「健康経営銘柄」を狙う中小企業がまずやるべき7つの取組み|コスト削減効果も解説

「健康経営に取り組みたいが、何から始めればいいかわからない」「銘柄とか優良法人とか、制度の違いがよくわからない」——中小企業の経営者や人事担当者から、こうした声をよく耳にします。

近年、従業員の健康を経営戦略として捉える「健康経営」の考え方が広まっています。採用力の強化、離職率の低下、生産性の向上など、その効果は単なるコスト削減にとどまらず、企業の持続的成長に直結するものです。しかし、「健康経営銘柄を目指したい」という意欲があっても、制度の仕組みが複雑でどこから手をつければよいか迷っている担当者は少なくありません。

本記事では、健康経営銘柄と健康経営優良法人の違いを整理した上で、中小企業が今すぐ着手できる具体的なステップと実践ポイントを解説します。

目次

健康経営銘柄と健康経営優良法人——混同しがちな制度の違い

まず多くの方が誤解しているポイントを正確に理解しておきましょう。「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」は、同じ「健康経営」という言葉を含みますが、対象となる企業や制度の性質がまったく異なります。

健康経営銘柄とは

健康経営銘柄は、東京証券取引所に上場している企業のみが対象です。経済産業省と東京証券取引所が共同で選定し、健康経営度調査への回答結果をもとに、各業種から原則1社(近年は複数社の業種もあり)が選ばれます。選定された企業は、中長期的な企業価値向上の観点から投資家へのアピール材料になるという性格を持っています。

つまり、中小企業は健康経営銘柄に応募することができません。この点は非常に重要な前提です。「うちも銘柄を目指したい」と考えている中小企業の経営者の方は、まずこの事実を認識してください。

中小企業が目指すべきは「健康経営優良法人(ブライト500)」

中小企業にとって現実的かつ意義のある目標が、健康経営優良法人制度の中小規模法人部門(通称:ブライト500です。一般的に従業員数300人以下(業種によって異なる)の法人が対象となり、経済産業省が認定します。

認定要件は大きく5つの柱から構成されています。

  • ①経営理念・方針:健康経営の方針を経営トップが明文化・公表しているか
  • ②組織体制:推進担当者・産業医・保健師などとの連携体制が整っているか
  • ③制度・施策実行:健診、ストレスチェック、各種健康施策を実行しているか
  • ④評価・改善:PDCAサイクル(計画・実施・評価・改善のサイクル)で継続的に改善しているか
  • ⑤法令遵守・リスクマネジメント:労働関連法規を遵守し、リスクに適切に対応しているか

健康経営優良法人の認定を着実に積み重ねることが、将来的に上場した際の銘柄選定への足がかりにもなります。まずはブライト500の認定取得を目標として、段階的に取組みを高度化していく視点が重要です。

5つのステップで進める健康経営の実践プロセス

健康経営を「やってみたけれど形だけになった」という失敗を防ぐためには、正しい順序で体制を構築することが不可欠です。以下のSTEP1〜5を参考に、自社の現状と照らし合わせながら取組みを進めてください。

STEP1:現状把握——数字で自社の健康状態を可視化する

最初にすべきことは、自社従業員の健康状態と職場環境に関するデータを収集・整理することです。評価の出発点となる主な指標は以下のとおりです。

  • 健康診断受診率(正社員・パート・派遣・契約社員を含めた全員分)
  • ストレスチェックの実施率と高ストレス者比率
  • 月平均残業時間と有給休暇取得率
  • 離職率・休職者数の推移
  • 医療費・傷病手当金の支給状況(健保組合・協会けんぽと連携して把握)

ここで注意が必要なのは、パートタイム労働者や派遣社員を健康診断の管理から漏らしてしまうケースです。週30時間以上など一定の要件を満たす従業員には定期健康診断の実施が義務付けられており(労働安全衛生法第66条)、こうした方々を含めた受診率100%の達成が健康経営の大前提となります。まず自社の実態を正確に把握することが第一歩です。

STEP2:経営トップのコミットメントを形にする

健康経営の評価において、経営層が本気で関与しているかどうかは重要な判断基準です。担当者がいくら頑張っても、トップのコミットメントがなければ取組みは形骸化します。

具体的には、経営トップによる「健康宣言」を社内外に公表することが求められます。ホームページや社内通知、採用情報ページへの掲載など、対外的に明示することで従業員への発信にもなります。また、健康経営を担当する役員・責任者を明確に指名し、組織として取り組む姿勢を示すことが大切です。

STEP3:推進体制を整える

健康経営を継続的に推進するためには、担当者一人が孤軍奮闘する体制ではなく、組織横断的な推進委員会の設置が有効です。人事・総務担当者を中心に、産業医・保健師・健保組合担当者が連携できる仕組みを作ることで、専門的な視点と実務的な推進力の両方が確保できます。

「専任の産業医を確保するコストが心配」という声はよく聞かれますが、近年は中小企業向けの産業医サービスを活用することで、リーズナブルに専門家のサポートを受けることができます。産業医の存在は健康経営の評価項目にも直結するため、積極的に検討する価値があります。

STEP4:施策を優先度に沿って実行する

限られたリソースの中で最大の効果を出すには、施策の優先度を見極めることが重要です。以下の3段階で整理すると取り組みやすくなります。

  • 必須レベル(まずここから):健診受診率100%の達成、ストレスチェックの実施・集団分析・職場環境改善(従業員50人以上はストレスチェックが義務)
  • 加点レベル(次に着手):就業時間中の完全禁煙対策、食環境の整備、運動機会の提供(ウォーキングイベント等)
  • 差別化レベル(さらに高度化):女性特有の健康課題への対応(婦人科検診の費用補助等)、メンタルヘルス相談窓口の設置、治療と仕事の両立支援制度

特にメンタルヘルス対策は、ストレスチェックを「実施して終わり」にしない運用が求められます。高ストレス者への面談対応や職場環境改善まで一貫して行うためには、メンタルカウンセリング(EAP)などの外部相談窓口を整備することが効果的です。従業員が気軽に利用できる仕組みを作ることで、相談のハードルが下がり、問題の早期発見にもつながります。

STEP5:効果測定とPDCAの継続

健康経営優良法人の認定は毎年更新申請が必要であり、取組みを後退させると非認定になるケースもあります。継続的な改善を証明するためにも、以下のようなKPI(重要業績評価指標)を設定して定期的に測定・記録することが大切です。

  • 健診受診率・精密検査受診率の変化
  • 高ストレス者比率の推移
  • 月平均残業時間の削減率
  • 有給休暇取得率の向上
  • 従業員満足度調査における健康関連項目のスコア

コストを抑えて取組みを加速する——補助金・外部リソースの活用

「取り組みたいが予算が厳しい」という中小企業の現実的な課題に対して、活用できる外部リソースを整理しておきます。

協会けんぽ・健保組合との「コラボヘルス」

コラボヘルスとは、企業と健康保険組合(または協会けんぽ)が連携して従業員の健康づくりを推進する取組みのことです。健康経営の評価項目としても重視されており、協会けんぽが提供する「健康経営サポート」や経営者・人事向けセミナーは無料または低コストで利用できます。まず担当の協会けんぽ都道府県支部に問い合わせることをお勧めします。

補助金・助成金の活用

各都道府県や自治体によっては、健康経営の取組みに対する補助金・助成金制度を設けているケースがあります。また、経済産業省が認定する「健康経営エキスパートアドバイザー」制度を通じて、専門家による無料相談を受けることも可能です。自社の所在地を管轄する都道府県の産業保健総合支援センターや商工会議所でも情報収集ができます。

外部専門家の活用で「人手不足」を補う

専任の産業保健スタッフを社内に配置するコストが高いと感じる場合、外部の産業医サービスやEAP(従業員支援プログラム)を活用することで、専門的なサポートを必要な範囲で受けることができます。健康経営の推進には専門的な知見が不可欠であり、外部委託という選択肢は費用対効果の観点からも合理的です。

よくある失敗と回避策——形骸化させないために

健康経営の取組みが「やっているつもり」になりがちな落とし穴を確認しておきましょう。

失敗例①:形式だけの健康宣言

経営トップが健康宣言の文書を作成し、ホームページに掲載した。しかし現場の管理職にはその内容が伝わっておらず、従業員も「そんな宣言があったの?」という状態——これでは評価につながりません。宣言の内容を全社員に周知し、具体的な行動計画と紐づけることが重要です。

失敗例②:ストレスチェックを「やって終わり」にしている

従業員50人以上の事業場にはストレスチェックの実施が義務付けられていますが(労働安全衛生法第66条の10)、集団分析の結果を職場環境の改善につなげているかどうかが健康経営の評価ポイントです。「実施した」という記録だけでは不十分であり、分析結果をもとに具体的な改善策を講じ、その記録を残すことが求められます。

失敗例③:従業員の参加率が低い施策を続ける

健康セミナーを開催しても参加者が少ない、運動プログラムを導入しても誰も使わない——こうした状況が続くと、取組み自体への投資意欲が失われます。従業員のニーズを事前にアンケートで把握した上で施策を設計すること、また参加しやすい仕組み(業務時間内での開催、インセンティブの付与など)を工夫することが効果的です。

実践ポイントまとめ——今すぐできる3つのアクション

本記事の内容を踏まえ、まず明日から着手できる具体的なアクションを3つに絞ってお伝えします。

  • ①全従業員の健康診断受診状況を確認する:パート・派遣・契約社員を含めた受診率を数字で把握し、未受診者のフォロー体制を整える
  • ②経営トップに健康宣言の発信を提案する:文書化・公表の形式を検討し、社内への周知計画とセットで提案する
  • ③協会けんぽまたは健保組合に連絡を取る:コラボヘルスの活用可能性や無料相談・セミナーの情報を収集する

健康経営は一朝一夕で成果が出るものではありませんが、地道に継続することで従業員の健康状態の改善、生産性の向上、採用ブランド力の強化という形で企業に還元されます。まず「できることから着実に」を合言葉に、最初の一歩を踏み出してください。

まとめ

健康経営銘柄は上場企業を対象とした制度であり、中小企業が目指すべきステージは健康経営優良法人(ブライト500)の認定です。両制度の違いを正確に理解した上で、現状把握→経営層のコミットメント→組織体制の整備→施策の実行→効果測定というステップを踏んで取り組むことが、認定取得への最短ルートといえます。

予算や人員の制約がある中小企業でも、協会けんぽとの連携、補助金・助成金の活用、外部専門家サービスの利用といった方法でコストを抑えながら取組みを進めることは十分に可能です。重要なのは、施策を形式的に整えることではなく、従業員の健康が本当に改善されているかを継続的に確認し、PDCAを回し続ける姿勢です。

健康経営の推進を「コスト」ではなく「投資」として位置づけ、自社の競争力強化につなげていただければ幸いです。

よくある質問(FAQ)

中小企業でも健康経営銘柄に応募できますか?

健康経営銘柄は東京証券取引所に上場している企業のみが対象となる制度です。中小企業は応募できません。中小企業の場合は、経済産業省が認定する「健康経営優良法人(中小規模法人部門:ブライト500)」の取得を目標とするのが現実的なステップです。将来上場した際には、優良法人認定の実績が銘柄選定の基盤にもなります。

健康経営優良法人の認定は一度取得すれば継続されますか?

いいえ、毎年更新申請が必要です。前年度と比較して取組みが後退していると判断された場合、認定が継続されないケースもあります。継続的にPDCAサイクルを回し、施策の改善・発展を記録として残しておくことが重要です。

ストレスチェックは全企業に義務がありますか?

労働安全衛生法第66条の10により、常時使用する労働者が50人以上の事業場においてストレスチェックの実施が義務付けられています。50人未満の事業場は現時点では努力義務ですが、健康経営優良法人の認定においては規模にかかわらず実施・活用状況が評価されるため、積極的に取り組むことが推奨されます。

健康経営に取り組む費用対効果はどのように示せますか?

直接的な効果の指標としては、医療費・傷病手当金の削減、離職率の低下、有給休暇取得率の向上などが挙げられます。また、採用応募数の増加や従業員満足度スコアの改善も間接的な効果として経営層に示すことができます。取組み前後の数値変化を記録しておくことが、経営層への説得材料として有効です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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