【2025年4月施行】化学物質規制の改正で中小企業が今すぐやるべきSDS交付・リスクアセスメント対応まとめ

化学物質を取り扱う職場では、2022年から2027年にかけて段階的に大きな法改正が進んでいます。特に2024年4月から2025年にかけて施行された改正内容は、これまで比較的規制の対象外だった中小企業にも直接関わるものが多く、「気づいたときには義務違反だった」という事態を防ぐためにも、早急な確認と対応が求められます。

「うちは製造業ではないから関係ない」「使っているのは市販の洗剤や潤滑油だけだから大丈夫」と考えている経営者や人事担当者も少なくありませんが、今回の改正はそのような認識を大きく覆すものです。本記事では、改正の全体像から実務的な対応ステップまでをわかりやすく解説します。

目次

なぜ今、化学物質規制が大きく変わるのか

日本のこれまでの化学物質規制は、特定の危険物質をリストアップし、その物質ごとに詳細な管理基準を法律で定める「個別規制型」でした。しかしこの方式には限界がありました。法律に列挙されていない物質については、いくら危険性が高くても規制の対象外になるという問題です。

世界的に見ても、職場で使用される化学物質は数万種類に上ると言われており、そのすべてを個別に規制することは現実的ではありません。そこで今回の改正では、「国が個別に管理基準を定める」という発想から、「事業者自身が化学物質の危険有害性を把握し、自律的に管理する」という考え方に大きく転換しています。

この転換のベースとなっているのがGHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)、すなわち「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」です。GHSは化学物質の危険有害性を国際的に統一した基準で分類・表示するための仕組みで、日本もこの国際基準に対応するかたちで法改正が進められています。

2022年に改正された労働安全衛生法・施行令・特化則(特定化学物質障害予防規則)等の規定は、2022年・2024年・2025年・2027年と段階的に施行されています。中でも2024年4月と2025年の施行内容は実務への影響が大きく、早急な対応が求められます。

SDS交付義務の大幅拡大:約640物質から約2,900物質以上へ

SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)とは、化学物質の性質や取り扱い上の注意事項、緊急時の対応方法などを記載した書類です。化学物質を販売・提供する側が、受け取る側(買い手・使用者)に対して交付する義務があります。

従来、このSDS交付義務の対象は労働安全衛生法などに基づく約640物質に限定されていました。しかし今回の改正により、GHS分類で危険有害性があると判定された約2,900物質以上に対象が拡大されました。つまり、これまでSDS交付の対象外だった多くの化学物質も、新たに義務の範囲に含まれることになります。

さらに、SDS記載内容も充実化されています。特に重要な変更点として、成分の含有量の記載精度があります。

  • 従来:含有量を10%刻みで記載することが認められていた
  • 改正後:1%刻み、または実際の含有率での記載が必要

これにより、現場でリスクアセスメント(後述)を実施する際に必要な情報の精度が上がります。また、SDSの提供方法についても、書面だけでなく電子メールやWebによる提供が正式に認められるようになりました(受け取り側の承諾が必要な場合があります)。

中小企業の実務担当者として押さえておくべき重要なポイントは、自社が化学物質を「受け取る側」の場合でも、仕入先からのSDSを入手・管理する義務があるという点です。仕入先がSDS交付義務を負っているので、「SDSをください」と要求することは正当な権利行使です。入手できていない物質があれば、取引先に積極的に請求してください。

また、外国語で書かれたSDSについては、日本語訳の整備が事実上求められています。英語や中国語のSDSをそのまま保管していても、現場の従業員が内容を理解できなければ意味がありません。日本語訳の作成または確認を優先的に進めましょう。

リスクアセスメントの義務化:何を、いつ、どうやって実施するか

リスクアセスメントとは、職場に存在する危険・有害な要因を特定し、それがどれほどの危険・健康被害をもたらす可能性があるかを評価し、対策を講じるプロセスです。今回の改正により、SDS交付義務の対象となるすべての物質についてリスクアセスメントの実施が義務化されました。

リスクアセスメントを実施すべきタイミング

  • 新たな化学物質・製品の採用時
  • 作業方法を変更するとき
  • リスク低減措置を変更するとき

「一度やれば終わり」ではなく、変化のたびに見直しが必要である点を理解しておきましょう。

中小企業でも使える現実的な実施ステップ

リスクアセスメントと聞くと「高度な専門知識や測定機器が必要」と思われがちですが、厚生労働省が提供している「CREATE-SIMPLE」という無料のWebツールを活用することで、専門知識が乏しい担当者でも一定水準のリスクアセスメントを実施することができます。

  • ステップ1:対象物質と作業の特定 SDSのセクション1(製品情報)・セクション2(危険有害性)・セクション8(ばく露防止・保護措置)を参照しながら、自社で取り扱う物質と作業内容を整理します
  • ステップ2:ばく露可能性の評価 どの程度の量・頻度・時間、従業員が化学物質にさらされる可能性があるかを評価します。CREATE-SIMPLEや「コントロール・バンディング」(作業条件と化学物質の危険性からリスクを4段階に分類する手法)を活用します
  • ステップ3:リスク低減措置の検討・実施 優先順位は「工学的対策(局所排気装置の設置など)」→「管理的対策(作業手順の改善など)」→「保護具の使用」の順です
  • ステップ4:記録の作成・保存 実施結果を書面またはデータで記録し、原則として3年間保存します(一部物質については30年間保存が必要)

2024年4月以降は、危険性・有害性が高い物質については、ばく露防止措置の実施が努力義務から義務に格上げされています。屋内作業場での濃度基準値(OEL:職業ばく露限界値)の遵守も義務化されたため、リスクアセスメントの結果をもとに実際の対策を講じることが不可欠です。なお、濃度基準値の遵守義務など具体的な要件については、所轄の労働基準監督署または産業保健の専門家にご確認ください。

化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務

2024年4月から、化学物質を取り扱う事業場では新たに二つの役職の選任が義務付けられました。中小企業も業種・規模にかかわらず対象となる場合が多いため、注意が必要です。

化学物質管理者

SDSの交付義務対象物質を製造または取り扱う事業場で選任が必要です。主な職務は以下の通りです。

  • SDSの収集・管理および情報の周知
  • ラベルの確認・整備
  • リスクアセスメントの実施管理
  • リスク低減措置の実施状況の確認

選任要件として、製造業等では一定の講習を修了した者であることが求められます(業種や取り扱う物質の区分により要件が異なります)。社内に適切な人材がいない場合は、外部の労働衛生コンサルタント等の専門家を活用することも認められています。詳細な選任要件については、所轄の労働基準監督署にご確認ください。

保護具着用管理責任者

リスクアセスメント対象物を製造または取り扱う事業場で選任が必要です。保護具(呼吸用保護具・化学防護手袋など)の適切な選択・使用・保管・管理を担当します。呼吸用保護具を使用させる場合には、フィットテスト(密着性確認試験)の実施管理も求められます。

これらの担当者選任は「書類上の手続き」で終わらせず、実際に職務を果たせる体制づくりが重要です。選任後は定期的な教育・訓練と、実施状況の記録管理を徹底しましょう。

今すぐ始める:中小企業のための実践的対応ポイント

まず「化学物質の棚卸し」から着手する

対応の第一歩は、自社で取り扱っているすべての化学物質・製品をリストアップすることです。製造に使う原材料だけでなく、洗剤・潤滑油・塗料・接着剤・消毒液なども対象になり得ます。「業務で使っているものすべて」を漏れなく洗い出すことが出発点です。

リストアップ後は各物質について、最新版のSDSが手元にあるかを確認します。古いSDSしかない場合や、そもそもSDSを受け取っていない場合は、仕入先・メーカーに最新版の提供を依頼してください。

SDSの一元管理体制を整備する

入手したSDSはデータベース化し、現場の従業員がいつでもアクセスできる体制を整備します。紙での管理でも構いませんが、更新・検索の効率を考えると電子管理が現実的です。また、取引先との間でSDSの更新通知の仕組みを取り決めておくことで、常に最新情報を保持できます。

優先順位をつけて段階的に対応する

取り扱う化学物質の種類・数が多い事業場では、すべてに同時対応するのは現実的ではありません。以下の基準で優先度を設定することをお勧めします。

  • 高優先度:使用量が多い・密閉されていない環境で使用している・皮膚や粘膜に触れる機会がある物質
  • 中優先度:定期的に使用するが使用量は少ない物質
  • 低優先度:密封状態で保管・使用しており、ばく露の可能性が低い物質

高優先度の物質から順に、SDS整備→リスクアセスメント実施→対策実施のサイクルを回していきましょう。

専門家・外部リソースの活用を検討する

社内に専門知識を持つ人材がいない場合、すべてを自己解決しようとすると誤った対応や対応漏れが生じるリスクがあります。産業医サービスを活用することで、化学物質管理の観点から職場環境を医学的・専門的に評価してもらうことが可能です。産業医は化学物質による健康障害の予防においても重要な役割を担っており、リスクアセスメントの妥当性確認や従業員への健康教育にも活かすことができます。

また、化学物質を取り扱う職場では、長期的な健康影響への不安から従業員のメンタルヘルスが悪化するケースもあります。メンタルカウンセリング(EAP)をあわせて導入することで、従業員の心理的安全性を高め、職場全体の安全文化の醸成につなげることも有効です。

ラベル表示の整備も忘れずに

今回の改正ではGHS対応ラベルの貼付義務もSDS交付義務対象物質に拡大されています。ラベルには絵表示(ピクトグラム)・注意喚起語・危険有害性情報の記載が必要です。自社で保管・使用している化学物質の容器に適切なラベルが貼付されているかを確認し、対応が不十分なものについては速やかに整備してください。

まとめ:「自律的管理」への移行を一歩ずつ進める

2025年施行の化学物質規制改正は、単なるルール変更ではなく、「国が管理してくれる」という受動的な姿勢から「事業者自身が化学物質を把握・管理する」という能動的な姿勢への根本的な転換を求めるものです。

中小企業にとって、専任担当者の不在や専門知識の不足という課題があることは事実です。しかし、対応のポイントを整理すると、最初の一歩は決して難しくありません。まず「自社にある化学物質の棚卸し」から始め、SDSを入手し、厚生労働省の無料ツールを活用してリスクアセスメントを実施する。このサイクルを一つひとつ丁寧に実行することが、法令遵守と従業員の健康保護の両立につながります。

対応が遅れるほど義務違反のリスクが高まり、万が一の労働災害発生時には企業としての責任を問われる事態にもなりかねません。この記事を読んだ今日から、まず自社の化学物質リストの作成に着手することを強くお勧めします。不明点は労働基準監督署や産業保健総合支援センター(各都道府県に設置)への相談も積極的に活用してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 化学物質を少量しか使っていない小規模事業場でも、リスクアセスメントの実施は義務ですか?

はい、原則として事業場の規模や使用量にかかわらず、SDS交付義務対象物質を取り扱う事業場であればリスクアセスメントの実施義務があります。ただし、密封状態で取り扱っている場合や、ばく露の可能性が極めて低い作業形態の場合は、評価の手法や優先度を柔軟に設定することが認められています。まずは厚生労働省の無料ツール「CREATE-SIMPLE」を使った簡易評価から始めることを検討してください。

Q2. SDS(安全データシート)はどこから入手すればよいですか?

SDS交付義務を負うのは化学物質を販売・提供する側(メーカーや販売代理店)です。仕入先や製品メーカーに「SDSを提供してください」と依頼することは正当な権利行使であり、相手方は交付を断ることができません。インターネット上でメーカーの公式サイトから入手できる場合もあります。入手できない場合は仕入先に書面で依頼し、その記録を残しておくことをお勧めします。

Q3. 化学物質管理者は社外の専門家に委託することはできますか?

外部の専門家(労働衛生コンサルタント等)を化学物質管理者として選任・活用することは可能です。ただし、化学物質管理者は事業場ごとに選任する必要があり、実際の業務(SDS管理・ラベル確認・リスクアセスメント管理など)を継続的に遂行できる体制を確保することが重要です。外部委託の場合も、社内の担当者との連携体制を明確にしておきましょう。

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