「また法改正があったのか…」——育児・介護休業法は、ここ数年で大きな改正が続いており、中小企業の経営者・人事担当者にとって「追いつくだけで精一杯」という状況が続いています。2022年の改正では産後パパ育休の創設や個別周知の義務化が実施され、2025年にはさらなる拡充が予定されています。制度を正しく理解し、適切に整備しておかなければ、知らないうちに法令違反になったり、ハラスメントのリスクを抱えたりする可能性もあります。
本記事では、2022年・2025年の改正ポイントを中心に、中小企業がいま押さえておくべき実務対応をわかりやすく解説します。「制度の複雑さに悩んでいる」「何から手をつければいいかわからない」という方はぜひ参考にしてください。
2022年・2025年改正の主なポイントを整理する
育児・介護休業法の改正内容は多岐にわたります。まず、近年の改正のうち企業対応に直結する重要事項を整理しましょう。
2022年改正(段階的施行)の主なポイント
- 個別周知・意向確認の義務化(2022年4月~):妊娠・出産を申し出た従業員に対し、育児休業制度の内容を個別に周知し、取得意向を確認することが会社の義務となりました。口頭だけでなく、書面または電磁的方法での実施が求められます。
- 育児休業の分割取得(2022年10月~):従来は原則1回だった育児休業が、原則2回まで分割して取得できるようになりました。職場復帰後に再度取得するといった柔軟な使い方が可能です。
- 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設(2022年10月~):子の出生後8週間以内に最大4週間、2回まで分割して取得できる新制度です。通常の育児休業とは別に取得できる点が特徴で、一定条件下では休業中の就業も認められます(詳細は後述)。
- 育休取得状況の公表義務(2023年4月~):従業員1,000人超の企業に対して、男性の育休取得率などの公表が義務化されました。
2025年改正の主なポイント
- 育休取得状況の公表義務の拡大:公表義務の対象が従業員300人超の企業まで拡大される予定です。これまで「うちは関係ない」と思っていた中小企業も対象になる可能性があります。
- 子の年齢3歳以降・小学校就学前までの柔軟な働き方措置の義務化:テレワーク・短時間勤務・フレックスタイム制などの中から、従業員が選択できる措置を講じることが企業に義務づけられます。
- 所定外労働免除の対象拡大:残業免除を請求できる子の年齢が、従来の3歳未満から小学校就学前まで拡大されます。
- 育児休業給付の給付率引き上げ:男性の育休取得を促進する目的で、一定期間は手取り収入の実質100%相当となるよう給付率が引き上げられる予定です(雇用保険制度の改正と連動)。
- 介護に直面した従業員への個別周知・意向確認の義務化:育児と同様に、介護の必要性を申し出た従業員に対しても、会社が個別に制度を周知し意向確認を行う義務が生じます。
改正内容が多く、「どれがいつから適用されるのか」が混乱しやすいため、施行時期を確認しながら優先順位をつけた対応が求められます。なお、各施行時期の詳細は厚生労働省の公式情報をご確認いただくか、社会保険労務士にご相談ください。
中小企業が陥りやすい「よくある誤解と失敗」
法改正への対応が遅れやすい中小企業では、善意のまま誤った運用をしているケースが少なくありません。代表的な誤解と、その影響を確認しておきましょう。
誤解①「パートタイマーや有期雇用は対象外」
一定の要件を満たせば、有期雇用やパートタイム労働者も育児・介護休業の取得対象です。要件の詳細は法改正により変更されることがあるため、最新の法令を確認するか専門家にご相談ください。「正社員じゃないから」という理由で申出を拒否した場合、法令違反となります。雇用形態にかかわらず、在籍するすべての従業員を対象として制度を整備しておく必要があります。
誤解②「個別周知は本人が不要と言えば省略できる」
個別周知は会社側の義務であり、「本人が希望していないから」という理由で省略することはできません。意向確認の結果として「取得しない」という回答であっても、周知・確認のプロセス自体は必ず実施し、記録として残す必要があります。
誤解③「産後パパ育休は通常の育休と同じ制度」
産後パパ育休(出生時育児休業)は通常の育児休業とは別の制度です。取得できる時期(出生後8週間以内)、分割回数(2回)、休業中の就業可否(労使協定の締結が条件)など、ルールが異なります。就業規則や育児介護休業規程にも、通常の育休とは別に明記することが求められます。
誤解④「育休中は給料を払わなければならない」
育休中は賃金の支払義務はありません。従業員には雇用保険から育児休業給付金が支給される仕組みになっています。また、育休期間中は社会保険料(本人・会社負担の両方)が免除されます。つまり、企業側の実質的なコスト負担は思っているより小さい場合が多いのです。この点を管理職や従業員に正確に伝えることが、育休取得促進の大きなきっかけになります。
誤解⑤ 管理職が「繁忙期だから」と申出を先延ばしさせる
業務上の都合を理由に取得を拒否・妨害する行為は、マタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)に該当し、会社の法的責任が問われる可能性があります。管理職が無自覚にこうした言動をとるリスクは非常に高く、研修や周知徹底が急務です。
今すぐ着手すべき実務対応の4ステップ
法改正に対応するための実務は、大きく4つのステップで整理できます。
ステップ1:就業規則・育児介護休業規程の改訂
改正内容を就業規則・育児介護休業規程に反映することは、すべての対応の基礎です。施行日に間に合わせるよう、できるだけ早めに社会保険労務士や弁護士と連携して改訂を進めましょう。規程の整備が不十分なまま口頭での説明だけで運用していると、労使トラブルが発生した際に会社側が不利な立場になります。また、規程の変更は労働基準監督署への届出が必要になる場合があるため、手続きの漏れに注意が必要です。
ステップ2:個別周知・意向確認のフォーマット整備
個別周知・意向確認を確実に実施するために、チェックリストや面談シートなどのフォーマットを事前に整備しておくことを推奨します。「誰が」「いつ」「何を伝えたか」が後から確認できるよう、記録を残す仕組みを作っておくことが重要です。担当者が変わっても運用が継続できるよう、手順をマニュアル化しておきましょう。
また、産後パパ育休で休業中の就業を認める場合は、事前に労使協定の締結が必要です。協定がなければ休業中の就業は認められませんので、利用を想定している企業は早めに準備を進めてください。
ステップ3:管理職向け研修の実施
育休取得を妨げる要因のひとつが、管理職の制度理解不足や無意識の発言です。管理職向けに定期的な研修を実施し、以下の内容を習得させることが重要です。
- 育児・介護休業制度の正確な内容と対象者
- 申出があった際の適切な対応手順
- マタハラ・パタハラに該当する言動の具体例
- 育休中の社会保険料免除や給付金の仕組み(コスト面の正確な理解)
ロールプレイングを取り入れると、実際の場面で適切に対応できるスキルが身につきやすくなります。管理職が正しい知識を持ち、従業員が安心して申出できる職場環境を整えることが、ハラスメント防止にもつながります。管理職向けの職場環境づくりのサポートとして、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も有効な選択肢のひとつです。
ステップ4:代替人員の確保策を事前に計画する
中小企業にとって特に深刻な課題が、休業取得者が出た際の業務継続です。「人手が足りないから休んでもらっては困る」という状況を防ぐために、以下のような事前対策を検討してください。
- 業務の棚卸しとマニュアル化:特定の人にしかできない業務をなくし、誰でも対応できる状態に整備する
- 派遣・業務委託の活用:育休取得が見込まれる時期に合わせて外部リソースを検討する
- チーム内の業務分担の見直し:1人に依存しすぎない組織体制を平時から構築する
- 助成金の活用:育休取得促進に関連した各種助成金(両立支援等助成金など)を確認し、コスト軽減に役立てる
「育休取得=会社へのコスト負担」という誤解を解消し、制度を積極的に活用できる体制を整えることが、長期的な人材確保にもつながります。
2025年改正に向けた「先手」の準備が中小企業の差別化になる
従業員300人超の企業への育休取得状況の公表義務拡大をはじめ、2025年の改正は中小企業にとっても無縁ではありません。一方で、法改正への対応を「義務だからやる」という後ろ向きな姿勢ではなく、採用・定着・職場環境改善の機会として前向きに捉える企業が増えています。
育児や介護と仕事を両立しやすい環境を整えることは、優秀な人材の確保・定着に直結します。求職者が企業を選ぶ際に育休取得実績や柔軟な働き方制度の有無を確認するケースも増えており、制度整備は採用競争力の強化にも寄与します。
また、2025年改正で義務化が予定されている「子の年齢3歳以降・小学校就学前までの柔軟な働き方措置」は、単に短時間勤務を認めるだけでなく、テレワークやフレックスタイム制など複数の選択肢を用意することが求められます。従業員のライフステージに応じた働き方の多様化は、組織全体の生産性向上にもつながる可能性があります。
なお、育児や介護を抱えながら働く従業員のメンタルヘルスケアも重要な視点です。不安や悩みを抱えやすい状況にある従業員へのサポートとして、産業医サービスの活用も、職場環境整備の一環として検討する価値があります。
実践ポイントのまとめ
- 就業規則・育児介護休業規程の改訂を最優先事項として取り組み、社労士・弁護士と早期に連携する
- 個別周知・意向確認はフォーマット化し、実施記録を残す仕組みを構築する
- 産後パパ育休を通常の育休と混同しないよう、規程に別途明記し、休業中の就業を認める場合は労使協定を事前締結する
- 管理職向け研修を定期実施し、ハラスメントリスクを排除するとともに、制度の経済的メリット(社会保険料免除・給付金)を正確に伝える
- 代替人員の確保策を事前に計画し、業務マニュアル化・外部リソース活用・助成金の活用を検討する
- 2025年改正への準備は今から始める。公表義務の拡大・柔軟な働き方の義務化など、対応が必要な項目を先取りして整備する
- 有期雇用・パートタイムも対象であることを全部門に周知し、雇用形態による誤った除外を防ぐ
まとめ
育児・介護休業法の改正は、中小企業にとって「対応が大変な義務」という側面がある一方、しっかりと整備することで従業員の信頼を得て、採用・定着・生産性の向上につながる重要な経営課題でもあります。
改正の全体像を把握し、就業規則の整備・個別周知の仕組み構築・管理職研修の実施・代替人員の確保策という4つのステップを着実に進めることで、法令リスクを回避しつつ、働きやすい職場環境を実現することができます。
「何から手をつければいいかわからない」という場合は、まず社会保険労務士などの専門家に現状の規程を確認してもらうことが有効です。法改正対応を後回しにするほど、対応コストとリスクは高まります。今この機会に、自社の制度整備の現状を見直してみてください。
Q. 従業員が10人未満の小規模企業でも育児介護休業法の対応は必要ですか?
はい、育児・介護休業法は企業規模にかかわらず適用されます。従業員数が少ない場合でも、就業規則への規定整備や個別周知・意向確認の義務は適用されます。ただし、常時10人未満の企業は就業規則の作成・届出義務がない場合もあるため、別途「育児介護休業規程」として整備することが推奨されます。規模が小さいほど代替人員の確保が難しい側面もありますが、雇用保険の育児休業給付金や助成金を活用することでコスト面の負担を軽減できる場合があります。詳細については社会保険労務士にご相談ください。
Q. 産後パパ育休と通常の育児休業は同時に取得できますか?
産後パパ育休(出生時育児休業)は通常の育児休業とは別の制度であり、両方を利用することが可能です。産後パパ育休は子の出生後8週間以内に最大4週間取得でき、その後に通常の育児休業(最長原則1歳まで、最大2回分割可)を続けて取得するという使い方もできます。ただし、それぞれ取得の申出期限や手続きが異なるため、就業規則や社内規程に両制度を明確に分けて記載するとともに、従業員への正確な説明が必要です。個別の状況については社会保険労務士にご相談ください。
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