「2025年 労働基準法改正」中小企業が今すぐ確認すべき7つのポイントと実務対応まとめ

「法改正があったのはわかっているけれど、うちの会社に何が関係するのかが整理できていない」——中小企業の経営者や人事担当者からこうした声を耳にする機会が増えています。働き方改革関連法の施行以来、労働基準法をめぐる改正・施行は段階的に続いており、2024年から2025年にかけても複数の重要な制度変更が現場に影響を与えています。

特に注意が必要なのは、今回の変化が「大企業だけの話」ではないという点です。割増賃金率の引き上げ、労働条件明示ルールの強化、時間外労働の上限規制の適用拡大など、中小企業が直接対応を迫られる事項が相次いでいます。対応が遅れれば、行政指導や罰則リスクに加え、従業員との信頼関係にも影響しかねません。

本記事では、2024年から2025年前後に施行・適用された主要な改正事項を整理し、中小企業が優先的に取り組むべき実務ポイントをわかりやすく解説します。

目次

2024年4月に何が変わったのか——主要な改正事項の全体像

「2025年改正労働基準法」という単一の大きな改正法があるわけではなく、複数の改正・施行が段階的に行われています。その中でも2024年4月は特に変更が集中した時期です。主な変更点を以下に整理します。

  • 時間外労働の上限規制:猶予業種への適用開始(建設業・運送業・医師など)
  • 労働条件明示ルールの強化:就業場所・業務の変更範囲、更新上限、無期転換に関する事項の明示義務化
  • 無期転換ルールの適正運用:申込機会・転換後労働条件の書面明示が義務化
  • 裁量労働制の見直し:本人同意の取得・同意撤回手続きの整備が義務化

また、2023年4月から中小企業にも適用が始まった月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%以上のルールについても、まだ給与計算の設定を見直せていない企業が少なくありません。自社の対応状況を改めて確認することが重要です。

時間外労働の上限規制——猶予業種の経営者は今すぐ確認を

2019年から段階的に施行されてきた時間外労働の上限規制は、2024年4月1日をもって建設業・運送業・医師など、これまで適用が猶予されていた業種にも適用が開始されました。これらの業種に従事する企業は、すでに法的義務の対象となっています。

業種別の上限時間

  • 建設業:原則として月45時間・年360時間。特別条項(労使で締結する例外規定)を設けた場合でも年720時間が上限。ただし災害復旧・復興事業については別途の取り扱いがあります。
  • 運送業(トラック・バス・タクシーなど):特別条項を設けた場合の上限が年960時間。一般の業種(年720時間)よりも緩和された基準が設定されています。
  • 医師:勤務する医療機関の種別に応じてA水準・B水準・連携B水準のいずれかが適用され、上限時間が異なります。

違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。罰則の対象は事業主だけでなく、実際に違反行為を行った管理職個人も含まれる場合があるため、現場の管理者にも正確な情報を伝えることが重要です。

36協定の再点検が急務

時間外労働を法的に行わせるためには、労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)の締結・届出が必要です。特別条項付きの36協定を締結している場合は、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 年間の時間外労働が720時間以内(運送業は960時間以内)
  • 時間外労働と休日労働の合計が複数月の平均で80時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が単月で100時間未満

協定書に記載された内容と実際の運用が一致しているかを定期的に確認し、記録を整備しておくことが行政指導への備えとなります。

労働条件明示ルールの強化——雇用契約書のひな形は更新されていますか

2024年4月以降、労働者を採用する際や契約を更新する際に、使用者が明示しなければならない事項が追加されました。これは雇用形態を問わずすべての労働者に適用される変更です。

全労働者への新たな明示事項

  • 就業場所・業務の変更の範囲:雇入れ時だけでなく、変更が生じるたびに明示が必要です。「転勤の可能性がある」「将来的に業務が変わる可能性がある」といった事項を具体的に記載します。

有期契約労働者への追加明示事項

  • 更新上限の有無と内容:「最大〇回まで」「通算〇年まで」といった上限を設けている場合はその旨を、設けていない場合はその旨を明示します。
  • 無期転換に関する事項:有期契約が通算5年を超えると無期転換の申込権が発生します(無期雇用への転換を申し込む権利)。この申込機会が生じる契約更新時には、その旨と転換後の労働条件を書面で明示することが義務となりました。

特に注意が必要なのは、既存の雇用契約書や労働条件通知書のひな形が旧来のままになっていないかという点です。2024年4月以前に作成したひな形をそのまま使い続けている場合、法令違反の状態になっているリスクがあります。パート・アルバイト・契約社員など有期雇用の労働者が多い企業ほど、早急な書式の見直しが求められます。

月60時間超の割増賃金50%——給与計算の設定は正しいですか

2023年4月から、中小企業にも月60時間を超える時間外労働に対して割増賃金率50%以上の支払いが義務付けられました。それまで中小企業は25%以上でよかった(大企業は50%以上)のが、大企業と同一の基準に統一されたものです。

施行から一定の時間が経過しましたが、「給与計算ソフトの設定を変更していない」「月60時間を超えた部分の集計方法が正しくない」といった企業が依然として見受けられます。以下の点を確認してください。

  • 給与計算ソフト・システムで月60時間超の部分が自動的に50%割増で計算されているか
  • 深夜労働(22時〜翌5時)が重なる場合は深夜割増(25%以上)との合算で75%以上になっているか
  • 管理監督者(部長・課長など管理職と呼ばれる従業員)と一般社員の残業時間を混同していないか

なお、管理監督者については時間外・休日労働の割増賃金規制は適用されませんが、深夜割増賃金は適用されます。また「管理職」と「管理監督者」は異なる概念であり、役職名だけで管理監督者と判断することはできません。この点の誤解が労務トラブルの原因になるケースが多いため、注意が必要です。

月60時間を超える残業が常態化している職場では、代替休暇制度(割増賃金の一部を有給休暇に代替する制度)の導入も選択肢の一つです。ただし導入には就業規則と労使協定の整備が必要です。

労働時間の客観的把握と産業保健体制の整備

労働安全衛生法の規定に基づき、使用者はすべての労働者(管理監督者や裁量労働制の適用者を含む)の労働時間をタイムカード、ICカード、PCのログイン・ログオフ記録などの客観的な方法で把握・記録する義務があります。

「本人の申告でよい」「手書きの日報で対応している」という企業は、客観性の観点から行政指導を受けるリスクがあります。特にテレワーク・在宅勤務を導入している場合は、労働時間の把握方法を就業規則や社内規程に明文化し、実態に即した記録が残るよう整備することが重要です。

月80時間超の従業員への対応

時間外労働が月80時間(いわゆる過労死ラインの目安とされる水準)を超えていると疑われる従業員については、本人からの申出がなくても医師による面接指導の機会を設ける義務があります(労働安全衛生法第66条の8)。この義務は、従業員が常時50人未満の事業場であっても適用されます。

面接指導を実施するには産業医との連携が不可欠です。常時50人以上の従業員を使用する事業場では産業医の選任が法律上の義務ですが、50人未満の事業場でも地域産業保健センターの活用や産業医サービスの導入を検討することで、法令に則った健康管理体制を整えることができます。

メンタルヘルス対応の重要性

労働時間の長時間化はメンタルヘルス不調のリスクを高めます。常時50人以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務付けられていますが、50人未満の事業場でも実施することが推奨されています。不調を抱えた従業員が相談できる窓口として、メンタルカウンセリング(EAP)を導入している企業では、早期発見・早期対応につながる効果が期待できます。

中小企業が今すぐ取り組むべき実践ポイント

改正事項が多く「どこから手をつければよいか」と感じている方に向けて、優先順位をつけた実践ポイントをまとめます。

ステップ1:雇用契約書・労働条件通知書の書式を更新する

最も即効性が高く、コストも低い対応です。次の採用・更新から新しい書式を使えるよう、早急に整備してください。有期雇用の労働者向けには「更新上限」「無期転換」に関する記載欄の追加が必須です。厚生労働省のウェブサイトには参考となるひな形が公開されています。

ステップ2:36協定の内容と実態の整合性を確認する

協定書に記載された上限時間と、実際の労働時間の記録を照合してください。特に繁忙期に月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件を満たせているかどうかが重要な確認ポイントです。

ステップ3:勤怠管理の客観化を図る

紙やExcelによる管理を続けている場合は、クラウド型の勤怠管理システムへの移行を検討してください。月額数百円から利用できるサービスも多く、中小企業でも導入しやすい環境が整っています。テレワーク中の労働者の時間把握方法についても社内ルールを整備しておきましょう。

ステップ4:給与計算の設定を見直す

月60時間超の時間外労働に対して50%割増が正しく計算されているかを確認してください。給与計算ソフトの設定変更が必要な場合は、計算方法の見直しとあわせてベンダーへの問い合わせを行ってください。

ステップ5:産業保健体制を整える

月80時間超の残業が生じている従業員がいる場合は、医師による面接指導の実施ルートを確保してください。産業医が選任されていない50人未満の事業場では、地域産業保健センター(都道府県ごとに設置)や外部の産業医サービスを活用する方法があります。

まとめ

2024年から2025年にかけての労働基準法関連の改正は、建設・運送業などの時間外労働上限規制の適用開始、労働条件明示ルールの強化、裁量労働制の見直し、割増賃金率の統一など、多岐にわたる内容を含んでいます。これらは大企業だけの問題ではなく、中小企業も直接の対応主体です。

「知らなかった」では済まされないのが法令対応の厳しいところです。一方で、優先順位を明確にして一つずつ対処すれば、多くの中小企業が対応できる内容でもあります。まず自社の現状を棚卸しし、雇用契約書の書式更新や36協定の確認など、今日から着手できることから始めてください。

顧問社会保険労務士がいない企業では、行政機関(都道府県労働局・労働基準監督署)の無料相談窓口や、商工会議所の専門家派遣制度なども活用できます。法令対応を適切に進めることが、従業員との信頼関係を守り、長期的な経営の安定につながります。

Q. 2024年4月の法改正で、中小企業が最優先で対応すべき事項はどれですか?

最も緊急性が高いのは、雇用契約書・労働条件通知書の書式更新です。有期雇用の労働者を一人でも雇用している場合、「就業場所・業務の変更の範囲」「更新上限の有無」「無期転換に関する事項」の明示が2024年4月から義務化されています。次いで、月60時間超の時間外労働に対する50%割増賃金が給与計算に正しく反映されているかの確認も急務です。いずれも書式変更やシステム設定の見直しで対応できる内容ですので、早急に着手することをお勧めします。

Q. 36協定の「特別条項」とは何ですか?通常の36協定とどう違うのですか?

通常の36協定では、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。特別条項付き36協定は、臨時的な特別な事情がある場合に限り、この上限を超えて時間外労働を行わせることができる例外規定です。ただし特別条項を用いた場合も「年720時間以内(一部業種を除く)」「複数月の平均で月80時間以内」「単月100時間未満」という絶対的な上限があり、これらはいかなる理由があっても超えることができません。特別条項には「特別な事情」を具体的に記載する必要があり、抽象的な記載では認められない場合があります。

Q. 従業員50人未満の小規模な会社でも産業医の選任は必要ですか?

産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場には選任義務はありませんが、月80時間を超える時間外労働を行っている従業員への医師による面接指導の実施義務は規模を問わず課されています。50人未満の事業場では、各都道府県に設置されている地域産業保健センター(産業保健総合支援センターの地域窓口)を通じて無料で医師による面接指導などの支援を受けることができます。また外部の産業医サービスを活用することで、法令に対応した産業保健体制を整えることも可能です。

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