付けることが重要です。特に中小企業では、一人のキーパーソンの離脱が業務全体に大きな影響を与えます。早期に問題を発見し、適切に対処できる体制を今から整えていきましょう。

よくある質問

高ストレス者が面談を拒否した場合、会社に法的責任はありますか?

面接指導の申し出は本人の意思によるものであり、強制することはできません。ただし、「申し出がなかったから会社の責任はない」とは言い切れません。事業者には積極的に面談の機会を周知・勧奨する努力義務があり、勧奨を行った記録を残していない場合、後の訴訟で安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を問われるリスクがあります。面談案内の送付記録や勧奨の経緯を必ず文書として保存してください。

高ストレス者の情報を上司(管理職)に伝えてもよいですか?

ストレスチェックの結果は、本人の同意なく事業者(上司を含む)に提供することが法律で禁止されています。管理職に情報を共有する場合は、必ず本人の同意を得たうえで、職場環境の改善や業務配慮に必要な最小限の内容にとどめてください。「高ストレス者だった」という事実そのものを伝えるのではなく、「業務量の調整が必要」などの配慮事項の形で共有するのが実務上の適切な対応です。

従業員50人未満の会社でもストレスチェックや面談対応は必要ですか?

常時50人未満の事業場はストレスチェックの実施義務がなく、努力義務にとどまります。ただし、安全配慮義務(労働契約法第5条)はすべての事業者に適用されるため、高ストレス状態の社員を放置した場合はリスクが生じます。地域産業保健センター(無料)や外部EAPの活用、オンライン対応の産業医サービスなどを組み合わせることで、小規模企業でも対応可能な体制を整えることができます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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