【保存版】就業規則の作成・変更で中小企業が絶対に知っておくべき義務と手続き完全ガイド

「うちは社員が少ないから、就業規則なんて関係ない」——そう考えている経営者は、今も少なくありません。しかし、従業員とのトラブルが実際に起きたとき、拠り所となるルールが整備されていなければ、会社は非常に不利な立場に立たされます。就業規則は、単なる「お役所への書類」ではなく、労使双方を守るための重要な経営インフラです。

この記事では、就業規則の作成・変更に関する法的義務の概要から、手続きの具体的な流れ、よくある誤解まで、中小企業の経営者・人事担当者が知っておくべきポイントを体系的に解説します。

目次

就業規則の作成・届出義務——「10人」の基準を正しく理解する

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、就業規則の作成と所轄労働基準監督署への届出を義務付けています。違反した場合は、同法第120条により30万円以下の罰金の対象となります。

ここで注意が必要なのは、「10人」のカウント方法です。正社員だけでなく、パートタイム労働者・アルバイト・契約社員・嘱託社員なども含めたすべての労働者が対象となります。また、判断は「会社全体」ではなく事業場単位で行います。本社・支店・工場がそれぞれ独立した事業場として機能している場合は、それぞれの事業場ごとに従業員数を数えることになります。

たとえば、本社に正社員5人・パート3人・アルバイト3人が勤務している場合、合計11人となり作成・届出義務が生じます。「正社員だけ数えると10人未満だから大丈夫」という認識は誤りです。

では、9人以下の事業場はどうでしょうか。法的な作成義務はありませんが、就業規則がなければ、労働時間・賃金・懲戒などの労働条件をめぐるトラブルが発生した際に、ルールの根拠となるものが何もない状態になります。従業員数が少ない企業こそ、一人ひとりの問題が会社経営に直結するため、義務がなくても就業規則を整備することを強くお勧めします。

就業規則に何を書くべきか——3種類の記載事項

就業規則に記載すべき内容は、労働基準法によって3つの区分に整理されています。それぞれの性格を理解しておくことが、実効性のある規則を作るうえで重要です。

絶対的必要記載事項

就業規則に必ず盛り込まなければならない事項です。これが欠けると、規則としての体をなさず、法令違反にもなります。具体的には以下の内容が該当します。

  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
  • 賃金(計算方法・支払方法・締切日・支払日・昇給)に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的必要記載事項

制度として定める場合には必ず記載しなければならない事項です。「やっていないから書かなくてよい」ではなく、実際に運用しているのであれば明記する義務があります。退職金制度、安全衛生に関するルール、懲戒の種類・事由などがこれに当たります。

任意的記載事項

記載するかどうかは会社の任意です。企業理念や服務心得などがこれに当たります。法的拘束力の強さは絶対的必要記載事項と変わりませんが、記載がなくても義務違反にはなりません。

なお、市販のひな形や無料テンプレートをそのまま流用するケースが中小企業では散見されますが、これはリスクがあります。ひな形はあくまでも汎用的な内容であり、自社の実態(勤務形態・賃金体系・業種特有のルールなど)に合致しているとは限りません。ひな形をベースにしつつも、自社の実態に合わせた修正・カスタマイズを必ず行うようにしましょう。

変更手続きの流れ——「意見聴取」と「届出」の正しい理解

就業規則を新たに作成するときも、既存の規則を変更するときも、定められた手続きを踏む必要があります。労働基準法第90条が定める手続きの流れは以下のとおりです。

ステップ1:労働者代表の選出

まず、労働者の過半数を代表する者(過半数組合がある場合はその組合、ない場合は過半数代表者)の意見を聴かなければなりません。過半数代表者を選ぶ際は、挙手や投票など民主的な方法で選出することが求められます。

ここで注意すべき点が2つあります。第一に、使用者(経営側)が特定の人物を指名・推薦してはなりません。第二に、管理監督者——労働基準法上、労働時間等の規制が適用されない立場の者——は代表になれません。選出プロセスは記録として残しておくことも重要です。

ステップ2:意見聴取と意見書の作成

選出された代表者から意見を聴き、その内容を記した意見書を作成します。この手続きは「同意を得ること」ではなく、「意見を聴くこと」です。代表者が反対意見を述べた場合でも、その意見書をそのまま添付して届出を行うことは法的に有効です。ただし、反対意見が出たということは、後述する不利益変更の合理性が問われる際の判断材料になることがあります。

ステップ3:所轄労働基準監督署への届出

意見書を添付した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出ます。特に法律で定められた届出期限はありませんが、作成・変更後は速やかに手続きを行うことが望ましいといえます。近年は電子申請にも対応しています。

ステップ4:労働者への周知

届出と並行して、労働者への周知が不可欠です。労働基準法第106条は、就業規則を労働者に周知する義務を定めています。周知の方法としては、常時見やすい場所への掲示・備え付け、書面の交付、パソコンなどで常時閲覧できるデータとして提供する方法などがあります。

この周知義務を軽視してはなりません。最高裁判所の判例(フジ興産事件・2003年)は、周知されていない就業規則は労働者を拘束しないという重要な原則を示しています。届け出るだけで満足し、実際には従業員が内容を知らないという状態では、規則としての効力が否定されるリスクがあります。

不利益変更のルール——どこまで許されるのか

賃金の引き下げや休日の削減など、労働者にとって不利な条件への変更は、労働契約法第9条・第10条によって厳しく規律されています。原則として、労働者の同意なしに就業規則を労働者に不利な方向へ変更することはできません。

ただし、以下の要件を総合的に考慮して変更内容に「合理性」が認められる場合は、個別の同意がなくても変更が有効となる場合があります(労働契約法第10条)。

  • 変更の必要性:経営状況の悪化など、変更せざるを得ない客観的な理由があるか
  • 変更内容の相当性:変更の幅・内容が必要な範囲にとどまっているか
  • 代償措置・経過措置の有無:影響を緩和するための措置が講じられているか
  • 労働組合等との交渉経緯:誠実な交渉・協議が行われたか
  • 周知:変更内容が適切に労働者に知らされているか

「合理性があれば同意なしで変更できる」という理解は、言葉としては正しい面もありますが、実務ではこの合理性の判断が非常に難しく、裁判で争われるケースも少なくありません。不利益変更を行う際は、できる限り個別の同意書を取得すること、変更の理由を丁寧に説明する機会(説明会など)を設けること、経過措置(激変緩和措置)を盛り込むことが、リスク軽減のうえで重要です。また、交渉・協議の経緯は文書として記録・保存しておくようにしてください。

雇用形態が複数ある場合——パート・アルバイト・契約社員への対応

正社員のほかにパートタイム労働者・アルバイト・契約社員が在籍する企業では、就業規則の適用範囲を明確にすることが特に重要です。「就業規則は正社員だけのもの」という思い込みが、後々のトラブルを招くことがあります。

パートタイム・有期雇用労働法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)は、正社員との間の不合理な待遇差を禁止しており、待遇の違いについて説明を求められた場合は説明義務が生じます。こうした観点からも、雇用形態ごとに別規程(パートタイム就業規則、契約社員就業規則など)を整備し、適用される労働条件を明示することが望ましいとされています。

また、テレワーク・在宅勤務の普及にともない、勤務場所・勤務時間の柔軟な運用を定めた規程や、副業・兼業を解禁する場合のルールを整備する企業も増えています。こうした新しい働き方に対応するための規程整備が後手に回ると、費用精算・労働時間管理・情報セキュリティなどの面でトラブルが生じやすくなります。

今すぐ取り組むべき実践ポイント

以下のポイントを参考に、自社の就業規則の現状を確認してみてください。

現状の把握からはじめる

  • 雇用形態を問わず、事業場ごとの労働者数を正確にカウントする
  • 現在の就業規則がいつ作成・更新されたものか確認する
  • 絶対的必要記載事項がすべて網羅されているか点検する
  • 記載されているルールが現在の運用実態と一致しているか確認する

定期的な見直しサイクルを設ける

就業規則に関わる法律は毎年のように改正が行われています。育児・介護休業法、同一労働同一賃金に関連する法令、男女雇用機会均等法など、対応が必要な法改正は多岐にわたります。最低でも2〜3年に1回は全体的な見直しを行い、法改正・会社の実態変化・労使トラブルの発生などを契機に随時更新していくことが重要です。

専門家の活用を検討する

就業規則の作成・変更には、労働法の専門知識が求められます。社会保険労務士(社労士)は就業規則の作成・変更・届出を業務として行うことができる国家資格者であり、自社の実態に合った規則を作るうえで有力なパートナーとなります。「コストがかかる」と感じる場合もあるかもしれませんが、労使トラブルが訴訟に発展した場合の費用・時間・経営へのダメージと比較すれば、専門家への相談は合理的な投資といえます。

まとめ

就業規則は、作って終わりではなく、実態に合った内容を維持し続けることに意味があります。

改めて本記事のポイントを整理します。

  • 常時10人以上(雇用形態問わず)の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・届出が法的義務であり、違反は罰則の対象となる
  • 10人未満でも、就業規則の整備はトラブル予防のために強く推奨される
  • 変更時は労働者代表からの意見聴取(同意ではなく「意見を聴く」手続き)が必要
  • 不利益変更は原則として個別同意が必要であり、合理性の判断は厳しく問われる
  • 届出だけでなく、周知しなければ労働者を拘束しないという最高裁の原則を忘れてはならない
  • 雇用形態が複数ある場合は、適用範囲を明確にした別規程の整備が望ましい
  • 法改正や働き方の変化に対応するため、定期的な見直しが不可欠

就業規則を「面倒な書類仕事」と捉えるのではなく、会社と従業員が安心して働くための共通ルールとして積極的に整備・活用していくことが、健全な労使関係の基盤となります。現在の就業規則がいつ作られたものか、今一度確認することからはじめてみましょう。

よくある質問

Q1: うちの会社は従業員9人ですが、就業規則は作成しなくても大丈夫でしょうか?

法的には作成義務がありませんが、強くお勧めしません。従業員数が少ない企業こそ一人ひとりの問題が経営に直結するため、労働条件のトラブルが発生した際に拠り所となるルールが必要です。義務がなくても就業規則を整備することが経営リスク対策につながります。

Q2: 就業規則の変更は経営者が一方的に決めてもいいのでしょうか?

いいえ、労働基準法第90条に基づき、労働者の過半数代表から意見を聴く手続きが必須です。ただし「同意を得ること」ではなく「意見を聴くこと」なので、反対意見が出ても、その意見書を添付して届出すれば法的には有効です。

Q3: 市販のテンプレートをそのまま使って就業規則を作成してもいいでしょうか?

リスクがあります。テンプレートは汎用的な内容であり、自社の勤務形態・賃金体系・業種特有のルールなどに合致しているとは限りません。ひな形をベースにしつつも、必ず自社の実態に合わせた修正・カスタマイズを行うようにしましょう。

労務管理の課題を抱える企業様には、INTERMINDの産業医サービスをご検討ください。産業医と連携した従業員の健康管理体制を構築できます。

産業医・メンタルヘルスのご相談はお気軽に

まずは資料請求・無料相談から。専任担当がサポートします。

目次