「高ストレス者の結果を上司に見せてはいけない」ストレスチェック結果の保管・個人情報管理で中小企業が陥りがちな5つのNG行為

「ストレスチェックの結果、うちの会社ではどこに保管すればいいんだろう」「人事部が結果を見ることはできるの?」——こうした疑問を抱えたまま、とりあえず健康診断の書類と一緒に保管しているという企業は少なくありません。

ストレスチェック制度は2015年12月に常時50人以上の事業場に義務化されて以来、多くの企業で実施が定着してきました。しかし「実施すること」に気を取られるあまり、結果の保管・管理・廃棄という「実施後のプロセス」がおろそかになっているケースが目立ちます。

ストレスチェック結果は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。これは、人種・信条・病歴などと同じ高い保護水準が求められるカテゴリです。取り扱いを誤れば、従業員からの信頼失墜はもちろん、法令違反のリスクも生じます。

この記事では、中小企業の経営者・人事担当者の方に向けて、ストレスチェック結果の保管と個人情報管理について、法律の要点から実務的な対応まで丁寧に解説します。

目次

ストレスチェック結果は「健康診断記録」と別物——法的根拠の違いを理解する

まず多くの担当者が陥りやすい誤解から整理しましょう。ストレスチェックの結果は、一般健康診断の記録とは法的な根拠も取り扱いルールもまったく異なります

健康診断の結果は、労働安全衛生法第66条の3に基づき事業者が保存義務を負います。事業者が記録を保持し、必要に応じて就業上の措置を講じることが前提の制度です。

一方、ストレスチェック結果については、労働安全衛生法第66条の10において「結果は労働者本人に直接通知する」ことが原則とされています。そして、事業者が結果を入手するには本人の同意が必要です。つまり「全従業員の結果を会社が一括管理する」という健康診断と同様のアプローチは、ストレスチェックでは法律違反になりえます。

厚生労働省のストレスチェック指針でも、実施者(医師・保健師等)が結果を保存することが推奨されており、事業者に渡る前の段階での適切な管理が求められています。この「情報の流れ」を正しく理解することが、適切な管理体制の第一歩です。

情報の正しい流れを整理する

  • 実施者(産業医・保健師等)がストレスチェックを実施し、結果を取りまとめる
  • 実施者から労働者本人へ直接通知される(事業者を経由しない)
  • 本人が面接指導を希望する場合、事業者に申し出る
  • 本人が同意した場合のみ、事業者は結果を入手できる
  • 面接指導の申し出記録・実施記録・医師の意見書は別途5年間保存が必要

この流れを社内規程や実施要領に明記しておくことが重要です。産業医サービスを活用している場合は、産業医と情報の流れについて事前に確認・合意しておくことをお勧めします。

保存期間は5年——保管方法と管理体制の具体的な整備

労働安全衛生規則第52条の13により、ストレスチェックの結果は5年間の保存義務があります。保存形式(紙・電子)については特定の制限は設けられていませんが、いずれの場合も安全管理措置が求められます。

紙で保管する場合の注意点

  • 施錠できるキャビネットに保管し、鍵の管理者を明示する
  • アクセスできる担当者を最小限に絞り、アクセス管理台帳を作成する
  • 人事・給与関連の書類とは必ず分離して保管する
  • 書類の持ち出しルールを定め、持ち出し記録をつける

電子データで保管する場合の注意点

  • 人事管理システムや給与システムとは別のフォルダ・システムで管理する
  • アクセス権限を設定し、閲覧・編集できる担当者を限定する
  • アクセスログ(誰がいつ閲覧したか)を記録し、定期的に確認する
  • データは暗号化して保存する

クラウドサービスを利用する場合

近年はクラウド型のストレスチェックシステムを導入する企業も増えています。この場合、以下の点を事前に確認することが重要です。

  • データが国内サーバーに保存されているか
  • ISO27001(情報セキュリティマネジメントの国際規格)などのセキュリティ認証を取得しているか
  • 暗号化・アクセス制御・ログ管理の仕様
  • サービス終了時のデータ返却・消去対応

クラウドサービス提供者への委託は個人情報保護法上の「第三者提供」の例外規定に基づき認められますが、委託契約書に秘密保持条項・再委託の禁止・情報の廃棄条件を明記することが必要です。

人事部はどこまでアクセスできるのか——権限の範囲と禁止事項

「人事部が全員の結果を確認して職場配置に活かせないか」という発想は、企業側からすると一見合理的に思えます。しかしこれは、ストレスチェック制度の根本原則に反します。

本人の同意なく事業者(人事部を含む)がストレスチェック結果を入手・閲覧することは禁止されています。人事考課や配置転換への不当な利用も明確に禁じられており、違反した場合は法令上の問題が生じます。

人事部が行ってよいこと・悪いこと

  • 許可されること:実施の事務手続き(日程調整・案内文の送付)、面接指導の申し出を受けた際の産業医との連絡調整、集団分析結果を職場環境改善に活用すること
  • 禁止されること:本人同意なしに個人の結果を閲覧すること、高ストレス者のリストを作成して上司や役員に共有すること、結果を人事評価や配置決定に使用すること

特に注意が必要なのは、「高ストレス者を把握して上司がフォローする」という善意の行動です。面接指導の勧奨は事業者から本人へ個別に行うものであり、本人同意なく上司へ情報提供することは個人情報保護法およびストレスチェック指針の違反となります。

高ストレス者への対応については、メンタルカウンセリング(EAP)などの外部相談窓口を設けることで、本人が自発的にサポートを求めやすい環境を整えることが、法令に適合した形での支援策として有効です。

集団分析の落とし穴——少人数部署でのリスク管理

ストレスチェックの結果を職場環境改善に活用するために行う「集団分析」は、個人を特定しない形であれば事業者が活用できます。しかし、ここにも注意が必要です。

厚生労働省の指針では、集団分析の最小単位は10人以上が目安とされています。部署の人数が少ない場合、たとえ氏名を伏せていても、「あの部署で高ストレスが多い」という情報から個人が特定されてしまうリスクがあります。これを「再識別化リスク」と呼びます。

集団分析を安全に活用するための留意点

  • 10人未満の部署・グループの結果は、単独での公開・共有を避ける
  • 複数の小グループをまとめて集計するか、結果の提示を慎重に判断する
  • 分析結果を共有する際は、個人が特定されない形に加工されているかを確認する
  • 集団分析の結果は、職場環境改善の目的以外に使用しない

集団分析は職場のストレス要因を可視化し、組織として改善策を講じるための有効なツールです。ただし、その活用に際しては個人情報保護の観点を忘れずに取り組む必要があります。

保管期間終了後の廃棄——「放置」は不可、記録を残した正式手続きが必要

5年の保管期間が終了したストレスチェック記録は、適切な方法で廃棄することが求められます。「期間が過ぎたから削除すればよい」という単純な話ではなく、廃棄の方法と記録の保存まで含めて管理する必要があります。

適切な廃棄方法

  • 紙の場合:シュレッダー処理、または専門業者による溶解処理。単純な燃えるゴミへの廃棄は不可
  • 電子データの場合:完全消去ソフトウェアの使用(単純な「削除」では復元可能なため不十分)、または記録媒体の物理的破壊
  • 外部委託した場合:委託先に適切な廃棄を依頼し、廃棄証明書を受け取る

廃棄記録に残すべき内容

  • 廃棄した日時
  • 廃棄した書類・データの種類と対象期間
  • 廃棄の方法
  • 廃棄を実施した担当者名

この廃棄記録自体は、管理台帳として保存しておくことが望ましいとされています。

また、退職した従業員の記録についても在職者と同様の扱いが必要です。退職したからといって即座に廃棄することはできず、実施日から5年間は保存義務が続きます。退職者の記録は在職者の記録と分けて管理し、廃棄時期を管理台帳で追跡できるようにしておくとよいでしょう。

実践ポイント——中小企業が今すぐ取り組めること

「管理体制を整えたいが、担当者が一人しかいない」「コストや手間の面で不安がある」という中小企業の実情はよく理解できます。以下に、現実的に取り組めるポイントをまとめます。

1. 情報管理規程を文書化する

口頭や慣行での管理をやめ、「誰が・何を・どこに・どのように保管し・いつ廃棄するか」を文書化します。就業規則や別途策定する個人情報管理規程に盛り込むことで、担当者が変わっても引き継げる体制になります。

2. 従業員への説明を徹底する

「結果が会社に漏れるのではないか」という不信感は、実施前の丁寧な説明によって大幅に軽減できます。プライバシーポリシーを明示し、情報の流れと保護の仕組みを従業員全員に周知することが、制度への協力率向上にもつながります。

3. 実施者(産業医・保健師)との役割分担を明確にする

特に外部の産業医や保健師に実施を委託している場合、誰がどの記録を保管するかを契約・実施要領の段階で明確にしておくことが重要です。委託契約書には秘密保持・情報管理・廃棄に関する条項を必ず盛り込んでください。

4. アクセス権限の台帳管理を始める

小規模企業でも、「この書類・データにアクセスできる人は誰か」を台帳に記録しておくことは難しくありません。担当者交代時の引き継ぎや、万が一の情報漏えい時の原因特定にも役立ちます。

5. 50人未満企業でも助成金を活用した体制整備を

常時50人未満の事業場はストレスチェックが当面努力義務とされていますが、実施した場合の情報管理義務は50人以上と変わりません。また、中小企業向けに産業保健活動の費用を支援する助成金制度も存在しますので、積極的に活用することをお勧めします。

まとめ

ストレスチェック結果の保管と個人情報管理は、「とりあえず保管してある」では不十分です。要配慮個人情報としての高い保護水準、5年間の保存義務、情報の流れの原則(本人への直接通知・事業者への提供には同意が必要)、そして保管期間終了後の正式な廃棄手続きまで、一連のプロセスを適切に管理することが求められます。

特に中小企業においては、健康診断と混同したり、担当者が一人で抱え込んで体制が属人化したりするリスクがあります。情報管理規程の文書化、アクセス権限の明確化、従業員への説明という3つの柱を整えることが、法令遵守と従業員からの信頼確保の両立につながります。

実施体制に不安がある場合は、産業医や外部専門機関との連携も有効な選択肢です。まずは現状の管理体制を見直すことから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

ストレスチェック結果の保存期間は何年ですか?また、保存義務を負うのは誰ですか?

労働安全衛生規則第52条の13により、ストレスチェック結果の保存期間は5年間です。保存義務は実施者(医師・保健師等)または事業者が負います。ただし、厚生労働省の指針では、事業者に渡す前の段階として実施者が保存することが推奨されています。事業者が保存する場合は、本人の同意を得た記録とともに、人事・給与管理の記録とは必ず分離して保管してください。

人事部がストレスチェックの結果を見ることはできますか?

本人の同意がない限り、人事部を含む事業者側が個人の結果を閲覧することは禁止されています。高ストレス者のリストを作成して上司に共有したり、結果を人事評価や配置転換の判断に使用したりすることも認められません。人事部が関われる範囲は、実施の事務手続き、面接指導申し出への対応、そして本人の同意を得た場合の就業上の措置のサポートに限られます。

5年の保管期間が過ぎたら、どのように廃棄すればよいですか?

単に削除・廃棄するだけでは不十分で、廃棄方法と廃棄記録の保存が求められます。紙の場合はシュレッダー処理または専門業者による溶解処理、電子データの場合は完全消去ソフトウェアの使用または記録媒体の物理破壊が必要です。廃棄の日時・方法・担当者名を台帳に記録として残してください。外部委託先が保管している場合は、廃棄証明書を受け取ることをお勧めします。

集団分析の結果を職場内で共有する際に注意すべきことはありますか?

集団分析は職場環境改善のために活用できますが、10人未満の小規模なグループでの結果の公開・共有は個人特定のリスクがあるため慎重に扱う必要があります。少人数の部署の場合は、複数のグループをまとめて集計するか、結果の詳細な共有を控えることが望ましいとされています。集団分析の結果は職場環境改善の目的に限定して使用し、個人の特定につながる形では利用しないでください。

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