「忙しいから有給は取らせにくい」「パートやアルバイトに有給があることを知らなかった」――中小企業の経営者や人事担当者からこのような声を聞くことは珍しくありません。しかし、有給休暇の管理は経営者の「善意」ではなく、法律で定められた使用者の義務です。違反した場合には罰金が科されるリスクもあります。
2024年は、時間外労働の上限規制が建設・運送・医療分野にも適用拡大されるなど、労働時間管理全体の見直しが求められる転換期でもあります。本記事では、有給休暇管理にまつわる法律の基本から、2024年に意識すべき実務上のポイント、よくある誤解まで、中小企業の担当者が「今日から使える」情報を整理してお伝えします。
有給休暇の基本ルールをおさらいする
まず、有給休暇制度の土台となる仕組みを確認しておきましょう。根拠となるのは労働基準法第39条です。
有給休暇は、週30時間以上または週5日以上勤務している労働者が、6ヶ月間継続して勤務し、全労働日の80%以上出勤した場合に付与されます。付与日数は勤続年数に応じて増加し、最大で年間20日となります。正社員だけでなく、要件を満たしたパート・アルバイトにも「比例付与」という形で有給休暇が発生します。
比例付与とは、週所定労働日数や労働時間に応じて、有給休暇の付与日数を調整するルールです。たとえば週3日勤務のパート従業員であれば、6ヶ月継続勤務・出勤率80%以上を満たした時点で5日の有給が付与されます。「パートは有給がない」と思い込んでいるケースが今なお見られますが、これは明確な誤りです。非正規労働者を多く抱える業態では特に注意が必要です。
また、有給休暇中の賃金支払いについても誤解が散見されます。有給休暇中は、通常の賃金・平均賃金・標準報酬月額のいずれか(就業規則等で定めた方法)を支払う義務があり、「有給中は給与を差し引いてよい」というのは誤った認識です。
年5日取得義務と時季指定:使用者の責任を正しく理解する
2019年4月に施行された改正により、年間10日以上の有給休暇が付与された労働者に対しては、使用者が年5日以上取得させる義務が生じています。この義務は2024年現在も継続して適用されており、中小企業も例外ではありません。
重要なのは、「本人が申請しなければ会社の責任ではない」という考え方は法的に通用しないという点です。年5日の取得義務はあくまでも使用者の義務であり、労働者が自分から申請しなかった場合でも、会社側が取得させる責任を負います。
この義務を果たす手段として、法律は以下の3つを認めています。
- 労働者が自ら申請・取得した日数
- 計画年休制度(後述)で取得させた日数
- 使用者が取得時季を指定した日数
この3つを合計して年5日に達すれば義務を果たしたことになります。労働者が自発的に4日取得していれば、残り1日を会社が時季指定で補完する、という運用も適法です。
時季指定とは、取得が進んでいない従業員に対して使用者が取得する日付を指定できる権限であり、義務でもある制度です。指定にあたっては従業員の意見を聴くことが求められますが、最終的な指定権限は使用者にあります。指定した内容は書面等で記録に残しておくことが実務上不可欠です。
なお、義務違反には1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。従業員が複数いる場合は、人数分の違反件数として処理されるため、リスクは決して小さくありません。
有給休暇管理簿の作成・保存:整備できていない会社は今すぐ対応を
有給休暇管理簿とは、基準日・取得日数・取得時季(取得した具体的な日付)の3点を個人ごとに記録した帳票のことです。2019年4月の法改正により作成・保存が義務付けられましたが、「そのような書類が必要とは知らなかった」という中小企業がいまだに多いのが実情です。
保存期間については、2023年4月の法改正により、最後の記録を行った日から3年間とされています(労働基準法の時効延長に伴い、将来的に5年になる可能性もありますが、当面は3年が基準です)。賃金台帳や労働者名簿と合わせて一元管理することも認められており、既存の給与ソフトや勤怠管理システムに管理簿の機能が含まれている場合はそれを活用できます。
管理簿が整備されていない場合、労働基準監督署の調査が入った際に是正勧告を受けるリスクがあります。書類の不備は「悪意がなかった」では済まない問題です。すでに運用中であっても、内容が不十分であれば早急に見直しを行いましょう。
管理簿を整備する際は、以下の点を確認してください。
- 全従業員(パート・アルバイト含む)分を個人別に作成しているか
- 基準日(有給休暇が付与された日)が正確に記載されているか
- 取得した日付と日数が都度更新されているか
- 年度末時点の未取得日数が把握できる状態になっているか
2024年に意識すべき変化:時間外労働規制との連動が鍵
2024年4月、時間外労働の上限規制が建設業・自動車運転業・医師の3分野にも適用されました。これらの業種はこれまで上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年4月以降は原則として月45時間・年360時間の上限が適用されます(一定条件下で年720時間まで延長可能)。
有給休暇管理との関連で言えば、労働時間を削減するうえで有給休暇の計画的取得は有効な手段の一つです。残業が多い現場では、有給取得を促進することで実質的な労働時間の圧縮につながります。これまで「忙しいから有給を取らせる余裕がない」と感じていた会社こそ、有給取得の仕組みを整えることが労働時間管理全体の改善に直結します。
また、同じく2024年4月に施行された労働条件明示ルールの改正も見落とせません。有期契約労働者に対して、契約更新の上限回数や無期転換ルール(一定年数の継続勤務により無期雇用への転換を申し込める制度)に関する明示が義務付けられました。有期労働者の雇用管理と有給休暇の付与・管理は連動しているため、雇用契約の整備と合わせて有給管理の体制を見直すことが求められます。
さらに、厚生労働省による中小企業への監督・指導も本格化しています。大企業中心だった調査の対象が中小企業にも広がっており、「うちは小さい会社だから見られない」という認識はもはや通用しません。
計画年休制度の活用:一斉取得で管理負担を軽減する
有給休暇の管理に悩む中小企業に特に活用をおすすめしたいのが、計画年休制度です。これは、労使協定(経営者と従業員代表が書面で締結する取り決め)を結ぶことで、あらかじめ特定の日を有給休暇として設定できる仕組みです。
対象となるのは、各従業員の有給休暇日数のうち5日を超える部分です。たとえば10日の有給が付与されている従業員であれば、5日を超える5日分を計画年休に充てることができます。夏季休暇・年末年始・ゴールデンウィークに合わせて一斉に設定すれば、個別に申請・調整する手間が省け、取得漏れのリスクも下がります。
計画年休制度を導入する際は、次の点に注意が必要です。
- 労使協定の締結が必要であること(就業規則への明記も推奨)
- 5日を超える部分にしか適用できないため、付与日数が少ない従業員は個別管理が引き続き必要
- 労働者の個別同意は不要だが、協定の内容を従業員に周知すること
計画年休は、専任の人事担当者がいない中小企業でも取り組みやすい仕組みです。制度設計に不安がある場合は、社会保険労務士に相談することも選択肢の一つです。
今すぐ着手すべき実践ポイント
ここまでの内容を踏まえ、中小企業の経営者・人事担当者が優先して取り組むべき事項を整理します。
優先度が高い対応
- 年5日取得の現状確認:現時点で各従業員が何日取得済みかを確認し、年度内に5日に届かないリスクがある従業員を洗い出します。年度途中での定期確認が重要です。
- 有給休暇管理簿の整備:作成していない場合は早急に作成を開始します。既存の給与ソフトに機能がある場合はそれを活用しましょう。
- 時季指定の手順確認:取得が進んでいない従業員への時季指定の手順と記録方法をルール化しておきます。
中期的に取り組む対応
- 計画年休の労使協定検討:一斉取得が可能な時期を洗い出し、労使協定の締結を検討します。
- 勤怠管理システムの導入・見直し:クラウド型の勤怠管理ツールには中小企業向けの低コストプランが充実しており、管理簿の作成・更新を自動化できるものもあります。管理業務の効率化につながります。
- パート・アルバイトの有給管理の整備:比例付与の対象者を洗い出し、付与日数と取得状況を正確に把握できる体制を整えます。
誤解を防ぐための社内共有
- 繰越分の有給休暇も年5日のカウントに含められること
- 半日有給は0.5日として算入できるが、時間単位有給は算入不可であること
- 時季変更権(繁忙期に別の日に変更を求める権利)は認められているが、最終的には必ず取得させる義務があること
まとめ
有給休暇の管理は、「できる範囲でやる」ものではなく、法律で定められた使用者の義務です。年5日取得の義務、有給休暇管理簿の作成・保存、パート・アルバイトへの比例付与、これらはいずれも法的根拠を持つルールであり、違反した場合には罰金リスクを伴います。
2024年は時間外労働の上限規制の適用拡大や労働条件明示ルールの改正が重なり、労働時間・休暇管理の見直しが急務となっています。人手不足を理由に有給取得を後回しにするのではなく、計画年休や時季指定を活用した仕組みを整えることが、結果として職場環境の改善と人材確保につながるという視点を持つことが重要です。
まず今日できることとして、自社の従業員ごとの有給取得状況を確認し、年5日に届いていない人がいれば早急に対応を開始してください。管理体制の整備に不安がある場合は、社会保険労務士や労働局の相談窓口を活用することも有効な手段です。
よくある質問
Q1: パート・アルバイトには本当に有給休暇が発生するのですか?
はい、週30時間以上または週5日以上勤務し、6ヶ月間継続勤務で出勤率80%以上を満たせば、パート・アルバイトにも有給休暇が発生します。週所定労働日数に応じて日数を調整する「比例付与」という仕組みで、例えば週3日勤務なら5日の有給が付与されます。「パートは有給がない」というのは明確な誤りです。
Q2: 従業員が有給の申請をしないままでも会社の責任は問われませんか?
いいえ、年5日以上の取得義務は使用者側の責任であり、労働者が申請しなくても会社が取得させる義務があります。時季指定制度により、使用者が取得する日付を指定することで義務を果たせますが、この義務違反には1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。
Q3: 有給休暇管理簿はどのくらいの期間保存する必要がありますか?
有給休暇管理簿は、最後の記録を行った日から3年間の保存が義務付けられています。既存の給与ソフトや勤怠管理システムで管理できれば、管理簿の機能がなくても要件を満たせます。整備されていない場合、労働基準監督署の調査で是正勧告を受けるリスクがあります。
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