「受検率が上がらない…」中小企業の人事担当者が今すぐ使えるストレスチェック受検率向上の施策と声かけ例文集

「今年もストレスチェックを実施したのに、受検率が6割程度で止まってしまった」「案内メールを送っても反応がない」——そんな悩みを抱える人事担当者や経営者は少なくありません。

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場で毎年1回の実施が義務付けられています。しかし、法律で定められているのはあくまで「実施すること」であり、個々の労働者の受検は任意です。つまり、「受けなさい」と強制することは法的にできません。この制約の中で、いかに受検率を高めるかが実務上の大きな課題になっています。

本記事では、ストレスチェックの受検率が上がらない本当の原因を整理したうえで、中小企業でも今すぐ取り組める現実的な施策と、現場で使える具体的な声かけ例を解説します。

目次

なぜ受検率が上がらないのか——根本原因を整理する

受検率の低さには、いくつかの構造的な原因が絡み合っています。「従業員が面倒だと思っているから」という表面的な理解で対策を打っても、効果は限定的です。まず、以下の4つの根本原因を認識することが重要です。

原因1:「結果が会社に漏れる」という根強い不信感

現場でもっともよく聞かれる懸念が、プライバシーへの不安です。「正直に答えたら、上司や人事に知られて評価に影響するのでは」という心理が受検をためらわせます。法律上は、ストレスチェックの結果は実施者(医師・保健師等の専門家)が保持し、本人の同意なく事業者(会社)に提供することは禁止されています。しかし、この事実が従業員に十分に伝わっていないケースが多いのです。

原因2:「受けても何も変わらない」という無力感

過去に受検したものの、その後の変化が感じられなかった従業員は、「どうせ意味がない」という印象を持ちます。ストレスチェックには個人へのフィードバック機能と、職場単位の集団分析(10人以上の集団を対象に集計・分析し、職場環境改善に活用する仕組み)という2つの機能があります。後者を活用して実際に職場改善につなげ、その結果を共有することが、次年度以降の受検率向上に大きく影響します。

原因3:受検の手続きそのものが面倒

紙の調査票を使っている場合、記入・封緘・提出という一連の手間が受検を遠ざけます。「いつまでに」「どこへ」という情報が不明確なままでは、忙しい従業員はつい後回しにします。受検期間が1週間以内に設定されている場合も、出張や休暇と重なって機会を失う人が出やすくなります。

原因4:管理職が適切な促し方を知らない

「部下に受けさせてください」と管理職に丸投げするだけでは、管理職が意図せずプレッシャーをかける言い方をしてしまうリスクがあります。「なぜ受けてほしいのか」「どう声をかければよいか」を事前に共有しないまま任せると、かえって従業員の反感を招くことがあります。

環境・制度設計から見直す——受検しやすい仕組みをつくる

受検率を上げるための施策は、大きく「環境・制度設計」と「コミュニケーション」の2つに分けて考えると整理しやすくなります。まずは仕組みの側から手を入れましょう。

Web受検(スマートフォン対応)への切り替えを検討する

受検率向上においてもっとも即効性が高い施策のひとつが、受検方法のデジタル化です。スマートフォンやPCから手軽に回答できる環境を整えることで、「時間と場所を選ばず受けられる」状況が生まれます。昼休みや通勤時間に数分で完了できるため、「面倒」という心理的ハードルが大きく下がります。

受検期間を2〜3週間以上確保する

受検期間が短いと、出張・有給取得・繁忙期と重なった従業員が受検機会を逃します。最低でも2〜3週間、可能であれば1カ月程度の受検期間を設けることが望ましいです。「いつでも受けられる」という状況をつくることが、受検率の底上げにつながります。

「業務時間内に受けてよい」と明示する

従業員の中には、「業務時間中にストレスチェックを受けていいのか」と迷う人もいます。会社として業務扱いで受検できることを明確に伝えるだけで、受検への心理的抵抗が和らぎます。

実施体制の透明性を高め、プライバシー不安を払拭する

人事担当者が実施事務従事者(ストレスチェックの実施に関わるスタッフ)を兼ねている場合、従業員は「人事に知られる」という不安を持ちやすくなります。人事権を持つ管理職は実施事務従事者から除外しなければならないという法律上のルールを全従業員に周知することが、不信感の解消につながります。また、メンタルカウンセリング(EAP)などの外部機関にストレスチェックの実施を委託することも、「社内の人間が関与しない」という安心感を与える有効な手段です。

受検率を部署別・拠点別に可視化する

受検率を全社平均だけで把握していると、問題のある部署が埋もれてしまいます。部署別・拠点別に受検率を集計し、安全衛生委員会や経営会議で定期的に共有することで、管理職の当事者意識が高まります。「自分の部署の数字」として認識されると、自発的に部下への声かけを行う管理職が増える傾向があります。

伝え方を変える——信頼を高めるコミュニケーション施策

仕組みを整えたうえで、次に重要なのが「誰が・何を・どう伝えるか」というコミュニケーションの設計です。

経営トップのメッセージを活用する

「人事担当者からの案内」と「社長・代表からのメッセージ」では、受け取る側の印象が大きく異なります。経営トップが「従業員の健康を大切にしている」という姿勢を言葉にして伝えることは、制度への信頼感を高める効果があります。全体朝礼・社内報・メール等を通じて、トップの言葉でストレスチェックの意義を伝えましょう。

「会社のため」ではなく「あなた自身のため」という視点で伝える

「会社として実施しなければならないので受けてください」という伝え方は、義務感を強調するだけで従業員の自発的な参加を促しません。代わりに、以下のような本人目線のメリットを伝えることが効果的です。

  • 自分のストレス状態を客観的に知ることができる
  • 無料で利用できるセルフケアのツールとして活用できる
  • 高ストレスと判定された場合、希望すれば産業医に無料で相談できる
  • 個人の結果は本人にしか通知されない(会社には渡らない)

産業医・保健師・EAP担当者からの発信を活用する

人事担当者からの案内よりも、産業医や保健師、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)の担当カウンセラーからのメッセージのほうが、「会社の都合ではなく、従業員を守るための制度」という印象を与えやすくなります。可能であれば、産業医からの一言コメントを案内文に添えるだけでも効果があります。

リマインドは最低2〜3回実施する

案内を1回送るだけでは、多くの従業員が受検を忘れるか後回しにします。受検期間の開始時・中間時点・締め切り1週間前の3回程度、リマインド通知を行うことが推奨されます。「まだ受けていない方は…」というトーンで送ることで、受検済みの人に不必要な通知と感じさせずに済みます。

現場で使える声かけ例——管理職向けガイドライン

管理職が部下に声をかける際に、意図せず圧力をかけてしまうことがあります。事前に適切な声かけの例を共有しておくことで、こうしたリスクを防ぐことができます。

基本的な考え方

声かけの目的は「受けさせること」ではなく、「受けやすい環境を整えること」です。強制・命令・評価への言及は絶対に避けます。

声かけ例(そのまま使えるフレーズ)

  • 「今年もストレスチェックの時期になりました。業務時間中に受けてもらって構いません。結果は個人のものなので、私(上司)には一切届きません。」
  • 「受けるかどうかは本人の判断で大丈夫です。ただ、自分の状態を知るいい機会なので、時間があれば活用してみてください。」
  • 「先週案内が届いたストレスチェック、覚えていますか?スマホで10分程度で終わるので、余裕のあるときに受けてみてください。」

避けるべき声かけの例

  • ❌「必ず受けるように」「受けないと困る」(強制・圧力と受け取られる)
  • ❌「あなたはストレスが高そうだから受けた方がいい」(個人への憶測・プレッシャー)
  • ❌「受検率が低いと部署の評価に影響する」(不利益取扱いにあたる可能性がある)

管理職向けには、こうした内容を1枚のガイドシートとしてまとめ、実施前に配布しておくと現場での混乱を防げます。

受検率向上のための実践ポイントまとめ

ここまでの内容を踏まえ、中小企業が今すぐ取り組める実践ポイントを整理します。

  • 受検方法のデジタル化(Web・スマホ対応):手続きの手間を減らすことが最初の一歩
  • 受検期間を2〜3週間以上確保し、業務時間内の受検を明示する
  • 「結果は会社に渡らない」「人事評価に影響しない」を繰り返し・複数の手段で伝える
  • 経営トップのメッセージを活用し、制度の本気度を示す
  • リマインドを2〜3回実施し、締め切り直前に受検率を確認する
  • 管理職への事前説明と声かけマニュアルの配布で現場の対応を統一する
  • 集団分析の結果を職場改善に活用し、結果を共有することで次年度の受検意欲を高める
  • 部署別・拠点別の受検率を可視化し、管理職の当事者意識を醸成する
  • 外部機関(EAP等)の活用でプライバシーへの不信感を構造的に解消する
  • 高ストレス者への対応フローを事前に整備・周知し、担当者の不安を払拭する

なお、50人未満の事業場はストレスチェックの実施が努力義務(推奨はされるが法的義務ではない)とされていますが、従業員のメンタルヘルス不調による離職・休職リスクは事業規模に関わらず存在します。制度の活用を検討する価値は十分にあります。

受検率の目標値(例:前年比5ポイント改善、最終的に90%以上)を設定し、安全衛生委員会や経営会議で定期的に進捗を確認することで、取り組みが形骸化しない仕組みをつくることが大切です。

まとめ

ストレスチェックの受検率が上がらない背景には、「プライバシーへの不信感」「手続きの煩雑さ」「受けても意味がないという無力感」「管理職の不適切な声かけ」という複数の要因が絡み合っています。「強制できないから仕方ない」と諦めるのではなく、仕組みと伝え方の両面から環境を整えることで、受検率は確実に改善できます。

特に重要なのは、従業員の立場に立った情報発信と、プライバシーへの不安を構造的に取り除く制度設計です。外部の専門機関を活用することも、社内への不信感を解消する有効な手段になります。

ストレスチェックを単なる法令対応の作業として扱うのではなく、職場環境改善と従業員の健康維持につながるツールとして積極的に活用していくことが、中長期的な組織の安定につながります。受検後のフォロー体制や高ストレス者への対応に不安がある場合は、産業医サービスの導入も含めて検討してみてください。

よくある質問(FAQ)

ストレスチェックを受けなかった従業員に、会社はどこまで対応できますか?

ストレスチェックの受検は労働者の任意であり、受検しないことを理由とした不利益な取扱い(人事評価の引き下げ、業務上の差別など)は法律で禁止されています。会社が行えるのは、受検の意義を丁寧に伝えること・受けやすい環境を整えること・個別に受検を促す声かけを行うこと、の範囲内です。強制や圧力とならないよう、言葉の選び方に注意しながら対応してください。

ストレスチェックの結果を人事担当者が見ることはできますか?

原則として、ストレスチェックの個人結果は実施者(医師・保健師等)が保持し、本人の同意なく事業者(会社・人事担当者)に提供することは禁止されています。ただし、本人が同意した場合に限り、事業者への結果提供が可能になります。また、10人以上の集団を対象とした集団分析(職場分析)の結果は、個人が特定されない形であれば事業者に提供されます。この仕組みを従業員に繰り返し伝えることが、プライバシーへの不安解消に直結します。

従業員50人未満の会社でもストレスチェックは実施すべきですか?

50人未満の事業場は、労働安全衛生法上の実施義務はなく努力義務(推奨はされるが法的強制力はない)とされています。ただし、メンタルヘルス不調による離職・長期休職のリスクは事業規模を問わず存在します。従業員数が少ない職場ほど1人の不調が業務に与える影響が大きいため、積極的な実施を検討することが望ましいといえます。外部の実施機関を利用すれば、担当者の負担を抑えながら運用することも可能です。

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