「社員がカウンセリングを使わない本当の理由」中小企業が今すぐできる利用率アップの工夫7選

「相談窓口は設けたのに、誰も使っていない」——そんな声を、人事担当者から頻繁に耳にします。厚生労働省のデータによれば、EAP(従業員支援プログラム)やメンタルヘルス相談窓口を整備している企業であっても、実際の利用率は低水準にとどまるケースが少なくありません。せっかくコストをかけて導入したにもかかわらず、従業員に活用されなければ、その効果は半減してしまいます。

では、なぜ従業員はカウンセリングを利用しないのでしょうか。そして、どうすれば利用を促進できるのでしょうか。本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が実践できる具体的な工夫を、法律上の背景や現場でよく見られる失敗例も交えながら解説します。

目次

なぜ従業員はカウンセリングを利用しないのか

利用促進の施策を打つ前に、まず「なぜ使われないのか」という原因を正確に把握することが重要です。利用しない理由は大きく三つに分類できます。

①「知らない」——認知度の問題

意外に思われるかもしれませんが、相談窓口が存在することを従業員が知らないケースは珍しくありません。入社時のオリエンテーションで一度説明しただけでは、日常業務に追われる従業員の記憶には残りにくいものです。「案内した」という会社側の認識と、「知らなかった」という従業員側の現実には、大きなギャップが生じやすいのです。

②「バレるのが怖い」——プライバシーへの不安

「相談した事実が上司に知られるのではないか」「人事評価に影響するのではないか」という不安は、多くの従業員が感じています。実際には秘密保持が徹底されていても、その仕組みが明確に伝わっていなければ、不安は払拭されません。信頼の問題は制度の設計だけでなく、周知の仕方にも大きく依存します。

③「弱さを認めるようで嫌だ」——スティグマ(偏見)の問題

スティグマとは、特定の属性や行動に対する社会的な偏見・否定的レッテルのことです。「カウンセリングはメンタルが弱い人が使うもの」という意識は、職場文化として根強く残っている場合があります。この価値観がある限り、相談窓口をどれだけ整備しても心理的なハードルは下がりません。

利用促進の前提となる法律上の義務と会社の責任

カウンセリングの利用促進は、単なる「福利厚生の充実」ではなく、法律上の義務に関わる問題でもあります。この点を正確に理解しておくことが、経営判断の根拠として重要です。

労働契約法第5条は、使用者(会社)が労働者の生命・身体・健康を危険から保護する「安全配慮義務」を負うことを定めています。メンタルヘルスケアの体制整備は、この安全配慮義務の一環として位置づけられており、相談窓口の設置だけでなく、従業員が実際に活用できる状態を維持することも義務の範囲に含まれると解釈されています。

また、労働安全衛生法第66条の10では、常時使用する従業員が50人以上の事業場にストレスチェック制度の実施を義務づけています。ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された従業員への医師による面接指導も法定義務ですが、この面接指導の受診率が低い企業も多いのが実態です。カウンセリング利用の促進は、この面接指導の受診率向上とも連動して考える必要があります。

従業員が50人未満の事業場ではストレスチェックは努力義務ですが、厚生労働省や各都道府県労働局が提供するメンタルヘルス対策に関する助成金制度を活用することで、外部EAPサービスや産業医の導入コストの一部を補助してもらえる可能性があります。予算面での制約がある中小企業こそ、こうした助成金制度を積極的に確認することをお勧めします。

さらに、カウンセリング利用者の情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当する可能性があります。相談内容や利用記録を会社側が把握できない仕組みを整備することは、法的・倫理的の両面から求められています。個人情報の取り扱いについては、専門家(弁護士・社会保険労務士など)にご相談ください。

「秘密が守られる」という安心感を設計する

利用促進において最も重要な要素の一つが、プライバシー保護への信頼です。「相談した内容が上司に伝わるかもしれない」という疑念があれば、どれだけ利便性を高めても従業員は利用をためらいます。

最も効果的な手段の一つが、外部EAPサービスを導入することです。外部機関を利用することで「社内の誰も相談内容を知ることができない」という構造が生まれ、従業員は安心して利用できるようになります。メンタルカウンセリング(EAP)のような外部サービスは、まさにこの「完全な秘密保持」を担保するために設計されています。

ただし、外部EAPを導入するだけでは不十分です。「秘密が守られる仕組みを、従業員全員に明確に伝える」ことが不可欠です。具体的には以下の方法が有効です。

  • 秘密保持の方針を明記したリーフレットを全従業員に配布する
  • 社内イントラネットや掲示板に「相談内容は会社に報告されない」と明記する
  • 人事担当者や管理職が口頭でも繰り返し伝える機会を設ける
  • EAPサービス提供会社との契約書や運用ルールを従業員に開示する

なお、過去に「相談内容が人事に筒抜けになっていた」という噂が立った職場では、利用率がほぼゼロになり、回復に長期間を要したという事例があります。一度失った信頼は容易には回復しないという点を、強く認識してください。

利用のハードルを物理的・心理的に下げる工夫

プライバシーへの不安を解消した上で、次に重要なのがアクセスのしやすさです。利用のハードルを下げるための工夫は、物理的なアクセス改善と心理的な文化醸成の両面から取り組む必要があります。

アクセス手段の多様化

「窓口に電話する」という一択では、心理的ハードルが高くなります。以下のように複数の手段を用意することで、自分のペースで相談できる環境を整えましょう。

  • 電話相談:従来型だが、話しながら整理したい人に有効
  • オンライン面談(ビデオ通話):通勤不要で利用しやすく、在宅勤務中も活用可能
  • チャット・メール相談:文字にすることで気持ちを整理できる。匿名でも使いやすい
  • 匿名利用の許可:利用のハードルを大幅に下げる効果が期待できる

就業時間内の利用を明確に認める

「勤務時間中にカウンセリングを受けていいのか」という遠慮や罪悪感を持つ従業員は少なくありません。就業時間内の利用を会社として認める旨を明文化し、管理職にも徹底することが必要です。「特別な配慮ではなく、当然の権利として使える」という雰囲気づくりが重要です。

スティグマを払拭する文化の醸成

「メンタルが弱い人が使うもの」という偏見を解消するためには、カウンセリングの位置づけを変える必要があります。具体的には「問題が起きた人のためのもの」ではなく、「体の健康診断と同じように、誰でも使えるセルフケアツール」というメッセージを継続的に発信します。

特に効果的なのが、経営者や管理職がロールモデルとして発信することです。経営者自身が「私も利用している」「以前相談して助かった」と伝えることで、利用することへの心理的ハードルは下がりやすくなります。上の立場からの発信は、組織文化を変える有力な手段の一つです。

継続的な周知活動と管理職との連携

一度案内して終わりにしてしまうことが、利用率低下の大きな原因の一つです。人は情報を繰り返し受け取ることで初めて行動に移すことが多く、定期的な周知活動が利用促進の基盤となります。

周知のタイミングと頻度

年に2〜4回を目安に案内を繰り返すことが望ましいとされています。特に効果的なタイミングとして、以下が挙げられます。

  • ストレスチェック実施後(結果を受け取った直後は相談ニーズが高まりやすい)
  • 繁忙期の前後(負担が集中する時期に前後して案内する)
  • 年度替わりや組織変更後(環境変化によるストレスが高まりやすい時期)
  • 入社・異動・昇進などのライフイベント発生時

複数チャネルでの告知

社内ポスターの掲示、社内メール、朝礼での口頭案内、給与明細への同封など、複数の方法で同じ情報を伝えることで、情報の到達率を高めることができます。特定のチャネルに偏らないことが重要です。

管理職によるラインケアとの連携

ラインケアとは、管理職が部下のメンタルヘルスに気を配り、必要に応じてサポートや相談を促すことを指します。管理職が「いつでも相談していいよ」「こういう窓口があるよ」と声をかけられるかどうかが、従業員の利用意欲に直結します。

そのためには、管理職向けのメンタルヘルス研修を定期的に実施し、「相談を勧める適切な言葉かけの仕方」を習得させることが重要です。ただし、「カウンセリングに行け」と命令口調で伝えることは、本人に羞恥心や屈辱感を与えかねず逆効果になります。あくまで本人の意思を尊重しながら、選択肢の一つとして提示する姿勢が求められます。

産業医サービスを活用することで、産業医と連携したラインケア研修や、高ストレス者への面接指導体制の整備がよりスムーズに進みます。

実践ポイントまとめ:今日からできる具体的なアクション

ここまで解説してきた内容を、すぐに実践できるアクションとして整理します。規模の小さい企業でも取り組みやすいものから着手することをお勧めします。

  • 秘密保持の明文化:相談内容が会社に伝わらないことを、書面・掲示・口頭で全従業員に明確に伝える
  • アクセス手段の多様化:電話・オンライン・チャットなど複数の相談方法を用意し、匿名利用も認める
  • 就業時間内の利用を明示的に認める:管理職を通じて「使っていい」というメッセージを組織全体に浸透させる
  • 定期的な周知活動:年2〜4回、ストレスチェック後や繁忙期前後などのタイミングを狙って案内を繰り返す
  • 管理職研修の実施:ラインケアの一環として、部下への適切な声かけ方法を学ぶ研修を行う
  • 経営者・管理職のロールモデル発信:上の立場の人間が「自分も使っている・使ってよかった」と率直に発信する
  • 利用実績の可視化:個人が特定されない形で利用件数や満足度を集計し、経営層・従業員と共有する
  • 助成金の活用:厚生労働省や各都道府県労働局のメンタルヘルス対策に関する助成金制度を確認し、導入コストを抑える

まとめ

カウンセリング窓口の利用率が低い背景には、「知らない」「バレるのが怖い」「弱さを認めるようで嫌だ」という三つの壁が存在します。これらを一つひとつ取り除いていく地道な取り組みこそが、利用促進の本質です。

重要なのは、「設置すれば使われる」という思い込みを捨てることです。利用率が高い職場は、相談しやすい文化が根づいており、心理的安全性が高い状態にあります。利用率が高いことは「問題が多い職場」の証拠ではなく、メンタルヘルスケアが正しく機能している証拠です。

中小企業においては、大企業と同等の設備や人員を用意することは難しいかもしれません。しかし、経営者や人事担当者が「従業員に安心して働いてもらいたい」という姿勢を明確に示し、継続的に行動し続けることが、何よりも強力な促進策になります。今日から一つでも実践できるアクションを始めてみてください。

よくある質問

カウンセリング窓口を設置しているのに利用率がほぼゼロです。何が問題なのでしょうか?

最も多い原因は「存在を知らない」「秘密が守られるか不安」「使うことへの抵抗感(スティグマ)」の三つです。窓口の設置は出発点にすぎません。秘密保持の仕組みを明文化して周知すること、複数のアクセス手段を用意すること、そして定期的に案内を繰り返すことが不可欠です。入社時に一度説明しただけでは従業員の記憶に残りにくいため、年2〜4回の定期的な周知活動を継続することをお勧めします。

外部EAPと社内相談窓口はどちらが利用促進に効果的ですか?

プライバシー保護の観点からは、外部EAPの方が従業員の安心感を得やすい傾向があります。「社内の誰も相談内容を知ることができない」という構造が明確なため、特に「会社に知られたくない」という不安が強い従業員にとって利用のハードルが下がりやすくなります。一方、社内窓口は顔の見える関係性という安心感がある場合もあります。理想的には両方を組み合わせ、従業員が自分に合った手段を選べる環境を整えることが効果的です。

従業員50人未満の中小企業でも、メンタルヘルス対策に使える助成金はありますか?

あります。厚生労働省や各都道府県労働局が提供するメンタルヘルス対策に関する助成金制度には、従業員50人未満の事業場でも活用できるものがあります。外部EAPサービスの導入費用や、産業医との契約費用の一部が補助される制度が設けられている場合があります。ただし助成金の内容・条件は年度によって変更される場合があるため、最新の情報は最寄りの労働局またはハローワークでご確認ください。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次