「ストレスチェックで高ストレス判定が出た…中小企業が今すぐやるべき対応プロトコルを完全解説」

ストレスチェックを実施したものの、「高ストレス判定者が出たあと、何をすればいいのかわからない」という声は、中小企業の経営者・人事担当者から非常に多く聞かれます。制度の実施自体は外部委託でできても、その後の対応プロセスが曖昧なまま放置されているケースは少なくありません。

高ストレス判定者への対応を誤ると、安全配慮義務違反による損害賠償リスクや、従業員の離職・休職につながる可能性があります。一方で、正しいプロトコル(手順・手続き)を整備しておけば、経営者・人事担当者が専門家でなくとも、確実に対応を進められます。

本記事では、労働安全衛生法の要件を踏まえながら、中小企業が実務で活用できる高ストレス判定者への対応プロトコルを、具体的なステップとともに解説します。

目次

そもそも「高ストレス判定」とは何か——制度の基本を整理する

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、2015年12月から施行されました。常時50人以上の労働者を使用する事業場では年1回の実施が義務付けられており、50人未満の事業場については現時点では努力義務とされていますが、実施を推奨する行政指導が強まっています。

ストレスチェックは、仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポート状況の3領域を測定する調査票(代表例として「職業性ストレス簡易調査票57項目版」)を用いて実施します。その結果、一定の基準を超えた方が高ストレス者と判定されます。判定基準は実施機関によって若干異なりますが、概ね全体の10〜15%程度が該当するとされています。

重要なのは、高ストレス判定はあくまでも「リスクの高い状態にある可能性を示すもの」であり、メンタル疾患の診断ではないという点です。この判定を起点として、適切な支援につなげることが制度の本来の目的です。

法律が定める対応フロー——何が「義務」で何が「努力義務」か

高ストレス判定者への対応には、法律上の義務と努力義務が混在しています。ここを正確に理解していないと、対応の優先順位を誤るリスクがあります。

法定の対応ステップ

  • ステップ1:本人への結果通知(義務)
    ストレスチェックの結果は、実施者(医師・保健師等)から本人へ直接通知します。事業者(会社)は本人の同意なく結果を取得してはなりません。この点は特に注意が必要です。
  • ステップ2:面接指導の申し出勧奨(努力義務)
    高ストレス判定者に対して、医師による面接指導(産業医との面談)を申し出るよう促すことは、事業者の努力義務です。「任意だから1回案内すれば十分」と考えがちですが、1回の通知で終わらせず、複数回にわたって丁寧に勧奨することが求められます。
  • ステップ3:面接指導の実施(本人申し出後は事業者の義務)
    本人から申し出があった場合、事業者は申し出から1ヶ月以内に医師による面接指導を実施しなければなりません。
  • ステップ4:医師の意見聴取と就業上の措置(義務)
    面接指導後、医師から意見を聴取し、必要に応じて時間外労働の制限や業務量の調整、配置転換などの就業上の措置を講じます。

また、面談申し出や受検を理由とした解雇・降格・減給などの不利益取扱いは法律で明確に禁止されています。高ストレス判定者を「問題社員」として扱う姿勢は、法的リスクに直結するだけでなく、職場全体の信頼を損ないます。

なお、面接指導の実施記録および就業上の措置の記録は、5年間保存することが定められています。

中小企業が直面する3つの壁と、その乗り越え方

法律の要件は理解できても、実際の運用では中小企業ならではの障壁があります。代表的な3つの課題と対策を整理します。

壁①:「産業医がいない(または非常勤)」問題

常時50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられていますが、非常勤契約で月1回程度の訪問にとどまるケースが多い状況です。面接指導の申し出が1ヶ月以内に対応できるよう、年間スケジュールの中に面接指導の実施枠をあらかじめ確保しておくことが有効です。

また、産業医による面接指導に加えて、メンタルカウンセリング(EAP)などの外部相談窓口を補完的に活用することで、産業医への集中を緩和し、高ストレス者が相談しやすい環境を整えることができます。EAP(従業員支援プログラム)とは、精神科医・臨床心理士などの専門家が従業員の相談に応じる外部支援サービスのことです。

壁②:「誰が対応するのか」という役割の曖昧さ

担当者が決まっていないと、高ストレス判定者が出ても「誰かがやるだろう」という状態になりがちです。対応プロトコルを整備する際は、以下の役割分担を事前に明文化しておくことが重要です。

  • 面接指導の申し出を受け付ける窓口担当者(人事担当者など)
  • 産業医や外部機関への連絡・調整担当者
  • 面接指導後の措置を決定・実行する責任者(人事責任者・経営者)
  • フォローアップの進捗を管理する担当者

規模が小さい企業では1人が複数の役割を担うことになりますが、それでも「誰が」「何を」「いつまでに」行うかを書面で整理しておくことが、対応の抜け漏れを防ぎます。

壁③:「本人が申し出をためらう」という心理的障壁

高ストレス判定を受けた従業員が面接指導を申し出ない最大の理由は、「評価に影響するのではないか」「上司に知られるのではないか」という不安です。この不安を軽減するために、次の工夫が効果的です。

  • 申し出の方法を複数用意する(メール・専用フォーム・電話・直接申し出など)
  • 案内文に「申し出ても人事評価や処遇に一切影響しない」と明記する
  • 面接指導の場所・時間帯を、他の従業員に知られにくい形で設定する
  • 案内を1回で終わらせず、2〜3週間後に再度案内する

また、日頃からメンタルヘルスについてオープンに話せる職場風土を醸成しておくことが、長期的には最も効果的な対策となります。

面接指導後に必要な「就業上の措置」と「フォローアップ」

面接指導を実施して終わり、という対応は不十分です。面接指導後の措置とフォローアップこそが、制度の実効性を左右します。

医師の意見書に基づく措置の例

  • 時間外労働の制限:月45時間以内に抑える、残業ゼロ期間を設けるなど
  • 業務内容・量の調整:担当案件の削減、プレッシャーのかかる業務からの一時的な離脱
  • 部署異動・配置転換:ストレス要因が上司・人間関係にある場合に有効
  • 休暇取得の推奨:有給休暇の積極的な消化を促す

これらの措置は、医師の意見書を根拠として実施し、その内容と根拠を文書で記録しておくことが重要です。措置を講じず放置した場合、安全配慮義務(使用者が従業員の安全・健康を守る法的義務)違反として損害賠償請求の対象になるリスクがあります。

フォローアップ面談の設定

措置を講じた後、一定期間(目安として1〜2ヶ月後)にフォローアップ面談を設定し、措置の効果を確認します。「本人が大丈夫と言ったから問題ない」という判断は危険です。本人の自己申告だけでなく、勤怠記録や業務パフォーマンスのデータも併せて確認し、多角的に状況を把握する視点が必要です。

個人対応だけでは限界がある——集団分析を職場改善に活かす

高ストレス判定者への個人対応は不可欠ですが、それだけでは根本的な解決になりません。職場環境そのものに問題がある場合、対応した一人が回復しても次々と高ストレス者が生まれ続ける「モグラ叩き」状態に陥ります。

ストレスチェックには、集団分析という機能があります。これは個人ではなく部署・チーム単位でストレス状況を集計・分析するものです(個人が特定されないよう、一定人数以上の集団が対象)。集団分析の結果を活用することで、「どの部署に高ストレスが集中しているか」「職場のどの要因(業務量・裁量度・上司サポートなど)が問題か」を客観的に把握できます。

集団分析の結果に基づく職場環境改善は現時点では努力義務ですが、近年は行政から実施を強く推奨する方向で指導が強まっています。改善取り組みの内容と結果をPDCA(計画・実行・確認・改善のサイクル)で記録しておくことで、継続的な職場改善を進める基盤になります。

職場改善の具体策としては、管理職向けのラインケア研修(部下のメンタルヘルスを管理職がサポートするための教育)の実施、業務フローの見直しによる負荷の平準化、定期的な1on1面談の導入などが挙げられます。

実践ポイント:今日から始められる対応プロトコルの整備

最後に、中小企業の経営者・人事担当者がすぐに取り組める実践ポイントをまとめます。

  • 対応フローを1枚の文書にまとめる:「誰が・何を・いつまでに」を明記し、関係者で共有する
  • 産業医との年間スケジュールを確認する:面接指導の実施枠を年間カレンダーに組み込む
  • 申し出の導線を複数設ける:メール・フォーム・電話など、心理的ハードルが低い手段を用意する
  • 案内文に不利益取扱いの禁止を明記する:従業員の不安を取り除く文言を入れる
  • 外部相談窓口(EAPなど)を整備する:産業医以外の受け皿を確保し、支援の幅を広げる
  • 措置と記録をセットで行う:面接指導後の措置内容と根拠を必ず文書化し、5年間保存する
  • 集団分析結果を職場改善に活用する:個人対応と職場改善を両輪で進める

高ストレス判定者への対応は、法律を守るための義務であると同時に、従業員が安心して働き続けられる職場をつくるための取り組みでもあります。専門家の力を借りながら、自社に合ったプロトコルを整備していくことが重要です。

産業医の確保や面接指導体制の整備については、産業医サービスを活用することで、非常勤産業医の選任から面接指導の実施まで一括してサポートを受けることができます。まずは自社の現状を専門家に相談することから始めてみてください。

まとめ

ストレスチェック制度において、高ストレス判定者への対応は「実施して終わり」ではなく、結果通知・面接指導の勧奨・面接指導の実施・就業上の措置・フォローアップという一連のプロセスとして捉える必要があります。中小企業では人員・コスト・体制の制約がありますが、対応フローを事前に明文化し、外部の専門家サービスを活用することで、確実に法定要件を満たすことができます。また、個人対応と並行して集団分析を活用した職場環境改善に取り組むことが、持続的なメンタルヘルス対策につながります。

よくあるご質問

高ストレス判定者が面接指導の申し出を拒否した場合、会社はどう対応すればよいですか?

面接指導の申し出はあくまで本人の意思に基づくものであり、強制することはできません。ただし、事業者には申し出を促す勧奨の努力義務があります。1回の案内で終わらせず、2〜3週間後に再度案内する、申し出の方法を複数用意する、「評価や処遇に影響しない」ことを明記するといった工夫を重ねることが重要です。また、産業医への面接指導以外にも、EAP(従業員支援プログラム)などの外部相談窓口を案内することで、本人が相談しやすい選択肢を広げることができます。

高ストレス判定者の情報を直属の上司に共有してもよいですか?

原則として、本人の同意なく高ストレス判定の情報を上司を含む第三者に開示することは、労働安全衛生法の趣旨および個人情報保護の観点から認められません。上司が部下の状況を把握して対応するためには、本人が同意した範囲内での情報共有にとどめる必要があります。職場環境の改善については、個人を特定しない形での集団分析結果を活用することが適切な対応です。

産業医が非常勤で月1回しか来ない場合、1ヶ月以内の面接指導は実現できますか?

非常勤産業医の場合でも、申し出から1ヶ月以内の面接指導実施は可能です。そのためには、年間スケジュールの中に面接指導実施枠をあらかじめ設けておくことが有効です。また、申し出のタイミングによっては通常の訪問日では間に合わない場合もあるため、必要に応じて追加の面接指導を依頼できる体制を産業医と事前に取り決めておくことをお勧めします。産業医との契約内容の確認と、柔軟な対応体制の整備が重要なポイントです。

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