「健康経営銘柄に選ばれる企業は何が違うのか?中小企業でも実践できる選定基準と具体的な取り組み方」

従業員の健康を経営戦略の中心に据える「健康経営」という概念は、近年、企業規模を問わず注目を集めています。経済産業省が推進するこの取り組みは、従業員の活力向上や生産性改善、さらには優秀な人材の採用・定着にも寄与するとされています。しかし、現場の経営者や人事担当者からは「健康経営銘柄は上場企業だけの話では?」「何から手をつければいいか分からない」という声が少なくありません。

本記事では、健康経営銘柄の選定基準から、中小企業が現実的に取り組める健康経営優良法人認定の実務ポイントまでを体系的に解説します。自社の健康経営推進に向けた具体的なヒントとしてご活用ください。

目次

「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」の違いを正しく理解する

多くの経営者・人事担当者が混同しがちなのが、「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」という二つの制度です。まずはこの違いを整理することが、自社の取り組みを正しい方向へ導く第一歩となります。

健康経営銘柄:上場企業を対象とした制度

健康経営銘柄は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する制度です。対象はプライム・スタンダード・グロース市場に上場する企業に限られており、毎年、健康経営度調査の回答内容をスコアリングした上で、ROE(自己資本利益率)などの財務指標による審査を経て選定されます。2024年度は49業種・51社が選定されており、原則として業種ごとに1社が選ばれる仕組みです。

つまり、健康経営銘柄は非上場の中小企業には直接関係のない制度です。この点を誤解し、「うちには関係ない」と健康経営そのものを敬遠してしまうのは非常にもったいないことです。

健康経営優良法人認定制度:中小企業にも開かれた制度

一方、健康経営優良法人認定制度は企業規模を問わず申請できます。大規模法人部門(上位500社は「ホワイト500」と呼ばれる)と、中小規模法人部門(上位500社は「ブライト500」)の2区分が設けられています。

中小規模の目安は「資本金3億円以下または従業員300人以下」です。多くの中小企業がこの区分に該当します。認定申請の窓口は各地域の保険者(協会けんぽ・健康保険組合など)や経済団体となっており、地域の支援リソースを活用しながら取り組めるのが特徴です。

認定要件の柱は以下の5点です。

  • 経営理念・方針:トップが健康経営への関与を明示しているか
  • 組織体制:推進体制が整備されているか
  • 制度・施策実行:具体的な健康施策が実施されているか
  • 評価・改善:PDCAサイクルが機能しているか
  • 法令遵守・リスクマネジメント:労働関係法令を遵守しているか

中小企業の経営者・人事担当者には、まずブライト500の認定取得を現実的な目標として設定することをお勧めします。認定マークは採用活動や取引先へのブランディングに活用でき、経営上の有形無形のメリットが期待できます。

健康経営度調査が示す「選定基準」の全体像

健康経営銘柄の選定や健康経営優良法人の認定において、中核となるのが健康経営度調査です。この調査票は経済産業省のウェブサイトで無料公開されており、設問項目そのものが「経産省が何を重視しているか」を明示した評価基準となっています。

未認定の企業でも調査票をダウンロードして自社の現状と照らし合わせることができるため、「自社に何が足りないか」を洗い出すツールとして積極的に活用すべきです。2024年度版における主要な評価軸は以下のとおりです。

経営者のコミットメント

健康経営はトップのリーダーシップなしには機能しません。経営者が健康経営に関するメッセージを発信しているか、数値目標を設定しているかが問われます。年1回以上、経営会議等でのレビューと結果の公表がトップコミットメントの証明として評価されます。

健診受診率・精密検査受診率

労働安全衛生法第66条は、事業者に対して従業員の定期健康診断実施を義務付けています。健康経営度調査では受診率100%が求められており、未受診者への個別フォロー体制の構築が不可欠です。さらに、健診で異常が見つかった場合の再検査・精密検査の受診勧奨まで管理する仕組みを整えることが重要です。受診率の数字だけでなく、フォローアップの仕組みがあるかどうかまでが評価の対象となります。

メンタルヘルス対策

労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェック制度(従業員50人以上の事業場に実施義務)は、「実施する」だけでは評価上不十分です。集団分析(職場単位でのストレス状況の分析)の結果を職場環境改善につなげる流れを作ることが、高評価への鍵となります。また、50人未満の事業場であっても、自主的に実施・活用することが加点要素として認められるケースがあります。

メンタルヘルス対策の充実には、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も効果的です。外部の専門機関による相談窓口を設けることで、従業員が気軽に相談できる環境が整い、問題の早期発見・早期対応につながります。

女性の健康支援

女性活躍推進法との連動も意識する必要があります。子宮頸がん検診・乳がん検診の受診率向上に向けた取り組みや、妊娠・育児との両立支援施策が評価項目に含まれます。これらは法定の健康診断とは別に企業が自主的に支援するものであり、取り組みの積極性が問われます。

従業員エンゲージメント・プレゼンティーイズムの測定

プレゼンティーイズムとは、出勤しているものの体調不良や心理的な問題により業務パフォーマンスが低下している状態を指します。対してアブセンティーイズムは、健康上の理由による欠勤・遅刻のことです。これらを定量的に把握・測定することが加点要素となっており、健康経営のROI(投資対効果)を可視化する上でも重要な指標です。

健康経営のROIをどう示すか:経営層を動かすための視点

中小企業における健康経営推進の最大の壁の一つが、「経営層が健康投資をコストと捉えてしまう」という問題です。社内承認を得るためには、投資対効果を可視化することが求められます。

健康経営のROIは、主に以下の観点から説明できます。

  • 医療費・休業コストの削減:従業員の健康状態が改善されれば、医療費や傷病による休業コストが抑制される可能性があります。協会けんぽからデータ提供を受けることで、自社の医療費傾向を把握することができます。
  • 採用・定着コストの低減:健康経営優良法人の認定は、求職者へのシグナルとなり得ます。離職率の低下は採用コストの削減に直結します。
  • 生産性の向上:プレゼンティーイズムの改善により、現有人員での生産性が高まると考えられています。
  • 取引機会の拡大:大企業のサプライチェーン管理において、取引先の健康経営状況を確認する動きが広がっています。認定取得は商機につながる可能性があります。

ただし、これらの効果は企業の状況や施策の質によって異なるため、「必ずこれだけの効果が出る」と断言することは困難です。重要なのは、測定可能なKPIを設定し、継続的に効果を追跡する仕組みを作ることです。

中小企業が活用すべき外部リソース

「専任の産業医や保健師を置く余裕がない」「人事担当者が兼務で手が回らない」という声は中小企業では一般的です。しかし、活用できる外部リソースは思っている以上に豊富に存在します。

協会けんぽとの連携

全国健康保険協会(協会けんぽ)は、健康経営サポートプログラムを無料または低コストで提供しています。健診データや医療費データの分析支援を受けることで、自社での分析コストを大幅に削減できます。また、健康経営度調査の回答に必要なデータの一部を保険者から入手できる場合もあるため、早い段階から協会けんぽの担当者と連絡を取ることをお勧めします。

産業医サービスの活用

産業医(労働者の健康管理を専門的に行う医師)の選任は、従業員50人以上の事業場では法律上の義務ですが、50人未満の事業場でも産業医と契約することで健康経営推進に大きな助けを得られます。健康診断結果の事後措置、ストレスチェックの実施・集団分析の解釈、職場環境改善のアドバイスなど、専門的なサポートを受けることができます。産業医サービスの活用は、健康経営の実効性を高める上で特に有効な選択肢の一つです。

クラウド型健康管理システムの導入

健康診断結果・ストレスチェック結果・残業時間・有給取得率などを一元管理するためのクラウド型システムが複数提供されています。これらのシステムを活用することで、データ収集・集計の工数を削減し、人事担当者の兼務負担を軽減することが期待できます。健康経営度調査の回答に必要なデータを効率的に集める基盤として、早期の導入検討をお勧めします。

健康経営を形骸化させないための実践ポイント

認定取得を目指す過程で、最も注意すべきリスクが「取り組みの形骸化」です。「認定さえ取れればよい」という姿勢では、従業員の信頼を損ない、施策の効果も期待できません。以下の実践ポイントを参考に、実態の伴った健康経営を推進してください。

  • 現状把握から始める:健康経営度調査票を用いて自社の未実施項目を洗い出し、優先順位をつけて取り組みましょう。一度に全施策を導入しようとせず、段階的に進めることが継続性のカギです。
  • 健診受診率100%を最優先目標に置く:受診率は最も基本的かつ重要な指標です。未受診者への個別連絡フローを整備し、再検査・精密検査の受診勧奨まで一貫した管理体制を作ることが求められます。
  • ストレスチェックを「活用」まで意識する:実施に留まらず、集団分析結果を管理職にフィードバックし、職場環境改善のアクションに落とし込む仕組みを構築しましょう。
  • KPIを設定し、年1回以上レビューする:プレゼンティーイズム・アブセンティーイズム・有給取得率・時間外労働時間など、測定可能な指標を設定し、経営会議等で定期的にレビューする仕組みを作ることが、トップコミットメントの証明にもなります。
  • 従業員への丁寧な周知・動機づけを行う:特に現場や製造業では、健康施策への参加率向上が課題になりやすいです。取り組みの意義をわかりやすく伝え、参加しやすい環境を整えることが重要です。
  • 毎年の基準改訂に対応する:健康経営度調査の設問や評価基準は毎年度改訂されます。経済産業省の公式情報を定期的に確認する担当者を明確に決めておきましょう。

まとめ

健康経営銘柄の選定基準は上場企業を対象としたものですが、その評価軸は中小企業にとっても有益な健康経営推進の指針となっています。中小企業の経営者・人事担当者には、まず健康経営優良法人(ブライト500)の認定を現実的な目標として設定し、健康経営度調査票を活用した現状把握から着手することをお勧めします。

協会けんぽ・産業医・クラウド型システムなどの外部リソースを積極的に活用することで、専任担当者がいなくても健康経営を推進できる土台を作ることは十分に可能です。重要なのは、認定取得をゴールとするのではなく、従業員の健康と企業の持続的成長を両立させるという本質的な目的を常に念頭に置くことです。

健康への投資は、長期的に見れば企業の競争力を高める経営戦略の一つです。今日から一歩ずつ、実態の伴った健康経営を積み重ねていきましょう。

よくある質問

健康経営銘柄と健康経営優良法人は何が違うのですか?

健康経営銘柄は経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する制度で、対象は東証上場企業に限られます。一方、健康経営優良法人認定制度は企業規模を問わず申請でき、中小企業向けの「中小規模法人部門(ブライト500)」も設けられています。中小企業は健康経営優良法人の認定取得を目標として取り組むことが現実的です。

中小企業が健康経営に取り組む際、最初に何をすればよいですか?

まず、経済産業省のウェブサイトで無料公開されている健康経営度調査票をダウンロードし、自社の現状と照らし合わせて未実施項目を洗い出すことをお勧めします。また、加入している協会けんぽや健康保険組合に相談し、活用できるサポートプログラムを確認することも重要な初期ステップです。

産業医がいなくても健康経営優良法人の認定を取得できますか?

従業員50人未満の事業場は産業医の選任義務がないため、産業医不在でも認定申請は可能です。ただし、健康診断の事後措置やストレスチェックの実施・集団分析の活用など、産業医の専門的なサポートがあると取り組みの質が高まります。嘱託産業医(非常勤で契約する産業医)の活用や、外部の産業医サービスの利用を検討することをお勧めします。

ストレスチェックは実施するだけでは不十分なのですか?

健康経営度調査の評価においては、ストレスチェックの実施に留まらず、集団分析(職場単位でのストレス状況の分析)の結果を職場環境改善のアクションにつなげる流れを作ることが重視されます。集団分析結果を管理職にフィードバックし、具体的な職場改善施策を実施・記録しておくことが重要です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

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