「社員の8割が使わない?中小企業のカウンセリング導入が”もったいない”で終わる本当の理由」

「メンタルヘルス対策はしているつもりだが、カウンセリングサービスを導入してみたら誰も使わない」——中小企業の人事担当者からこうした声を聞くことは少なくありません。せっかく費用をかけてサービスを契約しても、利用率が1〜3%程度にとどまってしまうケースは業界内でも広く知られた課題です。

一方で、従業員のメンタルヘルス不調を放置した結果、休職・離職・最悪の場合には訴訟リスクにまで発展した事例も存在します。労働契約法第5条が定める安全配慮義務(使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮しなければならない法的義務)に基づき、メンタルヘルス対策は「あればよい」ものではなく、経営リスク管理の一環として捉えるべき時代になっています。

本記事では、中小企業における従業員カウンセリングの現状と課題を整理したうえで、導入・運用・利用促進に至るまでの実践的な方法を解説します。コスト面での不安を抱える経営者の方にも、具体的な費用最適化の方法をお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

なぜ今、中小企業にカウンセリングサービスが必要なのか

中小企業の経営者・人事担当者の中には、「ウチの会社はまだ大丈夫」と感じている方も多いかもしれません。しかし、この楽観バイアスこそが対策の遅れを招く最大の要因です。

従業員50人以上の事業場では、労働安全衛生法第66条の10に基づき、年1回のストレスチェック実施が義務となっています。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員には医師による面接指導が必要であり、カウンセリングサービスはその後のフォロー体制として法的にも位置づけられています。

さらに、労働安全衛生法第69条は、従業員規模を問わずすべての事業者に対して、労働者の健康保持増進のための措置を継続的・計画的に講じる努力義務を課しています。つまり、50人未満の小規模企業であっても、「何も対策しない」という選択肢はリスクを伴うのです。

また、厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケアの4つのケア(セルフケア・ラインケア・事業場内産業保健スタッフによるケア・事業場外資源によるケア)の中で、外部カウンセリングサービスは「事業場外資源によるケア」として明確に位置づけられています。特に、社内人間関係が密になりがちな中小企業では、社内で相談しにくいがゆえに外部への相談窓口の存在が従業員の安心感に直結します。

不調が深刻化してから対処するよりも、予防段階で介入するほうが、休職・離職にかかるコストを大幅に抑えられることは、産業保健の領域では広く認識されています。カウンセリングサービスは「問題が起きてから使うもの」ではなく、不調を未然に防ぐ予防投資として活用することが、費用対効果を最大化する考え方です。

利用率が上がらない本当の理由とスティグマの解消

多くの企業で、カウンセリングサービスを導入しても利用率が低迷する背景には、複数の心理的障壁が存在します。

最も根強いのがスティグマ(偏見・差別意識)の問題です。「カウンセリングを利用する=精神的に弱い人間」という誤ったイメージが社内に残っていると、利用すること自体が自分のネガティブな評価につながると感じる従業員が増えます。その結果、実際には相談が必要な状況であっても、窓口に連絡することをためらってしまうのです。

次に大きいのがプライバシーへの不安です。「相談した内容が上司や会社に伝わるのではないか」という疑念は、従業員の利用を阻む最大の壁の一つです。この点について、適切に運用されているカウンセリングサービスでは、個人の相談内容は原則として会社側に開示されません。カウンセリング記録は個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し、本人の同意なしに事業者へ開示することは法律で禁じられています。

しかし問題なのは、経営者や人事担当者自身がこの仕組みを正確に理解していないケースです。「会社がお金を払っているのだから情報を受け取れるはず」と誤解している経営者が守秘義務について正確な情報を発信しなければ、従業員の不信感はいつまでも解消されません。

利用率を向上させるための具体的なアプローチとしては、以下の方法が有効です。

  • 経営者・管理職が積極的に発信する:「自分も相談窓口を使ってみた」という声を上位層が発信することで、心理的ハードルが大きく下がります。
  • 表現を工夫する:「カウンセリング」という言葉を前面に出さず、「相談窓口」「コーチング」「キャリア相談」といった表現を用いることで、利用のハードルを下げる効果が期待できます。
  • アクセスをシンプルにする:QRコード一つで案内ページに飛べるようにする、チャットで気軽に問い合わせできるようにするなど、利用の入り口を簡素化します。
  • 周知を継続的に行う:年1回の案内では従業員の記憶から消えてしまいます。四半期ごとのリマインドや、ストレスチェック後の個別案内と組み合わせることが効果的です。
  • 不利益取扱いの禁止を明文化する:カウンセリングを利用したことを理由とした人事上の不利益がないことを、就業規則や社内規程に明記することで、従業員の安心感を担保します。

メンタルカウンセリング(EAP)のサービスを検討している企業は、メンタルカウンセリング(EAP)の詳細ページもあわせてご確認ください。

サービス選定で失敗しないためのチェックポイント

担当者のリテラシー不足により、「どのサービスを選べばよいかわからない」という声は中小企業に特に多く見られます。外部カウンセリングサービスを選定する際に確認すべき項目を整理します。

守秘義務の範囲を契約書で確認する

最優先で確認すべきは守秘義務の範囲が契約書や規約に明記されているかどうかです。「個人の相談内容は会社に開示しない」という原則が文書で担保されていることが、従業員の信頼を得るための絶対条件です。一方で、自傷他害のリスクがある場合など、例外的な開示条件についても事前に確認しておくことが重要です。

相談員の資格・専門性を確認する

対応するカウンセラーが公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士などの国家資格または専門資格を持つ専門家であるかを確認します。資格要件はサービスによって大きく異なるため、契約前に明確にしておきましょう。

対応形式と時間帯の多様性

従業員の多様なニーズに対応するため、対面・電話・オンライン・チャットなど複数の相談形式があるかを確認します。また、仕事中に相談しにくい従業員のために、夜間・休日の対応が可能かどうかも重要な選定基準です。

家族の利用可否

家庭問題(育児・介護・夫婦関係など)は職場のパフォーマンスに直接影響することが少なくありません。従業員本人だけでなく家族も利用できるサービスかどうかは、費用対効果の観点からも確認しておきたいポイントです。

コストを抑えながら始める現実的なアプローチ

「外部カウンセリングサービスは費用が高そう」というイメージから導入に踏み切れない中小企業は多くあります。しかし、活用できるリソースを整理すると、コストを抑えた段階的な導入が十分可能です。

産業保健総合支援センターを活用する

各都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(通称:さんぽセンター)では、中小企業向けに産業カウンセラーへの無料または低価格の相談支援が提供されています。まずはここを活用することで、費用をかけずにカウンセリング支援の第一歩を踏み出せます。

健康保険組合・商工会議所の付帯サービスを確認する

加入している健康保険組合や、所属する商工会議所が提供する付帯サービスとして、カウンセリング窓口や相談サービスが含まれているケースがあります。すでに費用を負担している仕組みを使っていないだけ、という企業も少なくないため、まず既存の契約・加入状況を棚卸しすることをおすすめします。

段階的な導入でコストを最適化する

最初から対面カウンセリングを整備しようとすると費用が膨らみがちです。まずオンライン・電話相談のみのプランから導入し、利用状況を見ながら対面対応を追加していく段階的アプローチが、中小企業には現実的です。

コンソーシアム型の活用を検討する

複数の中小企業が共同でEAP(従業員支援プログラム)を契約するコンソーシアム型の仕組みを活用すると、1社あたりのコストを抑えながら充実したサービスを享受できます。同業者組合や地域の経営者団体を通じて問い合わせてみる価値があります。

費用対効果を経営層に説明する際は、「カウンセリング費用」と「休職・離職にかかる代替人材コスト・採用費用」を比較する視点が有効です。1名の中途採用にかかるコストは、一般的に年収の20〜30%程度に上るとも言われており、早期離職を1件防ぐだけで十分に元が取れる試算となるケースも少なくありません。

管理職を巻き込む「ラインケア研修」の重要性

カウンセリングサービスの利用促進において、見落とされがちな重要施策が管理職向けのラインケア研修です。ラインケアとは、管理職が部下の心身の状態に気を配り、必要に応じて相談窓口へつなぐ役割を担う取り組みを指します。

管理職がカウンセリングサービスの存在を知らない、あるいはその意義を理解していなければ、「部下に相談窓口を使ってみるよう声がけする」という行動は生まれません。逆に、管理職が「部下のためにある制度だ」と理解し、自ら積極的に案内するようになると、利用率は大幅に改善するケースが多く報告されています。

ラインケア研修では、主に以下の内容を扱います。

  • メンタルヘルス不調の早期サインを見分ける観察スキル
  • 不調のある部下への声がけ・傾聴の方法
  • カウンセリング窓口への適切なつなぎ方
  • 管理職が注意すべき言動(二次障害を防ぐための知識)
  • 1on1ミーティングを活用した日常的な関係づくり

管理職がラインケアの担い手として機能するためには、産業医サービスと連携した研修体制の構築も選択肢の一つです。産業医が社内研修に関与することで、医学的な観点から信頼性の高い情報提供が可能になります。

実践ポイント:今日から動ける3つのステップ

「何から始めればよいかわからない」という担当者のために、優先度の高い3つのステップを整理します。

ステップ1:現状の棚卸しと既存リソースの確認

まず、健康保険組合・商工会議所・産業保健総合支援センターが提供している無料・低価格サービスをリストアップします。「すでに使えるサービスがある」と気づくだけで、コストゼロで第一歩を踏み出せることがあります。あわせて、現在の就業規則にカウンセリング利用に伴う不利益取扱い禁止の条項が含まれているかも確認しましょう。

ステップ2:守秘義務の説明と経営者からの発信

サービスを導入・継続している場合、まず経営者・管理職が「相談内容は会社に伝わらない」という事実を明確に従業員へ伝えることが最優先です。社内通知・朝礼・社内報など複数のチャンネルを使い、一度だけでなく定期的に発信します。経営者自身が「自分も使ってみた」と語れれば、スティグマ解消に最も効果的です。

ステップ3:ストレスチェックとの連動と利用率のモニタリング

ストレスチェックの結果が出たタイミングで、高ストレス者への個別案内とカウンセリング窓口の周知を連動させます。また、個人が特定されない形での利用件数のモニタリング(例:月間相談件数・相談テーマの傾向など)を定期的に行い、経営層への報告に活用します。利用率の変化を継続的に追うことで、施策の改善サイクルを回すことが可能になります。

まとめ

中小企業における従業員カウンセリングの利用促進は、一度取り組めば完結するものではなく、継続的な周知・文化醸成・制度整備の組み合わせによって初めて機能します。

カウンセリングサービスは「問題が起きてから使う最後の手段」ではなく、不調を予防し、従業員が安心して働き続けられる環境を整えるための日常的なインフラです。労働安全衛生法・労働契約法が求める安全配慮義務の観点からも、対策の遅れは経営リスクに直結します。

「コストがかかる」「誰も使わない」という先入観を一度手放し、まずは産業保健総合支援センターへの問い合わせや既存サービスの棚卸しといった、今日からできる小さな一歩を踏み出してみてください。従業員が「この会社は自分のことを考えてくれている」と感じられる職場環境は、採用・定着・生産性のすべてにプラスの影響をもたらします。

よくある質問(FAQ)

カウンセリングサービスを導入すると、従業員の相談内容は会社に伝わりますか?

適切に運用されているカウンセリングサービスでは、個人の相談内容は原則として会社に開示されません。カウンセリング記録は個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し、本人の同意なしに事業者へ開示することは法律上禁止されています。ただし、自傷他害リスクがある場合など例外的な開示条件がサービスによって設けられているケースもあるため、契約前に守秘義務の範囲を文書で確認することをおすすめします。

従業員50人未満の小規模企業でも、カウンセリングサービスは必要ですか?

ストレスチェックの実施義務は従業員50人以上の事業場が対象ですが、労働安全衛生法第69条は規模を問わずすべての事業者に健康保持増進措置の努力義務を課しています。また、小規模企業は社内の人間関係が密になりやすく、社内で相談しにくい環境であることも多いため、むしろ外部の相談窓口の必要性が高いと言えます。産業保健総合支援センターの無料相談など、コストをかけずに始められる選択肢もあります。

カウンセリングサービスの利用率が低い場合、どう改善すればよいですか?

利用率が低い主な原因はスティグマ(偏見)・プライバシーへの不安・周知不足の3点です。改善策として、まず経営者・管理職が守秘義務の仕組みを正確に伝え、自ら利用を推奨する姿勢を示すことが効果的です。また、「カウンセリング」という表現を「相談窓口」や「コーチング」に変える、QRコードで簡単にアクセスできるようにする、四半期ごとにリマインドするなど、アクセスのしやすさと継続的な周知活動を組み合わせることが重要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

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