「健康診断の受診率が上がらない…」人事担当者が今すぐ実践できる3つの改善策

「今年も健康診断の案内を送ったのに、また未受診者が何人も出てしまった」——そんな悩みを抱える人事担当者は少なくありません。通知を出したのに受診されない、フォローに時間がかかりすぎる、パートやアルバイトへの対応はどこまで必要なのか……中小企業の人事現場では、健康診断の運用に関する課題が山積しています。

実は、健康診断の受診率が低迷している企業の多くに共通するのは、「通知すれば義務は果たせた」という認識のもと、仕組みが整っていないという点です。しかし、労働安全衛生法第66条は事業者に健康診断の実施義務を課しており、通知にとどまらず受診率の把握と未受診者へのフォローまでが求められます。違反した場合は50万円以下の罰金の対象となる可能性もある、決して軽視できないテーマです。

本記事では、受診率が上がらない根本的な原因を整理したうえで、中小企業でも今すぐ取り組める具体的な3つの方法を解説します。法的な根拠をおさえながら、実務に直結する内容をまとめましたので、ぜひ自社の運用改善にお役立てください。

目次

まず確認|健康診断の「法的義務」と「対象者」を正しく理解する

受診率向上の施策を考える前に、自社の健康診断運用が法律上の要件を満たしているかどうかを確認することが重要です。意外と多いのが、対象者の範囲を誤って把握しているケースです。

対象となる従業員の範囲

定期健康診断の実施義務は、「常時使用する労働者」が対象です。正社員はもちろんのこと、パート・アルバイトについても以下のいずれかに該当する場合は実施義務があります。

  • 週の所定労働時間が30時間以上の場合
  • 週の所定労働時間が正社員の4分の3以上の場合

「パートは対象外」と思い込んでいる企業は少なくありませんが、これは誤りです。勤務実態を確認し、対象者リストを正確に整備することが受診率管理の第一歩になります。

費用負担は会社が原則

一般定期健康診断の費用は、事業者負担が原則です(厚生労働省の行政通達で明示)。従業員に費用を負担させているケースは法的リスクがあるだけでなく、「お金がかかるから受けたくない」という受診回避につながる悪循環を生みます。また、受診のための時間は労働時間として扱うべきとされており、受診を理由に賃金を控除することもできません。

労働者にも「受診義務」がある

受診を拒否する従業員への対応に悩む担当者も多いですが、労働安全衛生法第66条第5項では、労働者にも健康診断を受ける義務が定められています。つまり、業務命令として受診を指示することができ、正当な理由なく拒否し続けた場合は懲戒の対象となりうる場合があります。

なお、「会社指定の医療機関が嫌だ」という従業員に対しては、自費で受診した結果を会社に提出させるという対応も認められています。ただし、この場合でも健診結果の内容が法定項目を満たしていることを確認する必要があります。

方法①|受診しやすい「環境」を整える

受診率が低い理由の一つに、「受けようと思っても受けられない」という物理的・心理的な障壁があります。特に外勤スタッフ、現場職、出張の多い従業員など、日中の決まった時間に特定の場所に行くことが難しい層は見落とされがちです。

選択肢を複数用意する

健診機関を一箇所に絞るのではなく、複数の医療機関・健診センターと提携し、従業員が自分の都合に合わせて選べる環境をつくることが有効です。具体的には次のような対応が考えられます。

  • 土曜日や夜間に対応している健診機関を選択肢に加える
  • 従業員の自宅や勤務地に近い提携医療機関を複数案内する
  • 外勤・出張が多い従業員向けに、全国展開している健診ネットワークを活用する
  • 複数の事業所を持つ企業は、各拠点に対応した医療機関情報を整備する

巡回健診の導入を検討する

健診機関が会社に出向いて実施する「巡回健診(出張健診)」は、従業員が職場を離れることなく受診できるため、特に従業員数がある程度まとまっている企業(目安として20〜30名以上)では有効な手段です。個人予約が不要で人事側の調整工数も削減できるメリットがあります。費用についても、集団契約によって個人単価が抑えられる場合があるため、健診機関に見積もりを依頼してみる価値があります。

オンライン予約・結果受取の整備

予約の手間が受診率に影響することも少なくありません。電話予約のみ、紙の申込書のみといった古い運用を続けている場合は、オンラインで予約から結果受取までが完結できる仕組みの導入を検討しましょう。健康管理システムを導入している健診機関や、健康管理クラウドサービスと連携することで、従業員の利便性が大きく向上します。

方法②|「仕組み」で受診率を上げる

環境を整えても、放っておけば受診しない従業員は一定数います。意識に頼るのではなく、受診せざるを得ない仕組みを構築することが、継続的な受診率向上につながります。

リマインド通知を「複数回・段階的に」行う

「1回通知したから大丈夫」という対応では不十分です。忙しい従業員は通知を見落としていることも多く、複数回のリマインドが受診行動を促すうえで効果的です。例えば以下のようなスケジュールで通知を送ることが考えられます。

  • 受診期間開始の1か月前:案内通知と予約方法の告知
  • 受診期間開始の2週間前:未予約者へのリマインド
  • 受診期限の1週間前:未受診者への個別連絡
  • 受診期限当日・翌日:最終フォロー

メールやチャットツール(社内SNSなど)を活用することで、通知の送付・開封確認・集計が効率的に行えます。

上長を巻き込んだフォロー体制をつくる

人事部門だけで全従業員をフォローしようとすると、少人数体制では限界があります。未受診者リストを所属部署の上長に共有し、上長からフォローしてもらう体制を整えることで、職場単位での受診促進が機能しやすくなります。上長が部下の健康管理に関与する文化をつくることは、職場全体の健康意識向上にもつながります。

予約代行・健康管理システムの活用

人事担当者が個別に予約調整や未受診者管理を行っている場合、業務負担が膨大になります。健診予約代行サービスクラウド型の健康管理システム(例:受診状況の一元管理、自動リマインド送信、受診率の集計・レポート出力など)を活用することで、工数を大幅に削減できます。導入コストとの兼ね合いはありますが、特に従業員数が50名以上の企業では費用対効果が出やすい場合があります。

受診率のデータを「見える化」して共有する

部署ごとの受診率を集計し、経営会議や全体会議で定期的に共有することも効果的です。受診率が低い部署の責任者に対して改善を促す仕組みをつくることで、組織全体で健診を重要視する風土が生まれます。また、労働基準監督署の調査・指導の際には受診率の記録提出を求められる場合があるため、データの保管・管理は日常的に行っておくことが重要です。

方法③|「二次検査(再検査)」まで含めた設計をする

一次の健康診断を受けさせることだけに注力している企業は多いですが、健診後の事後措置まで適切に行うことも事業者の法的義務です。労働安全衛生法第66条の5では、健康診断の結果に基づき、医師の意見を聴いたうえで必要な措置を講じることが求められています。

要精密検査(再検査)への対応を仕組み化する

健診結果で「要精密検査」や「要再検査」となった従業員が、その後の二次検査を受けずに放置されるケースは少なくありません。二次検査への受診勧奨を行い、その記録を残すことは、事業者としての義務履行の証拠としても重要です。

具体的には以下の対応を検討しましょう。

  • 要精密検査者を自動的に抽出し、個別に受診勧奨の連絡を行う
  • 二次検査の費用を会社が補助する制度を設ける(費用補助があると受診率が上がりやすい傾向があります)
  • 二次検査の受診有無を確認し、受診結果を記録・保管する

産業医との連携フローを事前に整備する

産業医(従業員の健康管理を担当する医師)との情報連携も不可欠です。特に有所見者(健診で異常が見つかった従業員)や過重労働者については、産業医の意見を聴いたうえで就業上の配慮(業務内容の変更や休業など)を検討する義務があります。産業医との定期面談や情報共有のフローをあらかじめ整備しておくことで、問題が起きてから慌てずに済みます。

なお、常時50人以上の従業員が在籍する事業場では産業医の選任が義務付けられており(労働安全衛生法第13条)、50人未満の事業場においても地域産業保健センター(各都道府県の産業保健総合支援センター内)などを通じて無料で相談できるサービスが利用できます。

実践ポイントのまとめ|今日からできること

以上の3つの方法を踏まえ、自社の現状と照らし合わせながら、以下のチェックリストで優先度の高い対応から着手してみてください。

  • 対象者リストの正確な把握:パート・アルバイト・派遣社員を含め、対象者を正しく整理できているか
  • 費用負担の見直し:従業員に健診費用を負担させていないか。受診時間は労働時間として扱っているか
  • 複数の受診先の確保:土曜対応、近隣施設、巡回健診など選択肢を増やせるか
  • 段階的なリマインド通知の実施:1回の通知だけで終わっていないか
  • 上長を巻き込んだフォロー体制の整備:人事だけで抱え込まない仕組みがあるか
  • 健康管理システムの導入検討:管理業務を効率化できるツールがないか確認する
  • 二次検査への受診勧奨と記録:要精密検査者を放置していないか
  • 産業医との連携フロー:有所見者・過重労働者への事後措置が機能しているか

まとめ

従業員の健康診断受診率を上げるためには、「通知する」という一点にとどまらず、①受診しやすい環境の整備、②仕組みによる継続的な促進、③二次検査まで含めた事後フォローの設計という3つの観点から体制を整えることが求められます。

健康診断は単なるコンプライアンス(法令遵守)の問題ではありません。従業員の疾病の早期発見・早期対処は、生産性の低下や突然の長期離脱によるリスクを未然に防ぐことにもつながります。中小企業ほど、一人の欠員が事業運営に与える影響は大きく、従業員の健康管理への投資は経営的な視点からも合理的な選択といえます。

まずは自社の受診率を正確に把握するところから始めてみてください。現状が見えてくれば、どの対策から手をつけるべきかが自然と明確になるはずです。制度の整備や運用改善に不安がある場合は、地域の産業保健総合支援センターや社会保険労務士への相談も有効な選択肢です。

よくある質問

Q1: パートやアルバイトは健康診断の対象外だと思っていましたが、本当に受診させる必要があるのでしょうか?

パートやアルバイトであっても、週の所定労働時間が30時間以上、または正社員の4分の3以上に該当する場合は、法律上の健康診断実施義務の対象になります。勤務実態を確認し、対象者を正確に把握することが重要です。

Q2: 健康診断の費用を従業員に負担させてはいけないのですか?

一般定期健康診断の費用は事業者負担が原則で、厚生労働省の行政通達で明示されています。従業員に費用負担させることは法的リスクがあるだけでなく、受診回避につながる悪循環を生むため避けるべきです。

Q3: 健康診断の受診を拒否する従業員にはどう対応すればよいのでしょうか?

労働安全衛生法では労働者にも健康診断を受ける義務があり、業務命令として受診を指示することができます。正当な理由なく拒否し続けた場合は懲戒対象になる可能性があります。ただし、会社指定の医療機関が嫌な場合は、自費受診した結果を提出させる対応も認められています。

健康診断の事後措置や保健指導の体制整備には、INTERMINDの産業医サービスが役立ちます。専属の産業保健スタッフが継続的にサポートします。

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