「テレワーク導入で社員の健康が崩れる?中小企業が今すぐ取り組むべき7つの対策」

コロナ禍をきっかけに急速に普及したテレワーク。感染対策としての一時的な措置から、今や働き方の選択肢として定着しつつあります。しかし、「導入したはいいものの、従業員の健康状態が把握しにくくなった」「メンタル不調の相談が増えた気がするが、どう対応すればいいかわからない」という声を、中小企業の経営者・人事担当者の方から多く聞きます。

オフィスでの働き方を前提に設計されてきた従来の健康管理の仕組みは、テレワーク環境ではそのまま機能しないケースが少なくありません。しかも、中小企業では専任の産業医や保健師を置いていないことも多く、「何をどこから手をつければいいのか」という状態に陥りやすいのが実情です。

本記事では、テレワーク導入後に顕在化しやすい健康管理の課題を整理したうえで、法律上の義務を踏まえた実践的な対策を具体的に解説します。完璧な体制を一度に整える必要はありません。まず自社の状況と照らし合わせながら、優先度の高いところから取り組んでいただければ幸いです。

目次

テレワークで「見えない」リスクが増大する理由

オフィス勤務では、上司や同僚が自然と従業員の様子を観察できます。顔色が悪い、元気がない、ミスが増えた——こうした変化に気づいた誰かが声をかけることで、体調不良やメンタル不調の早期発見につながっていました。ところがテレワーク環境では、この「偶発的な気づき」がほぼ機能しなくなります。

テレワーク導入後に起こりやすいリスクには、大きく分けて以下の三つがあります。

  • 身体的リスク:長時間の不適切な姿勢による腰痛・肩こり・眼精疲労、通勤がなくなることによる活動量の激減、食事の乱れによる生活習慣病リスクの上昇
  • メンタルヘルスリスク:孤立感・孤独感による抑うつや不安、仕事と休息の境界が曖昧になることで生じる精神的疲弊、家庭内ストレス(育児・介護・住環境)との複合的な影響
  • 労務管理リスク:実態のつかめない長時間労働、体調不良時に申告しにくい心理的環境、ハラスメントがオンライン上でも起こりうるという認識の不足

特に中小企業では、産業医や保健師といった専門職が社内にいないケースが多く、問題が深刻化するまで気づけないという構造的な課題があります。しかし「専門職がいないから仕方がない」では済まされません。次の章で説明するように、法律上の義務はテレワーク中の従業員にも等しく適用されます。

知っておくべき法律上の義務:テレワーク中も適用される健康管理ルール

テレワークを導入したとしても、会社が負う健康管理の法的義務はなくなりません。主要な法律・制度の要点を確認しておきましょう。

労働安全衛生法上の義務

健康診断の実施(労働安全衛生法第66条)は、テレワーク中の従業員にも適用されます。在宅勤務者だからといって対象外にはなりません。また、ストレスチェック(同法第66条の10)は、常時50人以上の労働者を使用する事業場では実施が義務づけられています。50人未満の事業場は努力義務(法律上は義務ではないが、行うよう努めることが求められる)とされていますが、テレワーク導入によってメンタルヘルスリスクが高まっている現状を踏まえると、規模に関わらず実施を検討する価値があります。

さらに見落としがちなのが作業環境管理の義務(同法第65条)です。自宅が労働の場となる以上、事業者は作業環境の適切な管理に努める必要があります。「自宅の環境は本人の責任」と切り捨てることは、法的な観点からも適切ではありません。

安全配慮義務と労災リスク

労働契約法第5条は、使用者が「労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務(安全配慮義務)を規定しています。これはテレワーク中も変わりません。

重要なのは、在宅勤務中のケガや体調不良も、条件次第で労災認定の対象になる点です。たとえば、業務時間中に自宅で作業中に転倒してケガをした場合や、長時間の過重労働が原因でメンタル不調を発症した場合などが該当しうります。事業者が適切な健康管理措置を怠っていたと判断されれば、民法415条に基づく損害賠償責任を問われるリスクもあります。

労働時間管理の義務

テレワーク中も、労働時間の把握は事業者の義務です(労働安全衛生法第66条の8の3)。「事業場外みなし労働時間制」(労働時間の算定が難しい場合に、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす制度)を適用しているケースもありますが、常時連絡が取れる状態にある、会社のパソコンを使用しているといった状況では、この制度の適用が認められない場合があります。実態に即した運用が求められます。

身体的健康を守る:作業環境の整備と生活習慣のサポート

従業員の在宅作業環境は、個人によって大きく異なります。適切な高さの机と椅子が揃っている人もいれば、ダイニングテーブルで長時間作業している人もいるでしょう。会社側がこの差を放置することは、腰痛・肩こり・眼精疲労などの身体的不調を見過ごすことにつながります。

作業環境チェックリストの活用

まず取り組みやすい施策として、会社側が作業環境チェックリストを作成・配布することが挙げられます。厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(2021年改定)でも、事業者が労働者のテレワーク環境の整備に努めることが明示されています。

チェックリストに盛り込みたい主な項目は以下のとおりです。

  • 椅子の高さは足裏が床につき、膝が直角になっているか
  • モニターは目線よりやや下、距離は50〜70cm程度か
  • 照明は作業に十分な明るさがあり、画面への映り込みがないか
  • 換気は1〜2時間に1回程度行っているか
  • 1〜2時間ごとに5〜10分の休憩(立ち上がり・ストレッチ)を取っているか

在宅勤務手当と物品支給の基準を明確に

作業環境の整備を個人任せにせず、会社として費用負担のルールを明文化することも重要です。在宅勤務手当の支給や、モニター・椅子などの物品貸与・支給を行う場合は、その基準と条件を就業規則に明記しておくことで、従業員間の不公平感や後日のトラブルを防ぐことができます。

なお、在宅勤務手当の相場は月額1,000〜5,000円程度が一般的とされていますが、企業規模や支給の目的(通信費・光熱費の補填など)によって異なります。支給額の設定根拠を整理したうえで、就業規則に反映させることをお勧めします。

運動習慣・生活習慣への働きかけ

通勤がなくなることで、1日の歩数が大幅に減少する従業員は珍しくありません。会社からできるアプローチとしては、正しい姿勢やストレッチ方法を解説した動画を社内ポータルで共有する、健康アプリの活用を推奨するといった取り組みが費用をかけずに実施できます。

メンタルヘルス対策:孤立を防ぎ、異変を早期に把握する

テレワーク環境下でのメンタルヘルスリスクは、身体的リスクと同様に、あるいはそれ以上に深刻です。孤立感・孤独感、仕事と休息の境界の曖昧さ、「サボっていると思われたくない」という心理的プレッシャーによる申告の抑制——これらが複合的に絡み合って、不調を抱えた従業員が誰にも相談できないまま限界を迎えるリスクがあります。

1on1面談の制度化

最も効果的で、かつ費用をかけずに始められる対策が定期的な1on1面談(上司と部下の1対1の面談)の制度化です。週1回15分でも、継続的に実施することで「いつでも相談できる関係性」が育まれます。面談では業務の進捗だけでなく、体調・気分・生活リズムについても自然に確認できる流れを作ることが大切です。

ただし、「監視されている」と感じさせないよう、面談の目的とトーンに注意が必要です。「あなたの状況をサポートするための時間」という位置づけを明確にすることで、従業員が本音を話しやすい環境が整います。

ストレスチェックのオンライン活用

ストレスチェックをオンラインで実施できるツールは、無料・有料を問わず複数存在します。テレワーク下でも実施率を維持するため、紙での実施にこだわらず、オンラインツールへの切り替えを検討してください。

また、ストレスチェックの結果を個人への対応だけで終わらせず、集団分析(部署単位での結果の傾向分析)を行うことで、特定のチームや業務に過剰なストレス要因が潜んでいないかを組織的に把握することができます。50人未満の企業でも集団分析の考え方は応用できます。

EAPの活用と相談窓口の整備

EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)とは、メンタルヘルスや職場の悩みに関する相談を外部の専門機関が受け付けるサービスです。中小企業でも比較的低コストで導入できるサービスが増えており、「社内では相談しにくい」という従業員のセーフティネットとして機能します。

また、産業医が選任されていない企業でも、地域の産業保健総合支援センター(全国に設置)では無料の産業保健相談が受けられます。こうした外部資源の活用も積極的に検討してみてください。

実践ポイント:今日から始めるテレワーク健康管理の整備ステップ

ここまで解説してきた内容を踏まえ、具体的な着手順序を整理します。すべてを同時に整備する必要はありません。優先度に応じて段階的に取り組むことが継続の秘訣です。

ステップ1:実態の把握と法的義務の確認(優先度:高)

  • 現在の勤怠管理方法を見直し、テレワーク中の労働時間が正確に把握できているか確認する
  • 健康診断・ストレスチェックの受診率を確認し、テレワーク開始後に低下していないかをチェックする
  • 就業規則にテレワーク時の健康管理に関する規定が含まれているかを確認し、不足があれば改定を検討する

ステップ2:仕組みの整備(優先度:中〜高)

  • クラウド型勤怠管理ツールを導入し、始業・終業・休憩取得の状況をリアルタイムで把握できる環境を整える
  • 長時間労働者への自動アラートと上司からの声かけをセットで運用するルールを設ける
  • ストレスチェックをオンラインで実施できる体制に切り替える
  • 作業環境チェックリストを作成・配布し、定期的な自己点検を促す

ステップ3:コミュニケーションと文化の醸成(優先度:中)

  • 1on1面談を制度として定着させ、管理職に面談の目的と進め方を共有する
  • 「体調不良時は無理せず申告する」という文化を、経営者・管理職が率先して示す
  • チャットツールの活用を工夫し、テキストだけになりがちなコミュニケーションに温かみを加える
  • EAPや外部相談窓口の情報を従業員に周知する

注意点:監視とサポートのバランス

従業員の健康状態を把握しようとするあまり、カメラによる常時監視や過度なログ監視を行うことは、プライバシーの侵害につながる可能性があります。個人情報保護法の観点からも、収集する情報の範囲と目的を明確にし、従業員に対して透明性を持って説明することが不可欠です。「管理するため」ではなく「サポートするため」という姿勢が、従業員の信頼と協力を得る基盤となります。

まとめ

テレワークは、従業員の働き方の柔軟性を高める一方で、健康管理における「見えないリスク」を増大させます。身体的不調、メンタルヘルスの悪化、長時間労働の見逃し——これらはいずれも、適切な対策を怠れば労災や損害賠償リスクに直結しうる問題です。

重要なのは、テレワーク中の従業員にも、オフィス勤務と同様の法的保護が及んでいるという認識を経営者・人事担当者が持つことです。健康診断の実施義務、ストレスチェックの対応、安全配慮義務——これらはテレワーク導入によって免除されるものではありません。

同時に、完璧な体制を一夜で構築する必要もありません。まずは現状の勤怠管理と健康診断受診率の確認から始め、作業環境チェックリストの配布、1on1面談の制度化といった、コストをかけずに取り組める施策から着手してください。小さな一歩の積み重ねが、従業員の健康を守り、会社の持続的な成長を支える基盤となります。

テレワークの健康管理は、「やらされる義務」ではなく「従業員との信頼関係を築く機会」と捉えることで、取り組みの質も成果も変わってきます。本記事が、その第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。

よくある質問

Q1: テレワーク中でも健康診断やストレスチェックは必須ですか?

健康診断はテレワーク中の従業員にも等しく適用される法律上の義務です。ストレスチェックは50人以上の企業では義務、50人未満は努力義務ですが、テレワーク導入によるメンタルヘルスリスク増加を踏まえると、規模に関わらず実施が推奨されます。

Q2: 在宅勤務中のケガや体調不良は労災の対象になりますか?

条件次第で労災認定の対象となります。例えば業務時間中に自宅で転倒したケガや、長時間過重労働が原因のメンタル不調などが該当する可能性があります。事業者が適切な健康管理措置を怠っていた場合は、損害賠償責任を問われるリスクもあります。

Q3: 中小企業が産業医や保健師を置いていない場合、どうすればいいですか?

専門職がいなくても法律上の義務は変わりません。完璧な体制を一度に整える必要はなく、自社の状況を踏まえながら優先度の高い課題から段階的に取り組むことが現実的です。外部の産業医サービスや保健師の活用も検討する価値があります。

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